067 プルパの筆頭冒険者達
翌朝早くにグリューンの町を出発してプルパに向かう。
国境の町になるんだけど、どうやらラグランジュ王国とはあまり仲が良くないらしい。
「冒険者達や、商人は自由に行き来してるわよ。でもねぇ、王国同士が仲が悪いのよ。それが、私達警邏組織にも及んでいるの。とりあえずはモモちゃん達のことは知っているはずよ」
夕食時にナギサさんが教えてくれたけど、同じ会社なんだからねぇ。でもお父さんの話しからすればそんなものかと思ってしまう。さぞかし社長さんは苦労が絶えないに違いない。
GTOを駆っているタマモちゃんは、街道沿いに冒険者が狩りをしていないのが沖に召さないみたいだ。
主要な交通路である街道には、獣もあまり近づかないのかもしれないな。
グリューンの町を出て、2番目の休憩所で一休み。
本来なら昼食を取るための休憩所なんだろうけど、まだ町を出て2時間ほどだから、お茶を飲むだけで十分だ。
小さなポットでお茶を沸かして飲んでいると、早馬が西から駆けてきた。休憩所にも寄らずに真っすぐに街道を駆けていく。
「何かあったのかな?」
「さあ、でも凄い勢いで駆けて行ったよね」
あまり良いことでは無いとは思うけど、これから行くんだから分かるんじゃないかな。
かなり速度を上げて通り過ぎて行ったから、次もあるかもしれない。タマモちゃんには前方に注意するように頼んだけど、ぶつかったら向こうも困るんじゃないかな?
さらに2つ先の休憩所で昼食のサンドイッチを頂く。
あの早馬の後は来なかったから、それほど重要なことではなかったのかもしれないな。
昼食を終えたところで、もう1杯のんびりとお茶を頂く。
休憩所には私達2人だけだ。プルパまでは2日の距離と言っていたから、この休憩所が野営場所になるんだろう。そんな荷馬車を途中で追い抜くことになるかもしれない。
「出掛けよう、お姉ちゃん!」
「そうだね。早く着ければラグランジュ王国に行けるね!」
私達を乗せたGTOは、一気に速度を上げる。
タマモちゃんも早く西の端を見たいに違いない。単なる港町ということかもしれないけど、その先にはもう陸は無いのだ。
東の端は見たんだから、これで東西を極めたことになるはずなんだけど、この世界の大きさから考えると、その先にも大陸はあるんじゃないかな?
「前方に荷馬車が見えるよ。荒れ地を進むね!」
1時間も進んだ頃、タマモちゃんが教えてくれた。肩越しに前を見ると小さな黒い点が動いている。あれが荷馬車なんだろうけど、タマモちゃんて視力が良いんだ。ちょっと感心してしまう。
直ぐに、GTOが荒れ地に入ったから、砂煙が後ろに舞うことになる。
荷馬車からGTOを見ることはできないだろうけど、砂煙を上げて爆走する何かがいることは分かるだろう。
どんな報告をプルパの門番にするんだろう? ちょっと笑みが浮かんでしまうのは仕方がないよねぇ。
30分ほど荒れ地を進んだところで、再び赤い街道に戻った。
この先には荷馬車はいないだろうということで、GTOの速度が更に上がる。
「見えてきたよ。グリューンと同じで緑で覆われてるみたい」
「周囲が荒れ地だからでしょうね。でも、南西にも緑があるみたい」
同じような規模の森が2つ見える。
赤い街道は北の森に向かって伸びているけど、南の森にも村ぐらいはあるんだろうね。距離は10kmほどに見えるから冒険者達は2つの森を行き来しているんじゃないかな?
