029 タマモちゃんの3つのしもべ?
それにしても数が多い。シグ達もどうにかL13までレベルを上げたらしいけど、L13の冒険者の数は60人程度ということだから、残り40人近くはL12ということになるんだろう。
魔物はホブゴブリンにオークと予想しているらしいけど、大熊の中にはL12近い個体もいるんじゃないだろうか? オオカミだって北の王国なんだから、ブラス王国にいた個体よりも種類が増えてる気がするんだけどね。
「相手のレベルを考えると悲観したくなってしまうが、荒れ地の戦いでないことが唯一の救いだ」
「4倍則というやつか? 村にも囲いぐらいはあるんだろう?」
「丸太らしいぞ。明日の夕暮れには分かるだろうが、あまり期待は出来そうもないな」
大テーブルのリーダー達の話を、周囲の冒険者達が真剣な表情で聞いている。
イベントでの死に戻りは、手持ち金が減らないのが唯一の利点ではあるんだけどね。
「これ以上待っても、仕方あるまい。明日の早朝にポテラを出るぞ。馬車を2台手配できたから、『銀の斧』と『極光』のメンバーで先行してくれ」
「宿泊場所と食事の手配で良いのかしら? あまり高望みは出来ないと思うけど」
「テントと焚き木ぐらいになりそうだな」
『極光』のメンバーは男性3人に女性が2人だ。シグ達は4人パーティだから9人が先行することになるのだが……。
「私達も先行します。乗り物は魔獣が使えますから荷車の荷を減らすことにはなりません」
「魔獣使いなのか? それなら先に向かってくれ。ポテラの町で供出してくれた食料を運んでくれると助かるな。一応、この世界の便利グッズに収納してあるが、荷馬車1台分ほどはありそうだ」
リーダー各の男性が、足元から大きな革袋を取り出してテーブルの上に乗せた。「よいしょ!」と言いながら、さらにもう1つの革袋を乗せる。
「400人日分だ。これ以外に各自が2、3日分は持っているはずだから十分だろう」
「預かっておけば良いですね。ところで、ブロッコ村での兵站は?」
「私のところで何とかする。生産職のパーティだけど、弓のレベルはあるわよ」
20台後半の女性が片手を上げて教えてくれた。
御飯は何とかなるってことだよね。生産職の人なら武具の修理もしてくれるのかな?
「外に、質問や意見はないな? なら解散だ。明日はギルドに集合せずに各自ブロッコ村に向かってくれ!」
リーダーらしき男性の言葉に、ホールの中が騒がしくなった。
シグが私の肩を叩いて席を立ったので、私も彼女の後ろについてテーブルを離れる。
「この町の宿は全て塞がってるけど、私達は2部屋確保しているから、相部屋でいいよね」
「ありがとう。詳しい話は宿ってことね」
「いろいろと聞きたいことはあるからね。でも、ケーナはずっと心配していたよ」
リアル世界では、私はすでに死んでいるんだよね。リアル世界で私のことを両親に話してるんだろうか?
ふと隣を見ると、タマモちゃんが心配そうな表情で私を見ている。
髪をガシガシと撫でると、イヤイヤをしてくれたから誤魔化せたかな? タマモちゃんも同じなんだよね。私よりも幼いんだから、両親に2度と会えないのは寂しいんじゃないかな。
シグ達に連れられてきたのは、小さな宿だった。裏通りの奥にあるぐらいだから、普段はお客が来ないんじゃないかな?
「どうにか纏まった。明日朝早くに宿を出るから、弁当を作ってくれないかな? それと相部屋で良いから、2人追加になる」
「なら問題ないよ。今夜は食堂にも泊めるぐらいになってるのさ。空いてるテーブルに座っとくれ。直ぐに夕食を運ぶからね」
シグの話を聞いて、私達をちらりと見たおばさんだったけど、交渉は上手く行ったらしい。
それにしても、食堂に泊まる事態になってるなんてね。
野宿するよりは安心だし、食事も付くから問題は無いのかな? 風邪をひいても、この世界には病院は無さそうだ。そんな時にはどうするんだろうね。
「ここで良いな。隣のテーブルとくっ付ければ皆で座れるはずだ」
6人がテーブルに着くと、すぐに食事が運ばれてきた。
少しこってりしたスープに黒パン、それに小さなカップでワインが出てくる。
「ベジート王国は黒パンなんだ。少しパサつくが慣れると美味いぞ」
シグの料理下手は良く知ってるけど料理の評価は厳しいんだよね。そのシグが褒めるだけのことはある。
皆で料理の感想を言いながら、楽しく食事を終えることができた。
「それで、勝算はあるの?」
「L13になったばかりだ。相手がL12であれば1体なら苦労はしないが、いかんせん数が多すぎる」
「大イノシシを相手にした時に私達を仕切ってくれたパーティが今回も一緒なのが心強いところかな? 『新月』という名のパーティでリーダーはドロンゴさんなのよ」
レナが、遠い目をして名前を教えてくれた。憧れてるのかな?
