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153 ラグランジュ王国の秘密


「こっちよ!」


 ララアさんに案内されて、未来都市のような地下空間を歩いていく。

 私のような冒険者風の人はいないみたいだ。すれ違う人達が私達をちらりと見るのは、やはりここでは珍しい姿なんだろうね。

 人種も、人間族にエルフ族、たまにドアーフ族の人がいるんだけど、私やタマモちゃんのような獣人族は全く見掛けない。


 大きな商店のウインドガラス越しに、マネキンはポーズを変えている。ここで得られた人形技術をリアル世界で利用しようという考えなのかな?


 珍しさに度々タマモちゃんが立ち止まって見入ってしまうから、先を急いでいるララアさんが苦笑いを浮かべている。

 タマモちゃんの手を引いて、なるべくおもしろそうな物を見せないように歩くのは至難のわざだ。


「後でゆっくりと案内してあげるわね!」

「きっとだよ!」


 ララアさんがそう言ってくれなかったら、目的地に到着するまでに半日は掛かってしまうに違いない。


 広場を過ぎて大通りの商店街を抜け出すと、ちょっとした公園のような場所に出た。

 道が続いているけど、途中にゲートがあるんだよね。


「あの先にあるの。この先は財団の中でも限られた者しか入れないのよ」

「私達は入っていいんでしょうか?」

「招待というより、依頼されて来てもらったんだもの。当たり前でしょう?」


 確かに『招待しておいて入れない』、なんてことになったらおかしいよね。

 でも、ララアさんは入れるってことになるから……、そっちの方が気になってしまう。


「ララア様と、2人の少女を確認! 本人であることはギルドカードで確認しました」

 

 警備員の詰め所で来訪目的を訪ねられたから、メールでの依頼でやってきたことを告げる。

 ララアさんのメール発信来歴と、タマモちゃんの受信来歴を相互に確認したところで、私達の本人確認をギルドカードで行っている。

 プレイヤーではなく、NPCであることは問題ないんだろうか?


「……了解しました。ええ、パスが無くとも問題はありません」


 不穏な通話を警備員がどこかと行っている。

 かなり厳重なセキュリティ対策をしているようだ。


「警備員の同行は必要ないと! どう見ても財団関係者とは思えませんし、冒険者ですよ。それなりの武装もしております……。そうですか……、了解しました」


 警備室の入り口近くにあったベンチに座っていた私達に、警備員が通話を終えて歩いてきた。


「ララア様が一緒であるなら、問題はないとのことだ。それにしても、その若さで腕利きとはねぇ……」

「ラグランジュでの実績を評価したということでしょうね。兄さんの考えはちょっと変わってますから」


 ララアさんの言葉を聞き流しながら警備員がゲートを開けてくれた。

 

「ゲートは、ララア様が通過して5秒後には閉じてしまう。遅れないように注意してくれよ」


 タマモちゃんの手をしっかりと握っておこう。興味があると、立ち止まってしまいかねない。


 最初のゲートを通り抜け、石畳の道をさらに歩く。ちょっとした林の中に道は続いているようだ。

 その林の立木を利用していくつかのゲートがあるようだけど、ララアさんについていく分にはそのゲートは開いているから、どんな効果を持つゲートなのか分からないんだよね。


 石畳の道は大きな川に掛かる橋で途切れていた。

 橋の先にも道は続いているけど、土を固めたような道だ。轍の跡があるから、馬車が行き来することがあるのだろう。


「子供達がいるよ!」


 タマモちゃんが、林の奥で駆けている子供達に気が付いたようだ。

 全員が白いジャージのような服装なのが気になるところだ。


「あの子達は私と同じフラナガン研究所に入院している子供達なの。リアル世界ではベッドから動けないんだけど、レムリア世界でなら駆けまわることができるのよ」


 VRMMOの仮想世界だから出来ることなんだろうね。

 でも、子供達には嬉しいに違いない。


「あの子達の多くが重度の虚弱体質なの。無菌室暮らしのままでいる子も多いのよ。その上、極度の発達障害を持っているの。今のままでは、普通の人達と一緒に暮らすことはできないでしょうね……」


「その為の財団ですか……」

「表面上はね。でも、良い隠れ蓑にはなってるわ。成果も出ているようだし……。あの子達が私のようになれるなら、リアル世界でもそれなりの暮らしができるのでしょうけど」


 隠れ蓑? ララアさんのようになれたら?


「失礼ですけど、ララアさんが入院しているのは?」

「サヴァン症候群という言葉を知ってるかしら? フラナガン研究所の入院患者は全て、サヴァン症候群の兆候を持った人達よ。……さあ、こっちよ。この橋はちょっとした仕掛けがあるの」


 橋のたもとにある石畳に色の異なる敷石があった。

 その場に立って、ララアさんが【転移】を発動する。

 光のカーテンが収まると、目の前にはリノリウムを張った回廊が延びていた。


「ここがフラナガン研究所よ。フラナガンとナナイが激論を重ねているんだけど、中々両者とも自説を曲げないから、兄さんも困っているみたい」


 名前を冠した研究所ということは、偉い学者なんだろうね。ナナイさんも人形作りが本業ではなさそうだ。

 べつの分野での有名人ということになるのだろう。

 偉い人は、周囲は自分に従うものだと思っているから、そんな2人が同じテーマを議論することになれば、激論というより罵り合いになってしまうんじゃないかな?


