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056 スパルトイとドリアード


 警邏さんの情報によれば、東に向った数は2割ということだから80体近い数になるのだろう。私達に近付いてくるパーティの人数は6体のようだから、十数隊のパーティを組んで分散したということなのだろうか?

 本職のレンジャーさん達が西から追撃してくれるはずだから、既にいくつかのパーティは潰されているんじゃないかな。


「通り過ぎたら、魔法を使って! 私はそれを隠れ蓑に彼等を攻撃するから」

「あの体に急所が無いように思えるんだけど……」

「無くても、上下に真っ二つなら倒せるでしょう? それでも動きだすようなら、焼くしかなさそうなんだけど」


 私にだって自信がない。だけど、スパルトイは同族殺しができたらしいから、剣で倒すことはできるだろう。問題はドリアードの方だ。植物性の魔物だからねぇ。忍刀で斬り払うしかないんだけど、この刀は突き差す方に特化してるから、切れ味は余り期待できそうにないんだよね。


 彼らが接近してきたので、私達は更に身を小さくする。このままで推移すれば、私達に10m近くまで近付くはずだ。彼らの進路が私達より南側になるのは天の助けに違いない。位置が下になるなら簡単に接近できる。

 しきりに周囲を見ているようだけど、私達には気付かないようだ。


 ゆっくりと、私達のすぐ下を通りすぎる。

 飛び出したい気持ちを押さえて、彼等が離れるのを待った。


 タマモちゃんが立ち上がって彼らに【炸裂弾】をたて続けに放ち、結果を見ないで北に逃げ出した。

 タマモちゃんが立ち上がったタイミングで私は立木の枝に向かってジャンプしたから、パーティの中で2つの爆炎を見ることができた。

 レベルの低い獲物なら、あれで終わりなんだろうけどね。

 爆炎が納まると、状況を確認している数体の侵入者の姿が見える。5体のようだから、1体はもろに【炸裂弾】の魔法を受けたことになるのだろう。【火炎弾】よりも強力でエリア破壊を目的とした魔法だけど、レベルが同等だと威力が小さくなるのが問題だよね。

 

 何か叫んでいるようだけど、私達のいる方向に腕を伸ばしているところを見ると、タマモちゃんの姿を見付けたということになるのかな?

 彼らに向かって【火炎弾】が飛んでくる。牽制目的のようで、近くに落ちて爆ぜると同時に、侵入者達が動き出した。


 散開したのは、タマモちゃん1人と思って、取り囲むつもりなんだろう。

 上手くリードしてくれた。後は私の番だから、一番左手のドリアードを狙う。

 タイミングを狙って、枝から飛び降りながらドリアードに斬撃を放った。

 切れ味はちょっとだけど、落下速度が加われば少しはマシになるだろう。


「GUWAA!」


 甲高い声を上げてドリアードが倒れる。

 ほとんど体を斜めに両断された感じなんだけど、血飛沫も上がらずにジュクジュクと体液が漏れ出している。

 このままだと再びくっ付きそうにも思えるから、【火遁】をドリアードに向かって放った。

 【火遁】は火属性魔法の一種だから、【火炎弾】に似た炎球を放つこともできる。威力が8割程度なのが問題なんだけど、この際だからね。贅沢は言わないよ。

 

 ちょっと安心したところで、いきなりの殺気に思わず体を落とした。

 頭の上を片手剣が音を立てて通り過ぎる。

 立ち上がりながら、忍刀を横なぎにするとガチン! と音と衝撃が伝わってくる。

 さすがは、スパルトイ。簡単には行きそうもないな。


 後ろにジャンプして距離を取る。

 私の動きに追従して襲ってこないところを見ると、AGI(素早さ)は私に劣るということなんだろう。

 何度か斬り合うのだが、盾に阻まれる。昨日の戦士とは明らかに格が上だ。

 

 一端後ろに跳び下がり、火炎弾を放った。詠唱もしないで咄嗟に出せるのが【火遁】の良いところだけど、威力がねぇ……。

 案の定、盾で防いだから火の粉が辺りに飛び散る。

 一瞬怯んでくれたところを飛び込んで刀を横に薙ぐ。

「GYAAAA!」

 

 背骨を断ち切っても叫ぶんだからねぇ。どうにか2体。残りは? と辺りを探ると、ぴょんぴょんと跳ねるように逃げているタマモちゃんを追い掛けている。

 3体ではさすがに取り囲むことができないらしい。それでも1体の動きはタマモちゃんの先に回ろうと単独行動している。

 次はあれにしようかな?


