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026 この世界は情報も大事らしい


 夕暮れ前にトランバーに戻って来ると、肉屋に向かう。160デジットを手に入れて、ハリセンボンへのお土産はヤドカリ2匹だ。

 笑みを浮かべたお姉さんに迎えられたけど、今日は銀貨を1枚頂いてしまった。


「今日は、漁師さん達が大勢やって来るの。貴方達の分のヤドカニは取っておくから、今日は早めの食事にするけど良いかしら?」

「だいじょうぶですよ。私達も出掛けたいところがありますから、丁度良いです」


 漁の相談でもするんだろうな?

 ハリセンボンには、猟師さん達や漁師のおばさん達がいつも集まって来る。きっと昔から続いているんだろう。

 

 お姉さんが運んできた夕食の中に、カルパッチョ風のサラダが添えられていた。

 生魚なんて初めてじゃないかな?

 ちょっと濃いめの魚介スープと丸いパンを頂いたところで、食後のワインを断ってハリセンボンを後にした。


「警邏さんのとこだよね?」

「そうよ。PVPの話しも聞いておかないと、この世界を楽しんでいる人に迷惑を掛けないとも限らないからね」


 PK、PKK、PVPとかなり似てるんだよね。その時の状況を両者から聞き取って、かつ結果を見ればある程度は判別するんだろうけど、未然の防止にはならないことが問題だと思う。

 いっそのこと、PK禁止を通達しても良さそうなんだけど、リアル世界の息抜きということもあるだろうから、あまり禁止行為を作るのも問題だと思う。


 まだ夕暮れが終わらない時刻だから、大通りには大勢の人達が溢れている。宿や酒場をのぞき見している人達は、今日の狩りの成功を祝おうと考えてるプレイヤーなのかな? 近くで待っている仲間達を呼び寄せて、酒場に入って行った。


 警邏事務所に着いて扉を開けると、ホールにいる警邏さん達の数が少ないようだ。夕食時だから、交代で外に出ているのかもしれない。


「おや? モモちゃん達じゃないか! 何かあったのかい?」


 ハヤタさんが、片手を上げながら私達に問いかけてきた。隣のアキコさんが、私達を手招きしてるから、2人がお茶を飲んでいるテーブルに歩いていく。


「ちょっと、気になることがあったんで確かめようと思ってやってきたんですけど、お邪魔じゃなかったですよね?」

「ああ、別に邪魔にはならないさ。モモちゃん達の情報は現場の情報だからね。俺達の調べられる情報をかなり補完してくれるのも確かなんだ。ところで、コーヒーはどうだい?」


 えっ! あらためてハヤタさんの飲んでいるカップを見てみると、ハーブティーのようなお茶ではなく、濃いブラックだ。


「頂きます! でもタマモちゃんは……」

「私と同じで、紅茶を用意するわ。ハヤタのコーヒー好きには困ってるのよ」


 ちらりとハヤタさんを睨みつけたアキコさんだけど、席を立って奥に歩いて行った。

 何か、2人の邪魔をしたみたいでちょっと申し訳ない気分になってしまう。


 王都の話をハヤタさんに聞かせていると、アキコさんがトレイを持ってきた。

「どうぞ!」と差し出されたコーヒーに砂糖を入れてかき混ぜる。


「ほう! 砂糖は入れるけど、ミルクは無しなんだね」

「やはり、甘くないのはちょっと……」


 私の答えを聞いて笑みを浮かべてるのは、まだ子供だと思われてるのかな?


「ところで、教えて欲しいことがあるんですけど」


 私の言葉に2人の笑みが消える。真剣に聞いてくれるということなんだろう。

 そんな2人に、PK、PKKとPVPの話を始めた。


「……そんなわけで、傍目で見るととても分かりづらいんです。PKは通報対象ですよね。PKKは現状ではお咎めなし。PVPはPKがしっぱしたら、合意の上でのPVPとの違いを見ただけでは分かりませんよ」


 私の疑問に、ハヤタさんは無言で腕を組んでいる。隣に座ったアキコさんはどうしたものかと、私と同じようにハヤタさんに視線を向けたままだ。


 しばらくはダンマリを決め込むのだろうか?

 少し温くなった、コーヒーを頂いて、ハヤタさんの様子を見ることにした。


「んん~ん。難しいところを突いてきたな。実は俺達も困ってることも確かなんだ。上層部は、よりリアルに近付けようと頭上に出てくる名前や類別さえ無くそうとしてるんだが、PKを考えるとなぁ……。ちょっと預からせてくれないか?」

「構いません。でも決まったら教えてくださいね」


「たぶん、プレイヤーに一斉配信されるんでしょうけど、モモちゃん達はNPCなのよねぇ」

「プレイヤーの統括は俺達のサーバーなんだが、NPCは別ってことか。だけど、ギルドで登録されているんだから、メール受信はできるはずだ」

「ちょっと待ってね」


 ハヤタさん達の疑問を解決するために、アキコさんが何もない空間に指を躍らせた。

 終わったところで、アキコさんが私に顔を向けた途端、私の脳内にピロン! と音が聞こえた。


「これってメールの着信?」

 

