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071 バーニイさん達の人形


 南に見えてきた沼地を時計周りに迂回して、セカンド・ペズンの村に向かう。

 予定外の迂回でも、十分に日のある間に村に到着することができた。

 北に沼地の広がる村の産業は、農作物と東の丘陵地帯で算出する鉱石の採掘のようだ。

 数百人が暮らす村だから、丸太を並べた柵で300m四方ほどの村を囲んでいる。


「ギルドも警邏も出張所なんだ。到着報告をしても【転移】はできないよ」

「ラグランジュ王国で【転移】が使えるのは、王都以外ではソロモンとグラナダということですか」

「あまり冒険者を歓迎しない王国ということになるのかな」

 

 それでも、数万人の冒険者がいるはずだ。王国のあちこちに散っているはずだから、この村に滞在しているプレイヤーは百人程度になるのだろう。

 

「この王国の運営にかかわる人材が限られてるからねぇ。他の王国と同じように受け入れると、無法地帯になりかねない。その辺りは分かってほしいな」


 要するに治安維持が可能な範囲での受け入れということになるんだろう。北の帝国への足掛かりに利用するだけならば、プレイヤーの滞在人数をある程度は制限できるのかもしれない。

 となれば、セカンド・ペズンに足を延ばすプレイヤーは余りいないんじゃないかな?

 バーニイさんに聞いてみたら、およそ30人だと教えてくれた。数パーティという感じかな? さすがにソロの冒険者はいないだろう。


「とりあえず宿だ。一応3つあるんだけど、この宿が警邏の定宿になってるんだ」


 バーニイさん達が足を止めた宿は、かなり大きな店構えだ。ログハウス風の3階建てはこの村では浮いて見える。

 部屋数だけでも20はあるんじゃないかな?

 宿屋に入ってみると、他の町の宿屋と同じで1階は食堂を兼ねている。

 入り口近くにあるカウンターでバーニイさんが店番のお婆さんと話し合っているのは、部屋の交渉ということなんだろう。

 直ぐに終わったらしく、私達を食堂のテーブルの1つに案内してくれた。


「とりあえず7泊の部屋を確保したぞ。この宿の5部屋は警邏と交番で押さえてあるから、その中の3室が俺達の部屋になる」

 

 テーブルにカギを3つ取り出すと、私とクリスさんに1つずつ渡してくれた。

 とりあえず、今日は村で一休みということだから、ワインを頼んで日のある内から頂くことになった。

 タマモちゃんは、この村特産の果実ジュースということだけど、発酵させると果実酒になるらしい。


「それで、明日の予定は?」

「俺達は、モモちゃん達の狩りに付き合うように言われてるんだ。となると、決めるのはモモちゃんになるんだけどなあ」


 う~ん……。それって、この王国以外の冒険者の目で状況を見極めるということになるんだろうか?

 アズナブルさんのことだから、サード・ペズン周囲はたくさんのセンサーを設置して、冒険者達の動きを見ているに違いない。

 侵入者の手に落ちたNPCの北上を一番恐れているに違いない。

 そういう意味では、このセカンド・ペズンは絶好の位置ということになるはずだ。


「サード・ペズンは破壊されたんですよね。明日は、その廃墟を一度見たいと思ってます」

「あまり良いものじゃないし、大型の獣も確認されてるんだけどねぇ……」

「この辺りの獣も一度目にしたいところですから、やはり行ってみたいと思います」


 しばらく私の顔を見ていたバーニイさんだったが、ゆっくりと頷いてくれた。隣のクリスさんが焦ってる感じだけど、それほど危険な獣なんだろうか?


「ハモンさんはL10以上だと話してくれたけど、本当のレベルはいくつなの?」

「侵入者がやって来たところで、私達のレベルが20に上がりました。上位職は他に見てませんから、普段はこの格好です」


 2人が目を点にして私達を見ている。

 そりゃ驚くよねぇ。プレイヤーでもL18を超えた人物はまだいないんじゃないかな?


「侵入者の推定レベルは20には達していなかったようだ。となると、一方的な戦いができたということかな?」

「そうでもないんです。警邏さん達に助けられましたし、掃討戦はどちらかというと警邏さん達の仕事でした。私達は落穂拾いです」


 ステルス対策をしてくれたし、魔法攻撃だってしてくれた。

 ブラス王国の警邏さん達の連携は冒険者を越えてるんじゃないかな?


