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057 NPCが狙われる?


 レンジャーさん達は、焚き火をしながらしばらく状況を見守るらしい。

 王都の本部と交信して、どうやら王都周辺の危惧はなくなったと教えてくれた。


「尾根伝いに逃走している連中を追っているレンジャーは、俺達の精鋭だ。それでも中々距離が縮まらないところを見ると、やはり連中の狙いはモモちゃんの危惧が当たっているのかもしれないぞ」

「そうなると、プレイヤーが危険になるのでは?」

「まあ、そうだろうな。だが、1つだけ俺達にも都合が良いことがある。死に戻りが可能になる」


 この世界のシステム以外からの干渉によって生じた事象については、バグ使いされてしまう。だけど、NPCの意識を乗っ取ってしまうならば、それはこの世界のシステムに入るということなんだろうか?

 

「さすがに人間を使って実験はできないが、動物実験は何度も行っているらしい」

「凶悪なPK犯ということになるんでしょうか?」

「そんなところだろう。徒党を組むようなら、騎士団が動くだろうが捕り手達の範ちゅうになるんじゃないか?」


 警察庁も新人教育という範ちゅうを越えることになりそうだ。

 警邏さん達も少しは安心できるだろうけど、町への入域審査は少し厳重になりそうに思える。

 こんなことなら、住人の頭上の識別表示を無くさなければ良かったんじゃないかな?

 

「それで、モモちゃん達はトラペットに向かうのかい?」

「はい。私達が冒険を始めた場所ですから。変な連中に脅かされないかと」

「頑張れよ。今回の件は隊長達も対応を考えているみたいだ。大きな街には騎士団の分隊を派遣できるかもしれないぞ」


 遅めの昼食をごちそうになって、私達は林を南に移動する。

 それほど時間も要せずに林を抜けたところで、タマモちゃんがGTOを召喚する。

 このままGTOを駆ってトラペットに一直線に進んでいく。

 荒れ地に冒険者をほとんど見かけない。そろそろプレイヤーが大挙してやってきそうなものだけれど、まだプレイヤーの活動区域は制限されたままのようだ。

 22時過ぎにトラペットの西門に辿り着いたところで、門を叩き門番さんに門を少し開いてもらいどうにか町に入ることができた。


「誰かと思ったらモモちゃん達じゃないか! 今は何か恐ろしいことが起きてるようだぞ。あまり遠くまで狩りに出るのは感心せんなぁ」

「すみません。王都から急いで帰ってきましたので。ところで異人さん達は?」

「街道の南で狩りをしているようだ。街道の北は禁足令が役所から出ておる」


 とりあえず危険は無いということなんだろう。

 問題は、尾根伝いに移動している一団なんだけど、状況は警邏事務所に向かえばメールのやり取りを見るよりも状況が分かるだろう。

 改めて門番さんに頭を下げると、大通りを走って警邏事務所に向かうことにした。

 宵闇の中なら酒場騒ぎが大通りまで聞こえてくるんだけど、この時間だからか静かなものだ。人通りも全くないのが帰って不気味に思えてしまう。

 そんな中、煌々とランプを灯した明かりが大通りを照らし、建物の中から騒ぎ声が聞こえてきた一角がある。

 1つは警邏事務所だ。もう1つは交番だよね。あんなに賑やかな話声は初めて聞いたかもしれない。


 トントン、と事務所の扉を叩くと中から聞こえてきた喧騒がピタリと止んだ。

 扉を開いてとりあえず一礼をして頭を上げると、大勢の警邏さんの注目を浴びている。


「誰かと思ったら、モモちゃん達じゃないか! こっちに来てくれ。王都からの話は聞いてるよ。大変だったらしいけど、こっちも助けてくれるとありがたいな」


 人ごみの中から手を振っているのはダンさん達だ。タマモちゃんの手を引いて、ダンさんのところに歩いていく。


「ここに座ってくれ。こいつらは俺達の仲間だよ。強面の連中だが気は良い奴だからね」

「おいおい、お前が一番の強面だろうが! そうか、このお嬢ちゃん達が切り札ってわけだな」


 ダンさん達が座っていたテーブルには、ダンさん達と同じようなバディを組む警邏さん達が座っていた。テーブルが小さいということで2つを合わせたところに6人が座っている。何とかアンヌさんの隣に席を作ってもらい、私達が腰を下ろすとコーヒーが出てきた。どこで手に入れたんだろう?