 立木の枝に飛び乗って、枝伝いに飛んでスパルトイに迫る。

 タマモちゃんの動きを見極めようと、立木の傍に立ち止まったスパルトイに枝から飛び降りながら斬撃を与えた。

 これで、残り2体だね。

 こっちに向かって逃げてくるタマモちゃんに手を振ると、向こうも手を振ってくれた。

 まだまだ余裕がありそうだけど、ここは2人で片付けよう。


「後は後ろの2体だけだね?」

「ドリアードをお願い!」


 短い話だけど、タマモちゃんには理解できたようだ。くるりと追ってきた2体に体を向けると、【火炎弾】をドリアードに放つ。

 火の粉を被って燃え上がったかと思ったが、直ぐに火が消えて触手のような蔦を伸ばしてタマモちゃんに向かってきた。

 残りは、スパルトイか……。最初のスパルトイと同じ手で行こう。

 藪をものともせずに駆け寄ってきたスパルトイに【火炎弾】を放つ。火の粉が散った瞬間を狙ってスパルトイに飛び込んだ。


「何とかなったね?」

「私達のレベルに近かったから苦労したけど、レンジャーの人達はだいじょうぶなのかしら?」


 戦闘は終わったけど、侵入者達がこの世界に残す物は何もない。

 魔石も、硬貨も武具すら残さないのだ。既に遺体もノイズのような映像と共に消えている。

 私達が退治したと分かるものは何もないんだけど、運営さんには何らかの手段で分かるみたいなんだけどね。


「メールが来てる。もう直ぐ、こっちにレンジャーさん達が現れるらしいよ」

「お茶ぐらい用意しとこうか。まだまだ侵入者を追い掛けるんでしょうから」


 小さな焚き火を作ってポットを乗せていると、まるであたしたちの居場所が分かるみたいに真っ直ぐにやって来る気配を感じた。

 直ぐに、大げさに枝を揺すりながら音を立ててやって来る1団を目にする。

 5人ずつの2つのパーティらしい。

 私達が見つめているのに気が付いたらしく、両手を振って敵意が無いことを示している。

 

 藪を豪快に乗り越えながら真っ直ぐ向かってくる先頭の男性は、かなり筋肉質だ。私の体重に優に2倍はあるんじゃないかな?


「先行してると聞いたんだが、お嬢ちゃん達だったのかい?」

「スパルトイとドリアードの6体を始末しました。昨夜からこの地点で網を張ってましたから、山裾を東に向った連中の始末は終えたものと」


「ああ、すまん。ずっと歩きづくめだったからな。お茶が何よりだよ」

「隊長。ほんとにこの嬢ちゃん達で倒せたと?」

「中隊長が言ってたろう? 俺達よりレベルが高いってな。人は見かけによらないって聞いたことがあるだろう? 俺が1つ付け加えてやろう。『女性はとくに!』だ」


 レンジャーさん達は私達と同じような革の上下なんだけど、顔を黒や緑で塗りたくってる。迷彩ということなんだろうけど、ちょっとタマモちゃんがひいてるんだよね。


「俺達は途中で1隊を片付けた。お嬢ちゃん達が1隊をやってくれたなら、残りは尾根伝いということになりそうだな」

「それなら私達が先行しているのかもしれません。本部に問い合わせて確認してみます」


 2つのパーティなんだけど、どうやら1つの部隊を2つに分けて行動しているように思える。

 とりあえず私達の名前を教えると、隊長さんが俺は、ギールだと教えてくれた。

 ギールさん達は夜を徹してこちらに向かってきたらしい。

 周囲に敵対する獣がいないということを知って、焚き火に鍋をかけている。ここで大休止を取るのかな?

 料理を作り始めたのは女性の隊員のようだ。レンジャー部隊は全て男性かと思ってたんだけど、女性の進出はここまで来ているんだね。


「隊長。やはり3隊が残ってますね。ここから北北西に30kmほどを東に向っています」

「最接近時刻と距離は?」


「1時間後に北に15kmほどです」

「攻撃は無理だな。そのまま進めばどこに出る?」

「トラペットの北西ですね。明日の夕刻に尾根を下りるでしょう」


 トラペットへの攻撃はあり得るのだろうか? それとも、チューバッハに向かう森に紛れて山賊まがいの行為を始めるのだろうか?

 


「北の山脈はトラペットの西で尽きる。その先にも山脈はあるんだがこれは少し距離があるな。狙いはトラペットのかく乱、もしくはチューバッハとの街道の途中に広がる森ということになる」

 

 やはり、考えることは同じか。

 それが一般的ということになるんだろうけど、もし違ってたら……。


「ん? どうした。何か気になるのかな」

「あまりにも単純すぎるように思えて、何となく気になるんです」


「陽動だと?」

 

 おもしろいものを見たかのように、私に向かって笑みを浮かべると、風向きを調べてタバコに火を点けた。

 リアル世界にプレイヤーの体があるからこの世界位でなら自由にタバコを吸わせてあげたいけど、それができない人がたまにいるみたい。

 レムリア世界でもリアル世界と同じように禁煙ルールを守ってる人が多いんだよね。


「今、本部で1つの実験をしているようだ」

「NPCへの乗り移りですか?」


 隊長さんの笑みが消えて、私をジッと見据えている。


「驚いたな。その通りなんだが、そうなると面倒になるな」

「後は捕り手の仕事でしょう? 私達があまり動くのも問題に思えますよ」


 鍋の様子を見に来た女性隊員が、隊長に確認している。

 やはり危惧はあるってことになる。今度はNPCに化けた侵入者が相手になるのかな?


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