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021 ブラス王国の王都


 スケルトンやゾンビを2時間ほど狩ったところで、王都へと続く街道に沿って北上を始めた。

 散々弾き飛ばしたからねぇ、頼まれごとはあれぐらいで十分じゃないかな?

 NPCである以上、プレイヤーの手助け位が丁度良い。GTOを使えば砦の攻撃も可能なんだろうけどね。


「街道に沿って真っすぐで良いんだよね?」

「GTOのスピードなら夕暮れ前には着くんじゃないかな? でも、あまり冒険者が街道にいないよね」


 レムリア世界にはすでに100万人を超えるプレイヤーが参加しているはずだ。

 3つの王国に均等割りで入ることになったとしても、ブラス王国だけで30万人を超えてるんだよね。

 始まりの町であるトラペットから東西にプレイヤーが分かれるにしても、王都への移動は皆が望むところだと思うんだけど。


「あれって、馬車だよね!」

「だいぶ人が乗ってるね。……王都とチューバッハの町にはすでに交通手段が出来てたんだ!」


 そういうことなんだ。わざわざ歩くことは無い。馬車や荷馬車の定期便があるなら利用するだろうな。歩いて3日なら馬車なら1日とちょっとだ。

 朝早くに、それこそ星が出ている内に出発するんじゃないかな?


「大回りして馬車を追い抜いて! その後は街道を走っても大丈夫だと思う」

「了解!」


 馬車の連中は、私達に気が付いただろうか?

 あまりGTOは見せたくないよね。ゲーム参加初期段階で、GTOを見たら皆が欲しがりそうだ。

 魔獣使いを目指すプレイヤーがあまり多くなってしまうと、ゲームバランスが崩壊してしまいかねない。


 チューバッハの北にある低い尾根を越えると、王都が北に見えてくる。

 かなりデラックスな作りであるのが峠道からでも分かるんだよね。


「大きいんだねぇ……」

「トラペットの4倍ぐらいはあるのかな?」

 

 4倍はどうだろう? でも2倍以上は間違いなさそうだ。王都には王族や貴族と言った人種も住んでいるはずだから、彼等の住居で不必要な土地が占有されてるんじゃないかな?

 ある程度の腕を持った職人さんが目指すのも王都らしい。

 王族御用達の肩書は、王都でのみ得られる称号だ。その称号を得て町に戻って工房を開くのが物作りを極めることに繋がるのだろう。

 トラペットの花屋の食堂にやってくる職人さん達はそんな称号は持っていないけど、かつてはその称号を持った親方に弟子入りしたことを誇りにしていたんだよね。


「王都で私達は何をするの?」

「特に目的は無いんだけど、武器を変えるのも良いと思ってるの。王都なら、少しは攻撃力のある武器があるんじゃないかな?」


 タマモちゃんの革のムチと私の弓矢ぐらいは何とかしたい。一球入魂と短剣はもう少し使えそうだ。

 東部でたっぷりと稼いできたから銀貨だって10枚近く持ってるし、スケルトン達の魔核をギルドで引き取って貰えるなら、さらに銀貨が何枚か増えるに違いない。


「王都で2泊するよ。明日は1日中王都を巡れるから明後日にはホルンの町に【転移】してみよう。シグ達が封鎖を解いてるかもしれないし……」

「元々【転移】できるようにしてるだけだもんね」


 だんだんと王都を囲む城壁が視界に広がって来た。石積みの高さは5m以上あるんじゃないかな?

 南側に大きな門があるのは分かったけど、それ以外にも小さな門がいくつか作られている。荷馬車1台を通せるだけに見えるから、王都の郊外に広がる畑の収穫物を運ぶためのものかもしれないな。

 王都の周りにいくつかの集落もあるようだし、王都の東西にも村があるのかもしれない。

 王都を目指したプレイヤーにも、いくつかのイベントが用意されてるんだろうな。


 南門に近づいたところでGTOを下り、街道を歩きだした。

 大きな南門は扉を開いているけど、扉の高さだけで私の身長の2倍を超えている。

 門には彫刻が施され、その細密さに目を見張るばかりだ。


「こらこら、門の彫刻を眺めてばかりいないで、身分証を出してくれんか?」

 

 壮年の門番さんが私達に近寄ると手を出してきた。

 思わずタマモちゃんと顔を見合わせてしまったが、この世界の身分証となればギルドカードで良いんじゃないかな?

