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073 廃墟の夜


 サード・ペズンの大きさは300m四方という感じに見える。

 元は丸太の柵が村を取り囲んでいたんだろうけど、あちこちが破られて、残材となっていた。

 襲撃したほうか、攻撃の魔法によるものかはわからないけど残材の多くが焼け焦げている。


「あの煙も、まだくすぶり続けている残骸というところでしょうね」

「少なくとも、野ウサギ以上の大きさの獣はいない」


 クリスさんとタマモちゃんの話しでは、心配はないみたいだけどね。バーニイさんがしきりに周囲を気にしているのとは大違いだ。

 でも、誰もいない方が返って気になるよね。私もその一人だから、吹き飛んだ家の残骸や、前は何に使ったのか分からない低い石組の影に視線を巡らせる。


「先行した黒鉄くろがねが目標に着いたみたい。煙を上げているのは積み上げられた残材で、周囲に動的反応無し。熱反応もくすぶってる残材以外はないよ」


 かつて村の入り口であった崩れた門の傍で足を止めた私達に、タマモちゃんが教えてくれた。


「俺の心配は無意味だったということかな?」

「私もその一人ですから気にしない方が良いですよ。それに、静かすぎるのも考えものです」


 苦笑いをしているバーニイさんに、笑みを浮かべて言葉を掛ける。

 前を歩くクリスさんはタマモちゃんと過去を見合わせているから、私達の用心深さに呆れているんだろうか?


「それにしても、無事な家が一軒もありませんね?」

「実験段階のものだけど【隕石落とし】を使ったからねぇ。既に毒ガスは無効化しているけど、破壊の爪痕は残ってしまった」


 【隕石落とし】というからには、クレーターの1つでもありそうなものだけど、そんな場所は1つもない。どちらかというと爆風で吹き飛んだ感じだ。

 でもそうなると、残骸が燃えている原因はキメラにあるということになるんだよね。


 5分も歩かずに、くすぶっている残骸に到着した。

 たしかにくすぶっているけど、残骸がほとんど炭化しているから燃え残った感じに見える。燃えてる時にはさぞかし盛大な篝火となっただろう。


「異常なしね。だいぶ日が傾いてるから今夜はここで野宿しましょう」

「それが良さそうだな。人形はあの壁の左右で良いだろう。タマモちゃんのゴーレムはあの辺りだ」


 壁と言っても石組なんだよね。建物の土台だったのだろうか? 1mほどの高さがあるから反対側から崩れた家の残骸でひさしのように丸太が突き出している。

 帆布でも上に乗せれば、そのまま簡易テントになりそうだ。


「良い場所を見付けたわね。ついでに焚き木を見付けてきてくれない? あれじゃあ、焚き火にならないわ」

 

 それなりに燃えるとは思えるけど、炎は余り上がらないかもしれないな。

 タマモちゃんを残して私も焚き木を集めることにした。拠点とするなら焚き木は多いに越したことはない。


 焚き木を探していたら井戸を見付けた。上部の石組が吹き飛んでいるし、井戸の中を覗くといろんなゴミが浮いている。これじゃあ、使えないね。

 とりあえず、大型水筒を持っているし、バーニイさん達も水筒は持って来てるに違いない。無ければ明日にでも水場を探さないといけないだろうな。


 焚き木を抱えて戻って来ると、既に小さな焚き火を石組近くに作ってあった。タマモちゃんが鍋をかき混ぜているからスープを作っているのかな?

 クリスさんは……、石組の傍に毛皮のシートを広げていた。あの大きさなら2人は寝られるだろう。


「あら、ご苦労様。バーニイはまだ帰らないのよ。これで今夜は眠れるわ」

「たくさん集めて来るんじゃないですか? 私はこれぐらいですからね。それと途中で井戸を見付けたんですが、使い物になりません」


 私の報告に頷きながら聞いてくれたんだけど、ある意味予想の範囲内ということなんだろう。

 

「本当に、ここに千人近い村人がいたんですか?」

「そうよ。でも一瞬で死に戻りしたの」


 話には聞いていたけど、実感がないんだよね。

 亡くなった村人達はその瞬間を自覚したのだろうか? NPCとはいえ、他の村で最初から暮らし始めるのに戸惑いはないのだろうか?


「ガラハウさんは、レムリア世界から移動したわ。NPC相手とはいえ、さすがに心に傷を負ったみたい」

「その指示を与えた上層部に問題があるんじゃないですか? ガラハウさんが責任を自覚するのも……」

「上層部にとってはゲームなんでしょうね。ガラハウさんにとっては現実だった……」


 VRMMO世界は、現実ではない。

 だけど、その世界は余りにも現実味を帯びている。そこでの行動がこの世界、リアル世界に影響を与えると考えて、政府機関も参入しているんだろうな。

 ガラハウさんは、ある意味このゲームの被害者なんだろうか? ラグランジュ王国はどこかの財団が作ったみたいだから、リアル世界でのリハビリに誠意をもって対応してくれるだろう。

 

