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008 PK犯は危険人物?


 2匹の野犬に向かって矢が放たれると同時に、3人が獲物に向かって駆けだした。

 だいぶ手慣れている。他のゲームでも散々この種の狩りをしてきたんだろう。

 3人が片手剣を使って野犬を倒し、換金部位をバッグに収納している時だった。


 彼らを取り巻いていた5人が一斉に姿を現し、矢と【火炎弾】を放つ。

 2人が矢に当たったみたいだが、直ぐに矢を引き抜いている。少し強い弓なのかもしれないけど、一矢で倒せる相手ではなかったようだ。


 じりじりと3人の包囲網を縮めようとしているので、急いで警邏さんに貰った指輪を言われた通りに操作する。アンサーバックの手ごたえも音も無いからちょっと心配になって来たけど、言われたことはやったんだから後はPK行為を止めるだけになる。


 包囲している連中の中に【火炎弾】を放り投げて、ダッシュした。

 突然、自分達の中で【火炎弾】が炸裂すれば驚くよね。

 襲う方も襲われてる方も、突然の出来事に足が止まっている。きょろきょろと辺りを眺めて、私が走り込んできたことを知ったようだ。全員が私に体を向けているけど、武器は納めて欲しいな。先ずは話し合いでしょうにねぇ。

 しかも全員が長剣装備。レンジャーは長剣を使えないからスキルを使っての装備に違いない。もったいないと思うんだけど、対人戦を最初から考えてたのかな?


「なんだ、手前ぇは!」

「ベータテスト中のPKとは穏やかじゃないね。一応レンジャーよ。フィールドの様子を見てたの」


 年下の女の子と知って、かなり上から目線だ。ここで穏やかに警邏に出頭なんてことにはならないのかな。


「警邏でもねぇ奴が割り込んでくるんじゃねぇよ。……だいたい手前ぇはNPCじゃねぇか。NPCはプレイヤーに奉仕ってことじゃねのか?」

「名目はね。でも、私はプレイヤーを手伝うのが役目なの。この場合は、どう考えても襲われたプレイヤーを助けるべきだと思うけど」


 いつの間にか、私の後方を遮断するように男達が立ち位置を変えている。

 私を倒そうなんて考えているのだろうか?


「一応、警邏には連絡したよ。もう直ぐここに来るだろうし、貴方達の識別コードは控えさせてもらったから言い逃れは出来ないでしょうね」

「そうでもないさ。抜け穴ってのはあるんだよ」


 男が小さく頷くと同時に、私の後ろから「ヤア!」の声と一緒に長剣が突き出されてきた。

 何で攻撃するときに叫ぶのかな? 今から攻撃しますって教えてるようなものだよね。


 体を落として両手を着くと、体のひねりを使って両足を地面すれすれで1回転させる。襲ってきた相手が足を取られて転倒したところに、肘打ちを胸にお見舞いする。HPがレッドゾーンだ。目を回しているから、次の相手を探す。


「やってくれたな!」

 

 2人掛かりで拳を突き出してくる。素早さの数値が段違いだから軽く避けて、彼等の前に飛び込んだ。

 ちょっとびっくりするだろうね。水泳の飛び込みを地面の上で行うようなものだもの。

 でも、ここからが本領発揮なのだ。

 両手を時間差で突くことにより体に回転が掛かる。腰の動きを上手く使って両足を広げたままでその場で足蹴りを入れる。

 首に上手く決まったところで残った足で蹴飛ばしておいた。

 まだ体が回転しているから逆立ち歩きで次の獲物に近づくと、同じように首に一撃をお見舞いする。

 3人を片付けたところでヒョイッと立ち上がり、最初の男に顔を向けた。


「まだやるの? レベル差が大きいんだから、私を倒すことはできないと思うんだけど」

「ふざけるな! ネコ族の動きってわけじゃねえだろう。【体術】のスキルでも今の動きは出来ねぇぞ!」

「だから、プレイヤーのお手伝いと言ってるでしょう! リアル世界で見たことが無いの?」


 一応聞いてみたけど、あまり見た人はいないんじゃないかな。近所のお兄さんに小さいころから教わった武術なんだけどねぇ。

 

