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146 初心者向けのダンジョン(1)


 日が傾くまで、新たにやってきたプレイヤー数組にレムリア世界の説明をすることになったんだけど、事前に調べてこなかったのかな?

 それとも、この世界があまりリアル感があり過ぎて心配になったんだろうか?


「最初のパーティは『冒険者になりたい!』って言ってたけど、さっきの人達は商人になりたかったみたい。お姉ちゃんは、『先ずは弟子入りかな?』と言ってたけど、商人は難しいの?」

「かなり難しいと思うわよ。物の売買の差額が収入になるんだから。この広場の屋台だって承認ではないの。どちらかというと生産職になるのかな。彼等から品物を買い取って、それより高く売れる町に行って売ることになるの。荷馬車が最低でも必要になるんじゃないかしら」


 馬車ではなく荷車でも良いけれど、あまり速度を上げられないのが難点だ。

 カゴを背負うのではあまり利益とならないだろうし、街道には魔獣や盗賊だってでないとは限らない。

 軍資金が溜まるまでは、地道に冒険者として暮らすように教えたんだけどね。

 将来商人になったとしても、街道の獣を倒せるぐらいの技量は必要だろう。


 夕暮れ前に花屋の食堂に戻ってメルダさんのお手伝い。

 職人街のおじさん達にせがまれて東の海の向こうの島の話をしてあげる。野ウサギがオオカミほどに大きいと話してあげたら、目を見開いて驚いていた。


「それより気になるのが、鋼の武器じゃな。やはり作ることができる職人がおったようじゃ」

「弟子が鍛えた品らしく、本来の切れ味ではないと言ってました。たぶん帝国辺りから流れてきたんじゃないかと思ってます」


「そうじゃろうな。この辺りに商人が持ち込むのは稀じゃろう。だが、我等も鉄を鍛えねばなるまい。少しでも武器の質を上げれば我等の収益も増えるじゃろう」

「増えても、みんな飲んでしまうんじゃねぇのか? 一番喜ぶのはメリダにちげぇねえ」


 風と桶屋の関係になるのかな?

 とは言っても、設定があるからねぇ。急に品質が上がるわけでもないし、まして鋼の剣がトラペットで作られることも無いし、売られることも無いはずだ。

 それでも、初心者装備より少しマシな武具が作られるのだろう。狩りが容易になるのかな? 攻略組がおへそを曲げないと良いんだけれど。


 職人のおじさん達が帰ると、私達の夕食が始まる。

 夕食というよりは夜食になってしまうのは仕方がないことだ。


「明日はダンジョンに向かうのかい?」

「町に一番近いダンジョンに向かってみます。異人さん達に様子を聞かれても応えられないんじゃ困りますからねぇ」


「あまり関わらない方が良いのかもしれないけど、困ってる人がいたなら親切にしてあげるんだよ」

「今までもそうしてたよ! でも、困った人達がいたこともあったけど」


 タマモちゃんの言葉に、笑みを浮かべてメリダさんが頭を撫でてあげている。

 ライムちゃんは、ダンジョンに興味深々の様子だ。

 宝箱の中身が気になるのかな?

 アクセサリーを見付けたら、1個プレゼントしてあげよう。

 それほど良い品はないと思うんだけど、ダンジョンで手に入れたというところにプレミア感があるのかもしれない。


 早めに部屋に戻ると、仮想スクリーンを作ってトランペッタ周辺のダンジョンを再度確認することにした。


 町に一番近いダンジョンは東の3本杉の北にある。徒歩で2時間は掛からないんじゃないかな?

 新たな耕作地の開墾で見つけたとの想定だから、かなり町に近い。

 それにしても、理由付けがいい加減な気がするんだよねぇ。もうちょっと捻った想定が欲しかったな。


「地下5階まであるみたい。推奨レベルは3以上って書いてある」

「出てくるのは洞窟ネズミに、スケルトン。稀にゾンビと書いてあるけど、スケルトンは荒地にもいたんだよね」


 あの時はGTOが跳ね飛ばしていたけど、レベルは5程度だからトランバーに向かえるぐらいの冒険者ならパーティを組まずとも攻略できそうだ。

 ある意味お試しダンジョンだからだろう。宝箱に入っているのは傷薬や銀貨が数枚というところだ。

 やはり付加の付いた装身具を手に入れるには冒険者レベルが10以上のダンジョンの深層部に到達できないと無理かもしれないな。


「明日の朝に出掛けるよ!」

「事前登録がいるって書かれてるけど?」

「えぇ! そうなの? どれどれ……」

 

 タマモちゃんの背中越しに仮想スクリーンを覗き込むと、いろんな注意事項が書かれていた。

 その1番上に、「ダンジョンに入る前には必ずギルドに事前登録」と書かれている。

 