「まだ【隕石落とし】の開発は進めているんでしょうか?」

「さあ、どうかな? 私は底辺だから全体のことまで分からない。でも私個人としては進めてると思ってるわ」


 ゲームバランスを崩すようなアイテム開発は止めて欲しいな。

 ひょっとして財団は、次期VRMMOの開発試験の為にラグランジュ王国をレムリア世界に作ったのかもしれない。

 そう考えれば、この世界がどうなろうと問題は無いということになるんだけど……。

 

 焚き火を見つめながら思考の海を泳いでいると、バーニイさんの声で現実に戻された。

 どうやらスープが出来上がったらしい。

 朝方渡されたサンドイッチの残りを焚き火で温めて、スープと一緒に頂く。空はいつの間にか星空に変わっていた。

 この廃墟の周囲にキメラがいるとは考えられない静けさだ。


 んっ! 静けさ? ……確かに静かだ。ブラス王国で野宿をすると煩い程の虫の鳴声が聞こえる。

 でも、この廃墟は春を過ぎた陽気であっても、虫の声1つ聞こえてこない。


「あのう……。まったく無視の声が聞こえないんですけど?」

「そうか? ラグランジュの野宿はこんなものだぞ」

「ちょっと! 確かに変な話ね。私達は野宿するのは初めてじゃないけど、いつもは分隊単位での行動だったし、広場での野宿だったから、あまり虫の声を聞いたことが無かったわ。だけど、廃墟で何も聞こえないというのは考えてしまうよね」


 食事を終えて、お茶を頂きながら周囲に耳を向ける。

 獣人族の五感は人間族を凌ぐはずなんだけど、やはり何も聞こえてこない。

 【隕石落とし】で大量絶滅を行ったとしても、あまりにも変じゃないかな?


「オオカミが移動してくる。だけどここを避けてるみたい」

「夜の狩りを始めたのね。でもオオカミが避けるのは、この廃墟に獲物が無いってことかしら?」

「いや、オオカミさえ避ける何かがいるということも考えられるな。やはりキメラがいるということになりそうだ。最初はモモちゃん達に焚き火の番を頼むよ。日付が変わったら俺達が替わる」


 そういうことなら、さっさと寝た方が良いだろう。

 24時間戦うこともできそうだけど、精神的な疲労はこの世界でも起こるんだよね。

 クリスさんにお休みを告げて、タマモちゃんと一緒にポンチョに包まる。

 武器は手元に置いてあるから、万が一の時にも遅れは取らないはずだ。


黒鉄くろがねのセンサーに反応があれば、アラームが出る。ゆっくり寝ててだいじょうぶ」

「そうなんだ。そのアラームは私にも聞こえるかな?」

「設定しとく」


 タマモちゃん以外にも聞こえるんだ! やはり確かめておくことだね。

 今度こそ、目を閉じて心を深く沈めていく……。


「お姉ちゃん……!」

 いつものようにタマモちゃんが起こしてくれる。良くできた義妹だよね。ケーナだと布団を叩くんだから、びっくりして跳び起きてしまうことが度々だ。


 もぞもぞとポンチョから体を起こして素早く身支度を済ませる。焚き火の傍に行くと、バーニイさんが笑いながらお茶のカップを渡してくれた。


「ハハハ、良い妹だね。クリスだと叩き起こされるんだよな」

「バーニイがいつまでも寝てるからでしょう!」


 そんなことを言ってるけど、良いバディだよね。

 タマモちゃんにお茶を渡したところで、クリスさんがバーニイさんを立たせてさっきまで私達が寝ていた場所に向かった。


「今のところは何もないみたいね?」

「遠巻きに獣が囲んでいる。300mぐらい」


 ちょっと驚いてタマモちゃんに顔を向けた。

 既に包囲網が完成しているということなのかな? でも、獣だけというのも気になるところだ。


「囲んでいるのは獣だけなの?」

「オオカミとイノシシ。オオカミ北で、イノシシは東側」

 

 互いに仲は良くないようだ。でもそうなると……。


「西と南には?」

「西の奥で何かが集まってる。かなり遠いから識別できない。南は空いてるんだけど獣が全くいない。何かいるのは確実!」


 たぶん南にキメラがいるんだろう。

 西も気にはなるけど、遠ければ問題ない。先ずはオオカミとイノシシを何とかすれば良いのかな?


「直ぐに襲ってくることも無いんじゃないかな? 200mほどに近付いたらバーニイさん達を起こさないとね」

「たぶんその前に起きるんじゃないかな? あの人形にもセンサーがあるみたい」


 たきびの北に黒鉄くろがね、東西にバーニイさん達の人形が置かれている。南に私達がいて、その後ろのテントモドキにバーニイさん達は寝ているけど、石組がバリケードになっているから、少しは安心できそうだ。

 タマモちゃんを防衛に回せば、私1人で獣を翻弄できるだろう。

 

「始まったら、あの石垣の傍で迎撃してくれるかな?」

「なら、GTOを呼んでおく。あの甲羅はかなり丈夫だよ」


 GTO自体が障害そのものだからねぇ。

 温くなったお茶を飲んでいると後ろが一瞬明るくなった。タマモちゃんが召喚を終えたんだろう。

 これで、迎撃態勢が整ったことになる。


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