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066 ナギサお姉さん?


「そう、真っ直ぐ西に向かってるんだ」

「【転移】先を増やそうと思いまして……」


 私達はコーヒーを、タマモちゃんはジュースを飲みながらお姉さん? の質問に答えている。

 警邏事務所の南壁を利用したテラスには特設テントの相談所があるのだが、少し離れた場所にテーブル席が2つほどあった。

 その1つに私達が座ると、別のお姉さんが飲み物を持ってお姉さん? の隣に腰を下ろした。たぶんバディを組んでいるんだろうけど、ちょっと呆れた表情で隣のお姉さん? の表情を見ているんだよね。


「ダンから連絡があったのはそういうことだったの。でも、カノンからの連絡では上手く使えと言ってたけどねぇ」

「例の話しですか? 今のところは平穏に見えますけど?」

「ダメねぇ。だからモモちゃん達が西に向かってるのよ。いつでも介入できるようにね」


 思わず背筋がゾクゾクしてきた。

 最後のウインクでタマモちゃんは私の腰にしがみ付いてる。


「お手伝いはできますけど、あまり期待はしないでくださいね」

「その辺りは善処するわ。でも、ダン達がモモちゃん達のことをこれまで報告してこなかったのも問題よねぇ。スキンシップが足りなかったのかしら?」


 コミュニケーションの間違いじゃないだろうか? でも言い返せないんだよね。


「やはり、モモちゃんも?」

「はい。裏社会に潜りこんだと考えています。活動をいつ始めるか、それを早期に捕らえて組織を潰さないとNPC社会が混乱します。それはプレイヤーにも影響が出るでしょう」


 中身は男性なんだから、ちゃんと男性のアバターにしてほしいな。

 リアル世界で何かあったんだろうか? 


「そういうことなの。ツナミさんももう少し考えて欲しいところね」

「所長は、全て収まったと言ってましたけど?」

「状況を自分の都合で見ているような男は、すぐに更迭されるわ。まったく使えない上司の下程、仕事がやりずらいったらありゃしない」


 そういうことか。このおかしなお姉さん? だけが危惧しているのだろう。運営の組織がどのようなものかは分からないけど、各王国の警邏本部はある程度独立しているのかもしれない。

 でも、私がどうこう言える立場でもないから、ここはお姉さん? の愚痴を聞いてあげるしかなさそうだ。


「とりあえず、モモちゃん達とお知り合いになったことで満足することにしましょう。ところで宿はどうするの?」

「『緑の牧場』が良いとギルドのお姉さんが教えてくれました」

「なら、ナギサから紹介されたと言えば、便宜を図ってくれるわよ。あのお店は冒険者に人気があるから」


 ナギサさんっていうんだ。ようやく名前が分かった。

 自己紹介もせずに、一方的な話を始めたからね。それだけ、ナギサさんにとっては切実な問題だったんだろう。

 ちょっと不思議な人物だけど、レムリア世界を愛している人物であることは間違いない。


 ナギサさん達に別れを告げて歓迎の広場に戻ると、9時の位置にある通りに足を進める。

 通りというより路地に近い。人が3人横に並べないぐらいの通りだ。それでも、たまに手押し車が通るから、壁に体を寄せて手押し車を通してあげる。


「花屋の食堂前みたいだね」

「あそこは職人街だけど、ここは周囲にお店がたくさんあるよ。雑貨屋みたいだけど、少し品揃えを変えているみたいね」


 屋台より少し大きくなった感じのお店は、カウンターが通りに面して作られている。冒険者達のパーティがその店先で店員と商品の値引きを頑張っていた。

 商品の相場はあるんだろうけど、ちょっとした値引きで店の評判が変わるのだろう。

 店員はタマモちゃんより少し年上に見える女の子だけど、頑張って交渉しているみたいだ。その交渉を別の冒険者達が見ている。値が下がったところで買い物をするつもりなんだろう。


「突き当りにカボチャが置いてあるよ!」


 タマモちゃんが腕を伸ばして教えてくれたのは、ハロウインのカボチャのランタンだ。

 この世界にも、ハロウインがあるのだろうか? いや、それよりも季節的におかしくない?

 突き当りの宿に近付くと、扉の左右に3段重ねのハロウンランタンが飾られているのが余計に違和感を覚えてきた。

 看板には間違いなく『緑の牧場』とあるから、ここが目的の宿で間違いはないんだけどね。

 とりあえず、入ってみよう!


「今日は。2人なんですが部屋は空いてますか?」

「あら、お客さんね。生憎と一杯なのよ」


 カウンターのテーブルを拭いていたお姉さんが、こっちを見ないで応えてくれた。

 もう少し、愛想が良くないとお客が来なくなってしまうんじゃないかな?


