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045 覚えていてくれたんだ


 トラペットからチューバッハまでの距離は徒歩で3日、乗合馬車なら1日半になる。

 GTOなら1日で行くことができるが、無理はせずにのんびり行こう。先が長いからね。途中で狩りをして宿泊代を稼ごうとしている。


 GTOを下りて休憩所に向かうと、先客が20人近く休んでいる。

 同じ冒険者だから軽く手を上げて挨拶すると、パーティの1つが私達を手招きしている。

 焚き火を使わせてくれるのかな?

 タマモちゃんと顔を見合わせて頷いたところで、私達を招いてくれたパーティに近づいた。


「確か歓迎の広場で俺達にこの世界を教えてくれた人ですよね? おかげでレベルを5まで上げることができました。東はプレイヤーが大勢いると聞いたんで王都に向かおうとしてるんです」

「大勢の面倒を見てたんで、生憎と覚えてないんです。申し訳ありません」

「覚えられるとは思ってませんよ。あれだけの人ですからね。でも、俺は覚えてましたよ」


 ちょっとしたアドバイスをしたんだろう。それをちゃんと覚えてくれてたとはねぇ。こっちが恐縮してしまう。

 見たところ、私よりもすこし年上の男女4人のパーティだ。男性と女性同士が席を近づけているから、付き合ってる2人2組ということになるんだろう。

 カップを出すように優しそうな女性が私達に声を掛けてくれた。取り出したカップにお茶を注いでくれたから、改めてお茶を作る手間が省けたのが少し嬉しくなる。


「それで、やはり王都ですか?」

「いえ。ちょっとした好奇心で、赤い街道の西の端を見たいと出掛けてきたんです!」


「それもおもしろそうだな? 俺達は王都見物だけど、その後はどうする?」

「やはりレベルを上げないと。イベントの噂もあるでしょう? 参加したいよ」


 活動範囲を広げるために王都に向かうということなのかな?

 王都にはいろんな施設があるし、私達も1日では全て見ることができなかったんだよね。長期滞在して、王都の周辺の町や村を巡るのも良いかもしれない。


「ところで、眠っていた町や村が動き出したと聞いたんですが?」

「ああ、そのことね。試験運用から比べればトラペットの町の大きさが4倍になってるし、周辺の村も姿を現してるよ。現在ではこの世界に500万人を超えるプレイヤーが活動してるし、それと同規模でNPCも生活してるという感じかしら」


「それにしても、交番のNPCが十手を持ってるのには驚いたな!」

「警邏の人だって、レベルはかなり上よ。広場でケンカを始めた連中が簡単に連れていかれてしまったでしょう?」


「交番のお巡りさんは本職ですよ。あまり広範囲に動きませんけどね。お世話になるようなら、リアル世界でも問題になりかねません。警邏の人達は運営の自警団というところでしょうね。なるべく交番のお世話にならないように活動してるんです」


「「本職なのか!」」

「道理で、道を聞いても親切に教えてくれるわけよね。あれって、警察官の新人研修を兼ねてるのかしら?」


 案外それが本当のことかもしれない。

 となると、騎士団を作っている自衛隊の人達も新人研修なのかな?

 イベント開催時に、他の区域に魔獣が向かわないようにしていたらしいけど。


「改めてお聞きしたいんですけど、2人はどんな職業なんですか?」


 風下に男性が移動して、パイプに火を点ける。

 彼女と離れてしまったけど、もう一人の男性もパイプを取り出したから、いつもこんな感じなのかな?


「私達ですか? 私はレンジャーですし、隣のタマモちゃんは魔獣使いです。とはいえ、一応魔法も使えますが、多用することはできませんね」

「それで短剣ということか! 2人が戦士並みの武器を揃えてないんで不思議に思ってたんだ」

「獣人族なら、AGI(素早さ)は俺達以上だろう。短剣でも十分なんだと思うよ」


「狩りには、弓を使うんです。タマモちゃんの使役獣もいろいろと役立ちますから」


 うんうんと4人が頷いている。

 戦士2人に魔法使いと神官の組み合わせはオーソドックスだけど獣相手には十分すぎる。戦士2人のうちどちらかが【探索】スキルを持っているなら、PKをある程度は防げるんじゃないかな?


