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055 ギリシャ神話の連中なのかな?


 カノンさんはプレイヤーの来訪を半日程度規制すると話してくれた。

 レムリア世界では時の流れが2倍ぐらいになるはずだから、今日1日はプレイヤーがほとんどいない世界ということになるのだろう。

 GTOで赤の街道を東に進み、チューバッハを目指す。

 眠くならないのは、あまり睡眠を必要としない体なのだろうか? 今までは、ベッドに入ればすぐに眠れたんだけどねぇ。


「このまま町に向かうの?」

「う~ん、どうしようかな。侵入者達は町を目指してなかったんだよね。あのまま山伝いに東に向うと面倒になるよね」


 森から東に向った侵入者達は小さな集団で行動しているみたいだ。もっとも王都の警邏事務所で得た情報だから、あれから3時間ほど経過した今の状況はどうなってるかよくわからないんだよね。

 フクロウ型ドローンの偵察範囲は余り広くないようだし、数もあまり用意していないように思える。

 各町の警邏事務所は大忙しに違いない。

 下手にチューバッハに立ち寄ったら、追加の依頼を頼まれてしまいそうだ。


「モモちゃん。食料はたくさんあるんだよね? チューバッハの手前で北に進路を変えてくれない? 山麓伝いにトラペットに向かいましょう」

「たっぷり持ってるよ。お水も大きな水筒に入ってるし、泉だってあるはずだよ」


 モモちゃんの返事に思わず笑みを浮かべる。

 既に上位職の姿でなく、L16のレンジャーと魔獣使いだからこの世界ではありふれた冒険者に見えるはずだ。

 適当に狩りをする振りをして、侵入者を探していこう。


 チューバッハの町が遠くに見えたのは、まだ夕暮れには程遠い時刻だった。

 そのまま北上してきたの尾根を目指す。

 侵入者達と私達の移動速度を考えれば、私達が先行出来たことは間違いないだろう。

 プレイヤーのレムリア世界への禁足は解けていないけど、荒れ地には町に向かって移動する冒険者達の姿がいくつか見える。

 NPCの冒険者に違いない。緊急時なんだけど、普段通りの暮らしをしているということに、少し安心感も生まれてくる。


「あの藪辺りで良いんじゃないかな?」

「焚き木も取れそう」


 数本の雑木と繁みを見付けたところで、私達はGTOを下りる。

 野宿もだいぶ慣れてきたな。焚き火を作って携帯食料でスープを作り、王都で手に入れたパンを温めた。


「ここで待つの?」

「向こうの位置が分からないのが問題だよね。指輪を使えば私達の位置が分かるはずだから、警邏事務所に状況を確認してもらおうか?」


 待つ狩りはストレスが溜まるんだよね。移動して狩りをした方が気分的には楽に思える。

 侵入者達の位置と移動方向が分かるなら、先回りして待ち伏せが出来るはずだ。

 先ずはメールで、指輪を使うことを連絡する。その後指輪を使って位置情報を伝えると、最後にもう一度メールを送って、侵入者との位置関係を問い合わせた。


「来た来た! かなり離れてるね。西北西に40kmはあるみたい。2時間後に再度位置を教えてくれるみたいだよ」

「まだそんな場所なんだ」


 タマモちゃんは直ぐにでも戦闘が始まると思ってたようだ。まあ、それだけGTOの速度が常識はずれなんだけどね。


「今度は私達2人だけだから、あまり接近しないで戦うよ」

「魔法で戦うの?」

「一球入魂は強力だけど、囲まれるのは危険よ。いつでも逃げられる体制で戦って頂戴」


 ちょっと難しいかな? タマモちゃんが首を傾げている。


「魔法を放ったら、すぐにその場から遠ざかるの。攻撃するときは近づいて、魔法を使ったら遠ざかるということなんだけど」

「魔法を使ったらすぐに逃げれば良いんだね!」


 どうやら納得してくれたようだ。

 簡単だよと言ってるけど、一撃離脱がどれぐらい利く相手なのかはやってみないと分からない。

 黒鉄くろがねが俊敏に動くことができれば、また別の作戦が取れるんだけど、現状では高望みはしないでおこう。


 2時間は思ったよりも長く感じる。タマモちゃんは私に寄りかかって居眠りを始めたから、マントで包んであげた。案外夜は冷えるんだよね。

 脳裏にピロロン! と着信の合図が入る。カノンさんに貰った懐中時計では21時を過ぎたあたりだから、再び位置を教えてくれるのだろう。


 目の前に仮想スクリーンを開いて、メールの内容を確認する。

 どうやら真っ直ぐに東に向っているらしい。位置は北北西に45kmというところだ。2時間で5kmでは山麓の険しい場所を進んでいるということになるんじゃないかな?