 不明者やダンジョン内でのPKを防止するためなのかもしれないな。

 さすがに最初のダンジョンでPKに出会ったりしたらトラウマものだ。

 ダンジョンにも何度設定がなされており、クラス1からクラス5の5つに分類されている。

 クラス2までがいわゆる初級ダンジョンであり階層は10まで、クラス3と4が中級隣階層は20までに広がる。クラス5となると最大値の50階層になるらしい。

 そんな難易度の高いダンジョンはレムリア世界に数カ所らしいから、最初に到達できたパーティは賞賛を浴びるに違いない。


「1日でクリアできないよね。……ああ、だから転移が使えるのね」

「町からではなくて、ダンジョンの入り口近くにある魔方陣を使うらしいよ。ダンジョンの滞在時間は1日より短いんでしょう? ちゃんと攻略できるかな?」


「それを知るために私達が出掛けるの。でも、【光球】を作れないパーティは松明でも使うのかしら。それも興味があるよね」


 ダンジョンの情報は警邏事務所にも詳細が示されてはいないようだ。

 ダンさんから送って貰った資料にはダンジョン内の照明については何も書かれていない。

 この情報を基に準備をして、何度かダンジョンに挑むうちに必要な品が見えてくるのかもしれないな。

 とりあえずは気楽に出掛けよう。

 時間はたっぷりとあるんだからね。

                 ・

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                 ・

 翌日。朝食を終えた私達は、メルダさんからお弁当を受け取ってギルドに急いだ。

 ギルドのホールはだいぶ混んでいる。

 歓迎の広場を持つ町だから、依頼掲示板は採取依頼を求めて人だかりができている。

 カウンターのお姉さんも2人から3人に増員されて冒険者を捌いているようだ。


「あら! モモちゃん達じゃない。帰ってたんだ」

「これから、ダンジョンに行こうと思ってるんです」


「事前申請ね。トラペット周辺のダンジョンはこの3つになるんだけど……」

「一番近い、このダンジョンにします!」


「了解! それじゃあ、ギルドカードを出してくれない?」


 お姉さんにギルドカードを渡すと、一端カウンターの下のに持って行くと、直ぐに私達に返してくれた。


「今日の23時30分まで、入域できるわ。それを過ぎると強制転移させられるから注意してね」

「【転移】はいつでも使えるわけではないんですよね?」


「ええ、セーフティ・エリアでなら有効よ。その他は使えないわ。大きなダンジョンならセーフティエリアが複数あるらしいけど、トラペット近くのダンジョン内は各階層に1つだけだからね」


 後ろが使えているから、これぐらいの情報で何とかしないといけないようだ。

 次のパーティに人達に軽く頭を下げて東の門に向かって歩き出した。

 東に向かう街道にある大きな目印が3本杉だからね。そこから北上すれば直ぐに見つかるだろう。


「あの人達も、ダンジョンに行くのかな?」


 タマモちゃんが200m程先を歩く数人の男女に見て呟いた。


「そうなんじゃない。結構混んでるかもね」


 同じダンジョンに入っても、先に入ったパーティと出会えるとは限らない。ダンジョンの各階層の適正人数を越えることが無いように、複数のダンジョンに転移が行われるらしい。

 あちこちから話し声が聞こえてくるダンジョンでは、興ざめだものね。


「1日で攻略できるかな?」

「う~ん、何をもって攻略というのかが1つの問題かもしれないね。クラス1のダンジョンには最下層で宝箱を守るボスもいないようだし」


「最下層の部屋のどれかに宝箱が3つあるらしいよ。それを手に入れたら攻略で良いんじゃないかな?」


 傷薬が3つ手に入っただけでも、初心者には嬉しいに違いない。次は少し強い相手を狩れることに繋がるだろう。

 

 しばらくすると前方に鳥居のような柱が見えてきた。

 石造りで高さが3mほどもある。蔦が絡まっているから、いかにも古めかしそうだけど、前にこの辺りで狩りをした時には何も無かったはずだ。


 先を進んでいた冒険者達が鳥居の脇に立っている看板を眺めている。

 納得したのか、鳥居をくぐってその先にある岩の扉の中に入っていった。


 私達も、看板を読んでみる。

 どうやら、ダンジョンへの入り方のようだ。

 鳥居をくぐることで、ダンジョンの入り口にある扉が開く仕掛けになっているらしい。

 たぶん仕掛けだけではないんじゃないかな?

 この鳥居に別の用途が隠されているはずだ。

 事前にギルドへダンジョンへの入域申請を出しているから、それと照合しているに違いない。

 予定外の人物、もしくは魔獣がダンジョンに入ることを避けているのだろう。


「鳥居をくぐれば扉が開くの?」

「そういう仕掛けみたい。それじゃあ、入るよ!」


 タマモちゃんと手を繋いで鳥居をくぐり、岩に開いた扉の中に足を踏み入れた。

 次の瞬間、私達の周囲に光のカーテンが現れる。自動的に転移が行われたらしい。


 光が弱まると、私達の前方に苔むした石積みの回廊が延びている。

 こころなしかひんやりした雰囲気だ。

 後ろを見ると、扉がある。あの扉を開けば外に出るための転移が自動的に行われるのだろう。


「ダンジョンって、初めて来た!」

「いろんなダンジョンがあるんだけど、ここはいかにもダンジョンという感じだよね」


 薄暗いから、通路の奥が良く見えない。

【光球】を2個作って、私達の前方と後方10mほどの場所に固定する。私達が歩けば、光球も一緒に移動してくれるからダンジョンでは必携の魔法なんだよね。

 光球を持たないパーティなら先を行く戦士達が松明を持つことになるのだろう。1個使えば数時間は持つが、戦闘時には放り出して戦わねばならない。

 ダンジョン攻略はパーティ編成が上手くできているかを試される場でもあるのだ。


「この自動マッピングで歩いた場所が分かるんだよね」

「タマモちゃんが確認してくれないかな? 初心者向けのダンジョンだから立体迷路にはなってない筈よ。……とりあえず、前に進んでみよう」


 武器は2mほどの杖だ。オオカミぐらいならこれで十分だろうし、1矢で相手を倒すのは結構難しいんだよね。

 タマモちゃんも杖を取り出している。いざとなれば一球入魂を取り出すんだろう。

 コツコツと杖が床を打つ音だけが回廊に響いている。

 数分歩いたけど、まだT字路も、十字路も現れないんだよね。

 まさかとは思うけど、第2階層への階段まで真っ直ぐの道だったりして……。


 それでも15分ほど歩いたら、前方にT字路が見えてきた。

 さて、右に行くか、それとも左か。

 ここはタマモちゃんに決めて貰おうかな?



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