053 2体目のしもべは怪獣だった
王都は厳戒態勢状態だから、門を開けるにも色々と手続きが面倒らしい。
レビットさんが警邏事務所のカノンさんと連絡を取り合って、どうにか私達が門を出ることを許可して貰ったようだ。
「自己責任ということだが、期待してるぞ!」
門番さんがそう言いながら門を開けてくれた。急いで門を通りぬけると、後ろで重々しく扉が閉じる音がする。
これで孤立無援ということになるんだろう。
「本当にあぶり出すんですか?」
「森の再生は何とでもなるでしょう? 今しなければならないのは、不法侵入者の始末よ!」
この世界を楽しむためにやって来るのなら、それなりのルールがあるはずだ。
アップデートの修正によって生じたファイヤーウオールのほころびを突いて来るような連中だからね。ろくでもない連中に決まってる。
「とりあえず、東に向うよ。歩くのは面倒だからGTOを出す!」
タマモちゃんは獣魔使いではなくなったけど、スキルとして【友情】を新たに得たようだ。GTOもそうだけど、他の3つのしもべもタマモちゃんにとっては友達ということなんだろう。
「おいで、GTO!」
召喚方法も違ってるね。タマモちゃんの前に金色の光が集まって、一瞬眩しく光ったと思ったら、GTOが現れ私達に顔を向けている。
「さあ、乗って!」
口をあんぐりと開けて驚いてるレビットさんを甲羅の上に押し上げて、私達も乗り込んだ。
直ぐにGTOが東に向って走り出す。
かなり速度を上げているけど夜間でも私達獣人族の多くは夜目が利くからね。色の区別はできないんだけど、モノトーンの世界でも私達は十分に活動できる。
「こんな乗り物は設定に無かったはずです!」
「いろいろとあるのよ。あまり詮索しないでください」
運営側のレビットさんとしては驚きと同時に不安もあるんだろうけど、GTOはタマモちゃんの能力の1つとして作られているのかもしれないな。
私がニンジャ姿なのも、コミックを読んで憧れていたことが起因してるのかもしれない。
「カノンさんは森を焼いてくれるのかな?」
「破壊してくれると助かるよね。ダメなら風向きを考えて【火炎弾】を放ってみようか?」
「どうしてもやるんですか?」
私達の話を聞いて、小さな声でレビットさんが聞いてきた。
ある意味、放火だからねぇ。リアル世界では重罪になる。その辺りをレビットさんは危惧してるのかもしれないな。
「たぶん調整してくれるはずですけど……」
レムリア世界はいろんな会社と政府機関の電脳が参加して作られている。レムリアの地形は国土地理院の担当らしい。作られた土地の植生は農林水産省と言うのも少しは理解できる。
となると、両省との調整ということになるんだろうけど、すぐに動かないのがお役人だとお父さんがボヤいてたからね。
合意に至るまで、どれだけ掛かるか分からないということになるんだろうな。
「タマモちゃん。間に合わないみたいよ。やはり風上からということになりそう」
「なら、しもべを呼ぶ。適当に森を攻撃したところで風上から火を点ければ良いよね」
とりあえず「うん」と返事をしたけど、私の後ろに乗っているレビットさんが不安そうな表情で体を伸ばして私に顔を寄せる。
「どういうことですか?」
「タマモちゃんの使役獣と思ってください。このGTOもそうですけど、これ以外に3体あるみたいなんです。1つは鋼鉄のゴーレムだったんですけど、残り2つは私にもわからないんです」
火を噴く龍なんじゃないかと思ってるんだけど、そんな存在をこの時点でレムリアに出すとなればゲームバランスがかなり崩れそうだ。
だけど、侵入者を許したのは運営の不手際なんだから、ゲームバランスの修正は運営に責任を持ってもらおう。
1時間ほどGTOを走らせると、左手に黒々とした森が見えるまでになって来た。
そろそろ下りて準備をした方が良さそうだ。
私と同じ思いなのか、GTOの速度が緩み、大きな岩が数個点在した場所で歩みを止めた。
「この辺りで待とうよ。岩の上なら遠くまで見えそうだし」
「そうね。直ぐには始まらないから焚き火を作ろうか。森から飛び出してきても、目印になるはずよ」
ここで野宿してると思わせれば良い。近くの灌木を切り取って焚き火を作り、枝を十字に結んで毛布を被せる。
これで野宿が演出できれば良いんだけど……。
「夜明けまで2時間もないよ。始めて良いよね?」
「お願い! でもしもべは直ぐに引き上げさせるんでしょう?」
「ロブネスはそうする。黒鉄はこの岩の間に隠しとく」
レビットさんがいるからね。拠点防衛に黒鉄は最適だ。
私の身長を越える高さの岩なんだけど、タマモちゃんはぴょんぴょんと身軽に飛び乗っている。ニンジャの私より身軽なのは問題じゃないのかな?
