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033 単身突入


 空にそびえるような姿ではなく、私の身長の3倍に少し足りないほどの大きさだ。

 ずんぐりした姿はタルに手足を付けてバケツを上に乗せたような形をしている。

 手足に関節が無くて、蛇腹のような手足の先には丸いボウルのようなものが付いている。あれが足先で手なんだろうけどね。

 物は掴めそうもないけど、球体だから相手を殴るぐらいの事は出来るのだろう。

 

「黒鉄! 門を守るんだよ」


 タマモちゃんが声を掛けると、黒鉄のバケツに組み込まれたライトがピカリと輝いた。

 目なのかな? どう見ても車のヘッドライトにしか見えないんだけど……。


 ぐるりと黒鉄がその場で向きを変えて東門に移動していく。ズシンズシンと地ひびきを立てているから黒鉄の重量は相当重いんだろう。

 門の見張り台の上で、シグ達が目を見開いて黒鉄を見ている。

 形は余り良くないけど、性能でカバーしてくれるのだろう。動きが鈍くとも、黒鉄が門の前にいる限り門を破ることは難しいことに違いない。


「私達は?」

「……そうね。街道沿いに500mほど移動しましょうか。上手く行けばポテラに向かう群れも少しは牽制できるんじゃないかな?」


 タマモちゃんの声に我に返る。

 まったくとんでもないしもべなんだよね。残り2体もあんな感じなんだろうか? かなり気になってしまう。


 ゆっくりとGTOが街道を東に進むと、遠くに村が見える場所で向きを北に変えた。

 GTOの甲羅の上でタマモちゃんがオペラグラスを使って北を見ている。

 まだ、やっては来ないんだろうけどね。

 私も小型双眼鏡で周囲を観察する。

 村では、シグ達が北に顔を向けているようだ。時刻はすでに9時を回っている。

 イベント開始まで残り1時間を切っている。


 突然、北の上空にカウントダウンの数字が表れた。


『プレイヤーの皆さん! まもなく広域イベント開始です!』


 空から降って来るような運営さんのお知らせが告げられる。

 プレイヤーを対象としたイベントなんだけど、その影響はNPCにも及ぶらしい。プレイヤーなら死に戻りができるけど、NPCはそうもいかない。ある程度の時間を経た後に、他の町や村へNPCとして参加することになるのだ。

 死んだ場所に戻ることは無い。

 貴重なNPCデーターを作り直すよりは再利用するということになるのだろうけど、家族関係や職業は新たに作られることになる。

 そういう意味で、NPCの村人が死んだら生き返ることにはならないのだ。


 私達はどうなるんだろう?

