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041 まだまだ不都合はあるようだ


 大きなアップグレードがあってから数日が過ぎた。

 とはいえ、NPCである私達の生活が大きく変わることはない。

 歓迎の広場の片隅にあるベンチから眺める風景も変わりはないんだけど、頭の上の名前がなくなったから、プレイヤーとNPCの区別がつきづらくなったことは確かだ。

 それに、狩りに行くと半透明のドームができたので最初は驚いたけど、獣や魔獣達に察知されることはないらしい。


「少なくとも、アップグレードの後にはPKが発生していない。運営としては嬉しい話なんだけど、あまり評判が良くないんだよね」


 ダンさんは見回りをサボって、私達とベンチに腰を下ろして広場をぼんやりと眺めている。

 アンヌさんはタマモちゃんと世間話をしているようだけど、年代差があっても話が合うのだろうか?


「確かに違和感がありすぎますね。獣や魔物には都合が良さそうですけど、盗賊なんかには有効なんですか?」

「それもある。それに運営側の問題としてはレムリア世界から去るプレイヤーが無視できないとこまで来ているらしい。新たな仕組みを検討しているらしいけど、上手く行かない時には前に戻すんじゃないかな?」


 レムリアの人気が低迷したら本末転倒ということなんだろうけどね。

 私達だって、この世界からプレイヤーが消えたりしたら存在が危ぶまれるんじゃないかな? 


「その他には無いんでしょう?」

「そうだねぇ……。人物の頭上に名前がなくなって困ったこともあるみたいだ。この広場にだって大勢のプレイヤーがいるだろう? あの中で自分達の仲間を見つけるのに時間が掛かると苦情が来てるぐらいかな」


 大きな問題に思えてくるけど、運営側は案外簡単に考えているみたいだ。

 混雑するときには千人を超えるプレイヤーがこの広場に集まってくる。リアル世界からの転移先がこの広場なんだから、同じ位置に2人が立てないこともあって、パーティのメンバーが広場のあちこちに現れることになる。

 頭の上の名前を頼りに探してたんだろうけど、その名前がなくなってしまったから広場のあちこちでパーティメンバーの名前を呼んでいるんだよね。


「それも早いところ考えないとレムリアから離れるプレイヤーが出てきますよ」

「そうだな……。上申しとくよ」


 ダンさんも、広場のあちこちから聞こえる声を問題視はしていたようだ。


「モモちゃんはしばらくこの町にいるのかな」

「この世界に来て戸惑っているプレイヤーのアドバイザーではいたいんですが、運営さんの方でも動きがあるんでしょう?」


 私の問いに、「実は……」と話をしてくれたのが、夏休み特集という企画らしい。

 サブクエストのてんこ盛りに、レムリア世界での実力一番を決める大会ということなんだけど、NPCの参加は認めないとのことだ。


「俺としては認めても良いと思ってるんだけどね。上が問題視しているみたいだな」

「案外見てる方がおもしろいかもしれませんよ。ちょっとレベルが上がりすぎてますから、そんな大会があっても出場はしませんけどね」


 この世界で暮らしているから、学校生活とはおさらばしたことになっているんだけど、シグ達やケーナ達はちゃんと勉強もしてるんだろうか?

 成績が下がったりしたら、お母さん達がこのゲーム許してくれないんじゃないかな?


「実力勝負の大会には参加できないけど、サブクエストには参加ができるみたい。でも個人参加ではなくてパーティ参加だから、プレイヤーのお手伝いになるのかな。それならタマモちゃんも参加できるよ」


 アンヌさんの話しにタマモちゃんが目を輝かせている。

 シグ達のパーティに参加するのもいいけれど、初心者達と一緒のパーティでもおもしろそうだ。


「ん! この広場で騒ぎを起こすのか。まったく困った連中だ。アンヌ、行くぞ!」


 ダンさんの言葉に、溜息を吐きながらアンヌさんがベンチから腰を上げる。振り返ってタマモちゃんと手を振り合っているから、傍目で見ると歳の離れた姉妹に見える。

 でもタマモちゃんは私の妹分なんだからね。


 ダンさん達は言い争いを始めた数人の男の子達の中に入って行った。

 ちょっとおどおどした2人の女の子にアンヌさんが何やら話をしているんだけど、たまに私達に顔を向けるのが気になるんだよね。

 アンヌさんが私達に腕を向けると、女の子達が私達を見て頷いている。直ぐに私達に向かって歩いてくるから、この世界での暮らしを教えてあげることになるのかな?


「あのう……、モモさんですよね?」

「はい。どうやら他のパーティに誘われたみたいですね」

「そうなんです。しつこく誘われたんですけど、あの方達が間に入ってくれて、お姉さんにモモさんに相談するように勧められたんです」


 となると、この世界の暮らし方になるのかな?

