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047 不人気なアップデート


 暖炉傍のテーブルセットには椅子がテーブルにくっ付いたベンチがあった。公園なんかに良くあるタイプだけど、ホールが大きいから丁度良いのかもしれない。ホールには他に2つ同じようなテーブルセットが置かれている。


「私達に管理できないNPCがモモちゃん達だと聞いてるけど、ダン達は協力してもらえると助かると言ってたわ。現在のコンバスはプレイヤー達が競ってレベル上げをしてる状態と言えば良いかな? 大きな問題は無いんだけど……」


 お姉さんの名はユリコというらしい。バディを組んでいる男性はヒデキらしいんだけど、一連の名前を聞くと、とある特撮番組が脳裏に浮かんでくる。

 ひょっとしてブラス王国の警邏さん達のネームは、その特撮番組から拝借したんだろうか?

 幼稚園の頃に、お爺ちゃんが昔の番組を見せてくれたんだよね。夢中になって見ていたら、お爺ちゃんも隣で歓声を上げたのを今でも覚えている。


「大きなアップデートを終えたんだけど、あまり評判が良くないの。とりあえず、元に戻そうかと上の方は考えてるらしいわ」

「攻撃範囲の可視化ですね。私もちょっと問題に思えます。個人の持つスキルをゆがめてしまいそうです」


 うんうんとお姉さんが頷いている。そこに、トレイにカップを乗せてお兄さんがやって来た。

 ユリコさんの隣に座ったところを見ると、この人がヒデキさんなんだろう。


「ユリコもお茶ぐらい出したらどうだ? せっかく訪ねてきてくれたんだからね」

「ちょっと忘れただけよ。ヒデキが持って来てくれたんだから、それでいいでしょう?」


 お姉さんの方が立場が上なのかな? 

 職場の人間関係は難しいとお父さんも言ってたから、色々とあるのかもしれないな。


「この間のアップデートの弊害を話してたの。モモちゃんはスキルへの影響も指摘してくれたわ」

「【気配察知】や【探索】辺りは問題だろうな? 狩りに多用できるから所持しているプレイヤーも多いはずだ。やはり早急な対策は必要だろうね」


 2人でお茶を飲みながら話を始めた。

 私達はお邪魔みたいだね。引き上げようと腰を上げると、お姉さんに呼び止められてしまった。


「ちょっと待ってね。モモちゃん達は、あのアップデートからPKの話を聞いたことがある?」

「まったくと言ってありません。その前には活発だったようでハヤタさん達も未然に防ごうと頑張ってましたよ」


 弊害はあるけど、それなりの効果はあったということなんだろうか?

 となれば、早急に前に戻すことも問題がありそうだ。直ぐにPK犯が出て来るんじゃないかな。


「やはりね。となると、この町で様子を探ってくれるとありがたいんだけどなぁ」


 まさか近々に、あの攻撃範囲の表示を止めるということなんだろうか?

 先ほどまでの話しでは、しばらく掛かるんじゃないかと思ってたんだけど。


「ヤマトの管理部署に知り合いがいるの。そのの話では、近日中に変更されるらしいわ。こっちでは上からの連絡はまだだけどね」

「良いのか? あまり広げられるとお前の立場が問題になるぞ?」

「モモちゃんはプレイヤーじゃないでしょう? プレイヤーに知り合いはいるでしょうけど、連絡はメールだけだし、それは検閲できるのよ」


 運営上の問題があるとなれば、自動的に削除されるのかな?

 シグ達に知らせても、積極的に公開はしないと思うんだけどね。


「でも、かなりの決断ですよ?」


 私の言葉に、2人の顔をが私を向くと小さく頷いた。

 こっちは、タマモちゃんと顔を見合わせてしまう。本当に戻すつもりのようだ。

 そうなると、一斉にPKが始まるんじゃないかな?


「やってくれる?」

「発見したら、この指輪で良いんですよね?」


「町の中なら、すぐに向かえるわ。でも、フィールドだと……」

「L16のNPCに勝てるプレイヤーはいないんじゃないかな? どうにかL15が出てきたところだからね」


 レベル差はたった1つの違いだけど、その差は大きいに違いない。

 もっとも、多人数のPK犯となると具合が悪いけど、その時にはGTOで逃げれば済むことだ。


「数日を過ごせば良いですよね? 西にひたすら進んでみようと考えてたんです」

「十分よ。お礼は出発前で良いかしら。ちゃんと準備しとくからね」


 最後に泊まる宿を聞いてきたので、ギルドから北に3つ目と答えとく。

 頷いているところを見ると、知ってるということなのかな?


「あの宿は、M78という名前なのよ。警邏事務所で管理してるの。もっとも働いてるのはNPCの人達なんだけどね。酒場のマスターは運営の関係者よ」


 宿の名前が変だけど、ハヤタさん達の名前を思い浮かべると納得できる。でも、今ではかなりマイナーな特撮なんだよね。いったい誰の趣味なんだろう?