「ところでモモのレベルは?」
「経験値が得られないんだから、L10のままなんじゃない?」
「そうでもない。ギルドの受付嬢が私達のテーブルを教えたぐらいだ。いくつなんだ?」
レナ達の話を聞いて、シグが私に問いかけてくる。
早めに教えてあげた方が良いのかな? 黙って、ギルドカードをシグに渡した。
「何だと! 本当なのか?」
ギルドカードを受け取ったシグが凄い形相でテーブルに両手を着いて身を乗り出してきた。
レナがシグの手から私のギルドカードを取って、友人達と眺めている。
シグほどではないけど、やはり驚いているようだ。
「そうなるよねぇ。L16に私達が達するのはいつになるのかしら……」
「プレイヤーのレベルとリンクしているみたい。冒険者の1人だから、神様の恩恵ということなのかな?」
私の言葉に、シグ達が首を捻っている。シグもどうにか落ち着いたみたいだけどね。
「ゲームバランスを崩しかねないな。だが、そうなれば今回のイベントも案外容易いことになるんじゃないか?」
「広域魔法を使ってもらうの?」
直ぐにケーナが思いついたようだ。シグもその通りとばかりに頷いている。
「残念ながら、広域魔法で使えるのは【地縛】だけだよ。タマモちゃんが使えるのは?」
「【炸裂弾】かな?」
私達の話を聞いて、途端にがっかりしている。
レンジャーと魔獣使いなんだから、その辺りも考えて欲しいところだよね。
「私の方がマシに思えるわ……」
「だが、多用してくれるなら助かるんじゃないか? それに……」
シグの視線がタマモちゃんに向かう。
「どんな魔獣を使えるんだ? 一度に使えるのは何体まで?」
その言葉に、私までもがタマモちゃんに視線を移すことになった。だって、まだGTOしか見てないんだもの。確か数体いるようなことを話してような気がする。
「ん~とね。GTOに3つのしもべがいるんだよ」
実に分からない答えだった。GTOはあの亀さんなんだけど、3つのしもべとは何なんだろう?
「オオカミ辺りか? それなら柵を越えた魔獣を相手にできそうだ」
「スライムかもしれないよ。野ウサギだっていたじゃない!」
獣魔使いが必ずしも戦闘をするとは限らない。荒れ地で見つけたモフモフやかわいらしい獣をペット感覚で愛でているプレイヤーだって多いんだから。
「GTOは大きな亀さんよ。私達の移動手段なの。3つのしもべは私も知らないけどね」
「亀? そんなのに乗って移動できるの?」
リーゼの問いはもっともなんだけどね。
「ポテラに来る途中で、大クモに手こずっていたパーティがいたから手伝ってあげたんだけど、その時にタマモちゃんが選んだ手段が衝突だったの。大クモが飛んでったよ」
「あのクモを跳ね飛ばしたなら使えるってことだな」
シグの言葉にケーナ達が頷いているところを見ると、かなり苦労する相手なんだろう。
「3つのしもべも似た連中なんだろう。大きな亀は見たことも無いが、そのうちに出てくるかもしれないな」
「でも私達は裏方なんだけどなぁ」
「数を減らしてくれるなら問題ないさ。魔獣のリーダー格は、やはり私達プレイヤーの仕事だろうね。NPCにMVPを獲られ足りしたら、私達の立つ瀬がない」
責任感の強いシグだけのことはあるな。
それなら、私達は村の側面を守ってあげれば良いように思える。NPC冒険者もいるんだからね。
夜が更けたところで、私達は部屋に向かう。
ちょっと大きめのベッドが2つの部屋だから、私達が一緒になっても十分寝られる。
タマモちゃんと寝ていたら、ケーナが布団に入って来た。ちょっときついけど妹と一緒に寝るのは何年振りかな?
翌朝は、ケーナの寝返りで起こされてしまった。
二度寝するよりは、このまま起きた方が良いかもしれない。2人を起こさないように、部屋を出ると裏庭の井戸で顔を洗う。
「おはよう。早いんだね」
振り返ると、汗を拭いているシグがいた。
「おはよう!」と挨拶したところで、シグに井戸を譲る。
早朝稽古をしていたんだろう。剣道部では次期部長とまで言われていた頑張り屋だ。後輩の面倒をよく見ていたのを覚えている。
「NPCだが、私にとってはモモに変わりはない。他の連中だってそうだよ」
「ありがたい話だけど、すでに私は死んでるのよ。タマモちゃんだってそうだけど、この頃悩んではいるのよ。あまりシグ達と一緒にいるのも……、タマモちゃんはどう思ってるのかな? とね」
私にはシグ達がいても、タマモちゃんには知らない人ばかりだからね。
私だって、リアル世界ではタマモちゃんと話をしたことがないぐらいだ。
「だが、モモが一緒なんだろう? ケーナがやきもちを焼くのも分かる気がするけど、それは私達がフォローするから心配ないよ。私達だって、この世界に来ればモモに会えるからね。ケーナだって、リアル世界では姉を失っても、この世界でなら言葉も交わせる。だけど、両親には秘密にしているみたいだな」
そう言ってくれるのは嬉しいんだけどね。
たまに会うぐらいが丁度良いのかもしれない。
「ところで、モモはPKの話を聞いてる?」
裏庭にポツンとあるベンチに私の手を引いていくと、私を座らせながら聞いてきた。
やはり、この辺りにも出てるんだろうか?
「トランバーでPK犯を探してたの。PKどころかPKKまで出てるみたいね。警邏さんを手伝ってたんだけど、PKとPVPの違いがよく分からないのよ」
「不意を衝くならPKで、そんなPKを狙う奴等がPKK。両者合意の下の決闘がPVPなんだが、遠目で見たら私でも迷うだろうな」
「PKKなんて考えないでよ。仲間だっているんだから!」
「そんな場面に出会ったら、PKKということになるだろうけどね。こっちからあえて近づくことはしないよ」
ケーナも心配だけど、シグの方がもっと心配だ。義侠心に熱い女性がシグの持ち味ではあるんだけど……。