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143 帝国の関所


 翌日。レストランで朝食を取り、お弁当を手に入れる。

 歩いて1日が、メランの町から帝国の関所までの距離らしい。20kmぐらいということかな?

 関所には、帝国兵の駐屯地やベジータ王国からの農産物を商う問屋もあるらしい。

 関所というよりは、物流拠点としても町という感じがしないでもない。

 とは言うものの、入国審査はラグランジュ王国並みに厳重に行われているのだろう。

 レベル20以上の冒険者ということだから、現状では攻略組がどうにか入国できるということなんだろうね。

 だけど商人さんや職人さん、それに一般の旅行者は入れるのかな?

 

 メランの北の城門を出ると、真っ直ぐに伸びた街道を歩き始めた。

 だいぶ早い出発なんだけど、左右に広がる耕作地には農民の姿も見える。

 商人達が北の広場で荷馬車の隊列を作っていたから、もう少し経つと私達を追いかけて来るに違いない。


「冒険者がいないよ」

「広い街道なんだけどねぇ。前も後ろも私達以外にいないみたいだから、GTOを使おうか」


 私に過去を向けたタマモちゃんが笑みを浮かべて頷いた。

 パチン! とムチが鳴ると、数m先に光が集まりだす。やがて鋭い光を放って光の粉を振りまくと、GTOが現れた。

 甲羅に上って、タマモちゃんがGTOを操りだす。

 自動車並みの速度で走りだしたから、30分も経たずに関所に到着するに違いない。

 

 街道の周囲はいつの間にか荒れ地に変わった。

 遥か北にこんもりとした森が見えてくる。あの森の先に関所があるに違いない。


 森を抜ける街道の両側は、下草があまり生えていないようだ。遠くまで見通せるから見掛ける獣も小さなものばかり、たまに野ウサギがこちらを見ている姿に出会うぐらいだ。


「やはり野ウサギが、あれぐらいだよねぇ」

「東の野ウサギは大きかったよね」


 それだけ倒した後に残るお肉のブロックが多かったし、毛皮だってトラペット周辺の野ウサギの3倍はあったからね。

 私としては、あの大きい野ウサギは止めて欲しかったな。

 あの野ウサギを従魔にしたいという冒険者がいるんだろうか?


 突然視界が開けた。

 森を寝方先にあったのは、滔々と流れる大河だった。

 大河を渡る手段は街道の先にある石橋らしい。全長500m以上もある立派な石橋だ。

 ちょっとレムリア世界の世界観が崩れかねないような石橋だけど、労力と材料次第ではできるということになるんだろう。

 帝都の王城はさぞかし立派な造りに違いない。


「あれが関所なの? 大きいね」

「関所と町が一体化してるのね。左右に長く城壁が延びているけど、あの向こう側が全部町ということは無いと思うんだけどね」


 GTOを止めて、甲羅の上から双眼鏡で関所を眺める。

 石橋を終点がそのまま城門となるみたいだ。横幅5mほどの石橋だから、それを考えても大きな城門であることが良く分かる。あの城壁だって高さは5m近くありそうだ。


「歩いて渡りましょう。GTOに乗ったままだと、余計な心配を掛けてしまいそう」

「途中で橋が崩れないよね?」


 GTOを戻しながらタマモちゃんが問い掛けてきた。

 さすがにそれは無いんじゃないかな?


 街道の石畳を、タマモちゃんと歩き始めた。

 立派な石橋なんだけど、誰も渡っている姿が見えないのが不思議なくらいだ。

 途中に円形に橋が張り出して休憩所を作っている。

 橋の真ん中程の休憩所で一休みをすると、タマモちゃんが週に風景をスクショに納めていた。

 花屋の食堂のライムちゃんに見せてあげるのかな?


 町の城門にいる門番さんはたいがいは老人なんだけど、さすがに国境を守る関所だけに若い兵士が数人槍を手に立っていた。


「止まれ! 冒険者だな。帝国への入国はレベル20が条件だ。レベルが達しない場合は、街道を南に下がってメランの町で腕を磨くが良い」


 いきなり槍を交差させて私達の足を止めた兵士が言った。

 ちょっと驚いて兵士に顔を向けると、「しょうがない奴らだな」という感じで私達を見ている。

 私達の容姿でレベルを判断したのだろう。それならシグ達だってこんな問い掛けをされたに違いないけど、私の場合は幼いタマモちゃんが一緒だからということなんだろうね。


「十分に資格を有しています。ここで冒険者ギルド証を見せれば良いんでしょうか?」

「それなら、こっちだ。近頃物騒だからなぁ。一応確認しないと入国を認めることができないんだ」


 ちょっと感じが変わったかな?

 命令口調ではなくなった。


 若い兵士の後に付いていくと、城門の中に兵士達の詰め所があった。

 城門の奥行きが15m以上もあるんだから、こんな部屋を作ることができるんだろう。

 6m四方の部屋にはテーブルが2つ並んでいる。

 女性兵士が座っているテーブルに私達を案内すると、門を守る兵士は去って行った。


「今日は。とりあえず座ってくれない。私が入国審査の担当だけど、ギルド証を出していくつか質問に答えてくれれば良いわ」


 ラグランジュと同じかな?