「2人では何もできないと思うけど、睨み合ってるだけでも十分かな?」

「てめぇ、時間稼ぎをしてたな!」


 遠巻きにではあるけどサングラスのお兄さん達がゆっくりと私達に近づいてきている。ちょっと怪我を負わせたのが残念だけど、これでPK犯しばらくは出ないんじゃないかな。


「ありがとうよ。PKの被害届が先ほど出されたんだ。町中では俺達がいるけどフィールドはお手上げだからな。後は任せてくれ。そっちは?」


「今回の被害者なの。私も同行するようかな?」

「お前さんの方は、こっちで確認できるからな。それにしてもカポエラができるNPCなんてきいたことがねぇぞ」

「そんな設定みたいです。かなり凝っているみたいですよ」


 私の話に頷きながらも首を傾げている。運営さんの方で私の調査をするんだろうか? ちょっと心配になってきた。

 せっかくこの世界を楽しんでるのに、バグ扱いされたらいやだよね。


 だいぶ日が傾いてきたから町に戻ろう。

 帰り道で、野ウサギでも見付けられればいいんだけど、プレイヤーの人達が頑張っていたからねぇ。巣穴に戻ってしまったかもしれないな。

 あまり期待していなかったけど、北の門に到着するまでに野ウサギを1匹確保することができた。

 これで、今夜のスープにお肉を入れられる。

 急に、前尾野菜だけのスープになったら、常連さんになんて言われるか……。

「明日は頑張れよ!」と言われると、何となくプレッシャーになってしまいそうだ。そうなると、狩りが上手くできないんだよね。

 狩りはメンタル的な要素もある、と気が付いたのはいつのころだったか。


「おかえり。遅くなると聞いたけど、案外早かったんだねぇ」

「PKが現れたんで、警邏さんのお手伝いをして一緒にたんです。一応捕まえたみたいですけど、物騒な話ですよね」


 メルダさんには簡単に説明しておこう。噂好きなおばさん達のネットワークを通じて、プレイヤーの人達には明日中に広がるんじゃないかな。

 いつも通りに野菜を刻む。

 早めに作らないとお客さんもやってくる。とはいえ、手を抜くと直ぐにバレちゃうから、いつも通りが一番大切なんだろう。


 どうにか、スープが出来上がった頃には、すっかり日が落ちていた。

 すでに店内にはランプが点いているから、後はライムちゃんが看板を出すばかりだ。

 やがて、いつものお客さん達が扉を開けて入ってくる。

 料理はいつも同じだから、給仕も楽でいい。


「ほう、PKが出たのか!」

「何でも北の岩場らしいよ。物騒だねぇ」


 あまり変化のない地域だから、ちょっとした話題で花が咲くみたいだ。

 常連客が帰った頃に、ぽつりぽつりとプレイヤーがやって来る。

 口コミでこの食堂を知ったのかな? もし、私がプレイヤーだったら、花屋の食堂なんて聞いたら1度は出掛けてみるからね。似た人もいるってことに違いない。


「モモ、PKがあったと聞いたけど?」

「とりあえず倒しておいた。しばらくは出ないでしょうけど、注意してね。【探索】状態の1人を後ろに置いておけば少しは安心なんだけど」

「シグだったらPKKをやりそうだけどね。でも、それって経験値不足を一気に解消しようってことでしょう? また出て来るんじゃないかしら」


 さすがは昔のパーティだ。直ぐにその危険性に気が付いてくれた。


「トラペットの東西の街道が閉鎖されてるよね。それを突破したいがためということなんでしょうけど、トロフィーを貰えてもPKとして名を残すようではプレイヤーとして失格よ。イベントは複数のパーティで挑むことになりそうだから、貴方達もこれはと思うパーティの見当をつけておいた方がいいよ」

