148 初心者向けのダンジョン(3)
お弁当を食べて、再びダンジョンの探索を始める。
先ほどのパーティのルートで次のフロアに下りる階段が無いことが分かったから、おおよその位置を知ることができる。
やはり冒険者同士の情報共有は必要だよね。
各フロアにセーフティ・エリアがあるのはそれを狙ったものに違いない。
「こっちは、あの人達が調べてるから、真っ直ぐに行くね!」
分岐路に出会う度に、タマモちゃんが仮想スクリーンのマップでルートを確認している。
作りが単純だから良いようなものの、凝ったダンジョンになるとかなり面倒になりそうだ。
そんなこんなで2時間程歩いた時だ。
前方に、階段が出現した。
「下りてみる?」
私に顔を向けて確認したタモちゃんに、微笑みながら頷いてあげる。
直ぐに私達の上でほわほわと漂っていた【光球】が先行して階段を下りて行った。仮想スクリーンを表示しながら、慎重に階段を下りる。
下りた途端に、魔獣に囲まれるなんて願い下げだ。
「だいじょうぶ。何もいない」
「上と同じような回廊だね。初心者用だからかな?」
とはいえ、侮らないとね。
このダンジョンのボスはレベル5と聞いているから、イノシシ程度になるんだろう。
「離れた場所に冒険者がいるみたい」
「それなら、最初の分岐で反対方向に進んでみよう。合流した時に情報交換ができないとね」
後を追いかけて来るような冒険者よりは、別のルートでダンジョン探索を進めている冒険者の方を歓迎してくれるに違いない。
数十m程歩くと最初の十字路が出現した。
タマモちゃんが迷うことなく、反対方向の左の回廊に進んでいく。
今度は左、左と回廊を歩くことになった。
出てくるのは相変わらず大きなスライムと、太った洞窟ネズミなんだけど、数が多く感じられる。
2層目は、経験値稼ぎに丁度良いんじゃないかな。
「え!」 とタマモちゃんが驚いて足を止める。
何だろうと近寄ってみると、前方に扉が見えた。
どうやら、早々と2層目のセーフティ・エリアを見付けたようだ。
そっと扉を開くと、2組のパーティが焚き火を囲んで歓談している。
「こっちに来いよ! 苦労したんじゃないのか?」
「ありがとうございます。階段を下りて、左左と進んで来たら2時間も掛からずにここに来てしまいました」
「本当か! ……ああ、そう言うことか」
「うちのレンジャーは頼りにならないなぁ」
笑い声に囲まれたレンジャー装備の少年が、頭をかきながら照れ笑いを浮かべている。
大学生ぐらいのお姉さんが手招きしてくれたベンチに腰を下ろして、情報交換が始まった。
嬉しいことに、3層目の階段をすでに見付けてあるらしい。
「あの扉を抜けて最初のT字路を左に向かうと階段よ。このフロアで苦労したから、ちょっと休憩してるんだけど、さすがに3層目になると何が出てくるか心配だわ」
「失礼ですが、レベルの方は?」
「俺達は3になったところだ。フィールドよりはダンジョンの方が魔獣との遭遇率が高いからね。それに1日無事に魔獣を狩れるなら宿泊費は十分だし、早めに武具を変えたい」
「5階層らしいですよ。ボスはいるのでしょうがレベル5にはなるはずです」
「さすがにそこまでは無理だろうな。やはりこの近くで狩りをするか?」
「そうね。それだけレベル4が近づくでしょうし、夜まで粘ればレベル4も無理じゃないように思えるわ」
魔獣の遭遇率が高いし、数が多いからね。
ある意味、経験値を得るには都合の良い場所だ。
「私達は、このまま進んでみます。貴重な情報を頂きありがとうございました」
「無理はしない方が良いぞ。数が多いからな。囲まれたら面倒だ」
忠告に頭を下げて、セーフティ・エリアを抜けると、最初のT字路を左に折れると……、直ぐに階段が見えてきた。
「少しは変った魔獣が出ると良いね」
「あんまりかわった魔獣はいらないけど、採掘も採取もできないのではつまらなくない?」
ダンジョンでしか手に入らない……、なんてお宝を期待してたんだけどなぁ。
3層目に出会ったのは、太ったアオダイショウに色鮮やかな2つの頭を持ったヘビだった。
「形はヤマカガシね。でも頭が2つなんだよねぇ」
「毒を持ってるみたい。結構しぶといね」
矢を2本受けても向かってきたんだよね。最後はタマモちゃんの一球入魂で頭を潰されちゃったけど。
「3デジットで経験値が4つ貰えるなら、良い獲物かもしれないね」
「このフロアはヘビばかリなのかな?」
「そうでもないわよ。ほら! 今度はカエルだもの」
子犬ほどもあるカエルは青地に赤い水玉模様だ。
【鑑定】では、毒ガエルと表示されている。
タマモちゃんの【火炎弾】で牽制したところを私が矢で射止める。
側面から目を狙ったら、それで終わりだった。
毒ガエルの攻撃方法が分かったのは2匹目をの時だった。鋭い先端を持つ舌が延びてきた。
ヌメヌメした舌の先端部に毒が仕込まれているようだ。
3時間程回廊を進むと、4階層に下りる階段を見付けた、
今度の相手は、アルマジロのような魔獣だ。背中に装甲板を背負っており、丸くなると金属製のボールのようになってしまう。
攻撃手段はこっちに向かって転がって来るだけだけど、レベルが低いとHPも低いからぶつかるたびに数ポイントのHPが減るのはかなり脅威なんじゃないかな。
ふと時間を見ると、すでに18時を過ぎている。
このまま進めば、5階層に勧めるかもしれないな。
頑張って階段を探しあて、20時過ぎに最後の階段を見付けることができた。
「ここが最深部になるみたい。ボスはいるのかな?」
「私達で倒しても良いのかな?」
う~ん、ちょっとまずいかもしれない。
「どんな魔獣が出るか分かったところで外に出ましょう。歓迎の広場でダンジョンに挑戦したい冒険者のアドバイスができれば十分だと思うし」
「それなら、明日は違うダンジョンだね」
トラペット近くに3つあるという話だった。ガイド役の勤めもある以上、アタックしておいた方が良いに決まってる。
「その前にギルドに申請しないといけないから、明後日になるんじゃないかな」
のんびりした攻略でも、5階層まで来るのにかなりの時間が掛かっている。
10階層になると、2日間でも足りないんじゃないかな?
