070 村を1つ滅ぼしたらしい
他の町から比べるとちょっとこじんまりしたギルドで到着報告を終えたところで、バーニイさん達に連れられて通りを南に歩いていく。
港町だから途中の十字路では、西に向かった通りの先に海が見えた。
「トランバーみたいな町だけど、こっちの町は静かだね」
「そうね。お上品という感じなのかな? ガヤガヤした感じがしないんだよね」
プレイヤーの受け入れ数を制限しているのが大きいのかな? 三十分の一とはねぇ。
運営側と協議を繰り返して、それだけの受け入れを許容したんだろう。本来は厳しい制限を加えて他者の受け入れを拒否したかったんじゃないかな。
NPCとプレイヤーの区別が難しくなったこともあり、すれ違う冒険者達もプレイヤーかどうかが良く分からない。でも、私達を見掛けると軽く手を上げてくれるのがちょっと嬉しくなってしまう。
「冒険者同士の連帯が強いんですね」
互いに手を振ってすれ違ったところでバーニイさんに声を掛けてみた。
「そうかな? ラグランジュではこんな感じだぞ」
「バーニイはファルベン王国に行ったことが無いでしょ。あっちは冒険者はライバル同士という感じだったわよ」
「そりゃすごいなぁ。互いに切磋琢磨してるってことだろう? この国ではちょっとのんびりしてるところもあるからねぇ」
互いに切磋琢磨ねぇ。ものも言いようだと思ってしまう。パーティ内ではそんな気風もあるんだろうけど、基本的には他者に対しては我関せずが基本じゃないかな。たまに起きるイベントで知り合いのパーティ同士が協力することがあるけど、イベントが終わればそれまでだからね。
「あれが南の広場だ。他の町とそれほど変わらないだろう? ギルドや警邏、交番の出張所が北側に纏まってるんだ。あのテラスにいる連中が俺達の仲間になる」
バーニイさんが片手を上げて挨拶すると、数人の男女が手を上げて答えてくれた。ギルドや交番の捕り手もいるみたいだけど、皆の仲は良さそうだね。
広場の真ん中に噴水があるのは、この広場が歓迎の広場になるのだろうか?
噴水に沿っていくつかのベンチが並べられており、そこで話し合っているのはこれから狩りに向かう冒険者に違いない。
「このまま、真っ直ぐ門に向かうよ。モモちゃん達に馬を用意しといたんだが……」
「馬なんて乗ったことがありませんよ。バーニイさん達に付いて行けますからだいじょうぶですよ」
うんうん、とタマモちゃんが頷いている。どう考えてもGTOの方が早いんじゃないかな?
「タマモちゃんは魔獣使いと聞いたわ。でも乗せて貰える魔獣なんていたのかしら?」
「直ぐに分かりますよ」
門番さんの詰め所の奥から、バーニイさんが2頭の馬を曳いてきた。
クリスさんの馬も並んで歩いてくるから、いつも2人で動いてるに違いない。
町の中では乗らないのがルールなのかもしれないな。私達と一緒に馬を曳いて門を出た。
「これぐらい離れれば十分じゃないかな。そろそろ君達の使役獣を見せて欲しいんだけどね」
バーニイさんの言葉に後ろを振り返ると、門から200mは離れたようだ。
タマモちゃんにお願いして、GTOを具現化させる。
「「カメ!(なの!)」」
驚いてる驚いてる。大きなカメだものねぇ。でも、走り出したらもっと驚くに違いない。
いつものように甲羅に乗って、バーニイさん達を見ると、少し視線が上を向く。
やはり馬の背の方がGTOの甲羅よりも高いんだ。
「モモちゃん。それってカメだろう? あまりスピードが出ないんじゃないのかい」
「先に行ってください。結構速いんですよ。付いてこられると分かれば速度を上げてもたぶんだいじょうぶだと思います」
「良いのかい? それじゃあ、付いといで!」
バーニイさん達が一足先に速足で馬を走らせる。
とりあえず、帽子を被ってゴーグルモドキを着ければ、準備は完了だ。
馬と一緒ならいつもより速く駆けそうだからね。これなら目を開けていられる。
「お姉ちゃん。準備は良い?」
「OKよ。一気に追い付いて頂戴!」
私の言葉が終わらない内に、GTOが動き出した。
爪が石畳を叩きつけるのだろう、甲高い音が連続して聞こえてくる。
その音に、バーニイさん達も気付いたらしく後ろを振り返ったのだが、そのまま固まっているみたいだ。
どんどん追い上げて2頭の馬と並んだけれど、その前にタマモちゃんがGTOを街道から左にそらした。
「驚いたな。そんなに速いんだ。なら、もう少しスピードを上げるよ」
やはり状況を見ていたのだろう。私達が追従できることが分かったから、今度は本来馬の速度で走り出した。
ちょっと前傾姿勢なんだよね。馬の尻尾が一直線に後ろに伸びている。