「状況は逐次王都から伝わって来るんだが、これだとブラス王国に入り込んだのは『アルカディア』で間違いなさそうだ。この画像が送られてきたんだが……」


 壁際に寄せたテーブルだから、壁に仮想スクリーンを張り付けるようにして映し出している。50インチはありそうな仮想スクリーンに現れたのは、最初に戦った戦士の姿だった。


「どう見ても、古代ギリシャの戦士だよね。L15以上らしいけど?」

「スパルタの戦士じゃないかと……。あの盾で体ごと跳ね返されました。森を焼いて炙り出したところを攻撃したんですが、百体ほど、東に逃がしてしまいました。騎士団のレンジャーさんと追い掛けて、山裾を移動する部隊は壊滅させたんですが、尾根伝いに移動する連中はそのままです」


 仮想スクリーンに映し出された侵入者達の移動経路は、私の説明と合致している。

 どうやら尾根伝いに進んでいるレンジャー部隊は、侵入者達のすぐ近くまで進んでいるらしい。上手く壊滅してくれると良いのだけれど。


「これが、山裾で戦った侵入者達の姿です。どうやら、スパルトイとドリアードではないかと推測してるんですが」

「スケルトンに植物の蔓ってことか! 誰かギリシャ神話に詳しい奴はいないか?」


 遠くで手が上がった。若いお姉さんが私達を囲んでいる警邏さんを掻き分けてテーブル近くまでやって来ると、座っていた警邏さんが席を立ってお姉さんに席を譲っている。


「今の話を聞く限り、『アルカディア』のプレイヤーで間違いがないかと思います。王国騎士団と槍を交えたのがスパルタ兵で間違いはないでしょう。チューバッハの北の林で戦ったのは、スパルトイと呼ばれる竜の歯の戦士です。植物性の蔓は仮面のような顔が女性であることからドリアードで間違いはないかと……」


 2つ目の仮想スクリーンを立ち上げて、絵本のようなイラストを表示して説明してくれた。


「強いのか? いや、モモちゃん達はどうやって倒したんだ?」


 とりあえず、レンジャーの隊長さんに話したことを繰り返すことになってしまった。

 

「あのスケルトンの背骨を切れば良いんだな? ドリアードは【火炎弾】が有効ってことか。まぁ、姿を見ればそうなるんだろうなぁ」

「簡単ではありませんよ。人間族の戦士でL15以上とみるべきです。それにスパルトイは長じて準英雄クラス職に着けるんですから、それなりのスキルも身に付けられると推測します」


 改めて、警邏さん達が私に視線を向ける。

 黙っていようかと思ってたんだけど、ここは教えておいた方が良さそうだ。


「王都で、イザナギ様の祝福を受けました。今はこの姿ですが、上位職のニンジャに成れます。タマモちゃんの場合は枢機卿なんですけど、従魔使いを強化して魔法が強化された感じですね」

「【浄化】はスケルトンに利かなかったよ。後はドリアードを相手にしてた」

「無理もありません。魔物ではありませんからね」


 魔物じゃないけど、怪物には違いない。でも竜の歯の戦士は後々人間の姿になるんだよね。だから【浄化】が利かなかったのかな?


「問題は、この後だな。プレイヤーには、ちょっと凶悪な怪物が魔国から送られてきたということで、トラペットの北西区域の立ち入りを禁止している。上手くレンジャーの連中がし止めてくれればいいんだが……」

「途中で一緒になったレンジャーの隊長さんは、壊滅は無理だと言ってました。負けるということではなくて、取り逃がしを心配してましたよ」


 それだ! という顔でテーブルを仕切っている男性が私達に視線を向けた。


「かなり問題になるだろう。上からはトラペットの町に入り込む前に侵入経路を全て断ち切るとは言ってるんだが、そうなると大きな問題があるようだ」


 警邏さん達の上位組織は運営そのものだ。

 運営と政府機関が揃って問題にするとなれば、やはりNPCの乗っ取りということになるのだろう。

 

「プレイヤーだけじゃない。NPCの動きにも注意してくれ。どうやら俺達の混乱に乗じてNPC管理システムへのハッキングが行われた形跡があるらしい」

「NPCはTOKIOの管轄ですよね?」

「TOKIOだけじゃなくて、システムの頂点にTOKIOがいるということだ。いくら何でもTOKIOのハッキングなんてことは出来ないだろうよ。だが、その傘下のシステムなら攻撃は可能だ」


 一瞬のファイヤーウオール停止が問題になっているのかもしれない。だけど、レンジャーの隊長さんの考えたNPC攻撃はハッキングというよりも、洗脳に近いものなんだよね。時間差を考えたハッキングということになるんだろうか?


「いずれにせよ、残り数時間もせずに尾根の連中の状況が分かるだろう。上手く抑え込んでくれたならそれでよし。取り逃がした場合は捕り手達と協力して網を張ることになりそうだ」


 明日の朝には、状況が分かるということになりそうだ。

 それまでは、このテーブルでコーヒーを頂こう。タマモちゃんは眠そうな顔をしてるから、アンヌさんに顔を向けると小さく頷いて席を立った。タマモちゃんの手を引いて奥の事務所に向かったから仮眠室に案内してくれるのかな?


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