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046 一角獣を狩るパーティ


 チューバッハの西に生息しているという一角獣を実際に見たのは、昼を過ぎてからだった。

 あちこち探したんだけど、なかなか見つからないから野ウサギを数匹狩ってコンバスの町を目指している時に、タマモちゃんが私に振り返ると左腕を伸ばして狩りが行われていることを教えてくれた。

 GTOを止めてくれたので、小型双眼鏡で様子を見てみると写真と同じ姿をした獣がパーティに向かって突っ込んでいく。


「気が荒い獣だね。おとなしければ、ペットにしたいという人もいるんじゃないかな?」

「1人やられたみたい。とりあえず槍を受けたみたいだけど……、動きは変らないよ」


 レベル5では厳しいかもしれないな。あの突進を避けるだけのAGI(素早さ)が欲しいところだ。

 戦士には荷が重いかもしれない。あの50cmほどの鋭角な角なら、革鎧ぐらいは突き通しそうだ。


「うずくまっちゃったね。傷が深いのかしら?」

「手伝ってあげる? かなり攻撃的だよ」


 イノシシ並の突撃力ってことかな? あのままだと4人とも死に戻りになりそうだ。


「そうね。すれ違いざまに矢を放てば、少しは彼らに勝機が出て来るかも」


 急いで弓と矢筒を装備する。

 今回は狩りのお手伝いだから、タマモちゃんはGTOの手綱で我慢してもらおう。


 用意が出来たところで、タマモちゃんの肩を軽く叩く。

 途端に、GTOがダッシュした。

 数百mほど離れている狩りの現場に一直線で突っ込んでいく。このままで行くと右手に一角獣を見ることになりそうだ。

 弓を満月に引き絞り、すれ違いざまに矢を放った。

 そのまま狩場を離れると大きく右に旋回して再び一角獣に矢を放つ。

 

 2本の矢が深々と横腹に突き立ったところで、少し離れて様子を見ることにした。

 私達の乱入に驚いていたプレイヤー達だったけど、私達が離れて様子を見ているのを見て獲物の横取りではないと判断してくれたようだ。

 血を流して、弱り始めた一角獣を仲間と挟み込むようにして、最後は長剣を突き差して狩りを終えた。


 気になるのは、倒れ込んだ戦士だよね。

 やはりかなりの深手を受けたんだろう。女性が傍に座り込んで治療を始めたようだ。


「手招きしてるよ。行ってみる?」

「そうだね。ちょっとしたお手伝いのつもりでも、余計なお節介と思われてるかもしれないからね」


 GTOに乗ったままでゆっくりと5人のパーティに近づいて行った。

 亀に乗った冒険者なんて初めてみたに違いない。ちょっと目を見開いて私達を見ている。


「差し出がましい行為で申し訳ありません」

「いや、御助力感謝します。やはり飛び道具か槍が必要でした。1人深手を負いましたけど、今日の狩りはこれで終わりにしますから問題は無いでしょう」


 傷薬とポーションを持っているということなんだろう。

 傷薬で傷の治療は出来るけど、HPを回復するにはポーションが必要だ。


「どうです。お茶を飲んでいきませんか?」

「そうですね。頂きます。東からやってきたんでこの辺りは不慣れです。できれば状況を教えてください」


 傷を負った戦士は横になったままだ。自分で動けないようなら、GTOで町まで送ってあげよう。

 残ったパーティの4人と小さな焚き火を囲んで彼らの話を聞く。

 戦士3人に神官が2人なら、怪我をしても安心かもしれない。


「あの大きな亀には驚きました。その甲羅の上で矢を放てるんですから、レベルは俺達よりもかなり上なんでしょうね?」

「2人ともL16です。北の王国のイベントに参加したところで、今度は西に向かおうとしてるんです」


 L16と聞いて、ちょっと驚いたようだ。彼らの話では、どうにかL7になったところだったらしい。

 プレイヤーが遭遇して勝利した獣や魔物はデータベース化されてプレイヤー間で共有されると聞いてはいたんだけど、それによれば一角獣の狩りはL6でも可能ということなんだけどねぇ。

 やはり、相性にもよるのかなぁ。弓や魔法を使えばもう少しマシな狩りができたのかもしれない。

 