 地図を開いて、教えられた座標を確認すると、確かに等高線が密になっている。

 明日の朝になってもまだ北西ということになりそうだ。だとしたら、少しゆっくりと休んでおこう。

 物騒だから、薄明までは私が焚き火の番をしなければならないだろうな。


 2時間おきに警邏事務所からメールがやって来る。

 私達以外に、騎士団のレンジャー部隊が2つ、警邏事務所から1組の迎撃チームが行動しているらしい。

 もっとも、活動地域は王都周辺に限っているようだ。他の町の警邏事務所も迎撃部隊を出しているようだけど、やはり事務所がある町周辺に限った捜索をしているみたいだ。

 ひょっとして、遠く離れた場所で活動しようとしてるのは私達だけなんだろうか?


 夜が明けようとした頃に、タマモちゃんが目をこすりながら目を覚ました。

 簡単に状況を教えてあげたんだけど、相手の速度が遅いことに驚いてる始末だ。


「今度は私が少し眠るね。警邏さんがメールを送ってくれるから、変わったことがあれば起こして欲しいな」

「でも、こんなに離れてるんじゃ、何も無いと思うんだけど」


 たぶん何も無いだろうけど、暇つぶしにはなるんじゃないかな?

 私と違ってタマモちゃん相手なら、警邏さんも嬉しいに違いない。

                 ・

                 ・

                 ・

 タマモちゃんに体を揺すられて目を覚ます。

「おはよう!」と眠い目を開けて挨拶すると、焚き火傍のポットからお茶を入れて飲んだ。

 苦い味が、体から眠気を追い払うのが分かる。


「どんな具合?」

「かなり近づいてきた。ここから北西に10kmほど。明るくなってから速く動いてるみたい」


 人間の姿ということなんだろうか?

 私達なら、夜間の移動もそれほど苦労はしないんだけどね。

 地図を調べて侵入者達の現在地を調べると、少しふもとに下りてきているようだ。疲労がたまったのか、それともこの世界で暴れようとしているのか……。


「昨日、破壊した森は、元に戻したみたいだよ。あのままかな? と思って確認したら、そう返事が返ってきたの」

「いつもの森に戻ったということなんだろうね」


 思わず2人で笑みを交わしてしまう。

 あのままだったら、プレイヤー達がどんな噂を流すか分かったもんじゃないし、その辺りは運営さんも考えているんだろう。


「他の王国ではまだまだ苦労してるみたい。被害の少なかった王国の安全地帯をプレイヤーに開放するみたいだよ」

「急に人が増えそうだね。そうなると早めに処理しないといけないんだろうけど……」


 朝食を食べて、動き始めるか!

 警邏さん達がバックアップしてくれるなら、森から東に移動した侵入者を発見するのはそれほど難しくはないだろう。


 焚き火の火を消して、北西方向に歩き始めた。

 互いの距離が10kmほどであるなら、2時間もせずに会合することになるのだが、向こうも慎重に進んでいるはずだから、互いにすれ違うこともあるかもしれない。

 互いの距離が1kmほどに近づいたところで、私達は林の木の陰に隠れて待つことにした。

 私の【探索】スキルなら見通しが悪くとも300mの範囲で状況を知ることができる。

 タマモちゃんも似た能力を持っているんだけど、オペラグラスで林の奥を眺めているんだよね。


「昨日と同じような姿なのかな?」

「キン肉モリモリの戦士だったよね。今度は違うんじゃないかな? どちらかというと、私達に似た姿だと思ってるんだけど……」


 急に何でそんなことを聞くんだろうと、タマモちゃんに顔を向けた時だ。

 タマモちゃんが、私の頭を押さえて一緒に木の下の繁みに身を隠す。


「たぶんあれだと思う。スケルトンとなんかウネウネした人間だよ」


 スケルトンならガイコツってことだよね。ウネウネした人間というのが理解できないから、そっと繁みの枝を押しやってタマモちゃんが見ていた方向に目を向けた。

 確かにスケルトンだ。腰にボロボロの革を纏って、丸い盾と片手剣を持っている。昨日の戦士と装備が似ているということは、魔族としてのスケルトンとも異なるに違いない。

 そして……。ウネウネ人間は? と見ると、ウネウネと動いているのは触手のようだ。触手が人型を保っているのだが、よく見ると頭に女性の顔が張り付いている。

 ひょっとして、竜の歯の戦士! そうなると、ウネウネの人間は樹木のニンフということになるのだろう。


「骨がスパルトイで、ウネウネがドリアードになるのかしら? タマモちゃん、昨夜の敵より強敵よ。上位職になった方が良いんだけど、タマモちゃんの場合は目立つかな?」

「修道士の服もあるから、それにする。真っ黒だから、赤よりは目立たないんじゃないかな?」


 黒も案外目立つんだよね。

 紺や、こげ茶が目立たないらしいんだけど、今度町の職人さんに迷彩柄の忍び装束を作って貰おうかしら。


 どうでも良いことを考えながら、とりあえず上位職に姿を変える。

 戦士と比べれば数段技量が高いはずだ。

 気配を押し殺して、彼等が近づくのを待つ。私達を通り過ぎたところを強襲すれば、少なくとも先手は取れるだろう。


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