「ナギサさんから紹介されたんですけど、出来ればお勧めの宿を紹介していただけると……」


 ナギサさんという言葉を聞いた途端、お姉さんは布巾を置いて私達に顔を向けた。

 やはり、あの怪しいお姉さん? だから町でも有名なんだろうね。


「それを早く言ってよ。2人だったわね。こっちにいらっしゃい。部屋のカギを渡すから」

「あのう……。空いてなかったんじゃ?」


 お姉さんがカギを笑顔で渡してくれた。


「空いてないことは確かよ。でも、ナギサさんが常に1部屋を確保してるの。ナギサさんの紹介があった冒険者に部屋を貸すように言われてるから問題ないわ」


 部屋は2階の左手だと教えてくれた。食事は日が落ちてからということだが。


「1階は食堂兼酒場だから夕方は賑わうの。一番奥の花瓶があるテーブルがあるでしょう? あのテーブルに座って頂戴。あそこは予約席だから誰も座らないはずよ」


 確かに小さな花瓶に花が差してある。

 予約する人がいるんだ。思わずタマモちゃんと顔を見合わせてしまったけど、そういうことならありがたく利用させてもらおう。


「ここまでの通りにはいろんなお店があったでしょう? 物によっては広場の屋台よりも安いし、品も良いものばかりだから狩りの準備をするには丁度良いわよ」

「ちょっと出掛けてみます!」


 笑みを浮かべて私達を見送ってくれたところを見ると、私達をこの町に始めてやってきた冒険者と思っているのだろう。お店巡りをさせて、この町周辺の狩りを教えて貰うようにとの親心なんだろうな。

 別に狩りをしようとは思ってないけど、狩りの獲物については興味があるところだ。

 タマモちゃんと手を繋いで、さてどこから見てみようか。


「あれって、獲物を買い取ってくれるところかな?」

「どれどれ、……そうね。バッグから獲物を出してるものね」


 タマモちゃんに手を引かれながらそのお店に向かうと、カウンターを横から眺めることにした。

 本来なら、獲物を狩ると肉のブロックになるんだけど、このお店はそれだけではないようだ。毛皮や羽等のドロップ品まで扱っている。

 ギルドも肉以外のドロップ品を扱ってはいるんだけど、肉屋とギルドに行くことになるなら、一カ所で済む方が断然いいに決まってる。


 小さく開いた仮想スクリーンに、カウンターに並べられた品物の名前が表示される。タマモちゃんも同じようにスクリーンを開いているはずだが、個人用のスクリーンは共用の指示を出さない限り他人から見ることができないんだよね。


 イノシシと野ウサギが圧倒的だが、たまにレグットと表示される。検索すると飛べない鳥のようだ。鶏より大きくて鋭い蹴爪を持ってるから初心者ではかなりきついんじゃないかな?


「ほう! 珍しいな。ハンザキの肉か」


 店員のお爺さんが肉をヒョイと持ち上げた。

 にんまりと笑って銀貨を取りだしてるから、かなりの値打ちものに違いない。

 早速検索したら、大きなワニだった。

 食べられるのかな? 思わずタマモちゃんと顔を見合わせて首を振ってしまった。姿を知ったら食べられないよね。どちらかと言えば私達が食べられそうな大きなワニなんだもの。


 たまに水棲生物の肉がカウンターに並べられるのは、湖が近いということもあるのだろう。それをカウンターに並べる冒険者達の装備は、良い具合に色あせている。この町でも高レベルの冒険者達ということになるのだろう。

 初心者は荒地で狩りをして、上級者になれば湖の岸を狙う。

 それが、この町の冒険者になるのかな?


 いつの間にか日が暮れてしまった。周囲のお店がランプの明かりを灯してるから、通りは夕暮れ時よりも明るく感じるぐらいだ。

 気のせいか、人通りも増えている。冒険者達が狩りから帰って来たんだろう。

 私達も、早めに夕食を取って明日に備えよう。

 出来れば明日中にラグランジュ王国に到着したいところだ。


 宿に戻って、言われた通りのテーブルに向かおうとしたら、既に先客がお酒を飲んでいた。


「遅かったじゃない? 先ずは飲み物ね」

 ナギサさんが片手を上げて、給仕係を読んで注文を出した。


「食事ぐらいは驕るわよ。一宿一飯の義理は考えなくても良いわよ」

「はあ、ありがたく頂きますけど……、他の情報が欲しいということですか?」


 私の言葉にカップを掲げてウインクしてくれた。

 途端にタマモちゃんがしがみ付くから、あまりパフォーマンスをするのは控えて欲しいんだよね。


「侵入者を騎士団が全て倒せなかった……。ここに問題があることは確かです。騎士団の精鋭であるレンジャー部隊でも取り逃しています。それを警邏さんや捕り手さんが頑張ったということになっていますが、その間の時間が問題だと思ってます」

「接触したことによる感染を疑ってるということね? 私達の王国でもレンジャー部隊での壊滅に時間を要してるわ。上は侵入経路の遮断を持ってめでたしとしているけど、全くゲーム世界を知らなすぎるわよねぇ」


「でも、私達の子飼に町の空き家を捜査させているんでしょう? 今日も何も見付けられなかったようですけど」

「潜ろうと思えば何でもできるわ。とりあえずは空き家、次は地下室、さらには下水道も考えないと……」


「フィールドも考えないといけないでしょうね。1度PKを行えば町への出入りに支障が出ます。となれば拠点を外に作るとも考えられますよ」

「この町に協力者ができればそれも可能なのよねぇ……。まったく人が足りないわ。明日は所長を締めあげてみようかしら?」


 あまり派手に動いたら左遷させられそうだ。

 とはいえ、他の町ではそれなりに動いているんだよね。少しは説得の材料になるうかもしれないから、その辺りの話をしてあげよう。


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