表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/153

142 非合法アイテム


「ありがとう。これで北の村までは初期設定通りで行けそうだ。その先は騎士団に任せれば良いだろう。レンジャー部隊を送ってくれるよう手配してあるからね」

「あの人たちですね。あの姿を見て驚きましたけど」


「ハハハ……。あれが一番だと言ってたよ。もっとも、魔導士や神官役はエルフみたいだけどね」

「戦技研の人達は人形を使う様ですけど」


「大陸の西は自衛隊の方面軍の違いもあるんだろうね。とりあえずは防衛省の担当との話は付いてると連絡があったんだ」


 自衛隊のおじさん達も苦労してるみたいだな。

 ララアさんの言った戦技研とは何なんだろう? 後で誰かに聞いてみよう。


「それでは、これで失礼します。帝国の状況は何か聞いてますか?」

「あっちは、町1つ進むのにレベルを5つ程度上げる必要があるからなぁ。攻略組でさえ、最初の町で手こずっているんじゃないか?

 そうそう、そのレベル上げで変化を持たせるために、ダンジョンの凍結解除が行われるぞ。かなりあちこちにあるようだが、それを見付けるのもレムリア世界の楽しみになるんじゃないかな」


 リアル世界で、昨夜の内にプレイヤー達に報告がなされているらしい。

 私はNPCだからそんな情報に疎いんだよね。


「レムリア世界では2日後になりますね。ダンジョン解禁前にはラグランジュに戻りたいところです」

「それなら、今からでも北回りのコースで出掛けましょうか? 帝国の国境近くの町までなら行ったことがありますから」


 ララアさんが小さく頷いてくれた。

 帝国の入国審査は冒険者レベルが20と聞いているから、ララアさんの現在のレベルでは入国できない。

 それでも、北回りのルートを確保しておくことは西周りの帝国ルートだけを確保するより良いことには違いない。

 万が一、大きなイベント攻略が進行ルート上にあったとしても、回避できる可能性がある。

 そうなると、シグ達にも西周りのルートを利用できるようにしてあげた方が良いのかもしれない。

 ラグランジュ王国は帝国ルートだけでなく、更に西の群島への足掛かりにもなる。

 そうなると、この島を東に向えばラグランジュ王国の西の群島に行けそうな気もするんだけど、今のところはそのような航路の話を聞いたことがない。

 レムリア世界は球体ではないのかもしれないね。


 警邏事務所を出ると、路地に入る。

 NPCの人達に、あまり【転移】を見せたくはない。

 周囲に人影が無いことを確認したところで、ベジート王国のラディスの町へ【転移】した。


 教会の裏庭に出たところで、大通りに向かいギルドへ到着報告に出掛ける。

 通りには冒険者の姿が目に付く。

 あのイベントが終わってからだいぶ過ぎているから2陣、3陣のプレイヤーが来てるんだろうな。

                 ・

                 ・

                 ・

「冒険者達のレベルは12前後ですね」

「この近くのブロッコ村、更に北の町で順次レベルを上げられるようにしてあるようです。帝国への入国資格がレベル20ということが少しきつく感じますね」


「北の街道に沿って、ラディスの町から大きな町が2つありますね。両者とも徒歩で2日の距離ですから、ゆっくりとレベルを上げて帝国入りということになるのでしょう」

「ダンジョンの解凍が終わったら、少しは変るかもしれませんよ。ここからはオフレコでお願いしますけど、どうやらステータス上昇が可能な装飾品が手に入るようです」


 私の話を聞いた途端に、ララアさんがその場で立ち止まり私の肩を掴んだ。

 細い腕なんだけど、結構力があるんだよね。

 タマモちゃんが心配そうな顔をして私達を見上げている。


「どこでその情報を……。あぁ、そう言うことですね?」


 ララアさんが納得しているようだけど、それなら肩を早く話して欲しい。


「警邏事務所に出入りしていて小耳に挟んだのでしょう。あの事務所は案外ザルなところがありますから、重要情報の取り扱いには注意しないといけませんね」

「オフレコですよ!」


「私は口が堅いとナナイが言ってましたよ。でも、3日後には掲示板が賑わいそうですね」

「潜るんですか?」

「そこにダンジョンがある限り……」


 フィールドの狩りと異なり、ダンジョンはトラップやそこでしか遭遇しない魔獣もいるとララアさんが教えてくれた。

 ひょっとして、魔獣やアイテムのコンプリートを狙ってるんだろうか?