たぶん時速50kmは出てるんじゃないかな? でも、GTOの速度はそれ以上であることを知っているから、安心して並走することができるし、周囲を眺める余裕もある。
町を出て10分も過ぎると、狩りをしている冒険者達が見えてきた。数人で何かを追い掛けているみたいだけど、あれじゃあ捕まえるのは難しそうだ。気配を断ってゆっくり近づいて弓や投げ槍を使うか、はたまた逃げる先に何人かを忍ばせておくのが一番なんだけどね。
やはり初心者なんだろうな。あれでは1日費やしても狩れるかどうかウt側しいところだ。
「この先で一休みします!」
クリスさんが馬を近づけて前方を指差した。
いつの間にか、前方に森が見えてきた。森の手前で一休みということなんだろう。
荷馬車なら数台は停められる休憩所に入ると、奥の柵にバーニイさん達が馬の手綱を結わえている。
タマモちゃんはGTOを一時戻すようだ。GTOが光の中に消えていく。
入り口近くにある焚き火の跡を使って、バーニイさんが火を起こすと、クリスさんがポットを火の近くに置いている。
焚き火の周囲には丸太が横に置かれているから、椅子代わりということなんだろう。
私達が丸太に腰を下ろしたの見たバーニイさんが話しかけてきた。
「あのカメには驚いたな。召喚獣ということなんだろうけど、魔獣使いでも使いこなせるのかい?」
「私の思い通りに動いてくれるの」
タマモちゃんが嬉しそうに応えている。
笑みを浮かべたクリスさんが、カップを並べてお茶を入れてくれたんだけど、まだ町を出てそれほど時間が経っていないんだよね。
「あれなら軍馬はいらないわね。予定よりも早く着きそうよ」
「それですけど、私達はどの辺りで狩りをするんですか? この先の森というわけではなさそうですが?」
「あの銛を抜けた場所にあるのがファースト・ペズンだ。その先にセカンド、サードが続くんだが……」
「サード・ペズンは破壊されたわ。侵入者の出現場所にあまりにも近かったの」
あまりの言葉に、一瞬頭がフリーズしてしまった。
一体どんな叩か機になったんだろう? それに村人がどうなったのかも心配だ。
「解凍から覚めたばかりだったんだけど……」
「プレイヤーがいなかったのがせめてもの救いだ。NPCの村人千人の犠牲はどうしようもない」
それって全滅ということだよね。救う手立てはなかったのかな?
「ガラハウ殿は、命令に従ったまでだ。おかげで、侵入者の排除はできたんだからね」
「確認されていないだけかもよ。数を数えたわけではないんですもの」
ぽつりぽつりとバーニイさんが話してくれた内容によると、広域殲滅魔法を使ったらしい。ガラハウさんはかなりレベルの高い魔導士なのかと思っていたら、どうやらそうではないと教えてくれた。
水晶球に魔法を閉じ込めるらしいのだが、この世界ではチート過ぎるんじゃないかな。
話を良く聞いてみたら、試作品らしい。プログラム的に問題があるらしく多用することは難しいとのことだ。
そんな物騒なものを10個近く使ったなら、村も破壊されるに違いない。
「【火炎弾】の大きなもの?」
「いや、【隕石落とし】だ。だけど試作品だから、隕石はちいさいものだ。それを有毒物質でコーティングしたらしい」
どっちも物騒な気がするけど、私達って【毒耐性】を持ってたよね?
タマモちゃんが仮想スクリーンを開いて確かめているようだけど、ホッとした表情に変わったからその辺りの問題は無いってことだよね。
「極めて危険な毒物らしいけど、1日で分解されると聞いたわ。それに亡くなった村人はまとめて新たな村の解凍時に死に戻りさせると言っていたから、表面的な被害は余りないと上層部は判断してるみたい」
死んだ村人は、個人データをそのままにして新たな村を作ることになるのだそうだ。親子関係もそのまま、恋人が分かれることがないなら、それも良いように思えるのだがやったことは過激を通り越している。
これが、ラグランジュ王国の上層部の考え方ということなんだろう。
ある意味、他の王国とはかなり異なるんだけど、そもそも国家自体が他の王国と異なる運営にあるからねぇ。警邏さんや騎士団、交番の捕り手さん達の横の繋がりが気になってしまう。
「さて、そろそろ出かけるぞ。このまま進めるなら、ファーストを通りこして、セカンド・ペズンに向かえそうだ」
「そうなると、到着は……、15時ごろになるのかしら? 途中の湿地帯で足止めされないようにしないと」
「それは迂回しても良いんじゃないか? 木道はあるが、結構いたんでいるんだよなぁ」
2人が相談しながら焚き火を離れていく。
焚き火がそのままだから、タマモちゃんと砂を被せて火を消した。焚き火をそのままにしないのはルールだと思っていたんだけど、2人はそんなことは考えもしないようだ。
2人だけで狩りをすることは今まで無かったんだろうか?