031 村の防衛配置
少し遅めの昼食を終えた私達は、村の中と丸太杭で作られた村の外壁を見て回る。
村の通りと壁沿いに歩いて、最後に外を一周したところで広場に戻ってきた。まだシグ達は戻ってこないところを見ると、何か問題でも見付けたのかもしれないな。
私的には、どう考えても村人を全員守るのは無理に思えるんだけどねぇ。
「GTOが体当たりしたら外壁に穴が開きそうだよ」
「見張り台も、小さいんだよね。あれじゃあ、弓を使える人を有効に使えないんじゃないかしら」
一緒に回ったケーナも村の防衛が難しいと理解したみたいだ。
今から補強するにしてもたかが知れている。ある程度の魔獣が村に入って来るのはどうしようもなさそうだ。
「そうなると、私達は魔獣の後方から狩った方が良いかもね」
「相手を分散させるの?」
「分散してくれると助かるけど、どちらかというと機動防衛ということになるのかな?」
ケーナの質問に答えたけど、何も拠点に籠るのが防衛とは限らないはずだ。
拠点に攻勢をかけるなら、背後はガラ空きに違いない。できるだけ翻弄することで、村への攻勢圧力を弱めることに徹すればシグ達も助かるに違いない。
広場に戻ってお茶を飲んでいると、シグ達も見回りを終えたらしくがっかりした表情で私達のところにやって来た。
ケーナとタマモちゃんがお茶のカップを渡してあげると、一口飲んだところで感想を話してくれた。
「まったく出来てないな。とりあえず、村の周囲に落とし穴を掘るように伝えておいた」
「埋め戻すのが面倒でも、結構役に立つはずよ。攻城兵器など持ち出されると厄介だからね」
この場合の攻城兵器は『可動櫓』と『破砕槌』辺りだろう。バリスタまではいくらなんでもねぇ。
ハシゴは防ぐ手立てもないけど、丸太の柵を越える時には無防備になるから、そこを弓で狙えば良いんじゃないかな? 槍という手もありそうだ。
「辺境の開拓村だからでしょうね。あまり防衛力は高くはないけど、柵を乗り越える魔獣も出てくると思う」
「村の有志が屋根から弓を使うそうだ。青年団の連中も手伝ってくれるということだから、今夜はその配置でもめそうだな」
「私は、南で待機してる。始まったら後方を攻撃するよ」
私の話を聞いて、シグが私に顔を向けた。
行動は理解できるけど、無謀だと思ったんだろうか?
「レベル的には可能なんだろうけど、2人でだいじょうぶなの?」
「別に、魔獣のリーダーを狩ろうなんて考えてないよ。それはプレイヤーに任せられるでしょう? NPCの勤めはそれができるような状況を作ることだと思ってるんだけど」
シグが深いため息を吐く。
リーゼ達がうんうんと頷いてるし、ケーナは困ったような表情で私を見ていた。
「なら、東門を中心にお願いする。他のリーダーには話しておくよ」
「明日にでも落とし穴の位置を確認しとく。私達がはまったりしたら大変だからね」
はまった段階で死に戻り確定なんだろうけど、私達NPCも死に戻りは出来るんだろうか?
『イザナギ』さんもその辺りの説明を詳しくしてくれなかったから、そんな事態が生じないように心がけるしかなさそうなんだよね。
夕暮れが近づくころになって、冒険者達が村に集まって来た。私達のいる南の広場にもパーティごとに冒険者がやって来る。
そんな冒険者のリーダーに、使うテントの采配をしているのはシグだ。
慣れた感じでテキパキと指示している。指示された方のリーダーもおとなしく従っているけど、攻略組としての『銀の斧』はプレイヤーの中では有名なんだろうな。
テントに装備を置いて身軽になった冒険者達が、広場に3つほど作った焚き火の周りに集まってくる。
女性達は2つの焚き火に集まって夕食の準備だ。男性だけのパーティだっているから、イベント中は共同で食事を作ることになってるんだけど……。
「何で、私とシグはここにいるの?」
「レナとリーゼが私達で十分だと言ってくれた。ケーナもモモの分は頑張ると力説してたぞ」
少し大きな焚き火の周りは、私達数人の女性以外は全て男性なんだよね。
シグの料理下手は私も分かってるけど、私までケーナに料理が下手だと思われたのは心外だった。
タマモちゃんも、バイバイと手を振っていたのは、料理のお手伝いがしたかったのかな?
「それで、やはり守りに難があるということなんだな?」
「相手は3千だ。3mにも満たない丸太の柵を越えるのにあまり苦労は無いだろう。一応、落とし穴を明日も作る予定だが、柵はいまさらだ」
戦士風の男性が、シグの言葉を聞いて溜息を吐く。
もう少しマシな村だと思っていたようだ。
「防衛を2段にすることになりそうだな?」
「村人も手伝ってくれるそうよ。とはいっても、弓が主体でしょうねぇ」
「それでも、いないよりはマシになる。村に雪崩れ込む魔獣の対策も必要だろうな」
夕食後のリーダー会議で、どんな話が行われるのか分からないけど、この場での話もその会議での確認事項にはなるんだろう。
私よりも年下の男の子も、自分の意見をしっかりと話している。
ゲームは余り役に立たないと大多数の大人達が言っているけど、見ず知らずの連中に対して自分の意見をしっかりと伝えるということは、リアル世界で役立つスキルになるんじゃないかな?