 テーブル越しにお姉さんの前に座ると、首からギルド証を外してテーブルの上に置いた。


「モモちゃんにタマモちゃんね……。まさか! 本当なの?」


 お姉さんが、ギルド証の番号を何かで検索したようだ。

 何に驚いてるんだろう?

 私達のレベルは25だったはずだ。攻略組のトップならもう少し上にいるかもしれないけど、驚くことは無いと思うんだけどね。


「本当にNPCなの?」

「本当です。レムリア世界を自由に旅するNPCということになっています」


 NPCに驚いたということなんだ。

 だけど町を行き来する商人達もNPCなんだよね。商人達より冒険者の方が行動範囲は広いんじゃないかな。


「レムリア世界のNPCはよく出来てると思ってたけど、貴方達のようなNPCもいるのね。はい。ギルド証はお返しするわ。

 それで最初の質問は、貴方達の訪問先は?」

「ブラス王国で知り合った攻略組がすでに帝国に入っているはずなので、彼等と情報交換をしようかと考えています。困っていたなら手伝えますが、イベントの参加はその他大勢で参加できますから」


「ああ、制限があるってことかな? レイドイベントなら参加できるけどボス戦には参加できないってことね。理解、理解……。

 次の質問は、帝国の滞在期間なんだけど……」

「情報交換が済めばすぐにトラペットに戻ろうかと考えてます。ダンジョンの凍結が解除されるらしいので、初心者が迷わないように寛喜の町からダンジョン探索を楽しもうかと」


「ああ、明日の正午に開放されるはずよ。プレイヤーの水先案内もモモちゃん達の仕事なのね。帝国にもいるんだけど他のゲームで攻略組を自任していた連中だから、やたらともったいぶって話すのよね。嫌われてるのが本人達は分かってないのかな? でも、モモちゃん達は親切に教えてあげるんでしょう」

「それなりですよ。どちらかというと警邏さん達のお手伝いという感じですから」


「どこも人材不足なんだろうな……。でもNPCの冒険者なら警邏の連中は喜んでくれるでしょうね。……はい。質問はここまで。

 これが帝国領内の入国証明よ。メダルだから、ギルド証の革紐に着けておきなさい。転移を利用して帝国内の町に向かってもこれがあれば不法入国にはならないわ」


「「ありがとうございます!」」


 城門を出ると大きな広場があった。

 トラペットの歓迎の広場ほどもあるんじゃないかな。

 商人達が荷馬車に荷を積み込んでいるようだから、交易広場ということになるんだろう。石造りの立派な建物が広場を囲み、城壁沿いにはたくさんの屋台が並んでいる。


「ギルドで到着報告をして、次の町に向かうよ」

「2日の距離だから、夕暮れ前には行けるんじゃないかな?」


 買い食いは後にしよう。

 南北の通りは6m近いんじゃないかな? 立派な石畳の通りだ。奥に北の城門が見えるから、関所の奥行きは200mも無いかもしれない。


 ギルドの看板を見付けて、とりあえず到着報告を済ませる。

 親切そうなカウンターのお姉さんに、攻略組はどの辺りまで移動しているのか聞いてみた。


「そうねぇ……。この関所から北に向かうとカンデラの町があるの。たぶんそこまでじゃないかと思うわよ。カンデラから先にあるボルト町までは少し距離があるし、途中の森には盗賊団が暗躍しているみたいね。

 盗賊団の壊滅がボルト町へのルート確保の条件だと聞いてるわ」


 カウンターのお姉さんに礼を言って、ギルドから通りを北へと向かう。

 シグ達はカンデラの町で足止めされているようだ。

 たぶん、盗賊団の数とレベルが高いのだろう。攻略には他かレベルの冒険者の数が必要なんじゃないかな。

 それに盗賊団が1つとは限らない。相手だって連合化することだってあるはずだからね。


 北の城門は南から比べて質素なものだ。それでも騎士団の駐屯所が広場の片側にあるようだ。立派な騎士姿に町で暮らす娘さん達がキャー、キャーと歓声を上げている。

 相手がNPCでも、ちやほやされると嬉しいのかな? 馬上の騎士達の顔がほころんでいる。


 北門を出ると左右に耕作地が広がっていた。

 たぶんライムギなっだろうけど、畝が無いから直播なのだろう。

 麦畑が途切れたところで、タマモちゃんがGTOを召喚して、私達は北を目指す。

 

 荒れ地が広がっている。所々に小さな林があるけど、森はないみたいだ。

 この辺りの狩りの対象はオオカミになるんだろうけど、それ以外の獲物は何になるんだろう?


 街道の途中にあったセーフティ・エリアで昼食を取る。

 少し遅い昼食だけど、たぶんこのセーフティ・エリアが歩いて1日の距離だろうから、夕暮れ前には次の町に余裕で着けるんじゃないかな?


 ゆっくり休んだところで、再び北へと街道を急ぐ。

 2時間も掛からずに、私達の視界に帝国の最初の町であるカンデラの町を取り囲む石垣が見えてきた。

 ポツンと石垣から飛び出して見えるのは神殿の鐘楼じゃないかな。


 町に近付いたところで、GTOから下りて街道を歩き始める。

 20分も掛からずに城門に到着するだろう。関所も立派だったけど、カンデラの町も立派な城壁尉囲まれている。

 それだけ町を襲う相手が強力だということかな?

 ちょっとシグ達が心配になって来た。


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