 タマモちゃんが片手を使って自分のスクリーンを展開して確認をしている。

 そんな機能があったのかな? 私もスクリーンを作り出して眺めたんだけど、よくわからないな。思わずタマモちゃんに視線を向けた。


「お姉ちゃん、まだスクリーンのカスタマイズをしてないでしょ。今晩教えてあげるからね。それと、アキコお姉さんのメールはちゃんと届いたよ」

「なら、運営が絡む情報は届くはずよ。それにしても、カスタマイズしてないとはねぇ……」


 呆れた目で、私を3人が見てるんだよね。

 でも、あまり必要としなかったのも確かだ。


「だけど、PVPが始まったのか……。合意の上だし、俺達としても止めることはできないなぁ」

「私も、そこまで干渉するのはどうかと思ってます。でも、紛らわしいんですよねぇ」


 明確なフラグでも立てて欲しいところだ。


「モモちゃん達は、まだトランバーにいるの?」

「ホルンから北の王国へ行けるみたいですから、行ってみようかと思ってるんですが、まだPK犯が捕まってないんですよね?」


「それなんだが、少し分かって来た。どうやら5人組の冒険者らしい。範囲攻撃の出来る魔法使いが2人に、従魔使いが入ってる。残りは戦士と神官だな。従魔使いはレンジャーのような格好なのが問題だけど、そこまで分かればある程度目星を付けられるからね。このホールに人が少ないのはそういうわけなんだ」


 ほぼ特定できたってことかな? 他の町からも応援を貰ったと聞いているから、警邏を張り付けてるに違いない。


「そういうことなら、北の王国に足を延ばしてみます。ギルドに到着報告をすれば【転移】が使えますから」

「ベジート王国だな。ホルンの北にあるのは、アルーデ町だ。すでにホルンからプレイヤー達が大勢渡っているから、村がいくつかあるんじゃないかな」


「魔物や獣のレベルが最低でL10みたい。モモちゃん達はだいじょうぶなの?」

「まあ、何とかなりそうです」

 

 とりあえず、警邏さん達の手伝いは一段落ということだろう。

 明日はこの町でのんびり過ごして明後日に、北に向かうことにしようかな?


 その夜。モモちゃんの指導を受けながら、私の個人ファイルの階層化を行うことになった。

 最初の画面は、メールと運営さんの掲示板、それに地図とバッグに個人に区分する。

 メールと掲示板は新規があればブリンキングする機能をONにして、地図は周囲300mほどの画面を通常にしておく。拡大縮小はこの画像を操作すれば良いということらしい。ついでに、この世界の時刻と手持ち金も表示させた。


「お姉ちゃんって、困った時だけデータを見てたでしょ。こんなにメールが来てるし、掲示板だって既読がほとんどないよ!」

「メールは……、レナとケーナからね。シグはメール嫌いだからしょうがないか。これによると、ベジート王国のポテラ町でレべる上げをしてるみたい」


 掲示板は、封鎖されていた街道の通行や、プレイヤーの新規参入予定だね。警邏さん達の注意を促す掲示板もこれに入ってる。

 プレイヤーには知られない情報だけど、私には配信されてるんだ。


「ケーナお姉さんとメールを交換してるから、北に向かうことを連絡しておこうと思うんだけど」

「お願い。でもポテラ町って、ホルンの直ぐ上なのかな?」


 早速、整備した画像で地図を選択すると、画像を縮小して広域の地図に変更する。

 ホルンから北に2日の距離にあるのがピナト町。ピナト町から北西に3日の距離にあるのがポテラ町になるようだ。

 だいぶ移動しているけど、タマモちゃんのGTOを使えば2日で到着するんじゃないかな。


「ところで、タマモちゃんは従魔使いなんだよね。GTO以外にも使える獣を持ってるの?」

「うん。GTOの外に3体いるの。今のところは、私で十分だからね」


 3体もいるんだ! やはり、この辺りでは見かけない連中なのかな?

 私達で何とかしたいところだけど、どうしようもない時には頼りにさせてもらおうかな。


 翌日。朝食を運んでくれたお姉さんに、明日の朝早くに北に向かうことを告げると、びっくりしてたんだよね。

 私も、PK問題でもう少しこの町にいることになると思っていたけど、警邏さん達が頑張っているみたいだからね。


「何だい。もう出かけるのかい? もう少しのんびりしていけば良いんだろうけど、冒険者だからねぇ」

「いつでも帰って来られますから。魚介料理が食べたくなったら直ぐに帰ってきます」

「そういえば、一度行った町は【転移】で行けるんだったね。なら、いつでも帰っておいで!」


 片付けをしていたおばさんまで、台所から私達のところにやって来ると、空いている椅子に座って私達と話しを始めた。

 親戚のおばさんの家を訪ねた感じなんだよね。

 出掛ける時に、お小遣いを渡されかねないな。


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