岩の上に仁王立ちになり、身長ほどの杖を掲げている。一球入魂が杖になったのかな? あれって野球のバットだったからね。神官服にはやはり似合わないということで武具の補正が掛かったに違いない。
「出でよ、ロブネス! 出でよ、黒鉄!」
杖をくるくると回して空に掲げて一言。続いて私の後ろに杖を向けて一言。
GTOの出現の時と同じように金色の光が集まり、弾けるように一瞬強い光が私達を包むと私の3倍ほどの身長がある鋼鉄のゴーレムが現れた。
「ゴーレムですよね? どこかで見た形なんですけど……」
「それは言わないで! 皆、そう思ってるんだから」
あらためて黒鉄を見ると、前回登場の時よりも、スマートになっている。
蛇腹で繋がった足や手に関節があるし、手も磁石のようなU字形ではなく、私達と同じように指が付いていた。
黒鉄も私達と一緒に、レベルが上がって外形が変わったに違いない。
「目からビーム、ロケットパンチができそうです!」
レビットさんが黒鉄の体をペタペタ触りながら呟いている。
それはできないんじゃないかな?
それよりも気になるのは上空の光だ。未だに光の粒を取り込んでいる。まだ夜だけど月明かりのように集まった光が周囲を照らし始めた。
かなり大きいということになるんだろうね。
私達が見上げていた光球がいきなりはじけると、金色の怪獣が姿を現した。
「キング〇ドラ!」
「ちょっと違うよ。それなら首が3つあるはずだもの」
体長は100mはあるんじゃないかな? とんでもない巨体だ。2つの龍の首を持つ胴体には腕の位置からコウモリのような羽を伸ばしているし、太い2本の足を持っている。長い尻尾が2本、それ自体が意思を持っているようにウネウネと動いている。
「これって、ゲームバランスを崩しませんか?」
「崩すでしょうね。でも多用しなければ良いんです。あれを使ってレイドボスを倒すようなことはしませんよ」
たぶんしないと信じたい。
キングギ〇ラのような怪獣がタマモちゃんに頭を向けて指示を待っているようだ。
思念で話をしているのかな? 時々龍の頭が頷いている。
「……という具合にするのよ。それじゃあ、攻撃開始!」
怪獣が大きく翼を広げると森に向かって飛んで行った。
後はなるようにしかならないよね。
タマモちゃんがぴょんと岩の上から飛び降りて、私達のところにやって来る。
「大きいね。あれがロブネスなの?」
「そうだよ。城落としにも使えるよ」
あまり使わせないようにしよう。運営さんからクレームが押し寄せてきそうだ。
「お姉ちゃんは岩の割れ目に隠れててね。黒鉄を傍に置いとくから」
「私だって戦えると思うんですけど……」
「迎撃は私達に任せてください。既にL20です」
レビットさんは警邏事務所との連絡要員に徹してもらおう。
となれば……。
「その後の情報はありませんか?」
「ちょっと待ってね。あれから時間が経ってるから少しは情報が入ってるかも!」
慌てて、腰のバッグから大きなタブレットを取り出した。仮想スクリーンじゃないんだ。別のシステムなのかな?
「侵入してきた世界を特定できたみたい。『アルカディア』、『バビロン』それに『アマゾン』の3つだね。『ミッドガル』と『メトロポリタン』が傍観しているらしいけど、侵入者を派遣させることまではしていないようね」
「次の機会を待ってるということでしょうね。となれば先の3つですけど、特徴は?」
電脳の性能差があるようだ。詳しく説明されても私達にはちんぷんかんぷんだけど、動作に遅れ時間があるらしい。
「レムリア世界はいくつもの電脳のネットワークで作られているの。さすがに侵入者個別のプログラムを送り込むことはできないのよ。ネットワークの網の目を上手くかいくぐって自らの世界とつながってるの。リアル世界ではそれの検証を行ってるはずよ。じっとしてるとあまり分からないけど、動いてくれたなら特定できるみたい」
それで、騎士団がうごいたんだ。
騎士団と派手にぶつかったなら、活性化したネットワークの通信部分を特定できるということだろう。
たとえ騎士団が敗走しても、勝者はこの世界から排除できるということになる。
「始めたよ。綺麗だねぇ」
タマモちゃんの言葉に、北に顔を向けると、森の奥が炎に包まれていた。既に周囲は明るくなってきたけど、炎が渦を作って森を焼いているのがはっきりと分かる。
「森は南だけを開けてるんだよね?」
「東西と北から焚きつけた。北東方向からの風だから、逃げるとすればこっちになるよ」
タマモちゃんの言葉に頷くと、バッグから弓を取り出す。
矢の数は少ないけれど、最初はこれで良いだろう。
既にロブネスは森の上から姿を消している。逃げ出してくる侵入者を倒すのは私達だけになりそうだ。