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036 トラペットに戻ろう!


 シグ達は、このままベジート王国の王都に向かうらしい。

 L13ではあるのだが、王都周辺でさらに経験値を高めて、プレイヤーの中での高位置を確保したいと話してくれた。

 俗にいう、攻略チームを目指すのかもしれない。

 それもゲームを楽しむ方法の1つではある。いったいいくつのパーティが攻略チームの中のトップを目指そうとしているのだろう? かつての私もその中の1人だけど、今では妹のケーナがシグ達のパーティに所属しているからね。

 私の出来なかったことを目指して貰おうと思う。


「早めに、上級職に就いておきたいんだ。PKの話が掲示板にも上がっているからねぇ。かなりあくどい事をしているようだぞ」

「上級者なら、少しは相手も考えてくれると?」


「少なくとも、高いレベルで集団行動している分には狙われないと思うの。どちらかというとモモ達の方が心配よ」


 レミの言葉にシグ達も頷いている。ケーナが心配そうに私を見ているけど、それほど心配することは無いと思うよ。何といっても、【索敵】のスキルは強力だからね。


「そういうことなら、余計に初心者が心配になるよ。せっかく楽しもうとしても、序盤で邪魔されたらかわいそうだし……」

「本来なら、私達プレイヤーのモラルでもあるんだけどね。レベル5以下のPKを禁止すれば良いと思うんだけど」


 リーゼの言葉に小さく頷いた。

 弱い者いじめはPKではないんだけど、始めて訪れた世界に戸惑っている初心者に無理強いしている連中も多いらしい。

 何度かそんな光景を見ていられなくて、私が介入してしまったこともあるぐらいだ。


 やはり、NPCとしての私達はプレイヤーが楽しくこの世界を楽しむことができるように努力しなければならいんじゃないかな。

 それにしても、大幅なアップデートと言うのも気になる話なんだよね。

 レベル上げに苦労しているのは分かるけど、あまり簡単に上がるようでも困るだろう。それなりの経験は、戦闘だけではないはずだ。

 生産職になった人達はどんな暮らしをしてるんだろう?

 NPCの職人さん達よりも、腕を上げることはできたのかな。


「来てくれ! 勝利を祝おうじゃないか!!」


 私達を見て、若い戦士が腕を振って誘ってくれる。

 笑みを浮かべているのは、『S』 クラスでのイベントクリアが嬉しいに違いない。


「さて、早めに出掛けよう! 飲んで食べて直ぐに寝ようぜ!!」

「そうよね。たぶん今夜眠ったら、起きるのは明日の昼だと思うわ」

「早く、食べて寝ようよ!」


 そんな話をしながら、東の門の前に広がる広場を目指す。

 近づくにつれ、大声で談笑する声が聞こえてきた。思わず私達は笑みを浮かべる。たっぷりと食料を持ち込んできたからね。

 きっと中には、ワインも入っていたに違いない。

 だんだんと足を速めて、私達は宴会の会場に飛び込むことになった。

                 ・

                 ・

                 ・

 ゆさゆさと体を揺するのは、タマモちゃんに違いない。

 薄目を開けると、困った顔をしたタマモちゃんの姿が見えた。


「おはよう……、早いのね?」

「もう直ぐ、お昼だよ。今日はこの村を離れるんでしょう?」


 そうだった。トラペットに行こうとしてたんだっけ。

 ベッドから飛び起きて、急いで衣服を整える。呆れた表情でタマモちゃんが見ているけど、私を反面教師にしないでほしいな。


 下に下りたところで、裏の井戸に向かう。冷たい水で顔を洗えば、まだ眠い目が少しはシャキっとする。

 あくびを噛みしめながら、食堂に入るとシグがテーブルで私を手招きしていた。


「相変わらずだね」

「私に恥をかかせないでよ」


 ケーナ達の言葉が耳に痛い。

 俯いて待っていると、食事が運ばれてきた。さっぱりとしたスープは昼時のものなのかな?


「これでしばらくはお別れだ」

「ケーナをお願いね」

「だいじょうぶよ。私達の大事な前衛なんだからね?」


 レミの言葉にケーナが嬉しそうに頷いている。重装備のシグに素早く動ける軽装備のケーナは、確かに昔の私のポジションだ。

 当時のパーティの動きがケーナを加えることで上手く機能しているのだろう。


「私の方も心配ないからね。タマモちゃんがいるし、タマモちゃんのしもべはちょっと変わってるけど強力だし……」

「ところで、タマモちゃんは魔法使いで従魔使いなの?」


 リーザが興味深そうな表情で、お茶を飲んでいるタマモちゃんに問いかけた。


「神官職で、従魔使いになるのかな? 一応全種の魔法を使えるけど」

「それって、全職業適性ってこと!」


 ケーナが驚いてるけど、私だって最初の頃は驚いてたんだよね。

 変わったスキルを持っているようにも思えるのはそのせいなんだろうか? でも、あまり使いたがらないから、他の人が見たら従魔使いだと思うのかもしれない。

 一球入魂のバットをメイン武器にしてるのは、神官職のためなんだろう。神官が持てる武器は限られてるからね。


「剣は使えないし、薬草やポーションは作れない」

「武具も無理ということなんだろうな。かなり変わった存在だけど、NPCの職種については私達も良く分かっていないんだ」


 ある程度の固定職はあるんだろうけど、兼業の種類も多いみたいだ。何といってもこの世界の社会組織を維持しているのは私達NPCなんだからね。

 プレイヤーの10倍規模のNPCがいるんだから、その職業全てについては運営さんでも管理しきれないんじゃないかな?

