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019 トラペットの西を目指そう


 トランバーの南の渚を南北に往復しながら、ヤドカニを狩る。

 これで2日も狩っているから、そろそろ次の町に出掛けようかな。

 ハリセンボンのおばさんに獲物を渡して、明日の朝早く旅に出ることを告げた。


「ここで暮らせば良いのに。でも冒険者だからねぇ」

「トランバーの宿は、最初にここを訪ねます。その時はよろしくお願いしますね」

「ちゃんと、来るんだよ。空いて無ければそれなりの宿を紹介してあげるからね」


 別れを親身になって惜しんでくれる。

 次にトランバーにやって来た時には、真っ直ぐにこの宿を訪ねよう。

 

 翌日。朝食を終えた私達が食堂を出ると、おばさんとお姉さんが戸口に立って見送ってくれた。

 タマモちゃんと何度も振り返って手を振る。

 私達が港から通りに出る時にも、食堂の前で私達に手を振っていた。足を止めた私達は改めて両手を振って頭を下げると、通りを西門に向かって歩き出す。


 まだ【転移】のスキルを使える冒険者はそれほど多くはない。

 シグに聞いた話だと、L10を過ぎたあたりで得られるスキルのようだ。トラペットからやって来た冒険者の多くがL5からL8辺りだから、あまり目立つのも考えものだ。

 トランバーを出て、街道から少しずれた辺りで使おうと思っている。


「この辺りなら、誰もいないよ!」

「それじゃあ、行ってみようか」

「「【転移】」」


 タマモちゃんと手を繋ぎ、2人でスキル発動の音声コマンドを声にした。

 私達の周りに2重の魔方陣が現れて光を放ちながら正反対に回り始めた。

 だんだんと光が強く私達を包むと、次の瞬間には教会の敷地内にある芝生の広場に私達は立って入る。

 ちゃんと【転移】できたみたいだ。

 ここはトラペットの町だから、町の西に向かって歩き出す。


 西の封鎖も解けてるらしいけど、盗賊団とどんな戦いをしたんだろう?

 次の町に行けば、聞かせて貰えるかな。


 トラペットの町ではだいぶ長く暮らした気がするけど、西門付近には足を運ばなかった。

 周囲のお店を眺めてみたけど、東門とさほど変わらない。

 試しに、武器屋を覗いてみたけど、品ぞろえも同じだった。それでも、多くの冒険者が店内にいたところをみると、そろそろ武器を交換しようかと考えているんだろう。


「私達は、しばらくこれでいいよね?」

「十分だと思うよ。いざとなれば魔法だって使えるんだから」


 低位魔法だけど、4属性全てが使えるのは私達だけなんじゃないかな?

 それだけでも戦いを有利にすることができる。もっとも、私の持つMPは現段階ではそれほど多くはない。同じL10の魔法使いなら、私の3倍近いMPを持ってるんじゃないかな?


 どうやら、西門に到着した。

 門番さんに軽く頭を下げて、赤い街道を西に向かって歩き始めた。

 西の町に向かう冒険者達は、朝早くに出発したに違いない。赤い街道には私達以外のパーティは遠くに1つ見えるだけだった。


「GTOを使う?」

「そうね。トラペットからかなり離れたし、前のパーティとの距離は開くばかりだから良いんじゃないかな」


 私の答えに、タマモちゃんがGTOを召喚した。

 西の町までは歩いて3日らしいから、今夜は森の手前で野宿になるのかな?


 そのまま進むと前を歩くパーティを追い越しそうだから、街道の右手の荒れ地を進むことにした。

 荒れ地には、多くの冒険者が狩りをしているようだから、彼等の邪魔にならないように進行方向を小刻みに変えて進む。

 それでも、GTOの速度はかなりのものだ。街道も荒れ地も同じように進むことができるんだから。


「町の近くは野ウサギみたいだったけど、この辺りだと野犬も多いみたい」

「やはり北に大きな山があるからなんでしょうね。レベルの高い冒険者達はきっとそっちで狩りをしてると思うな」


 ゴーグルを掛けていないと、虫が目に飛び込んできそうだ。さっきから何度も顔に虫が当たってるんだよね。


「あれって、カマキリだよね!」


 タマモちゃんが腕を伸ばした先には、2匹の大カマキリを相手に冒険者4人が奮戦していた。

 長剣で戦っている男性の背丈とそれほど変わらないんじゃないかな?

 あんな虫が突然飛び出して来たら、びっくりして逃げ出してしまいそうだ。


「だいじょうぶかな?」

「何とかなりそうだよ。ほら、1匹やっつけた!」


 大カマキリのレベルは、それほど高くはないんだろうか?