 立ち話もなんだから、木陰のテーブルセットに2人を案内することにした。

 テーブルを挟んで2つのベンチがある。

 片方に私とタマモちゃんが座り、反対側に2人の女の子が座った。

 年齢は私より少し上に思えるんだけど、先ずはこのレムリアで何がしたいかだよね。


「花を作りたいんです!」

「冒険者ギルドに行ってみたんですけど、良く分からないと言われまして、この広場に戻ってきたところであの子達に……」


 途方にくれた女性なら、パーティに誘うのも楽だと思ったのかな?

 初心者装備は戦士風だからねぇ。勘違いされても仕方がないところだ。


「お姉ちゃん。トラペットに花屋ってあるのかな? いつもの通りには無かったけど」

「だよねぇ。バラや鉢植えはあるみたいなんだけど、あれって住人の人がそだててるのかな?」


 トラペットで花は見たことがある。他の町でもあったよね。でも花屋そのものは見たことが無い。

 ん? ちょっと待って。私達がお世話になってる食堂の名前は、花屋の食堂だ。かつては花屋を営んでいたことになる。

 花屋を止めたのはダンナさんが無くなってからだと聞いたけど、今でも花屋の看板は残ってるんだよね。その花はどこで手に入れたんだろう?


「トラペットの町は回ってみました?」

「一通り見てきたつもりです。花を飾った家を訪問して、その花をどこで手に入れたかも聞いてみたんですが……」

「裏庭で育てたと話してくれたんです」


 種はあるということかな? でも潜在的なニーズがあるんだろうか?


「ひょっとしたらという話ではあるんですけど、かつて花屋を営んでいるお店があるんです。今は食堂なんですけど、知り合いのお店ですから話を聞いてみませんか?」

「あったんですか! それは是非ともお願いします」


 そんなことで、私達は広場を後に花屋の食堂に戻ることになった。

 花屋の食堂に戻ったところで、メルダさんに訳を話したら意外な話をしてくれた。


「花屋は花を売ることなんだけど、花は自分で作ることになるんだよ。旦那が花作りが得意でねぇ。少し東の空き地を借り受けて花を育ててたんだよ」

「この町に花屋が無いのは?」


「皆、家で育ててるからだろうねぇ。それに、花作りを専門にする人達がいなくなってしまったからねぇ。今でも、花屋を再開しないのかい? と訪ねてくる昔の客もいるんだけどねぇ」


 家で育てるだけなら、難しい花は出来ないだろうし、単調になってしまいそうだ。でも潜在的なニーズは高いということになるんだろうな。


「もし、あんた達が花を育てたいという熱意があるなら、空き地の持ち主に交渉してあげようかね?」

「良いんですか! でも、あまり持ち合わせが無いんですけど……」


 メルダさんの提案に椅子から立ち上がった2人だけど、直ぐにしょんぼりした表情で席に着いた。

 新人だからねぇ。それほどの軍資金は無いはずだ。


「その辺りは余り心配しないで良いはずだよ。亡くなった旦那の姉さんの家だ。子供が3人いたんだけど王都に行ってしまったからねぇ。話相手になってくれるなら住み込みで花を作らせてくれるはずだよ。種は……、昔使った物を分けてあげる」


 メリダさんの話を聞いて2人の目が輝いている。

 これも生産職の1つになるんだろうね。たくさん咲いたら、広場の屋台で売れるんじゃないかな。

 

「でも、そのおばさんは何の仕事をしてるんですか?」

「薬草作りだよ。もっとも、薬草を冒険者ギルドで仕入れているから、あまり儲けは無いんだろうけどねぇ」


 薬草なら、2人で採りに出掛けても良いんじゃないかな?

 戦士風の装備だからスライムぐらいは倒せるだろうし、傷薬となる薬草は町からそれほど離れることなく採取できるはずだ。


「薬草なら採取を私達で教えてあげられるかな? 住み込みの条件として薬草採取を入れるなら喜ばれると思うんだけど?」

「それもありそうだねぇ。どれ、行ってみるかい?」


 2人の女性を連れて、メルダさんが店を出て行った。

「私も!」と言って、タマモちゃんがメルダさんの手を握ると、嬉しそうな表情でメルダさんがタマモちゃんの頭を撫でている。

 ライムちゃんだっているんだから、あまり可愛がるとやきもちを焼くんじゃないかな?

 というよりも……。


「タマモちゃん。広場にいるからね!」

 

 慌てて外に出て、4人の背中に向けて大声を上げる。

 タマモちゃんが片手を上げてバイバイしてるから、ちゃんと聞こえたんだろう。

 このまま店でお留守番をしているよりも、広場の方が面白いに決まってる。

 店の扉は夜だけしか閉めないみたいだから、このまま広場に向かって歩くことにした。


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