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068 グラナダの大きな屋敷


 プルパとソロモンの距離は馬車で半日ということだ。その馬車はプラパの西の広場を10時に出るらしいから、私達は一足先に出発することにした。

 GTOで赤い街道を進むと、1時間もしないうちに立派な砦が見えてきた。街道の南に沿うように作られている砦だから、ラグランジュ王国との関所の役目も果たすのだろう。

 近づくと、赤い街道に阻止用の柵が置かれていた。


「このまま進めないみたいね。歩くしかなさそうよ」

「厳重だね」


 確かに厳重だ。ファンベル王国に入る時には阻止具は無かったからね。

 阻止具の向こう側に数人の兵士が私達に顔を向けながら槍を持っているし、ようやく見えてきた橋の袂にも阻止具が置かれている。

 臨戦態勢ということなんだろうか? レムリア世界の王国は皆仲良しだと思ってたんだけど……。


「冒険者だな! 妙な使役獣を使っているようだが、こちらに来てくれないか?」

「はあ、レベル8以上の冒険者なら国境を越えられると聞いてたんですが……」

「超えてるのか? まあ、日とは見掛けによらないという典型ってことか。それでも手続きは必要なんだ。こっちだ!」


 言われるままに、阻止用の柵の端を通って、壁のないログハウスのような建物に入る。

 テーブルセットが2つ並んでいるから、ここが関所の役割を持っているのだろう。


「ギルドカードは……、これか。確かにL16だから問題は無いんだが、NPCの冒険者がここまで来るとはなぁ……」

「赤い街道の西の端を見たら直ぐに戻るつもりです。そうすれば、3つの王国の主要なイベントには参加できそうですからね」

「NPC冒険者の数は少ないらしいから、早めに戻った方が良いぞ。なんかキナ臭い動きもあるようだからな。……よし、これで通行できるぞ。対岸の砦も同じように入国者の確認をするはずだ。この橋からソロモンの町までは歩いても3時間ほどだから夕方には着けるだろう」


 ギルドカードを砦の騎士さんから受け取って、橋に向かう。

 砦は2階建てほどの高さだけど、街道に沿って20mほどの長さがある。1階は壁のような感じがするけど、2階にはたくさんの狭間が街道を見下ろしている。

 北側には低い石垣と、丸太で組んだ柵が作られているから、この砦を通過するのは困難極まるんじゃないかな?

 阻止用の柵がいくつも街道に沿って横になっているから、いざとなればあれを1m刻みに並べるに違いない。


「ご苦労様です!」

 街道が石橋に変わるところで、阻止用の柵を背にしていた騎士さんに声を掛ける。


「ありがとう! 気を付けるんだぞ」

 手にした槍をちょっと上げて笑みを浮かべてくれた。


 他愛もない挨拶だけど、ちゃんと答えてくれたのが嬉しいな。

 タマモちゃんが笑みを浮かべながら後ろに手を振っている。きっと騎士さんも笑顔で答えてくれてるんだろう。

 石橋の横幅は、赤い街道よりも少し広く感じる。長さは100mに満たないんだけど、向こう岸にも同じような砦があるんだよね。

 阻止用の柵の手前で3人の騎士さんが槍を手に私達を待ち構えている。


「今日は、グラナダまで行きたいんですが?」

「冒険者だね? ギルドカードを拝見したい」


 真ん中の騎士さんが槍を後ろの阻止具に立て掛けて、私に片手を伸ばしてきた。

 左右の騎士さんが、先ほどまで片手で持っていた槍を両手に持って、私達の左右に移動している。

 早いところ、見せた方が良さそうだ。

 タマモちゃんのカードと一緒に2枚のカードを伸ばしてきた手に乗せると、手元に引き寄せてジッと見つめている。


「モモとタマモで間違いないな?」

「ええ、そうですが……」

「アズナブル殿がお待ちかねだ。一緒に来てくれないか?」


 アズナブルさんって、警邏事務所の人だよね? 騎士団にも繋がりがあるんだろうか。

 返してもらったギルドカードを仕舞いながら、タマモちゃんと顔を見合わせる。

 私達を待っていたというのも気になるけど、馬車なんか使用したら、【転移】魔法が使えなくなりそうだ。


「この中だ。【転移】で移動してもらいたい」

「あのう。できればソロモンのギルドに寄って頂けるとありがたいんですが?」


 砦の頑丈そうな扉を開けてくれた騎士さんが私達に笑みを浮かべた。


「それぐらいは何でもないさ。王都のギルドにも寄ってくれるだろう……。ハモン様、到着しましたぞ!」

「あら! 案外早かったわね。ハモンよ。グラナダまで案内するわ」


 部屋の片隅で優雅にお茶を飲んでいたお姉さんはハモンというらしい。席を立つと私達に握手を求めてきた。

 とりあえず、握手に応じたけど……、何者なんだろう?


