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028 イベントは村の防衛戦らしい


 ピナトの町で一泊すると、翌朝早くにポテラに向かってGTOを駆る。

 ポテラはピナトの西の町だ。ピナトの西門から真っ直ぐに街道が伸びているけど、この街道は赤い街道と違ってわだちの跡がないところを見ると、比較的新しいのだろう。

 運営さん達の世界造りはいろいろと凝ってるんだよね。


 1時間もすると、荒れ地で狩りをする冒険者達が目に付いた。あちこちに点在しているところを見るとレベル上げを頑張っているのかな?

 イベントというからには自由参加になるんだろうけど、今回は条件があるみたいだ。

 タマモちゃんも詳細については確認していないようだから、早めにシグ達と合流すべきだろう。


「あれって、クモだよね?」


 タマモちゃんが指さした先には、自動車ほどもある大きなクモと戦っているパーティがいた。

 槍と長剣で戦士達が頑張ってるし、後方の魔法使いは火炎弾をぶつけている。かなりダメージを与えてはいるのだろうが大クモが攻撃を緩める様子は全くない。

 手助けすべきなんだろうか?


「体当たりしてみる?」

「ついでに一撃ってことで良いかな?」


 GTOが大クモに向かって突進する。

 私達の出現にパーティの人達が驚いているけど、敵ではないと知って再び大クモに向かっていく。


 だんだんと大クモとの距離が短くなってきた。

 弓矢を取り出して、矢をつがえ弓を大きく振り絞る。

 矢を放った次の瞬間、ドン! と大きな衝撃が伝わってきたけど、GTOの速度に変化はない。

 撥ね飛ばしは成功かな?

 私達は、後ろを振り返らずにそのまま街道に沿って、西に向かって進んでいく。


「あんなのが、たくさんいるのかな?」

「たぶんね。始まりの町から距離が離れるほど、魔獣の強さは上がるの基本だもの」

「そうなると、残りの使役獣も使わないといけないかも……」


 GTO以外の魔獣ってことなんだろうけど、どんな魔獣なんだろう? あまりゲームバランスを崩すようでは運営さんが困るんじゃないかな。

 シグ達も近くでレベル上げをしてるんだろうか?


「タマモちゃん。ケーナに連絡取れない?」

「了解。メールを送ってみるね」


 ん? 前を見てなくてだいじょうぶかな。思わずタマモちゃんの肩越しに前を見たんだけど、誰もいないようだから一安心。

 大クモを撥ね飛ばすぐらいだから、冒険者達なら一発で死に戻りしてしまいそうだ。


 大クモを撥ねてから3時間ほどすると、前方にポテラの町が見えてきた。

 街道周辺にも多くの冒険者がいるようだから、このあたりでGTOを降りてみる。少し長く歩くのはしょうがないよね。


 冒険者達は街道を外れた荒れ地で狩りをしてるから、街道の石畳を歩くのは私達だけのようだ。

 町を守る城壁の門が見えてきたころ、ケーナからの返信が届いた。


「ギルドにいるみたい。東門をまっすぐ進めば左手にある3階建ての建物らしいよ」

「大きいんだね。やはり冒険者もたくさんいるんでしょうね」


 レムリア世界には最大1千万人が同時に入れるらしい。でも、あくまで仕様であって、この世界でゲームを楽しむプレイヤーは仕事を持っていたり、学校に行ったりしているから、常時の参加人員は100万を少し超えた辺りかもしれない。

 プレイヤーが最初に訪れるのは、大陸の南岸に面した3つの王国になるはず。三分割されてるなら、ブラス王国のプレイヤー数は30万人程度になるんじゃないかな。


 気になるのはリアル世界とレムリア世界の時間のズレなんだけど、私達はリアル世界に戻ることができそうもないから、あまり気にしないでいよう。

 シグ達とあまり行動できそうもないのが不満ではあるけど、たまに会えるんだからケーナだって寂しくはないんじゃないかな。


「おや? 嬢ちゃん達は2人なのかい。この辺りの魔物は物騒だから、次に街道を通る時には馬車に乗るんだぞ」

「冒険者達が頑張っていましたから、街道には野ウサギさえいませんでしたよ」


「あんな掲示板が出たからだろうな。身分証を見せてくれないか?」


 門番さんの手にギルドカードを渡すと、ちょっと驚いたような顔をして見ている。それでも、直ぐにカードを返してくれたから、カードの革紐を首に掛けて服の中にカードを入れた。

 落としたら再発行すれば良いのだが、タダではないからねぇ。


「冒険者を手伝ってくれ。異人のハンターでなければなおさらだ」

「もちろんそのつもりです。それでは……」


 門番さんに頭を下げて、通りを西に向かって歩き始めた。

 通りを厳しい表情で歩く冒険者が目立つんだよね。イベントは3日後なんだけど、すでに戦闘態勢を取ってるんだろうか?

 あまり緊張してると、当日に疲れて動けないんじゃないかな?


 憔悴したシグ達を見ることになるんだろうか?

