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027 北の王国ピナトの町へ


 ホルンの町には【転移】で移動する。

 ハリセンボンの人達に見送られて、船の数が減った早朝の港から【転移】を行った。

 潮の香りがする港から、一瞬で木々のざわつく音が聞こえる教会の小さな広場に到着する。

 教会はホルンの町の西にあるから、大通りに出て東にある橋を目指すことになる。


「まだ、人通りが少ないね」

「トランバーの町は皆早起きだもの。漁師さん達がたくさんいるからかな」


 トランバーは港町だからねぇ。その点、ホルンの町は国境の町になる。あまり変わり映えしない町なんじゃないかと思ってた私だが、宿屋が並ぶ通りを過ぎて見えてきた建物の威容に驚いて足を止めてしまった。


 お城にも見える大きな砦がそびえている。

 石作の頑丈そうな砦の城壁は私の身長の3倍はあるんじゃないかな?

 その砦の門に向かって通りの石畳が続いていた。


「凄いね! 国境ともなるとこんな砦も必要なのかな?」

「道が続いてるから、真っ直ぐ歩いて行けばいいんだよね」


 ちょっと心細くなって来た私達だけど、前に進まないとシグ達に会うこともできない。

 再び私達は砦の門に向かって歩き始めた。


「「おはようございます」」

「ああ、おはよう。だいぶ早い旅立ちだな。今日はお前さん達が最初だ」


 門番さんに軽く頭を下げて挨拶すると、槍をちょっと上げて私達に挨拶してくれた。

 門をくぐると、砦内の広場に出る。広場から左手に90度道が曲がっているけど、石畳の色を変えてあるから、旅人が迷うことも無い。

 広場の片隅では、騎士達が集まって早朝の訓練をしているようだ。

 広場の中ほどまで歩いて、今度は北に向きを変える。砦の北門から真っ直ぐに伸びている石橋が国境の石橋なんだろうな。


 北門の門番さんは5人もいた。

 その中の1人が私達に手を差し出して、問いかけてくる。


「今日の一番乗りはお嬢ちゃん達だね。役目だから通行証を見せてくれないかな? 冒険者ならギルドカードで構わないよ」


 立ち止まった私達は、首に下げているギルドカードを取り出して、門番さんに差し出した。

 門番さんはジッとカードを見ていたが、直ぐに返してくれた。


「向こう岸に渡るレベルを確認するのが、俺達の役目の1つなんだよ。北国の獣や魔物はブラス王国よりも一段上だからね。お嬢ちゃん達も気を付けるんだよ」

「ありがとうございます。知り合いが先行してるんで後を追い掛けるんです」


「なら、安心だ」なんて、門番さんが笑みを浮かべている。

 そんな門番さん達に手を振って石橋へと続く街道を歩き始めた。


 国境となるレビ川の川幅は100m近くありそうだ。その川を渡る手段はホルン町にあるこの石橋と、王都の北にある渡し船になるらしい。

 あまり国交が盛んじゃないのかな? もっと橋を作っても良いのにね。


 タマモちゃんが私の手をしっかりと握って歩いている。

 石橋には欄干が無いから、真っ直ぐに歩かないと川に落ちてしまいそうだ。

 でも、橋の横幅は荷馬車が余裕ですれ違えるほどなんだから、真ん中を歩いている時は安心できると思うんだけどね。

 タマモちゃんは、ひょっとして泳げないのかな?

 たまに立ち止まって周囲を眺める私の手を、グイグイ引いて先を急がせるんだから、案外当たってるかもしれない。

 石橋を渡り切った時、ホッとした表情をタマモちゃんがしていたもの。

 

 石橋の北にも、ホルンの町と同じような砦があった。

 少し小さい気がするけど、これで十分と考えているのだろう。城壁の高さも私の身長の2倍はあるから、魔獣にだって耐えられると判断してるのかもしれない。


 街道の石畳をゆっくりと歩いて砦の門に向かった。

 砦の門番さんに呼び止められて、ホルンの砦と同じようにギルドカードを見せる。

 

「だいぶレベルが上だな。ブラス王国で十分に狩りをしたんだろう。ここからピナトまでは2日あるが、途中にある休憩所なら冒険者達が集まるからそこで野宿することだ。2人なんだから、中途半端な場所での野宿は死に繋がるぞ」


「ありがとうございます」と礼を言ってギルドカードを受け取る。

 ピナト町まで2日ならGTOで余裕を持って到着できるはずだ。

 砦の北門を抜けると、地平線まで続く荒れ地が広がっていた。シグ達は、ここで魔獣との一戦を行ったはずなんだけど、今はそんな気配すらない。


 30分ほど歩いたところで、街道の傍に寄り腰を下ろした。

 揚パンみたいなお菓子を食べて、水筒の水を飲んでしばしの休憩だ。


「誰もいないね」

「冒険者ならピナト町の周辺でしょう? 遠出をしても休憩所が利用できる範囲になるんじゃないかな?」


 獣の姿すら見えない。トランバー周辺なら野ウサギを結構見掛けるんだけど、それがいないというのが、何となく不安を感じてしまう。


「早めにピナトに向かった方が良さそうね。GTOを出してくれる?」


 タマモちゃんが頷くと立ち上がってお尻をポンポンと手で叩く。それほど汚れてないんだけどね。

 鞭を一鳴らしすると、私達の目の前にGTOが出現した。

 私が甲羅にちゃんと乗っていることをタマモちゃんが振り返って確認すると、一気にGTOが加速して街道沿いの荒れ地を疾走する。

 ゴーグルを付けてるから、目を大きく開けても安心できる。

 周囲の景色を眺めながら私達は北に向かって進んでいく。


 昼食は、教えて貰った休憩所で頂くことにした。

 焚き火の跡を利用して小さな焚き火を作り、ポットを乗せてお茶を作る。

 ハリセンボンのお姉さんが渡してくれたサンドイッチには、魚の燻製が入っていた。

ちょっと焚き火で焼いて頂く。

 魚の燻製も馬鹿にできないな。カチンカチンじゃないから半生ということになるんだろうけど、ハムより味が濃い感じがする。

 