「やはり、弓を用意すべきだよ。モモさんでしたっけ? 弓はレンジャーでなくても使えるんでしょう?」

「弓のレベルもあるんですよ。でも、近距離ならレベルは問題ないと思います」


「なら、グレミンが弓だな。俺は槍を持つよ。短槍なら投げても使えそうだ」

「私達は、攻撃魔法を覚えようかな? 神官だけど一応火属性魔法のスキルを取ってあるのよ。メイは水属性だけど、氷の矢を放てるのよねぇ」


 最初の狩りから比べれば、獣の強さが変わってきている。狩りをするときは、獲物だと思っていた獣に狩られることもあることを知ったに違いない。


「ところで、リアルでもその姿なの? 小さい子も多いと聞いてたけど……」

「リアル? 私達はこの世界の住人だよ」


 メイさんがタマモちゃんに問いかけたんだけど、その答えに驚いている。

 どういうこと? とメイさんの顔が私に向いた。


「NPCと説明した方が理解しやすいと思います。私達はこの世界の住人で、異人さん達のお手伝いをしてるんですよ」

「待ってくれ! それなら設定された町に住むことになるんじゃないのか? 自由に移動できるNPCなんて聞いたことも無いぞ」


 確かにそうだよね。私だって、そう思うもの。

 その原因と考えられるのは、私とタマモちゃんが運営さんに作られたNPCではないということなんだろう。病室で息を引き取る間際に、イザナギさんが電脳世界に私の意識を転移させてくれた。事故を起こす前よりも敏捷に体を動かせるんだから、イザナギ様様なんだけどね。


「その辺りは、私達には理解できません。この世界を気の向くままに旅をすることになるんじゃないかと思ってます」

「きっとモモちゃん達以外にも似た存在があるんじゃないかな? 従来のVRMMOとの違いを生みたかったのかもしれない。だけど、俺達と同じように自意識や想いを持たせられるんだから、日本の科学技術も捨てたもんじゃないね」


 男性がもう1人の男性に話しかけている。

 IT産業に関係しているのかな? 話しかけられた方の男性は首を傾げながら考え込んでいるようだ。


 そろそろ日が傾いてきた。

 怪我人をGTOに乗せて、一緒にコンバスの町に向かって歩き出す。

 タマモちゃんはお姉さん達とおしゃべりに興じているし、私は男性2人と狩りの話で盛り上がる。

 トランバーの浜でのヤドガニ狩りや、大型昆虫との戦闘の話は、男性達の興味が深々とこちらに伝わってくる。


「方向を間違えたかなぁ。やはり、お前の言う通りに東が良かったかもしれない」

「ここまで来たんだ。少なくとも隣国の国境までは見ておこうよ。トラペットまでならいつでも【転移】が使えるんだからね」


 レベルを上げながら行けるところまで行くということなんだろうか?

 ちょっと無謀にも思えるけど、ゲームの世界なんだからいろいろと冒険してみるのもおもしろいんだろうな。


 コンバスの南の門が見えてきたところで、怪我人をGTOから下ろし、男性が肩を貸して歩き出した。


「ここまで乗せてくれただけでもありがたいよ。ところでどこに泊まるんだい?」

「まだ決めてないんです。警邏さん達とは仲が良いですから、事務所に行って紹介してもらおうかと……」


「なら、ギルドから北に3軒目の宿がお勧めだ。1泊食事込みで25デジットだからね」

「ありがとうございます。事務所に寄ってから行ってみます」


 獲物は途中の肉屋で買って貰おう。30デジット近くになるんじゃないかな?

 北の村のイベント報酬で頂いた500デジットは手つかずだから、心配そうに私を見ているタマモちゃんに笑みを向けて安心させてあげた。


 門を過ぎたところで、5人組のパーティと別れて通りを北に向かって歩いていく。

 途中の小さな十字路を無視して、今歩いている通りよりも大きな通りと交差する十字路が警邏事務所やギルドの目印になるらしい。


 夕暮れ時だから通りには人が溢れている。

 家族連れは、どこかの食堂に向かうのかな? 小さな男の子がお母さんの手を引いて急ごうとしてるのが微笑ましく思える。


「あれが事務所だよね?」


大きな十字路の手前に、石造りの建物がある。隣の看板は交番のマークだから、同じ建物を間仕切りして使ってるんだろうか?


「警邏事務所と書いてあるね。入ってみようか?」

 

 初めての町だからね。どんな警邏の人がいるんだろう? ダンさんのような気さくな人なら良いんだけど。


「こんばんわ!」

 

 扉を開いて、タマモちゃんと一緒に頭を下げながら挨拶をする。


「あら? 初めて見る顔ね。どんな御用かしら?」

「え~と、トラペットのダンさんが、初めて訪れる町に着いたら警邏事務所に挨拶に行って欲しいと言われたので……」


 私の話を首を傾げて聞いていたお姉さんだったけど、突然手を叩いて私達の手を握った。


「モモちゃんにタマモちゃんね? 話には聞いてたけど、本当に来てくれたんだ! こっちに来てほしいな。皆にも紹介しとかないとね」


 タマモちゃんの手を引いて事務所のホールの奥に向かう。

 ちょっと大きなテーブルセットが暖炉近くにあるから、そこで色々と教えてくれるのかな?

 というより、ダンさんはどんな連絡をしたんだろう? そっちも気になってきた。


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