 トラペットの町周辺で狩りをしてるならば、冒険者のレベルがそれほど高いとも思えないんだよね。


「この先の森には、盗賊がいたんだけど……」

「GTOなら蹴散らせるよ」


 タマモちゃんはやる気満々だけどねぇ。森の大きさはかなりありそうだから、森の手前の休憩所で野宿をしようかな。

 GTOの進路を左に変えて、赤い街道に近づいた。遠くに森が見えるから、このまま進んで最初の休憩所を目指そう。

 やがて、前方に冒険者達のパーティが見えてきたところで、GTOから下りて街道を西に向かって歩き始めた。


 日が暮れる前に、やっと見つけた休憩所には大勢の冒険者があちこちで焚き火を作っていた。

 夜の森を越そうというパーティはいないみたいだ。せっかく次の町に出掛けようとしてるんだからね。あえて危険を冒す必要はない。


「2人なのか? それなら俺達の焚き火に入れよ」

「「ありがとう!」」


 親切なパーティの勧めに従って、開けてくれた焚き火の席に座ることにした。

 焚き火の端を借りて、、2人分の食事を作る。

 鍋に水を入れて、乾燥野菜に塩気の多い干し肉を投入すればスープの出来上がりだ。パンはハリセンボンのお姉さんから頂いたから、軽く炙って頂く。


「女の子2人なんだ! 危なくないのか?」

「それなり腕はありますよ。トラペットの東にあるトランバーからやって来たんです。北の橋がまだ封鎖されてますから、その間に西を目指そうと思ってるんです」


 私の言葉に、焚き火を囲んでいた4人が驚いている。

 まだL5程度なのかな? ようやく次の町に向かおうとしていたに違いない。


「凄いな。俺達はどうにかL5になったんで、西に向かってるんだ。この先の森には山賊がいたらしいんだけど、数百人の冒険者が協力して西への街道を開いてくれたとギルドで教えてくれたよ」

「私達は東の街道を封鎖していた大イノシシを相手にしてたんです。そうなると、西に向かってどれだけ進めるかを見ときたいですね」


 今度は本当に驚いたみたい。唖然とした表情で私達を見ていたし、1人は持っていたワインの入ったカップを落としたぐらいだ。


「L8以上ってことだ。やはり、それだけ狩りをしてたってことなんだろうな?」

「私達はNPCなんです。プレイヤーの皆さんのお手伝いが役目ですよ」


「NPCだって!」

「NPCの冒険者も数が多いですよ。皆さんの邪魔はしませんからご安心ください」


 4人が不思議なものでも見るような目で私達を見てるんだけど、一応NPCなんだよね。


「大イノシシも貴方達が相手をしたの?」

 確かめるように聞いてきたのは、私よりずっと年上に見える女性だった。神官服を着ているから、このパーティの回復役というところだろう。


「大イノシシは、プレイヤーの皆さんが頑張ってくれました。私達は後衛の人達と一緒に取り巻きの獣を相手にしてたんです」

「NPCがエリアボスを倒したら問題だろうな。だけど、手助けならってことか。ならば、明日は俺達と同行してくれると助かるんだが」


 これも何かの縁なのかもしれない。

「良いですよ」と答えて、一緒にお茶を頂くことにした。

 

 彼らが狩りの話を始めると、他のパーティの人達も集まってくる。

 私も、トランバーのヤドガニ狩りの話を聞かせてあげた。これから向かうのは西の町だから、ヤドガニがいるとは思えないけど、彼等だってこの世界をあちこちと旅するに違いない。その時に役に立ってくれれば良いんじゃないかな。


 やがて夜が更けてくる。

 私とタマモちゃんはマントに包まって横になる。

 これだけ人数がいるし、焚き火の数も多いから獣が襲ってくることは無いだろう。

 盗賊だって、誰かが起きていれば多勢に無勢になるんじゃないかな。その道を進む人は案外危機管理ができてるとシグが言ってたしね。


 翌日は、朝食を作るパーティで休憩所が煙に包まれることもあったけど、どうにか食事を終えたところで、私達は4人のパーティと一緒に森に向かって歩き始めた。

 私達の前後にもいくつかのパーティが歩いているから、ちょっとしたハイキングみたいな感じもしないではない。

 いつもGTOに乗ってたから、タマモちゃんはだいじょうぶかな?


「まったく何も出てきませんね?」

「これだけ冒険者がいるからなんでしょうけど、ちょっと拍子抜けですよね」


 私の隣を歩く魔導士のお姉さんが話しかけてくる。

 魔法使いなら細い魔法の杖なんだろうけど、このお姉さんの持つ杖は自分の身長ほどもある少し太めの杖だ。魔法使いを極めるのではなく転職する時には別の上級職を目指すんだろうか?

 

「小さなお嬢ちゃんは、魔獣使いなの?」

「いくつか召喚できる魔物を持ってるんですよ。私よりも強いんじゃないかと思ってるんです」

「見せて欲しかったけど、これではねぇ」


 ちょっと残念そうな顔をしている。

 魔獣使いに憧れるプレイヤーも多いのかな?

 ペット好きならたまらないのかもしれない。でも、運が悪いと中々お目当ての獣や魔物に会わないんじゃないかな。


 1時間ほど歩いて、10分程度の小休止。

 それを繰り返してるんだけど、起伏もそれほどないからあまり疲れることは無い。

 さすがに森の中には休憩所が無いみたいだ。

 日がだいぶ傾いてきたころ、ようやく街道の先が開けてきた。



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