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150 ダンさんの心配ごと


 トランバーの町に移動して、トランバーの南端にあるダンジョンを攻略する。

 ダンジョンのクラス2となると、階層は10層になるし、1層の広さもクラス1に比べて約2.3倍もの広さになる。


「縦横の広さが5割増しになってるから、無理は禁物みたい」

「ダンジョンの入り口にあったセーフティ・エリアが大きいのも関係があるの?」


「一気に最下層への到達は無理だから、数回に分けて攻略する感じかな? 23時間ちょっとで強制転移でしょう? ここで休んで再び攻略することになるんじゃないかな」


 とりあえず、何日かかけての攻略を考えて、食料と水をたっぷりと持って来ている。

 朝早くにハリセンボンの店を出たから、8時を過ぎたあたりだ。

 トランバーから15kmほどの距離があるから、冒険者にとってはちょっと尻込みしそうな場所なんだけどね。

 このダンジョンは渚から1km離れた林の中にあるから、海岸線沿いに数時間もあれば簡単に見つけることができる。

 普通なら、昼前にトランバーを発って、ダンジョンに隣接したセーフティ・エリアで休息しながら、深夜にダンジョンに挑むことになるのだろう。


 ダンジョンの入り口にある鳥居をくぐる私達の前後には何組かのパーティが並んでいる。

 たぶん、セーフティ・エリアで一休みしたパーティなんだろうな。


「あんた達は2人なのかい? トランバーで他のパーティと組んだ方が良くはないか?」

「だいじょうぶですよ。少し前まで帝国にいましたから」


 声を掛けてきたのは、社会人のパーティなのかな?

 婚活を兼ねているようで男女6人組のパーティだ。戦士にレンジャー、獣魔使いに魔導士と神官だから贅沢なパーティだ。


 私の答えを聞いて仲間達も一緒に驚いている。


「ところで、何層目まで到達したんですか?」

「昨夜に3層目を下りたところさ。1、2層目は少し小さめのヤドカニが集団で来るぞ。あまり出会うことは無いんだが、倒してもカニは残らずに魔石を残すんだ」


「3層目の魔獣が気になりますね。海を渡った先にはイソギンチャクがいましたよ」

「たぶん、それも出て来るかもなぁ……。燃えるとは聞いたんだけど」

「傷を着けて体液が流れたら火炎弾が有効です。火矢も使えました」


 レンジャーと魔導士がうんうんと頷いている。火矢も用意してあるのかな?


「その上、ウミウシも出るらしい。毒持ちらしいぞ」

「一応解毒剤は用意してあります。1、2層がヤドカニだとすれば打撃武器ということですね」

「そうだ! これがかなり役立った」


 戦士がヒョイ! と持ち上げて見せてくれたのは、薪割り用の斧だった。

 それって、武器扱いになるんだろうか?

 タマモちゃんの一球入魂はどう見ても野球のバットだから、案外武器の定義はあいまいなのかもしれない。

 

「これ、使ってみる?」


 タマモちゃんがヒョイ! とバッグの中から取り出したのは、モーニングスターだ。

 直径5cmほどの棘が付いた金属球が頑丈な鎖で、50cmほどの棒の先に結ばれている。

 鎖の長さは30cm以上ありそうだけど、こんな代物をどこで手に入れたんだろう?


「ケーナお姉ちゃんから貰ったの。『どづき丸』と名前があるらしいよ」

「どこで手に入れたんだろうね? こんな物を使う相手がいたってことかな」


「ほう! そっちの方が威力がありそうだな。武器屋には無かったと思うんだが……」

「攻略組から貰ったみたいなんです。ダンジョン解凍前に、帝国にいましたから」


 薪割り用の斧を自慢気に見せてくれた戦士に答えると、ちょっと吃驚しているようだ。

 私達がまだ初心者だと思っていたのかもしれない。


「驚いた。攻略組ってことか?」

「友人達はそう呼ばれてるようですけど、私達はあちこち世界を回っている感じですね。トランバーから東の島にも行きましたし、街道の西の端を見てみようとラグランジュ王国にも足を延ばしたことがあります」