「さて、そろそろお暇します。お茶をご馳走様でした。なるべく日中に森を越えた方が良いですよ」

「そうですね。元よりそのつもりです」


 休憩所を後にして、森を貫く赤い街道をタマモちゃんと歩き出した。

 あの4人組もそろそろ腰を上げるんじゃないかな? 数時間も歩けば森を抜けられるから、次の休憩所で野宿することになるはずだ。


「後ろが来ないよ?」

「なら、GTOで行こうか!」


 タマモちゃんは歩くのに疲れたのかな? 嬉しそうにGTOを呼び出した。

 森の中だから、街道を外れるとGTO本来の速度を出せないんだけどね。それでも、平地を走るような速さでGTOはひたすら西を目指して進んでいく。


 森を抜けたところで昼食を取り、今度は街道の南側を進むことにした。

 荒れ地ではあるけど、南の方が起伏が少ないようだ。

 夕暮れの中に、チューバッハの街並みが黒く浮かんできたのが見えたところで、さらに南に移動する。

 町から数kmも離れれば、この時間には冒険者達は町へと帰るはずだ。


「今夜は野宿なんだよね?」

「そうよ。あまりしたことが無いけど、この夕焼けなら雨は降らないと思うな」


 適当な繁みを見付けて、焚き火を作る。

 たった2人での野宿だけど、繁みの反対側にGTOを休ませているから獣も来ないんじゃないかな?

 大きな亀さんだけど、それなりの威圧感があるからね。


 焚き火でお茶を作り、メリダさんが作ってくれたお弁当を頂く。野菜たっぷりのハムサンドは私の大好物だ。


「次の町は遠いの?」

「ん? ちょっと待ってね。確か地図があったんだよね」


 仮想スクリーンを開いて、地図を呼び出す。

 地図と言っても、絵地図のようなもので方向は何とかだけど、距離はかなりいい加減だ。歩いて何日ということしかわからない。

 とはいえ、街道を外れなければこれで十分なのかもしれないけどね。


「次の町は……、コンバスという町になるみたい。チューバッハから、歩いて3日だからGTOなら1日になるのかな?」

「途中で狩りをしようよ。そしたら宿に泊まれるでしょう?」


 別にお金が無いわけじゃないんだけどね。タマモちゃんの心配そうな表情に笑みを浮かべて頷いた。

 たぶん、狩りの獲物が少し異なるかもしれない。

 少なくとも、チューバッハに来る冒険者達はL5前後になるからね。トランバーの町の周辺の狩りと同じような設定がなされているに違いない。


 夜は早めに休むことにした。タマモちゃんと一緒に毛布にくるまって短剣を胸に抱く。

 虫の声が煩いぐらいだけど、直ぐにタマモちゃんの寝息が聞こえてくる。

 2人とも寝入るのは物騒なんだけど、【探索】のスキルが上がっているから、危険が迫れば目が覚めるに違いない。


 私の眠りは浅いようだ。夜中に何度も目が覚める。

 そのたびに周囲を確認するんだけど、夜行性の獣が盛んに動き回っているようだ。

 とはいえ、GTOのおかげなんだろう。私達の周囲50mの範囲には近寄ろうともしない。

 そんな小動物の動きは、肉食の獣の動きにも反映されるのだろう。危険という感覚がまるで出てこない。


「お姉ちゃん。朝だよ! お姉ちゃん!」


 いつも通りに、タマモちゃんに起こされた。

 私の眠りは朝方に深くなるということなんだろう。それに比べてタマモちゃんは朝方には眠りが浅くなるということなんだろう。これなら、不意を突かれることも無いはずだ。こんな仕様にしてくれたイザナギさんに感謝しなければね。


「今日は、少し南に下がって、狩りをしながら進もうか! 何が狩れるか分からないけどね」

「チューバッハの近くだと、一角獣が狙い目らしいよ。こんな姿なんだけど……」


 携帯食料の朝食を終えてお茶を飲んでいると、タマモちゃんが仮想スクリーンを開いて調べていたらしい。

 主要な町周辺に出現する狩りの獲物や、注意すべき魔獣が一覧表になっているらしい。選択すると、写真付きで解説が現れるらしい。腰を上げてタマモちゃんの背中から仮想スクリーンを覗いてみると、子ヤギの頭に前方に飛び出した角が生えている。

 小さいけれど、危険性はイノシシ並にありそうだ。


「矢で倒せるかなぁ?」

「動きが鈍れば、一球入魂で一撃する!」


 倒すと、肉のブロックが2つと角が手に入るらしい。1頭倒せば100デジット近くは稼げそうだ。


「後は、オオカミと野ウサギらしい。スライムはいないみたい」

「魔物がいないってことだよね。でも、獣が多いと農家の人達が困りそう」


 お茶を飲み終えると、焚き火の始末をして矢筒と弓をバッグから取り出す。

 かなり大きなものだけど、収納ができるのが不思議だ。

 矢は10本以上入ってるから、GTOの上で流鏑馬ができそうだ。


「行こう、お姉ちゃん!」

「さて、ちゃんと狩れるかな?」

「だいじょうぶだよ。でもあまり狩らないようにしないとね」


 生態系が乱れるなんて思ってるのかな?

 それとも、他のプレイヤーに獲物を残すことを考えてるのか……。



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