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030 ブロッコ村に到着


 朝食を食堂で頂くころになったら、昨夜あれほどいた冒険者達の姿が見えない。

 すでに、イベントに備えて行動に移ったのかな? だとしたら私達はのんびりしてることになるんだけど。


「私達は西門に向かうんだ。町役人が荷馬車を用意してくれているはずだから、『極光』の連中と合流してブロッコ村に向かう。昼過ぎには着けるんじゃないかな」

「他のパーティは徒歩だから夕暮れになるでしょうね。それまでにテントぐらいは作ってあげないとね」


 シグとレナの話を聞きながら朝食を終えたところで、お弁当の包を宿からケーナが受け取った。


「お姉ちゃん達の分も一緒だからね」


 ケーナが笑みを浮かべて私に言ったのは、私が心配そうな顔をしていたのだろうか?

 シグ達が笑いをこらえているんだよね。


「さて、出掛けるか。 あまり待たせると、『極光』の連中に文句を言われそうだ」


 口の悪いパーティなんだろうか?

 席を立ちながらそんなことを考えていると、ちょっと心配そうな表情でタマモちゃんが私を見上げている。とりあえず、ニコリと笑みを浮かべて頭を撫でてあげた。

 

「一緒に行こう、タマモちゃん!」


 ケーナが声を掛けながらタマモちゃんに手を握ると、私を置いて宿から先に出て行った。

「同じ妹同士ということか? モモが亡くなって沈んでいたんだが、今では前と変わらないとモモの母さんが言ってたよ」

「今でも会ってるの?」

「親友の母さんじゃないか! 私の母さんだって付き合いは続いてるぐらいだからな。だけど、モモのことは誰も話していない。それで、ケーナが元気になったのを気にしていたんだが、このゲーム世界の影響だろうと話をしといたよ」


「ありがとう。これからもお願いね。そうなると……」

「タマモのことだろう。タマモの母さんもモモの母さんと友達らしいぞ。たまに遊びに行くと2人でお茶を飲んでるからな。最初に私達がレムリアを訪れた時、ケーナが写真を撮ってたろう? その写真に写っていたタマモちゃんを見たらしいんだ」


 たまたま見たんだろうな。自分の娘に瓜二つなら気になるだろうし、ケーナから様子を聞くぐらいはするかもしれない。


「でも、そうなると私のこともお母さんは知ってるということになるんじゃない?」

「猫耳と尻尾付きだからなぁ。似てるのはモモの昔の姿をゲーム会社が使っていると思っているみたいだな。それでもゲームの世界ではケーナが姉に似た存在に会えるなら問題ないと思っているんじゃないか?」


 あまりゲームに興味がない両親だからだろう。でもそれで良いのかもしれない。

 リアル世界での私はいなくなっているんだから、いつまでもこだわっているわけにはいかないはずだ。


 大通りを西に歩いていくと、大きな門の前にある小さな広場に荷馬車が停まっていた。

 荷物が満載だけど、数人なら乗れるのかな?

 荷馬車の傍にいる数人の男女が、『極光』パーティの人達なんだろう。


「悪い悪い、待たせちまったな!」

「ようやく来たな。まぁ、それほど待ったわけではないが、こっちの荷馬車を頼めるか?」


 急に言われてもねぇ。シグがちょっと引いている感じだ。


「荷馬車を動かすのは初めてだが、何とかなるものなのか?」

「荷台の前のベンチで手綱を握れば、それなりに動かせるぞ。曲がりたい方向の手綱を引けば良いし、動かすときは両方の手綱を1度強く引けばいい。停まる時は2度引けば良いんだ」


 ゲーム世界だからねぇ。それほど難しくはないらしい。

 GTOを意のままに操るタマモちゃんは、手綱を使ってるわけじゃないんだけど、従魔使いは別の方法ということになるんだろうな。


「モモお姉ちゃんは、荷馬車だよ。ケーナお姉ちゃんが私と一緒なの!」

「ええっ! ケーナだいじょうぶなの?」

「タマモちゃんがGTOに乗せてくれるの。獣魔は初めてだから、ちょっと楽しみ!」


 唖然としている私の肩をポンポンとシグが叩いて私を御者台に乗せてくれた。レナ達は私達の直ぐ後ろの荷台にちょこんと腰を下ろして、足を荷台の外に出してブラブラさせている。落っこちないかな? ちょっと心配になって来た。


「先に出発するぞ! 後に続いてくれ」

「了解だ。あんまり速度を速めないでくれよ!」


 シグの大声に、先導する荷馬車から手が振られていた。

 シグがまじめな表情で手綱を握り、ピシ! と小さな音を立てて手綱を強く引くと、2頭の馬が荷馬車を門に向かって曳き始めた。

 御者台から身を乗り出してタマモちゃん達に「ゆっくり来るのよ!」と大声を上げる。

 そんな私をシグ達がおもしろがってるんだけど、GTOの速度ははんぱじゃないからね。

 

「亀なんだろう? 荷馬車に付いてこられるのか?」

「亀という枠ではくくれないよ。そのうち分かると思うけど……」


 西門の門番さんに手を振って門を出ると、荷馬車が街道から外れて北に向きを変えた。

 ブロッコ村はポテラの北西らしいから、このまま荒れ地を進むんだろうか?