「スパルトイとドリアードにブラスの連中は善戦したってことか……。やはり排他政策の汚点だった。俺達も、数があればなんとかなったかもしれない」

「終わったことよ。他の村で、新たな生活ができると思えば少しは気も楽になるわ。でも、2度と行って欲しくないわね」


 上層部の決断を実行した人の胸の内は、今でも穏やかではあるまい。

 苦渋の選択をした自分を責めていなければ良いんだけどね。あまりにもリアルな世界だから、クリスさんもゲームとして割り切ることなどできないんだろうな。


 夕暮れが近づくと、食堂に冒険者達が集まってくる。

 大きなカップでワインを飲み始めたのは、狩りが上手く行った祝いということなんだろう。そんな光景があちこちのテーブルで行われているから、獲物は豊富ということになるのだろうか。


「おや? バーニイ達じゃないか! 新人の手ほどきかな?」

「いや、俺達を手ほどきしてもらうんだ。明日はサード・ペズンに向かう」


 酒の入ったカップを持ってやってきた男性はバーニイさんの知り合いのようだ。私達の目的地を知って、一歩後ろに下がり大急ぎでカップの酒をあおっている。


「あそこは呪われてるぞ! 見たことも無い怪物がいるらしい。嬢ちゃん達を連れて行くなんてとんでもないこった!」

「アズナブル殿の依頼を受けたのが嬢ちゃん達だ。俺達は案内係というところになるんだろう。まあ、見掛けで判断するのは良くない例だね」


「アズナブル殿の依頼となれば、それなりということになるんだろうが……。良いかバーニイ、何かあったら、嬢ちゃんの前に体を投げ出すんだぞ!」


 男性の無茶な言い様に、苦笑いを浮かべながら小さく頷いた。

 バーニイさんは運営サイドの人間だから、レムリア世界の中でなら何度でも死に戻りが可能だ。

 一瞬のスキを作ってやれと、男性は言いたかったんだろう。

 バーニイさん達も笑みを浮かべて頷いているから、互いに分かり合ったということになるのかな?

 

 食事を終えたところで、部屋に向かベッドに体を預ける。

 まだ、深夜には程遠い感じもするけど、明日はいわくつきの村に向かうことになる。幽霊はいないはずだが、大型の獣がいるらしい。

 どんな獣になるのだろう? 早く見てみたような、見たくないような……。


 翌日は日の出とともに目を覚まして、タマモちゃんと一緒に裏庭の井戸で顔を洗う。

 少しシャキっとしたところで、装備の確認をしながら食堂に向かう。

 遭遇する獣に対する適正レベルが分からないけど、とりあえずはL16のレンジャー装備で十分じゃないかな? タマモちゃんも魔獣使いの姿だから私と同じレベルになる。

 

「おはよう! 朝食を頂いたところで出掛けるよ。馬は置いていくけど、俺達は人形が使えるからかなり速く移動できるぞ」

「おはようございます。もう朝食を終えたんですか?」


 これは急いで食べた方が良いのかもしれない。

 テーブルに部屋のカギを置くと、娘さんが直ぐに朝食を運んでくれた。

 さっぱりしたスープにハムサンド。それにお茶のカップが付いている。

 量は余り無いから、直ぐに終えたんだけどこれじゃあ、お腹が空きそうだ。お姉さんを呼び止めようとしたら、クリスさんがお弁当は頼んでいると教えてくれた。

 ゆっくりとお茶を飲み終えたところで、部屋のカギをカウンターのおばさんに預ける。

 今日中に帰れるとは限らないからね。


 宿を出ると、村人達が忙しそうに歩いているのが見えた。これから畑に向かうのかな? 数人で話をしながら南に向かうハンターは、プレイヤーなんだろうか?

 プレイヤーの数がかなり少ないようだから、私達と同じNPCの冒険者かもしれないな。


 少し歩けば南門だ。小さな広場があるのは、この広場を利用する行商人が荷馬車を停めるからなんだろう。

 門番さんが、槍を持っているけど、かなり歳のいったお爺ちゃん2人だ。

 軽く頭を下げて挨拶すると、槍を少し上げて答えてくれた。


「さて、出掛けようか。クリス、準備だ!」

「いつも通りでしょう? 直ぐに終わるわよ」


 魔獣使いが魔獣や獣を召喚するときのように、光の中に出現させるのかと思ったけど、バーニイさん達の人形は少し異なっていた。

 腰のバッグから30cmほどの人形を取り出して地面に置く。

 何やら、呪文を唱えるような声が聞こえてきたかと思ったら、ポン! という感じで人形が飛びあがり空中で大きくなった。


 重い物が落ちるような音を立てて人形が着地すると、バーニイさん達の前に立つ。

 ちょっと驚いてしまったけど、2人の前に立つ人形は、人形というよりもお父さんがガラスケースに入れて大切に保管しているロボットのフィギュアにそっくりだ。

 バーニイさんの人形は濃い緑で、片手に大きな片手斧を持っている。クリスさんの人形はバーニイさんの人形に比べるとスタイルが良いな。白を基調にしてあちこちに青や赤のお化粧をしているように見える。武器は両手剣のようだ。


「人形なんですか? どちらかというと、プラモに似てますよ」

「気に入ったかい? やはり男だったら、これだよね」

「何言ってるの。既に旧式じゃない」


 何か言われてるけど、私はバーニイさんを応援してあげるね。だって、お父さんの持ってたロボットと瓜二つで色違いなんだもの。

 人形の背中に着いたバッグのようなものに腰を下ろして人形の頭を持つから、まるで子供がおんぶされてるように見えてしまう。

 人形の身長が3mほどあるから、親子に見えてしまうのかな。


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