 そんな私の話を聞いて、パーティの女性達と内輪の話が始まった。

 魔獣を狩る旅も良いけれど、珍しい風景を眺められるのもレムリア世界の楽しみの一つに違いない。


 他のパーティとおしゃべりしながら順番を待っていると、時間が経つのも早く感じる。

 タマモちゃんに腕を引かれて、私達の順番がきたことに気が付いたくらいだ。


 鳥居をくぐると、目の前にダンジョンの入り口がある。

 埋もれた巨岩に、ぽっかりと直径2m程の穴が開いていた。


 何時ものように、タマモちゃんが先行してダンジョンに入っていくと壁に松明が等間隔に灯っている。

 これなら光球はいらないだろう。

 苔むした石造りの回廊はずっと奥まで続いているようだ。

 最初はヤドカニだと教えて貰ったから、モーニングスターを肩に担いで歩いていく。タマモちゃんは杖をついているけど、あの杖が一球入魂に変わるんだろうか?

                 ・

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                 ・

 何度か数匹のヤドカニの群れに遭遇したけど、どづき丸と一球入魂で蹴散らしてしまった。

 やはり打撃武器も、準備しておく方が良いんだろうね。

 ケーナがこれで何を狩ったのか、ちょっと気になってしまう。


「ハリセンボンにお土産にできない!」

「帰りに、渚で何匹か狩れば良いよ。魔石がだいぶ貯まったから、このダンジョンはレベル上げには都合が良いみたい」


 低級魔石だけど、低級の中では並ということになるんだろう。スライムの魔石よりは高く売れるんじゃないかな。

 

 回廊の所々に、ちょっとした広場がある。教室ほどの大きさがあり、乾いた砂で中央が少し高くなっている。

 回廊は何となく湿った感じだから座る気にはなれないけど、こんな場所なら休憩するのに都合が良い。

 広場が見つかる度に、ちょっと休憩を取る。

 各階層の面積が広がったから、こんな場所を作ったのかな?

 クラス5のダンジョンはどんな感じなんだろう? 少なくとも私達が行動した範囲にはなさそうだから、帝国の奥地からということになるんだろうけどね。


「このダンジョンはクラス2なんだよね。シドンに行けばクラス3があるのかな?」

「どうかな? 同じクラス2でも、ダンジョン内の魔獣のレベルが異なれば攻略するのが難しくなるよ。あるとすれば、シドンの北の町じゃないかと思うんだよね」


 深い階層を持つダンジョン攻略は、ダンジョンのアップデートの後でも良いんじゃないかな。

 ダンジョン入りを待っていたパーティの中にも、ダンジョンの管理に不満を言っているプレイヤーがいたぐらいだ。

 早めに何とかしないと、せっかく作ったダンジョンに入るパーティがいなくなってしまいかねない。


「さて、先に進みましょう! トラペット近くのダンジョンと比べると、大きさが違うからね」

「1階層で1日掛かってしまうんじゃないかな? もう直ぐお昼だよ」


 仮想スクリーンのマップを開いてみると、まだ四分の一もこのフロアを制覇していないようだ。右上の時計は11時を過ぎているから、セーフティ・エリアで昼食とはいかないかもしれないな。

 

「ここから右には回廊が延びてないみたい。右端近くを歩いている感じだね」

「左に折れるT字路はあるけど、右に折れるのはずっと無かったよ」


 とりあえず真っ直ぐ進んでみよう。

【探索】で周囲を確認しながら、回廊を再び歩き始めた。

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                 ・

 2層に下る階段を見付けたのは、夜中の10時過ぎだった。

 強制転移の前にダンジョンを出ると、セーフティ・エリアで野営をする。

 やはり、1日に2層の攻略は無理がありそうだ。

 1日1層を目標に、のんびりと攻略することにした。

 

 3層目を攻略した夜のことだ。

 ブレスレットで運営からのお知らせを確認しようと仮想スクリーンを開くと、メールの着信があることに気が付いた。

 ケーナからならタマモちゃんに来るはずなんだけど……。

 仮想スクリーンの着信表示を指先でタップすると、メール文が開いた。


「え~と……。至急、来て欲しいって?」

「誰からなの?」

「ダンさんからよ。例の話なんだろうね。時間が時間だけど、転移するよ!」


「今から行きます!」とだけ返信をすると、その場で【転移】する。

 数パーティが周囲にいたけど、ちょっと礼儀に反してたかな?