 首からカードを外して、門番さんに渡すと、金属板の刻印を確認してる。


「トラペットのギルドだな。通っていいぞ。その若さでレベルが10とはなぁ。王都のギルドは冒険者で溢れてるようだが、まだL8程度らしい。

チューバッハの町に冒険者を送るような話もあるようだが、現状では無理だろう。

嬢ちゃん達も、早いところレベルを上げて隣国との通行ができるようにしてくれると助かるんだがね」

「はい。頑張ります!」


 私達の返事が気に入ったのか、笑顔でギルドカードを返してくれた。

 ギルドは2番目の十字路を曲がった右にあると教えて貰ったから、迷わずに行けるだろう。

 門番さんに手を振って、通りを真っすぐに歩いていく。


 それにしても大きな通りだな。荷馬車で考えると、片道2車線以上ある。

 店の前に荷馬車を止めて、荷物の積み下ろしを考えてるみたいだ。片側の車線は停車のためらしい。


 門番さんに教えられた通りに2番目の十字路を右に折れる。直ぐに冒険者ギルドの看板が掛かっているのを見付けることができた。


「王都もギルドの隣は警邏さんの事務所みたいね?」

「最初の十字路にお巡りさんがいたよ。十手を持ってるから直ぐに分かるんだよね」


 見せることで犯罪を未然に防ぐこともできるんだろう。2人一組で王都を巡回してるに違いない。


「王様や貴族の人もいるらしいから、変な人がいないか見張ってるんでしょうね?」

「それって警邏さんの仕事と思ってたけど?」

「警邏さんはどちらかというと、プレイヤーを中心に見てるみたい。犯罪の未然防止なんだろうけど、PKは現場を押さえないといけないんだよねぇ」


 PKを事前に判断するのは不可能なんじゃないかな? 相手のパーティを支援しようとして弁明したらそれまでだもの。

 PK後なら、個人の行動データで明確なんだけど、現実にはPKを行った人物の登録ナンバーが分からない限り、探すのは難しいらしい。


 ギルドの建物はトラペットのギルドの3倍近くある。何といっても3階建ての建物だ。それだけ職員も多いんだろう。

 扉を開けて中に入ると、そこはホールというよりちょっとした広場に思える。円柱が何本も天井を支えているし、周囲の壁にはいくつもの彫像が立っている。

 かつての高名な冒険者達なんだろうな。


 ホールの片面を占領している長いカウンターには10人程のお姉さん達が冒険者の相手をしているようだ。

 私達も、空いたお姉さんの前に行って、とりあえず到着の報告を行った。


「へぇ~。L10なんだ。NPC冒険者となると、イベントはどうなるのかな?」

「手助けは出来るんですけど、経験値は得られないんですよ。悩みではあるんですけどね。それと、これを引き取って頂けると助かるんですが」


 途中で手に入れた魔核をカウンターに乗せると、隣の冒険者達が思わず息を飲んで私達を見ている。


「この色だとスケルトンにゾンビだよね。どちらも8デジットで引き取れるわ。全部で272デジットよ」

「ところで、お勧めの宿はありますか?」

「それなら、『銀の角』かな? 一泊20Dになるけど、場所は……」


 お姉さんがメモ用紙に簡単な地図を書いてくれた。

 魔核の褒賞を受け取って、お勧めの宿を目指す。


 それにしても『銀の角』ねぇ。いわれでもあるんだろうか?

 地図を頼りに、大通りから小さな通りに入って、宿を探す。


「たぶんあれね。角の看板が出てるし、通りの反対側に防具屋があるわ」

「トラペットの花屋の食堂みたいな感じだね」


 メジャーな宿ではないんだろうけど、王都だからねぇ。小さな宿がたくさんあるに違いない。ギルドのお勧めであれば客扱いも良いということなんだろう。


 古びた扉を開けて中に入ると、テーブルがいくつか置いてある。やはり食堂と兼業みたいだ。


「すみません。宿をお願いしたいんですが?」

「あらあら、冒険者なのね。よくも、こんな小さな宿を見付けたものねぇ」


 奥から出てきたおばさんは、花屋の食堂のおばさんと良く似たおばさんだった。


「ギルドで紹介して貰ったんです。地図を書いてくれなければ分かりませんでした」

「ちょっと見せて? なるほどね。ギルドからこの宿までの地図だけど……。わざわざこの宿を紹介しなくても、もっと良い宿があったでしょうに、困った娘だわ」

 

 おばさんの話を聞くと、近所の娘さんが先ほどのお姉さんらしい。

 近所へのちょっとしたサービスなんだろうから、おばさんも困った娘とは言っているけど嬉しそうな表情をしている。


「一泊20Dで朝晩の食事付きなんだけど?」

「2泊お願いします」


 40Dを支払うと、テーブルに着くように言われてしまった。

 直ぐに食事を持って来てくれるらしい。


「夜になると、周囲の工房の職人さん達が押し寄せてくるのよ。騒がしくなるからその前に食べた方が良いわ」


 下町の宿屋はどこも同じらしい。

 早く食べて、今夜は早めにベッドに入ろう。明日は一日中、王都の観光だからね。



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