144 シグ達と情報交換
カンデラの町の門番も、若い兵士が4人という警戒態勢を敷いている。
冒険者が2人は良くあると思うんだけど、少し幼く感じたのだろうか? ここでも私達の前に槍が交差して足止めされてしまった。
「2人だけなのかい? 入国証を見せてくれないかな?」
とりあえず、ギルドカードと一緒に関所で貰った入国証を見せると、槍を引いてくれた。
「入っていいよ。だけど2人だけで来たのは感心しないな。早く仲間と合流した方が良いぞ」
「ありがとうございます。でも、私達のパーティは2人だけなんです」
ギルドカードを胸の中に仕舞って、城門をくぐった。
後ろで、若い兵士が何やら仲間と話しているのが聞こえてくる。あまり良い話ではなさそうだから、早めにギルドに向かおう。
小さな広場から北に向かって通りが延びている。
奥に城門が見えるから、町の規模はそれほど大きくはなさそうだ。
「カーナと連絡が取れたの?」
「ギルドで待ってると言ってた」
メールの返事が返ってきたらしい。
あまり待たせると、シグがイラつくからね。早めに行かないと。
町の中央から西に延びる通りがある。
その通りの角に、ギルドの建物が作られていた。
通りに面した建物は全て石造りだけど、その奥にある建物は木造がほとんどだ。
この世界の庶民の建物は木造ということになるんだろうね。
「あったよ! 反対側が警邏さんの建物で、その隣が捕り手さん達の事務所みたい」
「看板が大きいから助かるね。ほとんど中心地にあるんだ」
結構大きな建物だ。3階建てということは、宿泊施設も兼ねているのかもしれないね。
ギルドの扉を開けて、ホールの入る。
数個あるテーブルの半数近くに冒険者達が座っていた。
入って来た冒険者のレベルを探るような視線を向けるのはどこも同じだけど、さすがは攻略組の最前線ということもあって殺気まで感じられるんだよね。
カウンターに向かいお姉さんに到着報告を行っていると、タマモちゃんが私の上着の裾を引く。
タマモちゃんに顔を向けると、顔を上に向けて私に頷くと腕を伸ばした。
その先に数人が私に手を振っている。シグ達だ。
「先に行っててくれないかな? 手続きが終わり次第私も向かうから」
「分かった。でも早くしてね」
思わずカウンターのお姉さんと顔を見合わせて笑みを浮かべる。
「かわいらしい妹さんですね」
「結構強いんですよ。だいぶ助けて貰ってます」
「それでは、ギルドカードをお返しします。2人もレベル25には驚きましたけど、一次職のままなんですね」
「活動拠点がずっと手前なんです。あまり二次職の姿をするのも……」
「そう言うことね。でも、ここでは貴方達以外は全員二次職に変えてるわよ。帰って目立つんじゃないかしら」
そう言うことね。忠告してくれたことに感謝して、シグ達のいるテーブルに向かう。
シグ達も全員二次職に変えたようだ。
後で、どんな感じなのか聞いてみよう。
「しばらくね。元気だった?」
「色々とあったみたいね。とりあえず座って頂戴。詳しい話は、夕食を取りながらで良いでしょう? 個室を予約してあるの」
「それで良いわよ。シグ達も無事にレベル20を超えたのね」
「入国に手間取ってしまったけどね。帝都入りは最低でも30らしいから、毎日が狩り暮らしになってるよ」
「シグさんの友人なのかい? だいぶ小さい子を連れてるけど」
「ああ、こいつは……。こいつのネームを確認して見な」
隣のテーブルから若い男性が身を乗り出すようにしてシグに訊ねている。
リアル世界でなら噂が立ちそうだけど、この世界では生会叩く見守ることになるのかな?
「何だと! あり得るのか?」
「あり得るのさ。私達を手助けしてくれるNPCがこいつらの正体だよ」
「どこかで見た姿なんだけどなぁ……」
「他のゲームで私と組んでいた友人のアバターそのものだよ。著作権には違反しないそうなんだけど、今は合えない友人とこの世界で会えるんだから長生きはするもんだねぇ」
年よりじみた話をしてるけど、シグはまだ高校生じゃない。思わず目が丸くなってしまう。
「そう言うことか。NPCの数が多いから、運営の手抜きかもしれないな。それで、一緒にレベル上げでもするのかい?」
「情報交換というところね。そろそろ場所を移そう」
シグ達が席を立って歩いていく。
シグの座っていた席の後ろにいた男性に、軽く頭を下げて後に続いた。
タマモちゃんはケーナと手を繋いでさっさとギルドを出て行ったんだよね。
ギルドの裏通りにある小さな宿が、シグ達のカンデラの町の拠点らしい。
まだ到達できた冒険者が少ないのかな? 宿はシグ達だけだったから、私とタマモちゃんで1部屋を借りることにした。
「夕食は一緒でお願いします」
「友人かい? 大事にするんだよ」
宿のおばさんがシグに話かけて、1階の奥を指差した。
壁の扉の向こうが個室になるんだろう。食堂には、近くの住民達が夕食や、お酒を飲みに集まっている。さすがにここではうるさすぎるよね。
「行こうか!」
シグの後に付いて個室に入ると、すでに皆が丸いテーブルに着いていた。
10人程が食事をしながら歓談できるようだ。
私達席に着く前に、ネコ族のお姉さんがトレイに飲み物を乗せて入ってきた。
先ずは、一杯ということかな?