「建物が見えてきた!」
「かなり大きいね。やはりお隣と仲が悪いのかしら?」
タマモちゃんは建物と言ってるけど、見えてきたのは城壁のようだ。森の木々を分断するように東西に延びている。高さは10mはあるかもしれないな。
森に入ったところでGTOの速度が弱まり、木々の間から立派な門が見えた時、GTOを下りて歩くことにした。
グリューンと違って、城壁と森の間を伐採していないのは、城壁の高さが木々の高さを越えているということなんだろう。
荷馬車3台が同時に通れるような門のくぐると、門番さんが私達を呼び止める。
いつものようにギルドカードを渡して、身分を明かしたところで隣の王国へ行くことを告げた。
「ラグランジュに向かうのか? 隣の王国との国境は西に流れる川なんだが、橋があるから歩いて渡れるぞ。今から歩くとなると、途中で日が暮れてしまうな。日が落ちるとソロモンの門は閉めてしまうから、今夜は町に泊まるんだな」
「ありがとうございます。宿を探してみます。ところで途中で早馬を見たんですが……」
「ちょっと上の方で問題があったみたいだ。俺達には関わらないし、嬢ちゃん達冒険者にも問題は無いことだ」
あまり詮索するなということなんだろう。
とりあえずギルドの場所を教えて貰って、タマモちゃんと一緒に通りを歩いていく。
「門の広場が大きいね」
「屋台もあったでしょう? 商人さん達でなく、冒険者の人達も大勢いるみたい」
まだ日が高いから、通りには冒険者の姿があまり見えない。商人の人達が忙しそうに動いている。結構活気がある町みたいだ。冒険者達も、生産物の材料を得るために頑張ってるんじゃないかな。
大通りを西に歩いて、途中で見つけたギルドで到着報告を行う。これでプルパの町にいつでも来れる。
「そこの若いの! ちょっと来てくれないか?」
ギルドのカウンターで、手続きを終えた私達に声を掛けたのは……。
振り返って、ホールの中を眺めたら、奥のテーブル席で手を振っている男性がいた。30代というところだろうか? テーブルを囲んでいる男女も私よりは遥かに歳上に見える。
「何でしょう?」
取り合えず、話を聞いてみよう。
急ぐ旅ではないし、今日はこの町で宿を取れば良いんだからね。
「あまり見ない顔だな? この町は初めてか」
「赤い街道の終点を見たいと思ってトラペットから旅をしてるんです。できればラグランジュ王国について教えて頂けると助かるんですが」
立ち話ではなんだろうと、連れの男性が近くのテーブルから椅子を運んできてくれた。お礼を言って席に着くと、2人の女性が私達に笑みを浮かべていた。
「おもしろそうなことを考えたのね。そんな冒険もあるんだ」
「おいおい、俺達は攻略組だぞ。後発だが、あまり遊んでいるとβテスト組に置いて行かれてしまう」
どうやら、正統派の冒険者ということらしい。いつからこのレムリアにやってきたのかは分からないけど、シグ達の後を追い掛けるということになるのかな?
「とりあえずは情報交換だ。リンダ、お茶を貰ってきてくれないか?」
「良いわよ。でも、彼女達の話は後にしてね。ラグランジュの情報を話している内に用意してもらうわ」
まだ夕暮れには程遠いから、互いに情報交換を始める。
どうやら、ラグランジュ王国は冒険者のレベルを制限して入国させているようだ。レベル8の制限はかなりきついんじゃないかな?
商人の護衛で入国するとしても、その適用を受けるらしい。
「獣がファンベル王国と異なるということでしょうか?」
「いや、そうでもないらしい。ラグランジュ王国にだって歓迎の広場があるんだからな。要するに『使えない冒険者は他国から入るな!』ってことだろうな」
お姉さんがお茶のトレイを持って戻ってきた。配られたカップにはコーヒーが入っている。タマモちゃんとお姉さんの1人も紅茶だった。
「ありがとうございます。ところで私達に聞きたいことは?」
「ブラス王国の狩りの様子が知りたいところだ。それと、警邏の動きが気になるんだよな。何か知ってることは無いか?」
とりあえずは、ブラウ王国の町と周辺の獲物について説明することにした。歓迎の広場で手に入れた地図があったから、それで大まかな説明をして、攻略組は既に北の王国に向かったことを教えてあげる。
「北の王国は、帝国への布石ということだろう? かなり先に行ってるな」
「私達もそろそろ北を目指すことになるのかな?」
「王都の北の山脈が問題だな。やはりラグランジュ王国を足掛かりとすべきだろう」
ラグランジュ王国が冒険者の入国に制限を設けているのは、安易に帝国に向かうことを止めさせようとしているのだろう。となれば、レベル10以上の技量が必要な魔獣が待ち構えていると考えられそうだ。
「それで、警邏については?」
「少し警邏さんのお手伝いをしてますから、他の冒険者の人達よりは詳しいんですけど……」
私達の持つ情報は、少し特殊な内容だ。果たしてここで話してよいものだろうか?
「彼等なら問題ないわ。この町の冒険者筆頭でもあるし、初心者の指導もしてくれてるのよ」
いつの間にか私の後ろにギルドのお姉さんが立っていた。
警邏さんと同じ組織らしいんだけど、部署が異なるらしい。互いの情報交換は行っているのかな?
「詳しくは話せませんけど、PKに注意してください。特にNPCを狙うPK対策をお願いします」
「「何だと(ですって)!」」
驚くよね。でも、一応注意はしといた方が良いに決まってる。
「グリューンのナギサさんと連絡を一度採っておくべきかと」
「あの変態か!」
「でも、レムリアを愛してることは確かよ。多少のことには目を瞑ってあげるべきじゃ?」
お姉さんがクスクス笑いながら男性に話しているところを見ると、以前何かあったのかな?
ツンツンとタマモちゃんが私の裾を引く。
退屈してるのかな? 一応、情報は話しといたからこの辺りで失礼しよう。
コーヒーのお礼を言って席を立つと、通りに出る。
いつの間にか夕暮れが迫っている。早いところ宿を探さないとね。
あちこちの宿から店員さんが通りに出て、冒険者に声を掛けている。
さて、どんな宿になるのかな?