「早速、出掛けましょう。ところで、赤い街道を西に向かってると聞いたけど?」

「ええ、そうです。主要な町のギルドで到着報告をしとけば、後々【転移】が使えますから、それを兼ねての旅だったんですが」


 うんうんとハモンさんが頷いている。お転婆の妹を見ているような表情なんだよね。


「ラグランジュ王国なら、ソロモンと王都、それにグラナダで良いわね。西から帝国を目指すなら王都に【転移】は便利だと思うわ。それじゃあ、出掛けるわよ」


 私達を抱きかかえるように両手で私達の肩に手を回すと、【転移】とハモンさんが声を出す。

 私達の周囲に光の輪がカーテンのように立ち上がると、クルクルと回りだした。

 その光が収まると、私達は小さな教会の裏庭に立っていた。

 

「ここがソロモンになるわ。ギルドは個々から西になるの。少し歩くけど、それほど距離は無いから」

 

 タマモちゃんの手を引いてハモンさんが歩き出した。遅れないように後を追い掛ける。

 10分ほど通りを歩いてギルドに到着したところで、到着報告を行う。

 それが済むと、今度は王都に【転移】する。

 ブラス王国の王都と同じ具来立派な建物が建っているんだけど、じっくり眺めることもなくギルドに向かう。

 ここも到着報告だけを行ったんだけど、一度行ったことがある人物と一緒なら、【転移】先を設定するのは容易ということになるんだろう。

 シグ達の様子を見て、パーティメンバーの1人にギルド周りをさせてあげようかな?


「次が最後のグラナダよ。だいぶ日が傾いてきたから、夕食には丁度良いかもね」

「ご馳走してくれるの!」

「招待するんだから、当然よね」


 タマモちゃんの質問に笑みを浮かべて答えてくれた。

 それって、会食ということになるのかな? 私達にテーブルマナーを要求されても困ってしまうんだけど。


 そんな私の事情を無視するかのように、私達の周囲に光の輪が生まれた。

 今日、3回目の【転移】が始まり、それが収まると同時に潮の匂いを感じた。


「グラナダの転移先は、この公園なんですよ。もう直ぐ日が沈みますから、早めに宿に向かいましょう」

 

 辺りの風景がだんだんと赤く染まりだした。

 このまま夕日が落ちるのを見ていたい気もするけど、低い背丈の草が生い茂る何もない公園から私達はハモンさんの後を追いかけてグラナダの街並みへと足を運んで行った。

 大通りに出るころにはすっかり日が落ちている。大勢の町人が歩いている通りを、はぐれないようにしてハモンさんの後に付いていった。


「ここです。部屋の用意はできていますけど、支払いの心配はいりませんよ」

「何となく、後が怖い気もするんですけど……」


 私の質問にも、ちょっと私の顔を見て笑みを浮かべるだけなんだよね。

 タダより高いものは無いと聞いたけど、いったい私にどんな用事があるんだろうか?

 それに、この建物は宿というよりも、誰かのお屋敷に見えるんだよね。


 私達に、ちょっと待つように言って、大きな扉をのところに立っていた黒い礼服のような衣装を着けた壮年の男性に何か耳打ちしている。

 男性が一瞬私達に顔を向けたけど、すぐに家形の中に入って行った。


「さて、私達も入りましょう」


 そう言って、大きな扉を開いて私達を館のような建物の中に案内してくれた。

 大きな扉を開けると、そこは広いエントランスだ。ここだけで小さな家が一軒建つんじゃないかな?

 一足ごとに足が絨毯に潜り込む。

 一体どんな大金持ちを想定して建てたんだろう? というよりも、運営さんが良くも許可したと考えてしまう。


 真っ直ぐに奥に向かっている回廊を歩くと、扉の前にハモンさんが立ち止まった。

 小さく扉をノックしている。


「ハモンです。お連れしました」

 

 中から誰かの声が聞こえた。

 今までの状況からすればハモンさんの上司ということになるのかな? アズナブルさんということなんだろうけど、成金趣味の人なんだろうか?

 

 扉をハモンさんが開ける。

 私達を最初に入れてくれたんだけど、この部屋の大きさもかなりのものだ。

 奥の窓際に大きな机が設えられており、左手には暖炉とソファーがあり、右手は全て本棚だ。部屋の真ん中には10人程が座れるような大きなテーブルがあった。


「モモちゃん達だね。よく来てくれた。私がラグランジュの西の町グラナダを預かっているアズナブルになる」


 奥の椅子から立ち上がって、部屋の中央にあるテーブル席に着く。この部屋だと、暖炉側が上座になるのかな? 私達はハモンさんの指示で右手の席に着いた。


「先ずは座ってほしい。遠路大変だったね。直ぐに食事にできるから、それまではハモン、頼んだぞ」


 ハモンさんが頷いて私の隣から席を立った。

 ジッと、私達を見ているアズナブルさんは金髪の男性だ。既に日が落ちているんだけどサングラスを外さないから表情がよく分からないな。


「あのう……。私達は赤い街道の最西端を見たくてグラナダを目指してたんですけど」

「知ってるよ。明日にでもゆっくりと見たらいい。それにギルドにも行った方が良いだろうな。【転移】を使えばいつでも来れる。ところで……、まだ兆候が表れない。他の王国は? と君達に聞いてみたいと思ってね」


 ハモンさんが、私達に紅茶を用意してくれた。良い香りに思わず鼻をクンクンさせてしまう。

 アズナブルさんの質問は、侵入者達の置き土産の話になるんだろう。だけど、今のところはその兆候はないんだよね。

 でも、アズナブルさんはその危惧をかなり深刻なものだと感じているのだろう。隣のファンベル王国が意外とのんびりしていたことを考えると雲泥の差がある。

 やはり大きな組織の部署間は、別会社的なところがあるのかな?


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