「途中で見たパーティは1組だけだった」

「次の町に向かってるのかしらね。シグ達も行ってるみたいだし、詳しい話を聞いてる?」

「イベントがあるみたい。5日後みたいだから」


 どんなイベントなんだろう?

 街道封鎖はイベントとは言わないだろうから、別な何かなんだろうけど。

 

「今日はピナトで一泊すれば、明日にはポテラに着けるから、向こうで詳しく聞くしかなさそうね」


 ベジート王国に移動したプレイヤーの数は、千人を超えているんじゃないかな?

 全てが冒険者というわけではないんだろうけど、それでも大多数が冒険者であることは間違いない。

 渡って行った冒険者が、この休憩場所の周辺で狩りをしていないとなれば、タマモちゃんが言うイベントへの参加を考えているってことかな?


 食事を終えた私達は、真っ直ぐに北に向かって、GTOを走らせる。

 まだ日暮れには程遠い時刻だけど、進路上にピナト町を囲む石塀が見えてきた。

 畑に囲まれた丘陵に町を作ったのだろう。綺麗に並んだ畝の作物がまるでパッチワークのように町を取り囲んでいる。

 ホルンの町より少し小さく見えるけど、それでも3万人近い人が暮らしてるんじゃないかな?

 

 ピナトの南門が見えたところで、GTOから下りて歩くことにした。

 あまり、この亀さんを見せるのは問題だよね。

 この時刻にピナトに着くならば、途中で一泊して朝早くに出発したと思ってくれるんじゃないかな。


「「今日は!」」

 

 南門の門番さんに軽く頭を下げて挨拶する。


「やあ、2人で来たのか? あまり感心しないな。よく無事にこれたものだ」

「冒険者達が街道の掃除をしてくれたみたいで。あまり獣を見ませんでしたよ?」

「それでもだ。少し前にはこの南の川岸にたくさんの獣や魔物がいたんだぞ」


 私達に親身になって注意してくれるのは、それだけピナトの町の周囲には危険な魔獣が多いということなんだろう。


「先に知り合いがいるんです。早く追い付きたいんですけど、この町のギルドと宿を教えてくれませんか?」

「ギルドはこの通りを真っすぐ行って、2つ目の十字路にあるぞ。宿は……、そうだなぁ、ギルドで聞いた方が良いな。この町もだいぶ異人さんが増えたからなぁ」


 門番さんに御礼を言って、ギルドに向かう。日が傾いてきたから、大通りには多くの人が歩いている。

 食堂も、冒険者達を相手の料理の仕込みが始まったらしく、煙突から煙が上がっている。


「この次の十字路だね。あれかな?」


 人が多くなってきたから、タマモちゃんと手を繋いで歩く。

 1つ目の十字路をを過ぎると、遠くに2つ目の十字路が見えてきた。

 さっきの十字路は左右の通りが行き止まりのようだから2つ目の十字路が町を取り囲む石塀の外に出られるのかもしれないな。


 ギルドは十字路の向かい側にあった。予想通りに左右に伸びた通りの先には門が見えたからこの町には東西南北の4つの門があるのだろう。


 ギルドに入ってちょっと驚いてしまった。

 受付のお姉さん2人が獣人族なんだよね。イヌ族なんだろう、たれ耳がちょっとキュートに思える。


「モモとタマモちゃんです。到着報告に来ました」

「2人で来たの? 度胸があるのね。それでは、ギルドカードを預かるわ」


 私達のギルドカードを渡したところで、宿のお勧めを聞いてみる。


「それなら、ネギボウズかな? ちょっと待ってね。地図を書いてあげる」

 

 もう1人のお姉さんが、私達の要求に応えてくれた。

 いつもならギルドは賑わってるんだけど、ピナトのギルドはそうでもない。

 

「トランバーのギルドなら、この時間なら大勢の冒険者で溢れてるんですけど?」

「明るい時間は意外と暇なの。でももう少ししたら賑わうと思うわ。ポテラの町のイベントが近いから冒険者達も必死みたい」


 タマモちゃんもイベントの話をしてたけど、どんなイベントなのかな?

 首を傾げている私達に、宿の地図をお姉さんが渡してくれた。

 

「ポテラ町に滞在している冒険者全員参加のイベントらしいわよ。腕に自信があるなら参加しても良いんじゃないかな?」

「制限はあるんでしょうか?」

「レベル11以上が条件よ。そのレベルに達しない冒険者なら、この町に戻って来るんじゃないかしら」


 冒険者全員参加と言って、制限があるというのもいい加減な気がしないでもない。

 ひょっとして、レベルに達しない冒険者を【強制転移】させるのかもしれないな。

 タマモちゃんがやる気を出して私を見てるから、早めにシグ達と会った方が良いのかもしれない。



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