 社会の営みに必要な職種を次々と生み出しているに違いない

 案外、専業のチームがいたりしてるんじゃないかな?


「通信はフレンドメールだけになるが、ちゃんと送ってくれよ」

「少なくとも、移動するたびに送るよ。とりあえずはトラペットで暮らすつもりだけどね」

「他の王国の始まりの町にはいかないのか?」


 私が初心者指導をするのであれば、他の始まりの町をどうするのかと考えたんだろう。

 でも、私は最初の町がトラペットだった。となれば、他の王国にも私と似た存在がいるんじゃないかと思っている。


「向こうにも頼りになる存在がいると思うんだ。私達だけで、この世界で全てのプレイヤーのお手伝いをできるとも思えないしね。NPCだけど私達だってこの世界を楽しむつもり」

「そうだな。それがいい。だけど困った時には頼りにさせてもらうぞ。もっとも、その時には私達の方がレベルが上がってるはずだ」


 シグ達なら私達のレベルを直ぐに追い込しそうだ。

 でも、その時には私達は次のレベル、上位職に変わってるんじゃないかな? 案外、私達のレベル変化はシグ達のレベルを参考にしているようなところもあるからね。


 食事が終わったところで、シグ達に別れを告げる。

 ケーナよろしくと、再度シグ達に頭を下げていると、問題のケーナはタマモちゃんと握手をしている。

 向こうは向こうで、私のことをタマモちゃんにお願いしてるんだけど、それほど心配なのかなぁ? 至って健全なお姉さんなんだけどねぇ。


 シグ達が見送ろうと腰を上げるのを片手で制して、タマモちゃんと宿を出る。

 そういえば、この村で宿に泊まったのは昨夜だけだった。

 荷馬車での宿泊は、背中が痛かったんだよね。


 転移の魔方陣に巻き込まれる人は余りいないと聞いたけど、直径3mほどの魔方陣内に誰が入るとも限らないし、ネコや犬がたまたま巻き込まれたりしたら大変だ。

 村から街道に出たところで、周囲を見渡した。


「この辺で良いかな? タマモちゃんも準備良い?」

「トラペットだよね。野ウサギ狩りをしないと宿代が大変だよ」


 タマモちゃんの現実的な話に頷いたところで、【転移】の魔法を発動させる。

 私達を中心に魔方陣が回りだし光に包まれた。

 光が消えた時、私達は静かな庭園の片隅に立っていた。

 

「着いたみたい。先ずは、花屋の食堂ね。部屋が空いているかどうか分からないけど、空いて無い時には、おばさんが紹介してくれると思うんだ」

「運営さんはシブチンだったね」


 イベントに参加したプレイヤー達には大盤振る舞いだったけど、NPCには一律500デジットだけだったのには、思わず呆れかえてしまった。

 切れ味の落ちた短剣とシグに貰った大ぶりのナイフを研ぎ直すだけで100デジット近く掛かりそうなのを考えると、ちょっと気落ちしてしまう。

 とはいっても、かなりの業物らしいから上級職になるまでは使い続けられるだろう。

 一応、上級職用の装備は武具の装備品リストに入ってるんだけど、レベルが合わないから現段階で使うことができないんだよね。


 通りを歩いて大通りに出る。東に歩いて直ぐに小さな通りに入った。まだ夕暮れには程遠いから、人通りが少ないのが職人街の特徴だ。

 花屋の食堂前に立つと、息を整える。

 この町を出てからそれほど月日が経ってないように思えるんだよね。ちょっと帰って来るのが早かったかな?

 隣のタマモちゃんが心配そうな表情で私を見上げているのに気が付いて、微笑みを返しておく。そのうえで、扉を開き食堂に足を踏み入れた。


「ただいまです!」


 私の大声に、大鍋をかき混ぜていたおばさんがこちらに顔を向けて、びっくりしている。直ぐに食堂から私達のところに駆けてきた。


「モモにタマモじゃないか! 良く帰ってくれたね。部屋はそのままだからゆっくりしていくが良いよ」

「しばらくはこの町で暮らしたいです。北の王国まで足を延ばしたんですが、やはりこっちの町の方が良いですね」


 笑みを浮かべながら、私達をテーブルに着かせると食堂の奥に向かった。料理の途中だったのかな? 手伝ってあげた方が良いのかもしれないけど、それならおばさんは遠慮せずに私に指示するはずだ。


「夕食にでも、土産話をしておくれ。近所の年寄り達には何よりの御馳走だからね」

「そうします。それより、ライムちゃんは?」


「買い物に出掛けたよ。モモにも明日はお肉を獲ってきてもらおうかねぇ」

「野ウサギで良いですよね?」


 3人に笑みが浮かぶ。

 これで、以前のままになるのかな?

 歓迎の広場で、初心者プレイヤーのお手伝いをして昼から荒れ地で狩りをすればいい。

 そうだ! 警邏のダンさんとも情報交換をしておきたいな。


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