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007 最初のPK犯


 そういえば、自衛隊さん達も参加してると聞いたような気がする。

 バングルを使って仮想スクリーンを開き情報を探ってみたら、騎士団を作っているらしい。まだ未公開の区画にいるみたいだから、そのうちに会えるんじゃないかな。

 魔族が町を襲ってきたときに対処するらしいから、そんなイベントもあるってことに違いない。

 シグ達のレベルがそれまでに上がってくれればいいんだけどね。


 昼が近づいてきたので。屋台で串焼きを買うことにした。1本1デジットだけど、量があるから私には丁度良い。

 バッグから水筒を取り出して、のんびりと食事を楽しむ。

 いくつか並んでいるベンチにも、何人かが腰を下ろして同じような食事をとっているようだ。


 ん? 噴水近くに、戦士姿の男性が急に現れたぞ。

 周囲を見渡して、ちょっとうなだれているところをみると、最初の死に戻り君かな?

 慌てて広場から駆け出さないところをみると、ペナルティの制限が掛かったのかもしれないな。

 このゲームの死に戻りのペナルティは所持金の四分の一の没収とその場での経験値が無いだけだと思っていたんだけど、ガイドをしてるんだから、チュートリアルで詳しく調べてみよう。


 なるほどねぇ……。町やフィールドの特定位置で、1時間のロスタイムが出て来るのか。

 となると、単独行動ではあまり問題がないかもしれないけど、パーティの場合は残った連中も次の戦闘は難しくなりそうね。あの戦士の仲間は急いでこの町に戻って来るんじゃないかな。

 

 戦士はしばらく噴水の縁に腰を下ろして辺りを眺めていたけど、私がここでじっとしているのに気が付いたようだ。

 意を決して、こちらに歩いてくる。


「NPCの冒険者ですか?」

「そうよ。死に戻りをしたみたいね。まだ時間があるから、仲間の方がこちらに向かってくるんじゃない」


「でしょうね。少し背伸びをしたみたいです。L3ではイノシシは無理なんでしょうね?」

「座ったら? 確かに無茶だったね。お仲間は上手く逃げられたみたいだけど」


 戦士が私の隣に腰を下ろした。

 ちょっと考え込む仕草をしているから、再びイノシシを相手にするつもりなのかな?


「NPCであっても、狩りに付き合ってもらえるのでしょうか?」

「私のレベルを見たのかな? でも、断るよ。私が一方的に狩ることになりそうだもの。そうなると貴方達にも経験値が入らないよ」

「一緒に行動できるようにならなければ無理ということですか。中々この世界は難しいです」


 深刻になる話なのかな? どちらかというと、コツコツとレベルを上げるべきだと思うけどね。


「かなり町から離れたんでしょう? 最初は近場が基本だと思うけどなぁ。でも、イノシシを余裕で倒せるようになったら、東の街道を何とかできるかもしれないよ」

「その話をギルドでも聞きました。なるほど……、そういうことなんですね」


 急に元気になったけど、何か勘違いしてるのかもしれない。

 東西の通行止めはイベントなんだろうけど、1つのパーティで突破できるとも思えないんだよね。

 でも、この戦士のパーティが封鎖されている原因を突き止めてくれるかもしれないな。


 私達の座ったベンチに男女4人が近づいてきた。

 どうやら、戦士のパーティ仲間らしい。


「なんだなんだ! イノシシに突撃したのは、この娘さんが目的ってことじゃないよな?」


 同じ戦士なんだろうけど、長剣ではなく大きな斧を背負った男性が戦士の肩をバシバシ叩いている。

 獣人族を選択したんだろう。2m近い筋肉質の体から太い尻尾が出ている。髪は短い金色だし、黒い縞が額にまで掛かっているから、トラ族ということなんだろうな。


「レベルを見てみろよ。どうやら、俺達のガイド役みたいだ」

「NPCでL10! 嘘でしょう」


 戦士の言葉に、魔法使いらしい女性が驚いている。

 ここは簡単に立ち位置を説明する必要があるのかもしれない。


「レンジャーのモモです。NPCですから、皆さんのパーティには加われませんけど、たまにお手伝いもできますよ。今のところは、歓迎の広場でお話を聞かせて貰ったりしてます」

「そういうことか! 俺はまた、こいつがナンパしてるんじゃねぇかと思ったんだ。悪気はねぇはずだから、モモさんも気にしないでくれよ」


 トラ顔の戦士の言葉に隣の戦士が顔を赤くして頭を掻いている。

 女性達が冷ややかな目で見ているのは、そういうことが何度かあったということに違いない。

 でも、私ってナンパの対象になるのかな?

