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048 小さな修正なんだけど


 翌日は、私達がお手伝いしてあげたパーティと一緒に、コンバスの南の荒れ地で狩りをする。

 荒れ地と言っても、あちこちにちょっとした繁みや灌木がある土地だ。

 野ウサギも多いけど、小さな群れを作った一角獣も多いように思える。


「スライム、野ウサギ、野犬やオオカミ。その次が一角獣になるんじゃないかと思います」

「ですね。やはり、少し背伸びをし過ぎたかもしません。先ずは、あの野犬を狙ってみます」


 トラペットの森で遭遇するイノシシが、この辺りの一角獣になるんだろうな。L5では少し手に余るだろう。

 彼らのパーティ名は『なんでも屋』というらしい。冒険者登録もしているけど、生産職のスキルを持っているらしいから、駆け出しのころは広場で薬草を作って販売していたそうだ。

 そういえば、私達も生産スキルを持っていたんだよね。薬草やポーションなら作れるんじゃないかな?


「トラペットに戻ったらやってみる? 花屋の食堂の周りには職人のお爺さん達がたくさんいるから教えて貰えるかもしれないよ」

「それなら、料理を作ってみたい!」


 家でやらせてもらえなかったのかな? 包丁も握ったことがないとか……。そう言えば、武器も刃物じゃないんだよねぇ。

 とりあえずは簡単なスープの作り方を教えてあげよう。メリダさん直伝なんだから、タマモちゃんにだってちゃんと教えてあげられるんじゃないかな?


「はぐれたのがいるよ。私が狩って来るね」


 タマモちゃんがそう言うと、一球入魂を肩に担いで一角獣に向かっていく。

 向こうもタマモちゃんに気が付いたみたいで、ジッと睨んでいるように見える。


「だいじょうぶなんですか? 俺達でさえ手こずった一角獣ですよ?」

「タマモちゃんのAGI(素早さ)は17よ。魔獣使いの中ではトップクラスじゃないかしら」


 AGIが17と聞いてリーダーの男性が驚いている。戦士でL5であれば7もしくは8程度でしょうからね。

 自分達の2倍以上のAGIを持つ少女の戦いを、細大漏らさず見逃さないように目を大きく見開いている。


 タマモちゃんの狩りは一瞬で終わってしまった。

 突進してきた一角獣を直前で横に身をかわして、一球入魂を頭に叩き込んで終了になる。

 5人があんぐりと口を開けているのも何となく頷けてしまう。レベル差は絶大な能力差でもあるのだ。


「棍棒で一撃?」

「ちょっと身をかわしただけよね?」

「ほとんど力を使ってないんじゃないか!」


 放心が解けた5人が口々に思いを声に出す。

 キョトンとした表情で、タマモちゃんが私達に近づいてきた。


「ご苦労様。これで、宿泊代が稼げたね」

「これぐらいなら簡単。ヤドカリの方が手強い!」


 そんなヤドカリだって散々狩ったからね。始まりの町の近くの狩りなら、今の私達には全ての狩りが容易なのかもしれない。


 なんでも屋のパーティは、小さな野犬の群れを狩ったり、薬草を摘んだりして少しずつ経験値を稼ぐつもりのようだ。

 宿に帰ってから、薬草を生産スキルでポーションにすると言っていた。ある程度数が溜まったところで広場で売りに出すとのことだ。


 昼食を一緒に取り、夕暮れが迫ったところで町に戻る。

 今のところ、狩場は平穏だね。

 狩る際に現れる攻撃範囲の表示がやはり邪魔に思える。

 狩場の遠くで、いくつか同じようなドーム状の表示を見ることができたから、荒れ地に広くプレイヤーが展開しているのかもしれないな。


「先ずは肉屋に向かいます。かなり野ウサギを狩れましたからね」


 嬉しそうに男性が話しかけてくれた。確か、レミッドと仲間から言われていたリーダーだ。


「私達も同行します。一角獣の肉と角が得られましたからね。これでしばらく宿に泊まれます」

「明日はどうするの?」

「私達と一緒とは、さすがに無理があるわね。あんな狩りができるとなれば、私達のお守りをお願いするようなものだし」


 タマモちゃんの言葉に、手を繋いでいたお姉さんがレミッドさんに問いかけている。


「そうだな。俺達だけが恩恵を得られるというのも問題だろう。レベルが上がれば、一角獣は簡単に狩れると分かっただけでも狩りに同行して貰った甲斐があるということだろう。モモさん、どうもありがとう」

「どういたしまして。でも、昨夜言った通りしばらくはこの町にいますから、何かあれば声を掛けてください」


 肉屋で獲物を売って宿で食事をしようとしたら、カウンターのおばさんが、カギと一緒に小さな紙片を渡してくれた。

 何だろう? なんでも屋の人達がテーブルに向かったところで、カウンターを背に紙片を見ると、『警邏事務所に向かえ』と書かれている。

 おばさんに顔を向けて小さく頷くと、カギをおばさんに戻し、タマモちゃんと通りに向かった。


「警邏事務所に来てくれってことなんだけど……」

「PK? でも、攻撃範囲が分かるから相手に逃げられちゃうよ?」


 襲うにしても襲われるにしても、表示が出るとなれば逃げだすことはできるだろうし、レベル差が無ければ返り討ちになりかねえない。

 ひょっとしてアップデートの修正が決まったのかな? 