「もう直ぐ、北門からブロッコに出る道に出る。それまでは揺れるから積み荷を見といてくれよ」

「積み荷より私達が落ちそうよ。あまり急がないでね」

 

 シグの注意に、リーゼが文句を言っている。レナはしっかりと御者台の柱を握って、声を上げない。かなり緊張してるってことなんだろうな。


「ところで、ケーナ達は?」

「後ろをあっちこっち動いてるのがそうみたいね。私達の左右を行ったり来たりしてる」


「亀だろう。のんびりトコトコじゃないのか?」

「バギーカーみたいな感じね。砂埃を上げて走ってるよ」


 シグの問いに答えたリーザは、呆れた声で答えてる。あのスピードで疾走するからねぇ。たぶん2人で今夜の食料でも探してるのかもしれない。


「見えてきたぞ。だいぶ冒険者が歩いているな。少し先に行ってから道に入るみたいだな」

「100人近い冒険者でしょう? 大イノシシの時よりも多いよね」

「ホルンの北を攻略した時は300人程いたんだ。今回はそれより少ないんだが、イベントなんだよな」


 広域イベントと言うのは余り聞いたことがない。

 同時多発的に魔獣の襲来が行われるようだが、冒険者のレベルに応じて行われるのだろう。

 となると、トラペットの町でも行われるのだろうか?

 レベルの低い冒険者達にとっては大変なイベントになりそうだ。


 20分ほど荒れ地を進んで、ブロッコ村に続く道に入った。

 揺れがだいぶ治まったから、リーゼ達はかなり安心しているようだ。周囲の景色を眺めるだけの余裕もあるみたい。


「ケーナ達が近づいてくるね。ちょっと姿が見えなかったけど、どこに行ってたのかな?」


 さらにタマモちゃん達が近づいて、私達の荷馬車と並行してGTOを進めている。

 ケーナが甲羅の上に立って、私達に見せてくれたのは大きな野ウサギだった。


「8匹狩ったから、今夜は野ウサギの丸焼きだよ!」

「その亀で狩ったのか?」

「近づいたところで刀を一閃したの。タマモちゃんの場合はバットの一撃だけどね」


 狩りがおもしろかったのか、上機嫌でシグに狩りの報告をしている。

 この場合、少しは食料の足しになったことを喜ぶべきなのかな?


「もう直ぐイベントだからな。あまり遠くには行くんじゃないぞ」

「だいじょうぶ。荷馬車が見える範囲で狩りをしてるんだから」


 ケーナの自由奔放さはシグも苦労してるんじゃないかな?

 リアル世界でも、私に変わって姉の役割を担ってくれてるに違いない。親友はありがたいものだ。


 道を進むこと1時間。北に向かって作られていた道がだんだんと西に寄っていく。

 さらに進んでいくと、遠くに丸太で囲まれた村が見えてきた。

 どうにか、イベント会場に到着ってことかな? 


「あれがブロッコ村だ。何度か様子を見に来たんだが、3千人程が住む田舎の村だな。宿は2つで部屋数も少ないから、私達もテント暮らしになるぞ」

「テントを張れる場所があるの?」

「村の門は東と南にあるんだ。どちらも農作物の集荷を行う広場があるから、そこにテントを張る」


 農作物の集荷と出荷を行う広場ということなんだろう。

 となると、激戦区は北と東になるんじゃないかな? 門を破られないように注意しないとね。


 私達が門に近づくと、閉じられていた扉が開かれた。両扉だけど、全部開いても荷馬車が1台通れるだけの横幅だ。高さも3mはないんじゃないかな。

 20m四方ほどの広場の片隅に、荷馬車が停まると村人が荷馬車から馬を外して引いて行った。厩舎は広場から離れているみたいだ。

 

 いつの間にか、タマモちゃんがケーナに手を引かれて私達のところにやって来た。さすがにGTOで村には入らなかった。

 荷馬車の傍に集まっていると、革鎧を着た男性が私達に近づいてきた。


「いよいよだな。荷下ろしとテント作りは村の青年達がやってくれるそうだ。荷馬車はこの広場と南の広場に1台を置くと言っていたから、荷馬車をテントに使ってくれ。『銀の斧』は南に移動してくれ」

「集会は?」

「今夜の夕食後にこの広場だ。リーダーが集まってくれればいいが、代表者なら問題ないぞ」


 私はシグに依頼しよう。NPCなんだから出来る範囲での協力で良いわけだし。

 時間的には昼を少し過ぎたあたりだ。

 広場の片隅にある石組は焚き火場所なのだろう。傍に置いてあった焚き木を使ってお茶を沸かして昼食を取る。


「歩いてくる連中が到着するのは夕方だろうな。その前にやっておくことは?」

「焚き木と、補強用の木材は村の連中が運んでいるはずだ。明日1日は何も起きないはずだから、囲みの補強がいるかどうかを確認しておくか」


「弓を使える者達の配置場所も考えておいた方が良いよ。ところで矢は十分なのかしら?」

「大急ぎで作ったはずだ。積み荷の中にも数百は入ってるはずだし、この村にも使いを出したから生産職の連中がある程度は作ったはずだ」


 それでも千本には届かないだろう。

 村人の中にも弓の使い手がいるだろうし、矢の分配に少しは頭を使うことになりそうだ。

 私も20本近くは持ってるけど、魔獣の襲来となればすぐに使い切ってしまいそうなんだよね。


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