 トラペットの教会の裏庭に出たところで、タマモちゃんの手を引いて警邏事務所へと向かう。

 すでに夜中の11時過ぎだ。ちょっとタマモちゃんは眠そうだから、警邏事務所に行ったら、仮眠室を貸して貰おう。


「今晩は……」


 警邏事務所の扉を開きながらホール内に挨拶すると、直ぐにアンヌさんが私のところにやってきた。


「ごめんなさいね。急に呼び出したりして。部屋を用意しておいたから、付いてきてくれない」


 案内されるままに小さな会議室に向かう。

 タマモちゃんの足取りが怪しいな。会議室の隅にあった、ベンチに横にさせると直ぐに目を閉じてしまった。

 薄手のブランケットを掛けてあげたから、風邪をひくことは無いだろう。


「タマモちゃんらしいわね。モモちゃんは未だだいじょうぶ?」

「まだまだだいじょうぶですよ。ところで御用は?」


「もう直ぐ、ダンが来るはずよ。詳細はその時に話すことになるけど、例のダンジョンのアップデートについてなの」


 やはり……。でも、レムリア世界全体ではないんだから、それほど問題は無かったんじゃないのかな?


 会議室の扉が開き、ダンさんとトレイを持ったお姉さんが入って来た。

 コーヒーを飲みながらの話ってことなんだろうね。喉が渇いていたから丁度良い。


「呼び出して済まなかったね。どうやらアップデートの日時が決まったというか、内容が決まった感じだ」


 ダンさんがバングルを操作すると、壁に画像が映し出された。

 詳細版では無くて概要版だけど、アップデートの全体像を伝えるには都合が良いのだろう。


「早速で申し訳ないが、すでに日時は確定してるんだ。明日の正午に行うことになるから、レムリア世界では6日後の真夜中になる。

 当初はアップデート時にファイヤーウオールを解除せずに行えるはずだったんだが、新規の電脳システムを接続するために、どうしても一度解除せねばならなくなったらしい。

 とはいえ、先のアップデートで懲りたんだろうね。

 なるべく短時間ということで、一度に全てをアップデートするのではなく、3段階に分けるそうだ。

 それで、ファイヤーウオールの解除時間を5ミリセカンドに短縮することができるらしい。

 アップデートは、ダンジョン構成の保持時間、ダンジョンへの入域時間、ダンジョン内の魔獣と宝箱の見直しの3つが予定されている……」


 先ずはプレイヤーからのクレーム対応が優先するみたいだ。

 3番目の魔獣と宝箱が良く分からないけどね。


「問うことは、前回のアップデート時と同じような他のシステムからの介入が予想されると?」

「レムリア世界を構築する電脳同士の通信網のファイヤーウオールだけは解除しても、プレイヤーとの通信網の設けたファイヤーウオールは有効だ。

 とは言っても、日本の第7世代のスーパーコンピューターがレムリア世界だけに使われているわけではないからね」


 内部同士のハッキングは可能ということになるんだろう。

 たとえ5ミリセコンドであっても、レムリア世界の1部にバグを起こさせたり、ウイルスを仕込むことができるということになりそうだ。


「ウイルス情報はモニタリングされているから、発見次第駆逐することは可能だろう。だけど、表立って活動しないような場所に潜まれたら、探しようがないんだよなぁ」

「ダンジョンの奥に潜まれたら? ということですか。でもそれなら、ラスボスを越える魔獣として、それなりにニーズが出てくると思いますけど?」


「最後はそうなるんだろうけど……、それは避けたいね。レムリア世界は日本の英知でもある。そんなラスボスを作り上げたのが他国やハッカーだとしたら世界に顔向けができないだろうね」


 面子も大事ということになるんだろう。

 でも全てのダンジョンに潜り込む、なんてことを考えるパーティがいないわけじゃない。その時に対処しても良いんじゃないかな?


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