 タマモちゃんとの関係も清算されてしまうのだろうか……。


「お姉ちゃん、始まるよ! たぶんあれがそうみたい」


 いつの間にか空のカウントダウン数字が終わって、新たな数字が表れた。

 どうやらイベント終了時刻までのカウントダウンに切り替わったらしい。

 タマモちゃんが腕を伸ばして教えてくれた北の一角に、土煙が上がっている。だんだんと大きくなっているのは、かなりの速度で村に近づいているということに違いない。


「準備をしとこうか? 先ずはど真ん中を強行突破するよ!」

「私の準備は終わってるよ。お姉ちゃんがしてないだけ!」


 ヒョイっとタマモちゃんが一球入魂を片手で振りあげた。

 それを見て、矢筒を腰に下げ弓を取り出しておく。短剣は腰の後ろ左右に2本差している。

 矢が無くなれば後は接近戦だ。


「準備OK。もうちょっと様子を見てから行くよ!」

「あの感じだと東から村を襲うのかな? 村の北に森があるからそっちには向かわないみたい」

「最初はね。でも直ぐに村が取り囲まれる。先行してるのは動きが速そうだから、タマモちゃんも注意してね」


 タマモちゃんが私に顔を向けて大きく頷いてくれた。ニコリと笑う私を見て緊張した表情に笑みが浮かぶ。

 頭をガシガシと撫でるとイヤイヤをしているから緊張はだいぶ解れたに違いない。

 北を見ると土煙の中から抜きん出た灰色オオカミとその背中に乗ったゴブリンの姿が見えるまでになってきた。


「始めるよ。中央突破。群れから出たら右に抜ける!」

「了解。GTO発進!」


 一気にGTOが魔獣の群れに向かって速度を上げて走り出した。

 距離は1kmほどだ。両者の速度が高いからたちまち私達は群れに近づいた。

 向こうも私達に気が付いたのだろう。数百体が私達に向かってくる。

 矢を取り出し、弓を引き絞りその時を待つ。


 軽い衝撃は、GTOがゴブリンの乗った灰色オオカミを跳ね飛ばしたのだろう。左右に跳ね飛ばされた魔獣が仲間を巻き込んで倒れていく。

 私が少し離れたゴブリンに矢を浴びせると、タマモちゃんは棍棒を振るって近づいてくるゴブリンを灰色オオカミ共々粉砕していった。

 たちまち矢が尽きてしまった。

 ゴブリンが突き出してきた槍を奪って、今度は槍を使って近づく魔獣を倒していく。


「今度はホブゴブリンみたい。魔法使いがいるから面倒だよね」

「まっすぐに突っ込んでいいよ。魔法使いは狩れるだけ私が狩るわ」


 奪った槍を突進してきたホブゴブリンに投げつけると、収納していた矢を取り出す。

 一度に取り出せるのが矢筒の定数ということは問題だよね。

 大きく弓を引き絞り、矢を放つ。

 魔法使いを狙うということで、タマモちゃんがGTOをジグザグに進め始めた。

 矢の射程は100mも無いから、ありがたい話ではあるんだけど、急に向きを変えると狙いづらくなるんだよね。


 ホブゴブリンの群れから出ると、その後ろにはオークとオーガの姿が見えた。

 矢が尽きてたから、【火炎弾】をぶつけることで痛手を与えたけど、倒すまでには至っていない。

 タマモちゃんが一球入魂を振るっても、GTOに近づくことを阻止できるぐらいだからね。

 オーク達の群れを抜けると、そこには荒れ果てた大地が広がっていた。

 どうやら魔獣の群れの中央突破ができたらしい。GTOは向きを東に変えて村から離れていく。


「村も今頃は始まってるよね。向こうはシグ達に任せて予定通りに行くよ!」

「私は端から潰していくけど、お姉ちゃんはだいじょうぶなの?」


 心配そうに私を見たタマモちゃんの頭をポンと叩いた。


「こう見えても強いのよ。だいじょうぶだって! 予定通りに、東の端から潰して頂戴。その後ろからなら、それほど魔獣もいないはずだしね」

「なら、これ!」


 ポイ! と投げてくれたのは、MP回復薬? 紫色だから飲むのは考えてしまうけど、万が一には役立つかもしれない。


「ありがとう。でも、タマモちゃんが困るんじゃなくて?」

「2つ残ってるし、GTOで戦うから魔法は使わないで済む」


 そういうことなら頂いておこう。

【火炎弾】はそれなりに使えるみたいだからね。

 GTOは東から南へと進路を変えていた。もう直ぐ村を通り過ぎるだろう。再び北に進路を変える時が個別の戦いの始まりになる。


「村は持っているようね」

「煙も出てないから、まだ柵は破られていない。ケーナお姉ちゃんも頑張ってるんだから私も頑張らないと!」


 そうかな? ケーナはあんまり積極的じゃないんだよね。

 自分からは余り攻撃に出ないけど、襲ってくるなら迎え撃つという感じかな? だからサムライを目指してるんだろう。

 勇者ではないけど、虐げる者に対しては牙をむく。

 まだ良い刀は出来ていないだろうから、予備を何本か持っているに違いない。

 シグ達が先を目指しているのは、良い装備を探すためでもあるのだろう。


 GTOがゆっくりと進行方向を変える。村を左手に見て北上を開始した。

 村の柵の周りが魔獣の群れで黒々と見える。


「この辺りで下りるよ! 後はよろしくね。でも危ないことは止めてね」

「だいじょうぶ。外側から削るだけにする!」


 GTOの甲羅から飛び降りると荒れ地に転がって衝撃を回避する。

 数回は転がったんじゃないかな。体中砂まみれになってしまった。

 体をポンポンと叩きながら周囲を見渡す。

 魔獣の群れは村に視線を向けているから、私に気が付いたものは誰もいないようだ。

 さて、始めますか……。


 村に向かって軽く駆けだした。

 魔獣の群れで村が見えないけど、黒々と蠢く魔獣の向こう側に村があるに違いない。

 レンジャーだから、あまり魔法は使えない。すでに中央突破で、【火炎弾】を何回か使ってるから残りは3発ぐらいかな?

 そんなことを考えながら、【火炎弾】を魔獣の群れの後ろに放った。


 ドン! と魔獣の背中で【火炎弾】が爆ぜると、数体の魔獣が振り返る。

 にやりと笑みを浮かべて舌なめずり。

 両手で腰の後ろから短剣を抜き、中腰に構える。

 さて、どれぐらい体力が続くかな?


 私に向かって武器を振り上げるゴブリンの群れに飛び込んでいく。

 左右の短剣を使って舞うようにやって来る連中を倒すんだけど、元々やって来るのが10体ほどだから直ぐに終わってしまう。

 ゴブリン達のレベルは10ぐらいなのかもしれないな。私のレベルが16だから、何となく弱い者イジメに見えなくもない。

 でも、私の守備力は革の鎧を少し強化したぐらいだから、攻撃を続けて受けるととんでもないことになりそうだ。

 幸いにも素早さでは遥かに勝っている。取り囲まれないように注意しながら短剣を振るい続けて北上していく。


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