表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/153

025 プレイヤーVSプレイヤー?


 ハリセンボンで私達が目にしたのは、大勢のお客さんと笑顔と拍手だった。

 タマモちゃんと一緒に呆然とした表情で見ていたに違いない。笑みを浮かべたままのお姉さんがテーブルに案内してくれたんだけど、テーブルにはたくさんの料理が並べられていた。


「ヤドカリのお礼だそうよ。漁師さんだって滅多に食べられない食材だからかな」

「良いんですか? ハリセンボンとしてはかなりの損失に思えるんですけど?」

 

 小皿に料理を取り分けてくれたお姉さんに聞いたら、周りを見るように顔を周囲に向ける。

 確かに、嬉しそうな表情で、ワインのカップを手にしてるんだよね。中にはヤドカニの足を咥えてる猟師さんもいるけど……。


「さすがに明日も! とは言えないけど、たまに得物を運んでくれるなら宿代はタダで良いわよ」


 思いがけない提案に、思わずタマモちゃんと顔を見合わせてしまった。

 もちろんOKと答えたんだけど、宿屋としてはどうなんだろう? 確かにいつもより漁師さん達はワインを飲んではいるようだけどね。


「夕食にヤドカリを出せる食堂は、トランバーに3軒もいねえんじゃないか? その中の1軒がここで、後は市場で冒険者から仕入れた小さなヤドカリを買った店になるな」

「まったくだ。この大きさのヤドカリは早々市場にも出ねえだろうよ!」


 漁師さん達にとっては久し振りのヤドカリってことなのかな?

 それなら、たまに持って来ても良さそうだ。明日はもう少し内陸を探ろうと思ってるんだけど、帰り道で狩るぐらいなら何とかなる。GTOの速さは半端じゃない。


「冒険者の人達も頑張ってるんですよねぇ?」

「ああ、頑張ってはいるぞ。異人さん達ばかりだが、ヤドカニで死に戻りした者もいるぐらいだ。トラペット周辺でもう少し力を付ければいいんだろうがなぁ」


 移動できる町の間には、乗合馬車による交通手段も作られ始めたらしい。おかげで、低レベルの冒険者がトランバーにもやって来るのだろうが、町の周囲の獣を相手にするならL5以上は欲しいところだよね。

 

「おかげで、トランバーが活気付いているし、俺達の獲物も買いたたかれることがねぇからなぁ」


 奥の方から聞こえてきた漁師さんの声で、皆が一斉に笑い声を上げている。

 それだけ儲かってるということなのかな? 

 食事を終えると、ワインを掲げてしばし饗宴に加わることになった。

 しばらくしたところで、眠そうなタマモちゃんと一緒に宿の部屋に引きあげる。


 装備をベッドサイドの机に乗せてベッドに入る。タマモちゃんは衣服をきちんと畳んで椅子の上に乗せている。

 結構、きちんとした性格みたい。

 

「タマモちゃん。もしだよ。もしも、今日みたいな冒険者がいたら、タマモちゃんはどうする?」

「昼時の冒険者? あれなら、見て見ぬふり。だって、襲おうとしてた冒険者をやっつけようとしてたもの。あの人達がいない時には、私達の出番なんだよね!」


 PKKは、仲間って認識なのかな?

 『イザナギ』さんの危惧はPKなんだろうけど、PKKを行おうとしている人達がいるなら私達の出番は余り無いのかもしれない。

 明日は北西に向うとしても、数日はトランバーで過ごしてみよう。PK犯はまだ捕まっていないみたいだし、シグ達と会うにしてもそれほどレベルは上げていないはずだ。

 推定でL13というところだろう。私達のレベルまでにはだいぶ差がある。

 彼女たちのレベルがもう少し上がるのを待ってからでも良さそうだ。


 翌日は、朝早く北西に向かってGTOを走らせる。

 漁師さん達相手の食堂だから朝が早いんだよね。トランバーの町を出る時にようやく朝日が昇ってきたぐらいだから。

 おかげで、荒れ地には私達の外は誰もいないみたいだ。

 早起きの獣を2人で探していたら、タマモちゃんがイノシシを見付けた。それほど大きくはないけれど、宿のお客さんに振舞うには丁度良い大きさだ。


 GTOで追い掛けるようにしながら、矢を放つ。止めの一撃はタマモちゃんだ。

 この亀さんのおかげで、私達の狩りは他の冒険者さんよりも優位に立つことができる。レベルが上がったしても、逃げる獲物を楽々と追い掛けるのは無理に違いない。


 イノシシを狩った後は、野ウサギを狩る。3匹も狩れば十分だ。

 GTOから下りて、焚き火を作ると一休み。周囲を眺めながらお茶を頂く。

 まだこの辺りまで冒険者達は来ていないようだ。少し遠くに来てしまったかな?


