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003 NPCとしての暮らし


「この町で暮らしてるんですよね? 良かったら初心者の俺達に狩れる獲物が、どの辺りにいるのかを教えてくれませんか?」


 近くのテーブルでメルダさん達と夕食を食べている私に、冒険者の1人が声を掛けてきた。

 この問いの為に私がいるようなものだから、食事を中断して後ろを振り返える。


「ちょっと待ってくれない。もう直ぐ食事が終わるから。そしたら教えてあげるよ」

「ありがとうございます!」


「ほらな。聞いてくれただろ。このゲームが自由度が高いという話は聞いてたからなぁ。NPCからの情報取得は基本中の基本だよ」

「ちゃんと応えてくれるのね。このスクリーンではネコ族のレンジャーとしか表示されてないのよ……」


 他のNPCもそんなところじゃないかな。ある意味、ゲームの色どりのための住人だからだろう。それとも、レベル差がありすぎるから分からないのかもしれないけど。

 食事が終わったところで、椅子を持って彼等のテーブルに近づいた。

 必要な情報は渡してあげるのがNPCの役割と、しばらくは割り切っておこう。


「それで? どんな狩りをしたいのかしら」

「基本はレベル上げ。できれば2、3日の宿代と食事を何とかしたいんだけど」


 町から離れずにレベル上げということだろう。

なら、やることはそれほど多くはないはず。


「薬草採取とスライム狩りかな。野ウサギも狙えるけど、もう少しレベルが欲しいかもしれないよ」

「野ウサギなら問題ないように思えるんですけど?」

「結構、すばしっこいの。魔法職がもう少しレベルが高ければ何とかなるけど、追い掛けて剣を振るうようなことはできないよ。弓があればなんとかだけど、賢さが命中率に影響するから、狩れるのはL3以上が欲しいよ」


 うんうん、ちゃんと聞いてるね。聞く耳を持って皆で頑張るなら、直ぐにL3を超えるんじゃないかな。この町で1週間も滞在すれば冒険の世界に旅立てるかもね。


「そうすると、薬草を探しながらスライム狩りというところですね。使えそうなスキルがあれば教えてください」

「【鑑定】と【探索】を私は使ってるの。薬草は引き抜けばバッグに自動的に入るけど、バッグの空きに気を付けてね。球根が換金部位だから、窓には球根が表示されるの。薬草の種類ごとに分類されるのも知っておいた方が良いわね。スライムを倒すと小さな核を残すの。ギルドに持ち込めば銅貨1枚になるのよ」


「経験値はどうなるのかな?」

「薬草は20個手に入れるたびに1つ増えるし、スライムは1体倒すごとに1つ増えるの。パーティを組むとパーティ内の経験値が平均化されるよ。でも、死に戻りした人は、その時の経験値までしか手に入らないし、所持金の四分の一が無くなるからね」


 パーティを組んでいるなら、それほど心配はないんじゃないかな。スライムが群れたとしても数匹だから、長剣で2回ほど殴れば倒せるだろうし、【火炎弾】の魔法も2回も当てれば十分だ。


「そんなところかな? スライムを狙うなら南門を出て行けばすぐに見つかるけど、あまり遠くに行くと、もう少し強い敵が出てくるから注意が必要かな? 目安は、3本杉を越えないようにすれば問題ないと思うな」


 3本杉は門を出ればすぐに目に付くから、それだけ教えておけば十分だろう。

 冒険者が礼を言ってきたところで、席を立ち椅子を元に戻しておく。


「モモも大変だねぇ。そうなると、明日の手伝いは期待できないねぇ」

「昼過ぎに戻ってこないようなら、夕方は手伝えません。たぶん何人かは死に戻りが出てくると思っています」

「倒されても、戻ってくるんだから異人さんはおもしろい連中だと思うよ。でも、あんたはそうじゃないんだから無理はするんじゃないよ」

「だいじょうぶですよ。家を出る時に無理は厳禁と念を押されてますし」


 NPCは復活できないのが原則だ。だけど私はその制限が無いと『イザナギ』さんが言っていた。

 同じように死に戻りが出来るんだろうな。


 3人で後片付けをしたところで、入り口の扉にメリダさんがカギを掛ける。

 食堂に運び込んだ食器は、生活魔法の1つである【クリーネ】で汚れを落とす。


 2人にお休みを言って、屋根裏部屋へと小さな階段を上っていく。

 屋根裏は大きな倉庫になっていたようだけど、通り際の一角を板で仕切って私の部屋にしてくれた。

 この改造費だって結構な出費だったんじゃないかな? だけど、私からは受け取らなかったと話が作られているようだ。

 食料倉庫というわけでもなく、結構広いのは将来の子供部屋ということなのかもしれない。

 ベッドと衣装箱、それに窓際の小さな机。

 あまり飾り気がない部屋だから、そのうちいろいろと飾るのも良いかもしれない。ちょっとした楽しみができた感じだ。

 服を脱いで、下着だけになるとベッドにもぐりこんだ。

 この世界に四季はあるんだろうか? 毛布1枚で丁度良い感じなんだけど、冬になったらちょっと寒いんじゃないかなぁ。

 枕の下に、ナイフがあることを確認したところで目を閉じる。

 それにしても、NPCの1人ずつに物語が作られているということなんだろう。

 そんな世界の面倒を見なければならないんだから、「イザナギ」さんも大変だよね。

                 ・

                 ・

                 ・

「お姉ちゃん! お姉ちゃん、朝だよ!!」


 ライムちゃんにたたき起こされるのが私の日課らしい。

 もぞもぞと動きながら、片腕を出してライムちゃんに起きてることをアピールする。


「いつも、朝寝坊なんだから……。朝食を準備してるからね」

 