「「できたよ!!」」
食事作りが終わったらしい。
「この話は食事の後だ!」
年かさの男性の言葉に、私達は焚き火の傍から腰を上げて、それぞれのテントに向かって足を運ぶ。
夕食は乾燥野菜と干し肉のスープに、平たいパンだった。ピザみたいな感じだが、具は上に乗ってないんだよね。
「あまり酒は飲まないでくれよ。明日はいろいろとやることがありそうだからね」
「イベントが早まることは無いんでしょう?」
「それはない。個人ファイルで運営からの知らせが見えるだろう? そこにカウントダウンの時計が表示されてるはずだ。逆算すれば、明後日の9時ちょうどになる」
9時に私達の前に姿を現すんだろうか? それともその前に姿を現して9時に襲撃が始まるんだろうか?
どちらにしても、朝早くに起きなければいけないだろう。
シグが出掛けた後は、5人でトランプを楽しみながら時間を潰す。荷台の上は結構広いし、周囲を天幕で囲ってあるからそれなりに温かいんだよね。
リーザが作った【光球】のランプで中は十分に明るい。
「それで、リーザ達はこれからどこに向かうの?」
「ベジート王国を西に回りながら帝国に向かうつもりよ。この大陸を一周しておけば【転移】でいろんなイベントが楽しめそうだもの」
あちこち見て回ってレベルを上げながら、突発的に発生するイベントに参加するということなんだろう。
イベントには、今回のように世界的に同時に発生するものや、国単位や特定の何かによって発生するものもある。
そんなイベントをこなして名声を上げるのも、レムリア世界の楽しみということなんだろう。
「今のところ、この大陸だけのようだけど、他にも大陸があるみたいなの。まだ解放されていないけどね」
「プレイヤー参加人員によって、ということ?」
「それなら、この大陸だけでも十分に思えるけどね。やはり、高レベル対策ということなんじゃないかな?」
レベルは経験値によって上がるのだが、この世界で魔獣を狩り続けるだけでは、レベルが頭打ちになってしまうだろう。
それを見込んで他の大陸を作っているんだろう。さらに狩りの難易度が高い高経験値を持つ魔獣が其処にはいるはずだ。
「お姉ちゃん達は?」
「ん? そうねぇ、攻略組を見守っていこうかな? でも、始まりの町も大事なのよ。初心者と経験者が混じってるでしょう? 警邏さん達だけでは色々と難しそうなんだよね」
イジメは良くないよね。それに迷っているなら教えてあげないと。
「それで、あちこち巡ってるのね。【転移】なら、どこにも行けそうだし」
「【転移】の唯一の課題だよね。【転移】を利用するなら、その町や村のギルドに到着報告をしないといけないんだから」
「私達、まだしてないよ!」
トランプを握ったタマモちゃんが不安そうな表情で私に教えてくれた。
「明日にでもギルドに行きましょう。……はい。一番乗り!」
最後に残った1枚が引いたトランプの数字と会った。ババ抜きは昔から得意だからね。
何度もババ抜きを繰り返していると、シグが戻ってきた。
直ぐにトランプを投げ出したのは、なぜかこのゲームに弱いケーナだった。
「トランプをしてたのか? 明日は私も入りたいな。ところで、リーダー達の打ち合わせだが……」
カップにワインを入れて美味そうに飲んでる。まだ27歳の筈なんだけどねぇ。
私も飲む時があるから、口には出していないけど、リアル世界のワインってレムリア世界のワインのように美味しいんだろうか?
「私達は東門だ。北を【極光】が担当して、西が【バルキリー】、南が【サザンクロス】になる。全てレベル13だ。それに4つのパーティが加わることになる。村の青年団は、20人ずつ5つのグループに分けて、そのうち4つが四方の壁の防衛だ。残り1つのグループと村の有志達が屋根の上で柵を乗り越えた魔獣を迎撃する」
村人は屋根の上なんだろうけど、そうなると配属された青年団の連中をどうやって守るかが問題になりそうだ。血気盛んな連中だと、飛び出しかねない。
「門の守りもあるからな。青年団の連中をあまり倒されると評価も下がってしまう。面倒な話だ」
「明日1日は、準備が出来るのよね。先ずは門を破られても雪崩れ込まれないようにしないと」
「広場を囲ってしまうか……。荷馬車はかなり数がありそうだ。バリケードを築けば、屋根の上から矢で射止められるかもしれん」
そうなると矢の数が問題になりそうだ。
少なくとも、矢筒3個分は持たせたいところなんだけど、どれぐらい分配できるんだろう?