 夕暮れ時だから、通りが一番賑わう時間帯だ。

 店を覗き込んで立ち止まるプレイヤー達にぶつからないように、警邏事務所を目差して歩く。


 警邏事務所へ出入りする冒険者って、私達以外にいるのだろうか?

 ふとそんなことを考えてしまったけど、扉を叩いて事務所に足を踏み込む。


「モモちゃん達ね。いらっしゃい、待ってたのよ」


 暖炉傍にテーブルを寄せ合って、10人程の警邏の人が座っていた。その中で立ち上がって私達に手を振っているのはユリコさんだ。

 その場で小さく頭を下げたところで、タマモちゃんとテーブルに向かう。

 タマモちゃんを自分の隣に座らせたユリコさんが嬉しそうな笑みを浮かべてタマモちゃんの頭を撫でている。

 

「何かあったんでしょうか?」

「あったんじゃなくて、これから起きるということだ。起きないかもしれんが……、アップデート前を考えるとなぁ」

「攻撃時の戦闘空間表示が消えるのよ。それでこの世界の住人の区別がそのままだとすれば、NPCもPKされかねないわ」


 話しかけて初めて分かるようになったからね。私達が狩りをしてても、プレイヤーとして見てくれるからありがたいところではあったんだけど、NPCのおばさんが町の外で薬草や畑の野菜を取りに出掛けてPKされたらたまらないよね。


「一応、交番との調整も終わっているようだ。修正は、リアル世界の3時ということだから、ゲーム世界に入り込んだプレイヤーが一番少ない時間を選んだに違いない。修正に要する時間は1秒にも満たないから、ゲーム世界に入り込んでいたとしてもほとんど気が付くことは無いだろう」

「プレイヤーへの周知は終了しているから、レムリア世界では明日の真夜中に実施される。それが各所に周知された時に、モモちゃんへの召喚指示が教団から来たんだよ」


 教団? 知り合いなんていないんだけど。


「明日の午前中に王都の神殿に行ってくれないか? 召喚者はレムゼ6世。4つの神殿を束ねるレムリア世界の宗教の頂点にいる御仁だ」

「NPCなんですか?」

「それが、お坊さんらしいの。宗派や名前は明かされていないんだけどね」


 宗派が分からないということは、キリスト教、仏教の区別も分からないってことなんだろうか?

 リアル世界で信者が少ないことを嘆いてレムリア世界で自分達の宗教を立ちあげたなんてことになってないよね。


「神殿のレムゼ6世を訪ねれば良いんですね。出掛けてみますが、いきなり入信しろなんて言われないですよね?」

「レムリア世界では宗教の自由が保障されているわ。小さな集団だけど王国公認以外の宗教もあるのよ。規制事項もあるんだけど、それを犯そうとすればレムリア世界に入れなくなるわ」


 生贄や悪魔崇拝なのかな? 案外、勧誘もその中にあったりしてね。

 私はあんまり興味が無いんだけど……。ん? 確かタマモちゃんの上位職は枢機卿だったはず。それが影響していることも考えられそうだ。


「大臣達や騎士団にも動きが出てきている。やはり大規模なPKが始まると考えてはいるようなんだが、PKで騎士団を動かしたら他国からの笑い者になりそうなんだよな」

「なりそうじゃなくて、笑い者よ。国際VRMMO機関の理事は明け渡すことになりそうね。政府が動くわけだよ」


 この場合の世界とはリアル世界ということになるんだろうな。

 でも、VRMMOで国際機関があるとは思わなかった。日本のIT技術もそれなりに高いということになるのだろう。


「俺としての心配は、あのアップデートの修正でこれほどリアル世界の上位機関が動き出したということだ。ひょっとして、俺達には明らかにされていない先例があるのではと俺は考えてるんだが……」

「ネットでは、そんな話が話題になったことも無いのよ。考えすぎじゃない?」

「規制という手段がある。特定の言葉を使った通信を全て削除できるんだぞ! 俺達の通信が少し遅れているのに気が付く奴はそれほどいないはずだ。1ミリ秒にも満たない時間だが、その間で規制システムが動いている」


 情報の遮断ということ? それはさすがに問題がありそうだ。

 でも、この場の話を聞く限りではリアル世界の上位機関では、その動きをある程度知ることができるということになるのだろう。

 宗教界もその中に入るんだろうか? だとしたら、レムゼ6世からの召喚は、私への何らかの警告になるのかもしれない。


「行ってみれば分かるんですよね。それなら出掛けてみます。場合によっては、コンバスに戻らないこともありますが」

「それは仕方のないことだ。でも、どこの町に行っても警邏事務所には顔を出してくれないかな。それでモモちゃん達の居場所を俺達は共有できるからね」


 小さく頷くことで答えておく。

 それぐらいなら問題ないし、お勧めの宿も紹介してもらえるんだからねぇ。


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