「情報取集ってことですか?」

「酒を飲めば酔えるというプログラミングは、誰が考えたか今では調べることもできないけどね。酔ったプレイヤー達の会話は運営上かなり重要な情報なのよ」


 自慢気に色々と話すんだろうな。シグ達にもあまりお酒を飲まないように連絡しておこう。


「ユリコからの紹介だと言えば、格安で泊まれるわよ。その代わり……」

「1週間ほどで良いですよね。まだまだ隣の王国には程遠いですし」

「それで十分。何かあれば連絡するね」


 とりあえず、宿の心配は無いってことのようだ。

 警邏事務所を後にして、近くの肉屋に途中で狩った野ウサギを売り払う。

 宿を通り過ぎてしまったから、引き返して改めて宿の看板を見ると、ベッドの絵柄の上にM78と書かれている。ベッドの絵が付いてるから宿屋なんだろうけど、お客が入るんだろうか?

 プレイヤーが大勢レムリア世界にやってきているから、宿は品薄感があるんだけどね。


 扉を開けて宿に入ると、広い食堂がそこにあった。左手にはカウンターテーブルがあって、奥で渋めのおじさんがお客さんの相手をしている。

 なるほどね。あそこなら町の噂を聞くには最高の場所だろう。

 

「お食事ですか? それともお泊り?」

「両方でお願いします。ユリコさんがここなら泊まれると教えてくれましたので」


 トレイを持ったお姉さんの問い掛けに私が答えると、すぐに右手の小さなカウンターに案内してくれた。

 宿と食堂の利用はここで行うらしく、お母さんよりも少し年上のおばさんがカウンターの向こうで私達に挨拶してくれた。


「ユリコの紹介じゃぁ、仕方がないねぇ。部屋は2階の奥になるよ。これがカギだよ」

「あのう……。料金は?」

「事務所に請求しとくから心配はないよ。それでどれぐらい滞在するんだね?」

「一応、7日ということでお願いします」


 うんうんと頷いているから、問題は無いようだ。

 食事はテーブルの上にカギを乗せておけばお姉さんが運んでくれるらしい。


「とりあえず食事ね。あそこのテーブルが空いてるわよ」


 お姉さんが伸ばした腕の先には、テーブルが1つ空いている。周囲は食事を楽しんでいる家族連れみたいだから、酔っ払いに絡まれることも無いだろう。


「あれですね。お腹がぺこぺこなんです」


 私の言葉にお姉さんとおばさんが笑みを浮かべている。子供はいつでもお腹を空かしてるぐらいに思ってるのかな?

 タマモちゃんの手を引いて、他の客の邪魔にならないようにテーブルまで歩いていくと、椅子に腰を下ろす。

 そうそう、カギはテーブルの上に出しとくんだよね。


「野ウサギのシチューかな?」

 タマモちゃんが待ちきれないように問いかけてきた。

「どうかな? 案外野菜たっぷりのスープかもしれないよ」


 花屋の宿屋ではスープにはあまりお肉が入らないんだよね。私が狩って来た肉が入るぐらいだから、今は野菜だけになってるのかもしれない。

 メリダさんのお店に、定期的に野ウサギを届けられるようプレイヤーに頼んでおけば良かったかな?


 やがてやって来た夕食は、小さなカップに入ったコーンスープとピザのように焼いた薄いパンだった。それに、タマモちゃんにはリンゴジュース、私にはワインが付く。

 ちょっと予想外だったな。ピザがあったとはねぇ。

 ひょっとしたら、ウドンとかカレーライスもあるんじゃないかな?

 ますます、この世界のあちこちを見て見たくなってきた。


「美味しいね。お母さんが病院に持って来てくれた時と同じ味なの」

「良かったね。私も意外だった。明日はギルドに行って到着報告をしとこうね。そしたら、いつでもピザが食べられるもの」


 【転移】を使えば、どこからでもこの町に来れる。

 海鮮料理ならトランバーに行けばいつでも食べられるからね。


「お食事は終わりましたか?」

 

 ワインを飲みだした私に声を掛けてきたのは、昼に出会ったパーティの男性と女性だった。2人ということは他のプレイヤーは部屋に引きあげたのかな?


「美味しく頂きましたよ」

「昼はだいぶお世話になってしまいました。食事を用意しようと思ってたんですが、中々来られないんで心配しましたよ」


 中々に礼儀正しいパーティのようだ。

 別にいらないんだけどね。でもそんな気配りをありがたく思う。


「困っているなら、当然のことです。他の人達が困っていたら助けてあげてくださいね」

「それじゃあ、対価にならない気もするけど……。でも、そうなれるように心がけましょう。ところで、明日は?」


「7日程滞在することにしました。皆さんの狩場を回ってみるつもりです」

「それなら、一緒に狩りをしませんか? 高レベルの冒険者の狩りを一度は見てみたいと思ってたんです」


 思わずタマモちゃんと顔を見合わせてしまった。

 私達も狩りはするけど、少し皆とは変わってるからねぇ。


「見るなら問題はないと思う……。でも、同じように狩りは出来ないよ」

「私達は獣人族ですから、人間よりも遥かに敏捷です。それを上手く使った狩りになるんです」

「是非ともお願いします。正直な話、職業を変えられるまでにレベルが上がった時には、種族を変えようかと相談していたんです。人間族は万能ではあるんですが、あまりにも平均的ですからねぇ」


 そういうことか。でもかなり後になるんじゃないかな。

 シグ達だって、L15になったばかりなんだから。


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