「ここは経験値を奪われないためにも、他のパーティということかな? 少しは当てがあるの。あんたは1人なんだから十分に気を付けるのよ」


 L8程度のPKなら、数人相手でもできそうだけど、ここはありがたく忠告を受け入れておこう。


 それにしても……。自由度が高いレムリア世界と言えどもPKは犯罪行為だ。今回逮捕されたPK達も初犯だから、何日間かレムリア世界に入れなくなるのだろう。

 その間に他のプレイヤーが経験値を積み上げレベル上げを行ったら、逆にPKされる恐れだってあるんだよね。再びこの世界に入ることになってもしばらくはNPCからの情報を得にくくなるだろうし、買い物をする店だって限定される。

 ちっとも良いことが無いんだけど、PKって割に合うのかなぁ。


 翌日。いつものベンチに座っていると、警邏のダンさんが隣に腰を下ろした。

 しばらくじっと座っていたんだけど、タバコを取り出して火を点けた。

 こっちに煙が来ないかと心配になってしまったけど、上手い具合に私の方が風上にいるみたい。


「例のPKの連中だけど前科があったみたいで、ベータテスト中はレムリアにやってこれなくなったぞ。明後日には、さらに10万人がやって来る。トラペットの閉鎖区画も解放されるだろうし、魔族襲来の訓練として獣の襲来をその後に入れるみたいだ。今度は騎士団も動いてくるぞ」

「耳寄りな情報ですけど、私に教えるのは問題ないんですか?」


 私の質問に、ダンさんが乾いた笑いを漏らす。

 手にしたタバコを携帯灰皿にしまい込んで、再び話を始めたのだが、私に視線すら向けないんだよね。


「モモにはある程度情報を与えた方が良いと上の方が判断したらしい。警邏に協力するNPCと思っていたんだが、どうもそうではないらしいんだよな? NPCのキャラクター作りは全てうちの会社で行ったはずなんだが、かなりの数のNPCが紛れ込んでいる。モモは別の機関からレムリアに派遣されたということになるな」

「えぇ~、私にそんな自覚はありませんよ?」


「それだ! NPCにしては自律意識が高すぎると俺には思えるんだよな。第一に、運営である俺達の作りだしたNPCのリストにもモモのデータが無いんだ」

「それって?」

「分からん。幽霊ではないかという奴もいるぐらいだが、それならレムリアの中をうろついているだけだろう? PKを狩ろうなんて考えるのは俺達か警察ぐらいだ。自衛隊の有志が集まって、とも考えたがそれは無いだろうな」


「私を消去すると?」

「とんでもない。俺達の持つモモのデータは、仮想スクリーンで見られる範囲だ。モモのコードがどこにあるのかさえまったくわからないんだよね。それに俺達にも協力的なところがあるってことで、NPCリストに加えることになった」


「それって?」

「警邏の協力員ってことになるのかな。イベントについてはある程度開示する。このコードを使えば俺達のファイルを見ることができるし、フィールドに出ることがあっても、フラグ付きファイルの形で最新の情報を伝えよう。できれば、PKの前に止めてくれないか。すでにPKをしているならこの前の様になっても仕方ないが、PKはリアル世界にも危険人物としてリスト化されてしまうからな」


 お父さんの言ってたブラックリストということになるんだろう。

 進学や就職にだって影響するらしいから、かなり悪質な場合にだけ乗せられると思っていたんだけどね。

 ダンさんが私の傍に小さなメモを置くと、人ごみの中に姿を消してしまった。

 メモを開いてみると、呪文のような言葉と数式が描かれていた。

 これを使うと、運営のファイルを盗み見できるってことかな? シグ達に教えたら問題だよね。

 今晩にでも試してみよう。


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