深夜になると、強制的にダンジョンから転移させられてしまうそうだから、5階層を1日と考えて次のダンジョンに挑んでみようか。
「ここで、強制転移になっても、5階層目から始められそうだから、焦らずに進みましょう」
私の言葉に、頷いたタマモちゃんが光球を前方に移動して歩き始めた。
最後のフロア開けあって、50m程進むと十字路や曲がり角がある。
最初に遭遇したのは、カニだった。
ヤドカニと異なり背中に貝は背負っていないけど、一応甲殻類だからねぇ。それに数匹が纏めて襲ってくる。
新米冒険者のは少し荷が重そうだけど、タアモちゃんの敵ではない。
片っ端から甲羅を一球入魂で破壊されていった。
魔石を残さず、カニ肉の詰まった足が残ったけど、どれぐらいで売れるんだろうね。
カニの次はサソリだった。
尾を持ち上げて迫ってきたけど、タマモちゃんが【火炎弾】で一掃してしまった。
ダンジョン攻略は魔導士がいないとちょっと辛いかもしれないな。
後衛をしっかりと育てるにも都合が良さそうだ。
23時を過ぎたところで、セーフティエリアを見付けた。
休憩を取って外に出よう。
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ダンジョンの傍にあるセーフティ・エリアは15m四方ほどの低い石垣で囲まれている。
真ん中に炉があって、2つのパーティがお茶を飲んでいた。
私達が突然現れたにも関わらず驚いていないから、この場所がダンジョンからの転移箇所であることを知っているみたいだ。
「だいぶ遅いね。まだ強制転移ではないだろうから、ギリギリまで粘ってたのかな?」
「そんなところです。皆さんは、0時を待っての攻略ですか?」
よく聞いてくれた! という感じの笑みを浮かべて、ベンチ代わりの丸太に手をかざす。
私と同年代の少年達4人組だ。
全員が戦士では苦労するかもしれないな。
「3階層まで下りたんだが、無理をしないで引き上げたんだ。一眠りできたから、明日には攻略できると思うよ」
「3階層! 私達は2階層なのよ。やはり3層目は変なのが出るの?」
「青大将に出会ったよ。かなり大きかったな。2匹だったけど何とか倒せたんだ」
もう1つのパーティはお姉さん達3人組だった。
戦士に魔導士と神官だから、レベル3程度の能力があれば、最深部に到達d斬るんじゃないかな?
戦士4人のパーティよりは可能性が高そうだ。
「それで、あんた達は?」
「5階層まで下りてみました。どんな魔物が出るかを確認したかっただけですから、ボスには会ったませんよ。それと、宝箱は1層目で見つけただけです。中身は銀貨1枚でした」
焚き火を囲んだ冒険者が一斉に私達に顔を向けた。
「驚いたな。レベルが分からないということはかなりレベル差があるってことだろう? それにNPC冒険者の方がびっくりだ」
「町のNPCもまるでプレイヤーと変わらなかったものね。でもNPC冒険者ならあまり積極的な行動はしないんじゃないの?」
「その辺りは私にもわかりませんけど、結構、あっちこっちに出掛けてますよ。皆さんが困ったときに手伝えるように、レベルはかなり高いんです」
「なら、下の階層の魔獣を教えてくれないかな?」
各階層で出会った魔獣と魔石を教えてあげた。
ついでに、持っていた方が良いスキルを教えてあげると、戦士達ががっかりした表情を浮かべる。
やはり魔法は余り使えないみたいだ。
ちょっと考えたら割ると思うんだけどなぁ。
突然、3つのパーティが続けざまにセーフティ・エリアに現れた。
強制転移が行われたようだ。
ほっとしたような、残念そうな表情を浮かべている。 かなりきつい戦いをしてきたのかな?
焚き火を囲んでいる冒険者達に別れを告げると、トラペットの町に急ぐ。
城門は閉じているだろうけど、小さなくぐり戸は門番さんが開けてくれるに違いない。もしも開けてくれないなら、街道途中のセーフティ・エリアで野営すれば良い。