 それよりも、サヴァン症候群か……。確か、芸術に秀でたりする天才達じゃなかったかな。

 風景を1度見たら、その中の些細なものまで全て分かってしまうとか、難しい計算をあっという間に終わらせてしまう人たちの話を聞いたことがある。


 やがて、前方から賑やかな話声が聞こえてきた。

 賑やかというよりも怒鳴ってる感じだな。甲高い声は一度聞いたことがあるナナイさんの声に違いない。

 かなり激高しているようだけど……、だいじょうぶなんだろうか?


「まだやってるわ。モモちゃん達を迎えに行く前と全く同じね」


 呆れたような口調でララアさんが溜息混じりに話している。


 偉い人は、何時間でも戦えるらしい。

 やはり偉い人は違うと思ってしまった。


 会議室らしい部屋の扉をララアさんがコンコンとノックすると、先ほどまでの大声がピタリと止まった。

 思わずタマモちゃんと顔を見合わせてしまう。


「さて、入るわよ。だいじょうぶ。いざとなれば火炎弾を炸裂させて転移すれば良いわ」


 それも、ちょっとねぇ……。

 でも、そんな方法もあると思えば気が楽になる。


 ララアさんが扉を開けて中に入ったところで、私達もその後に続いて部屋に入る。


 教室よりも広い部屋の真ん中に10人程が座れる丸いテーブルがあった。そのテーブル越しに白衣姿の男女が5人と、騎士団の制服を着た3人が座っている。

 騎士団の真ん中の人物はアズナブルさんだけど、制服の色が赤なんだよね。

 目立つことこの上ないけど、不思議と似合っている。


「来てくれたかい。やはり専門家の意見も聞いた方が良いだろうと、君達を呼んだのだ。できれば協力してくれるとありがたい」


 壁際に立っていた男性が、私達の席を準備してくれた。

 テーブルが大きいから3人増えても十分だ。

 私達が到着したことで、舌戦は一時中断したのかな? ナナイさんと初老の男性が紅茶を飲んで喉を潤している。


「課題はダンジョンの変質だ。ある程度の状況調査は終えている。現状で分かっていることをこれから教えるから、モモさん達の感じたことを話してくれれば少しはこの会議も前進するに違いない」


 私達に笑みを浮かべた顔を見せながら、アズナブルさんが話をしてくれた。

 先ほどまでの激論が嘘のような、静かな声が会議室の中に広がっている。

 

「ラグランジュ王国は他の王国と異なりレムリア世界では少し浮いた存在ではあるのだが、世界観を統一するためとその世界の大きな流れに逆らわないようにしている。

 これはある程度以上のレベルを持った冒険者の受入れと、ラグランジュ王国を経由した帝国への街道、魔族の王国に至るルートの確保が含まれている……」


 その中で半ば公然とした秘密として行われているのが、フラナガン研究所に入院している患者のケアとも言うべきもので、もう一つがそのケアをリアル世界で実現させるための医療器具の開発らしい。

 医療分野はリアル世界でも特許が1つでも取れれば会社は安泰だと、お父さんが言ってたからね。

 秘密裏に行うには、確かにレムリア世界が適しているのかもしれない。


「ここまでは、公然の秘密という奴だな。世間体を取るにはこれで問題はない。定期的な監察も問題なく通せる。

 だけど、これだけではないんだ……」


 医療関連ではない事業が、兵器開発だということはナナイさんから頂いたキュブレムやララアさんのラゴンで分かったつもりだ。

 あれはどう見ても、機動兵器として開発しているとしか思えないんだよね。

 日本の将来の自衛手段は、あの人形達によって行われるに違いない。


「当然、ラグランジュ王国のダンジョンもそれらのテストが円滑にできるように構成しているのだが、例のアップデートでウイルスを送られてしまったようだ。

 送った連中はおおよその検討が付いているし、そろそろカウンターを与えることもできるだろう。だが、ウイルス対策は終了しても、改変されたプログラムを元に戻せない状況だ。おかげでダンジョン3つを強制排除することになってしまったが、他への影響が無いとは言い切れない。

 スタンピードを生き残った魔獣が、更に数を増やして進化するとも限らないのだ」

 

「魔獣狩りですね……。倒す相手の特徴と、場所を教えて頂ければ……」

「それは、私から後で詳しく教えてあげるわ。もう1つ、課題があるの。魔獣の進化よ。それは予想もつかないものだったけど、騎士団が戦った結果から少しずつ分かってきたの。

 耐性と相手の弱点に対する攻撃力の向上なんだけど、戦う度にランクが上がってしまうの。倒さなければ、次の機会は倒されてしまうわ。そんな進化をもたらすウイルスだとはねぇ……」


 見敵必殺ってことだね。

 何となくタマモちゃんには合いそうな言葉だけど、すでに騎士団と一戦しているんだよねぇ。どこまで、どんな耐性を上げて、どんな攻撃をしてくるんだろう?

 ナナイさんが詳しく教えてくれると言ってくれたから、その時に対応措置を聞いても良いだろう。

 あれほど激論をしてるぐらいなんだから、何らかの対応措置をすでに考えているに違いない。


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