 ちょっと心配になって来た。


「あれみたい。目立ってるね!」


 タマモちゃんの言葉に前方を見ると、一際大きな建物が見える。通りの建物は石造りの2階建てだが、あの建物は3階建てだ。


「ギルドは3階建てと言ってきたんだよね。なら、行ってみましょう」


 ギルドの建物は人の出入りが多いみたいだ。

 モモちゃんの手を握って、開け放たれた大きな扉をくぐる。

 ギルドの1階の作りはそれほど変わりがないけど、ホールはバレーボールができるぐらいの大きさがある。大小のテーブルセットが10個ほど置かれているし、天井を支えるためなのだろう、私では抱えられないほどの太さの石柱が4本立っていた。

 

 そんなホールの片面にカウンターがある。数人のお姉さんが忙しそうに冒険者の対応をしているから、少し待つことにした。


「は~い! そこのお嬢さん達、こっちよ!」


 カウンターのお姉さんの1人が私達に手を振っている。

 タマモちゃんと急いでお姉さんの下に向かい、ギルドカードをカウンターに並べた。


「到着手続きってことね。ところで、このレベルは本当なの?」

「異人さん達のお手伝いってことで、あちこち動いてます。私達はこの世界の住人ですよ」


「そういうことか! なら、奥の大きなテーブルに顔を出しといて頂戴。イベントの話は聞いてるでしょう?」

「それでやって来たんです。友人のパーティがここで待ってるらしいので」

「なら、間違いなくあのテーブルにいるわ」


 お姉さんが直ぐに行きなさいと、奥を指差した。

 タマモちゃんの手を引いて、ホールの奥を目指して歩いていくと直ぐに十数人が座っているテーブルが目に付く。

 テーブルを寄せ集めたのではなく、大きな1枚板の天板を使ったテーブルだ。

 そのテーブルを取り囲むように数個の小さなテーブルにも冒険者達が席に着いている。パーティのリーダーを大きなテーブルに送り込んでいるのだろうか?


「やっと来た。ずっと待ってたのよ」

「彼女が?」

「あぁ、大イノシシの時に手伝ってもらったNPC冒険者だ」


 どうやら、赤い街道を封鎖していた大イノシシ討伐のパーティがいるらしい。

 レナがシグの隣から腰を上げて、タマモちゃんを私から預かって小さなテーブルに向かう。ケーナ達がいるからタマモちゃんも安心できるだろう。

 シグが席をポンポンと叩いてるから、ここに座れということなんだろうな。とりあえず腰を下ろしたら、すぐにワインのカップが運ばれてきた。


「NPCはレベル固定と聞いたのだが?」

「私はイレギュラーのようです。手伝うに十分だと思っているんですが、どんなイベントなんですか?」


 私の言葉に、全員の視線がこちらに向いてきた。

 まだ掲示板を見てないんだし、シグだって詳しく教えてくれなかったんだから。


「ポテラに到着したばかりということか……。簡単に言えば魔物の襲来だな。場所は、北西のブロッコ村になる。ここから1日の距離だから、明日には出発ということなんだが、魔物の三分の一がポテラの町に来るらしい。L12の魔物4千体は少し問題ではあるな」


 数の勝負ってことらしい。

 L12を相手にするなら、L13程度は欲しいところだが、果たしてそのレベルに到達できたプレイヤーは何人ぐらいいるんだろう?


「ポテラの町にはL12のパーティを筆頭に、L11の冒険者300人を確保した。だが、ブロッコ村に派遣できるのは100人程度になってしまう。騎兵隊は他の村と町で手いっぱいとのことだから、何としても100人で対応したいところだな」


 ちょっと沈んだ感じがしていたのは、そういうことか。

 まだまだプレイヤーが育っていないということになるのだろう。だけど、この種のイベントなら、完全勝利を目指さずとも問題はないと思うんだけどね。


「やるからには、パーフェクトを目指したいの。村人の蹂躙数で評価が決まるらしいんだけど、出来れば誰も死なせたくはないわ」

「パーフェクトなら、経験値が千得られる。1割減なら500だからな。三分の一までなら300だけど、これ以下なら経験値は無しだ。1割以内に抑えたなら、アイテムのオマケ付き、これはパーフェクトを目指したくなるってもんだ」


 ポテラ防衛のプレイヤー達にも経験値が上乗せされるらしい。とはいえ、ポテラ防衛の経験値はパーフェクトでも500だからね。ブロッコ村で頑張って貰いたいというのは、この場に集まった冒険者達全ての願いに違いない。


「一応、参加できますけど。イベントボスに対しては積極的な手助けはできませんよ」

「それで十分だ。この王国にはNPC冒険者の数も多いらしい。彼らのレベルは12だから、十分に期待できるぞ。4人パーティが5組参加してくれるそうだ」


 ブロッコ村に5組ということだから、ポテラ町にも何組か残ってくれるのだろうか?

 もうちょっと、難度の低いイベントにしてほしかった。

 

「モモ達が来てくれたから、少しは安心できそうだ。大イノシシと同じでいいよ。モモ達にイベントボスを倒されたら、他の連中の笑い者だからね」

「ブラス王国の王と王都周辺でも似たイベントがあるらしいぞ。あそこは初心者揃いだからなぁ。いざとなれば騎士団が介入ってことになるんだろうけどね」


 大きなイベントのはじまりってことかな?

 西の2つの王国でも同じようなイベントが始まるに違いない。

 始まりの町が3カ所あるから、将来的には王国間の争いがイベントになるかもしれないな。


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