 最後のセリフが出たところで、ベッドから起きると衣服を整える。

 今日は、案内の仕事があるかもしれないな。ベルトの腰に短剣を差し込んで弓と矢筒をバッグの中に取り込んでおく。


 タオルを持って階段を降りると、裏庭の井戸から水を汲んで顔を洗う。

 朝はこれだけなんだけど、せっかく自由度の高い世界にやって来たんだから、少しはお化粧をしてみたい気もする。


「おはようございます」

「おはよう。相変わらずだけど、今日はどうするんだい?」

「昼まで、歓迎の広場にいるつもりです。何も無ければ、ギルドに行って様子を見てきます」


「ウサギの肉を何とかできないかい?」

「何とかしますけど、数は出ないですよ」

「2匹もあれば十分さ。せっかく異人さんが来てくれたんだ。少しは栄養を付けてあげたいからね」

「了解です!」


 ベーコンとジャガイモの朝食だ。朝食もパンかな? と思ってたんだけどね。

 朝食が終わるとお茶が出る。

 ライムちゃんもちゃんと飲んでいるから、これがこの町の標準的な朝食になるのだろう。


「それじゃあ。様子を見てきます!」

 2人に片手を振って通りに出た。あまり通行人が少ないのは、すでに仕事を始めているからに違いない。

 昨晩やって来たお客さん達は、この近くの職人さんらしい。独り身では食事も満足に取れないんだろうな。でも、朝と昼はどうしているんだろう?

 そんなことを考えながら歩いていると、いつしか大通りに出ていた。

 さすがにこの通りは賑やかだ。

 嬉しそうな数人連れは、パーティを組んだ冒険者達なんだろう。仲の良い男女はリアル世界でも恋人同士なのかな?


 歓迎の広場にやって来ると、周囲に屋台を引いた商人達が集まってきている。立ち話をしながらパイプを使っているおじさん達や、すでに屋台に品物を並べ始めた人もいるみたいだ。直ぐに人だかりができたところをみるとお弁当屋さんなのかもしれない。


 広場を見張らせるところにいくつかのベンチが置いてある。その中の1つに腰を下ろして、広場の様子を眺めることにした。

 広場から東西南北の4つの方角に大通りが延びている。その内の東西の通りはそのまま外の街道につながっている。

 敷石が赤い花崗岩を使っているから、赤の街道とも呼ばれるこの地方の一大街道だ。東の尾根を越えたところにある港町から、西の王都を経て隣国の王都、さらにその先の王都にも繋がっているらしい。


 この町から他の町へと向かうには是非とも通らなければならない街道なのだが、仮想スクリーンから引き出した情報によると町から2日程のところで東西とも封鎖されているらしい。

 何やらイベントの匂いがするね。

 最初に港町に到着する連中はどんな連中なんだろう。

 西には盗賊団だと少し情報が付与されているけど、盗賊団の強さや人数はまだわからないんだよね。南と北にはそんな情報が無いけど、そのうちに出て来るんじゃないかな。

 

 やって来たプレイヤー達も、情報収集やレベル上げを始めたみたいだ。

 この町の住人であるNPCには仮想スクリーンの操作1つで、緑色の名前が表示される。プレイヤーは青色だし、敵性体には赤の表示が出る。


「朝早くから、困っている連中を探してるのかい?」

 

 頭の上から声を掛けられた。女性に後ろから声を掛けるのは礼儀違反じゃないかな?


「そうですけど……、貴方は?」


 興味が先に出た。声を掛けてくれた男性は私のお父さんの年代に見える。名前は「ダン」なんだけど、その表示が白いのだ。


「俺に気が付いたのかな? 俺はこの町の警邏だよ。冒険者ギルドを拠点にしてるんだ。嬢ちゃんが変な連中に気が付いたり、いじめをしてる現場を見たならこれを押してくれないかな。直ぐに仲間と共に現れるからな」


 ポケットから出してくれたのは指輪だった。

 指輪をいじっていると、付いている石が少し凹むのが分かる。


「気が付いたかい。だけどそのままじゃダメなんだ。石を横にして押すとギルドに警報が出る魔道具なんだよ。お嬢さんのいる場所はその時に分かるだけだから、いつもお嬢さんを監視してるわけではないからね」


 ここで広場を眺めてるなら、丁度良いってことなんだろうか?

 私も似たような役目を持ってるから、カモフラージュには丁度良い。こういうのをギブ・アンド・テイクと言うのだろう。


「了解です。昼まではここで見張ってます!」

「まあ、そこまで気張る必要なないよ。お嬢さんの協力できる範囲で良いさ」


 そう言って去って行ったけど、どうやら仲間がいるみたいだ。同じような年代の男性と合流して広場から立ち去って行った。


 さて仕事が出ないうちに、この町の様子をもう一度おさらいしておこう。

 バッグの中に入っていた折りたたんだ地図を広げて、トラペット町の説明文を読むだけでも、道案内の参考になるかもしれない。

 でも、朝早くから広場にベンチに座って地図を広げているNPCって、プレイヤーから見たらかなり不自然に思われないかな?


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