 シグ達に会ったら聞いてみよう。


 戦士を連れて、トラ顔の戦士の仲間達が、広場の南に向かって歩いていく。通りに出る前に私に手を振ってくれたから、私も席を立って両手を振る。

 NPCの私にも手を振ってくれるんだから、案外紳士的なパーティなのかもしれないな。

                 ・

                 ・

                 ・

 何とも単調な生活に思えてきたけど、シグ達は順調にレベルを上げているらしい。

 歓迎の広場で、変な再会をしてからすでに7日目。広場で座っている私にシグ達が近づいてきて、L4に到達したことを教えてくれた。


「野ウサギなら問題なく狩れるようになったけど、次はどんな獲物を狩れば良いのかな?」

「アオダイショウがお勧めなんだけど、蛇はだいじょうぶ?」

「平気よ。それで?」


 場所を教えておけば、【探索】スキルで見つけることができるだろう。もっとも、自分のレベル以上の獲物には名前が出ないから、名前の出ない獲物を見付ければそれほど見つけるのに苦労しないだろう。


「素早くはないけど、その装備だと噛みつかれたらHPが三分の一はなくなりそうよ」

「戦士2人の装備を見直せば何とかなりそうね。初期装備をそろそろ更新しても良いのかもしれない」

「まだ、林は危険よ。イノシシ相手の死に戻りが多いみたい」


 私の忠告に、シグ達が笑っている。

 ちょっと余分な忠告だったかな。シグ達は、いわゆる慎重派に属するプレイヤーだ。しっかりとレベルを上げて装備を整えてから次の獲物を狩るんだよね。

 私が仲間だったころには、私が獲物に向かって駆けだそうとすると、首を押さえられたことが何度もある。

 私の代りに妹がパーティインしているから、前にもまして慎重に行動している気がするな。

 それじゃあ! と声を交わした後は、シグ達は防具の店に向かって歩いていく。私は、いつも通りにウサギでも狩りに行ってこよう。


 南門に向かって歩き出した私が噴水近くに差し掛かった時、目の前にレンジャー姿の男性が現れた。

 出現したと同時に、がっくりと膝を付いて石畳を何度も拳で殴りつけている。


「どうしたの? 狩りが上手くいかなかったのかな」

 

 身を屈めてレンジャーに話しかけていると、今度は女性の神官が姿を現した。ぐらりと体が倒れそうになったから、慌てて支えてあげる。


「リーダも戻ったのか。まったく、とんでもない連中だった」

「資金と経験値が減ったけど、今度は皆がいる場所で狩りをしようよ……」


 レンジャーが立ち上がると、私が支えていた神官を受け取って、ベンチの方に向かって歩き出した。

 これって、ひょっとするよね……。


「あのう……」

「すまなかったね。お見苦しいところを見せてしまった。リーダを支えてくれてありがとう」


「ひょっとして、PKですか?」

「死に戻りでは経験値が減らないけど、三分の一が無くなっている。相手の姿を見たなら訴えることもできるんだけどね」


「場所だけでも……」

「北門の先に岩場があるんだ。そこで野犬を狩っていた時だった」


 私がNPCだと分かったんだろうか。舌打ちしてそのまま歩き始めた。

 だけど、最低限の情報は手に入れたからね。

 まだ始まったばかりにPKなんて、とんでもない人達だ。直ぐに出掛けてみよう。第2の犠牲者が出ないとも限らないもの。


 広場を今度は北に向かって歩き出す。

 少し速いぐらいだが、駆けると誰かにぶつかりそうだ。

 屋台を覗いていた少年に銅貨1枚を握らせて、メルダさんに少し遅くなることを伝えて貰う。

 プレイヤーなら『フレンドトーク』ができるんだけど、NPCの私達は、遊んでいる少年達を使って伝言を伝えるしかないんだよね。

 

 PKとは、プレイヤーキルの略称だ。ある程度レベルの上がったプレイヤーを倒して、所持金と経験値を頂く犯罪行為なんだけど、誰が行ったかを特定できないと犯罪として起訴できないらしい。

 皆が一様に低レベルであれば発生しないんだけど、ある程度レベルが上がり始めると、次のレベルに達するにはかなりの経験値が必要になる。

 プレイヤーを狩れば、その三分の一の経験値を頂けるから、お金目当てというよりも経験値目当てになるのかな?


 北門を出た時には昼を過ぎていたけど、駆け足で真っ直ぐに北上していった。

 町の近くでスライム狩りや薬草採取を行う者の数はだいぶ少なくなっている。少しでも経験値を多く得ようと、町から離れて狩をしているみたいだ。

 やがて、前方に岩場が見えてきた。

 その手前には大勢のプレイヤーが狩りをしている。多くは野ウサギ狩りに違いない。町の食堂にもウサギの肉がかなり出回っているのは、彼等の努力の結果ということになる。

 確か岩場と言っていたよね。

 岩場の野犬狩りは、岩場を通り過ぎたあたりになるんじゃないかな。


 ぴょんぴょんと飛び跳ねるように岩場を移動したところで、目に付いた大きな岩の上に立った。

 【探索】スキルを使って周囲を眺めると、いくつかのパーティが野犬に向かって移動しているのが分かる。

 

 あれ? このパーティ、おかしくない。

 状況を良く知ろうと近づいていくと、3人組のパーティが野犬2匹を狙って近づいているのが分かった。問題は、その後ろに5人組のパーティが3人組を取り囲むように散開しているのだ。

 全員がレンジャーらしく、【忍び足】のスキルでも持っているのだろう。野犬を狙う3人はまるで気付いていないようだ。


 でも、どうやってPKに対処すればいいのかな?

 このまま割り込むと、狩りの邪魔をしたと逆に警邏に訴えられそうだ。かといって、見過ごすのは問題だろうし……。

 

 少しずつ彼らに近づいて、介入の機会を待つしかないのかな?

 最悪、野犬狩りのパーティが全滅しても死に戻りするだけで、ゲームは進められる。PK犯が確定できれば、当日のログを使って死に戻り前の状態に戻ることもできるらしい。

 歓迎の広場で出会った2人のためにも、PK行為が始まったところで介入しよう。



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