「あそこにパーティがいるよ!」

「えっ、どこどこ?」


 タマモちゃんの指先の方向に視線を伸ばすと、数人が私達の方向に動いているようだ。

 私達に見つからないように歩いてくるわけではないから、PK犯ではないのだろう。

 警邏さんから頂いた小型双眼鏡を取り出すと、相手の様子を眺めてみる。


「戦士2人に魔導士と神官、それにレンジャーもいるみたい」

「お茶ぐらいは、用意しとこうかな?」


 隣でオペラグラスで観察していたタマモちゃんが教えてくれた。私も見ているんだから分かるんだけどね。

 とはいえ、タマモちゃんの観察眼はたいしたものだと思う。

 さて、私もポットをもう一度沸かそうかな。


「「今日は!」」

「今日は。どうですか、お茶が沸いてますよ」


 私の言葉に5人が笑みを浮かべる。

 戦士とレンジャーが青年で、魔導士と神官は私よりも少し年上に感じるな。


「ありがとうございます。近くで野宿をしていたんですが、貴方達も?」

 

 腰を下ろしたパーティに、タマモちゃんがポットのお茶を配っている。

 嬉しそうにカップを差し出した戦士の1人が、私に問いかけてきた。


「トランバーの町から朝早くにやって来たんです。ちょっとした移動手段がありますから」

「こちらのお嬢さんは魔獣使い? でも、人を乗せて運べる獣は……」

「その辺りは、あまり詮索しないでください。私達はNPCですから、プレイヤーの皆さんとは少し異なるんですよ」


「差別だ」なんて仲間内で話をしてるけど、この世界だけで私達は暮らしてるんだから、少しは大目に見て欲しいところだ。


「それなら、この辺りでの狩りについて教えてくれない?」

「良いですよ。海の傍にトランバーがありますね。その北にはホルンの町があるんです……」


 魔導士のお姉さんの質問に、地面に焚き木を使って簡単な地図を描く。

 先ずは位置関係を明確にして、トランバーの北と南、赤い街道の北と南の獣の様子を教えてあげた。

 レベルがかなり上がっているなら、海岸沿いのヤドカニ狩りも経験値稼ぎには丁度良い。それに比較的高値だからね。


「なるほどねぇ。それなら、私達もヤドカニを相手に出来るんじゃない? もう直ぐL8になるんだから、何匹か狩れば到達できるよ」


 魔導士のお姉さんの言葉に他の4人が頷いている。

 となると、懸念の1つを教えといた方が良いかな?


「狩る時には周囲に十分注意してください。PK犯がいるみたいです。昨日はトランバーの南で目撃しました。上手い具合にPKされる前に狙われたパーティが移動したので事なきを得た感じです」

「それで、今日はこっちに来たんだね。ギルドでもPKの話を聞いたよ。PK犯が南にいるんだったら、ここからトランバーの北に向かって獲物を探した方が良さそうだな」


「お茶をありがとう!」と言って、パーティが北東に向かって歩いていく。

 これから狩りをしながらの移動となれば、トランバーの町に着くのは明日になるんじゃないかな。


「さて、私達も出掛けようか!」

「ヤドカリ? それともヤドカニ?」

「もちろん、ヤドカリよ!」


 互いに大きく頷き合ったところで、タマモちゃんがGTOを呼び出す。

 いつも思うんだけど、タマモちゃんは魔獣使いで召喚士ではないんだよね。でも、ムチをパチン! と鳴らすと、突然にGTOが現れる。

 どう見ても、召喚獣を操る召喚士にしか見えないんだけど、魔獣使いと召喚士の違いって何なんだろう?


 GTOの甲羅に乗って、チュートリアルの職業欄を読んでみた。

 魔獣使いは、魔物や獣を使役する人らしい。それによって『使役』スキルが上がり、本人のレベルも上がった時に、上位職種である召喚士となることができるとある。

 魔獣使いには使役できる魔獣のレベルに制限が付くらしいが、召喚士にはそれがない。

 場合によっては、神獣までも使役できるとあるから、何となく納得できた。

 要するに、召喚士の一歩手前ということなんだろう。

 となると、GTO以外に呼び出せる魔獣が気にあるよね。


 途中で、3匹の野ウサギを狩る。遠くに海が見え始めると、ホルンにつながる街道がもう直ぐだ。

 さすがにこの辺りにはプレイヤーが大勢狩りをしている。彼らの邪魔にならないように遠回りをして海に向かっていると、急にタマモちゃんがGTOの速度を緩めた。


「お姉ちゃん。あれは?」

「あのパーティね。ちょっと待って!」


 小型双眼鏡を取り出して、様子を見る。

 2つのパーティがジリジリと互いに距離を縮めているんだけど、どちらも男性4人のパーティのようだ。

 ケンカ? と考えた時、前のゲームでの出来事を思い出した。

 あれって、プレイヤー同士の戦いじゃない? 確か、プレイヤーVSプレイヤー(PVP)という名前だったと思う。

 PKでもなくPKKでもない、プレイヤー殺しの3つ目の方法だ。


「PVPと言われてる、プレイヤー同士の戦いよ。PKとは異なるから、警邏さんに確認した方が良いと思うんだけど、とりあえずは放っておきましょう」

「プレイヤー同士のケンカなんだよね。なら、出番なしで良いよ」


 合意の上なんだろうね。でも、PKしようとして相手に発見されたなら同じようなことにならないかな?

 とりあえずは、リアル世界でもないし、失うのは経験値に所持金一部だけだ。

 負けたとしても、合意の上なら警邏に届けるようなことも無いんじゃないかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