「久しぶりにモモがやってきたんだ。先ずは乾杯!」
シグの言葉でカップを掲げる。
リアル世界ではお酒は飲めないけど、レムリア世界ではそんなことは無い。でもあまり飲むと翌日に響くから、飲んでも2杯までにしておこう。
「シグ達のレベルは?」
「現在レベル22だよ。どうにか二次職になったんで、少しは強くんったかな? と思ってるんだ」
シグは戦士からナイトに、リーゼは魔法使いから魔導士、レナは神官から司祭へと変わっていた。ケーナは武者に変わっている。武者からの派生は武将に行くのか、それとも剣聖へと行くのか……。
腰に差した2本の刀はどちらも脇差ほどの長さがある。
二刀流を極めるつもりなのかな?
「最近まで、トランバーから東の大きな島にいたの。二次や三次の人達がシグ達を追い越そうと別ルートを開拓してたんだけど……」
手短に、【粒子砲】を使うオオカミについて話してあげた。
それ以外のキメラはタマモちゃんがメールで詳しく教えてあげたらしい。
「とんでもない奴だな。PKってわけじゃないが。レベル差が2倍もあるなら、瞬殺じゃない!」
「島だから油断してたんでしょうね。島全体がしばらくは凍結されてたみたいだから」
「でも、モモ達が倒したんでしょう? どうやったの」
レナの言葉に、皆が頷いている。
その内に分かることなんだから、話しておいた方が後で驚かれるよりましかもしれない。
「一時的だけど私達が階梯を上げられるのは知ってるでしょう? 三次職以上に上げられるの。私は上忍まで、タマモちゃんは巫女? まで行くのかな?」
「確か、二次職が枢機卿だったんでしょう? それって階梯を下げてない?」
「どうなんだろう……。例えば私だけど、皆はネコ族だと思ってるんじゃない? 実際はケットシーよ。妖精種なの。タマモちゃんの場合は更に特殊で、今は尻尾が1本だけど……、三次職だと9本に変わるし容姿だって大人になってしまうのよ」
「「九尾の妖狐!」」
皆の視線が美味しそうにジュースを飲んでいるタマモちゃんに向いた。
「職業階梯よりも、種族が変わる方が問題ね。それならかなり楽に倒せたんじゃない?」
「そうでもないの。前にラグランジュ王国に行ったことは知ってると思うんだけど、その時に貰った人形を壊してしまったほどだもの。さすがに2度目の時は改めて貰った人形を使って倒したんだけどね」
「タマモちゃんの黒鉄でもダメだったの?」
「ディオコーンという3本角の魔獣が黒鉄の胸を貫いたわよ。さすがにあの時は驚いたわ」
「別ルートはかなり厳しそうだね。だけど、それもおもしろいんじゃないか?」
シグの言葉に皆が頷いてるけど、レベル差がありすぎるから止めた方が良いと思うけどなぁ……。
「こっちは象ほどもある大鹿と大熊、それにオオカミだな。大鹿はかなり強いよ。私達だけでは死に戻り確定だ。3つのパーティが共同で狩りをするんだ。
大熊の方は、分厚い毛皮が鎧のようだ。長剣で斬ることが出来ずにひたすら刺すことになる。オオカミは羊ほどの大きさだけど群れるから厄介だな。とはいえ、一番相手にはしやすいんだけど」
「東の島では岩石熊がいたよ。タマモちゃんが薙刀で斬撃をしても全くダメで、最後はしもべを召喚してどうにかだったもの」
「黒鉄で組み敷いたのか?」
「ロブレスのブレス攻撃でフィールドもろとも破壊したの。跡には大きなクレーターが残ったわ」
「ロブネス? 初めて聞くしもべね」
「キング〇ドラに似た怪獣なの。違いは首の数が2つだけ」
「それって、ゲームバランスを崩すんじゃないか?」
「それほど問題にならないと思うわよ。私達はボス戦には参加できないし、レイドの時だって取り巻きの間引きだけでしょう?」
「まあ、確かにそうなんだが……」
「シグ達が足止めされてるのは、次の町への入域資格ということ?」
「レベル25が条件になるの。全く、嫌になってしまう。この町の周辺ではレベル22前後だからまだしばらくは掛かりそうだね。トップの極光の連中もどうにかレベル23だから」
帝都に到着するのはまだまだ先になりそうだ。
魔族の王国へ渡れる条件は、やはりレベル50を考えないといけないのかもしれないね。
「それより、今夜からダンジョンが解凍されると聞いたけど?」
私の言葉に、シグ達がニヤリと笑みを浮かべる。
あんまり、そんな笑みを浮かべると男の子が寄ってこないと思うんだけどなぁ……。
「たぶん、この状態の救済措置として機能し始めるんじゃないかな? 後続の連中にしても、レベル上げには利用できるんだから嬉しいはずさ。この町の近くにも騎士団が見つけてくれたらしい。
ダンジョン周辺に魔獣が現れないように、結界を作るのが今夜遅くまで掛かるという話だった」
「モモ達が来たってことは、一緒に潜ろうということかしら?」
「そうじゃなくて、様子を見に来たの。それにあまり離れてしまうと追い掛けるのが大変だから、【転移】で近くに行けるようにしておかないとね」
「今のところは問題ないよ。ケーナの二刀流も中々様になってきたからね。避けて斬る姿は、モモよりも使えると皆で話してたくらいだ」
「【遅延】(スロー)を使う相手もいるんだからね! 二刀流は斬撃が2回ではなくて、受け流しながら斬ると心得ておくのよ」
タマモちゃんと何やら話をしていたケーナが私の忠告を聞いて、コクコクと頷いている。あまり聞いてはいないようだ。
レナがそんな様子を見てワインを噴き出しそうな表情をしている。
早く飲んでしまえば良いんだろうけど、目じりに涙まで浮かべているんだよね。