 それもレムリア世界ならではの楽しみに違いない。

 ララアさんも友人達と一緒にダンジョンに挑むんだろうな。案外早くにレベル20に達するかもしれないね。


 ギルドに向かって到着報告を行ったところで、直ぐに次の町へと向かう。

 後2つの町があるとのことだから、今日中に回ってしまおう。


 ラディスの町からパンプカンの町へ、パンプカンの町からメランの町へGTOで急ぐ。

 歩くより10倍は速いから、夕暮れ前にメランの町のギルドに到着することができた。

 到着報告をカウンターで行ったところで、ギルドホールのテーブルでお茶を頂く。

 これでララアさんも北回りの帝国入りが可能となった。


「ここから北に1日で関所と聞きましたから、私の同行はここまでになります」

「慌ただしくて申し訳ありません。ナナイさんに『キュブレムを頂きありがとう』と伝えてください」


「あの戦闘記録はナナイが喜びますわ。兄様も興味を示すと思いますよ」

「こっちに来るかも?」


「それはありませんね。来るとしても私のパーティだけになると思います。ちょっと癖のある人達ですけど、一緒に狩をするのが楽しくなる人達なんです」


 嬉しそうに話してくれたから、アズナブルさんの住んでいるグラナダの町を拠点にしているプレイヤー達なんだろうな。

 ちょっと気になる仲間の癖について聞いたら、「正義感がやたらと強い」と教えてくれた。

 PKを見掛けたらどこまでもPK犯を追い掛けるんだろうか?

 正義感があるのは良いことに違いないけど、強すぎるのも問題だということなんだろうね。案外濃いメンバーかもしれないな。


「モモちゃん達は帝国入りをするんですか?」

「ダンジョンの解凍前に、知り合いと状況確認をしておきたいんです。帝国入りの条件がレベル20であれば、関所からそれほど遠くには行っていないのではないかと」


 帝国入りがレベル20であるなら、魔族の王国に向かう船の乗船資格はどれ程のレベルになるのだろう。

 レベル30ということは無いだろうね。最低でもレベル35以上辺りが要求されるんじゃないかな。


「楽しい旅でした。私はここで失礼します」


 ララアさんが席を立つ。

 私達も一緒に席を立って、ララアさんの後を追ったのだが、向かった先はギルドの裏庭だった。

 弓矢長剣の練習用に、古びた革鎧のカカシが数体石壁を背に立っている。

 20m四方ほどの庭にはカカシとベンチが置かれているだけだ。夕暮れが迫る裏庭には、私達以外は誰もいない。

 

 裏庭の中心に向かって歩いて行くと、ララアさんが立ち止まって私達を手で制止させる。笑みを浮かべたララアさんを光のカーテンが包み込むと、弾けるように光の粉が周囲に広がった。

 先ほどまでいた、ララアさんの姿はどこにも見えない。

 ラグランジュの館で今夜はアズナブルさんと夕食を取りながら旅の思い出話をするに違いない。


「行っちゃった!」

「私達も宿を探しましょう。ギルドのお姉さんのお勧めを聞かないとね」


 宿の当り外れは大きいらしい。

 プレイヤーの人達は、そんな宿の違いも楽しみの1つになるのかもしれないけど、私達は無難な宿が一番だ。

 お姉さんお勧めの宿は、ギルド沿いに3つ先の建物だった。

 ログハウス風の2階建ての建物は、宿だけで食事は別の場所で取ることになるらしい。


 宿で宿泊を頼んで、宿の小母さんお勧めのレストランに向かう。

 そのレストランは通りの向かい側だった。

 分厚いステーキに小さな丸いパン、それとワインが夕食だ。

 タマモちゃんはオレンジジュースに似たジュースを飲んで笑みを浮かべている。甘いのかな?


「明日は関所を越えるよ。この地図だと、グラハム町が帝国の玄関町になるみたい」

「ケーナ姉さんは、その先のマインバッハ市にいるみたい。武器は鋼シリーズにしたみたいだけど、中々レベルが上がらないと言ってた」


 タマモちゃん達はメール交換を頻繁にしているようだ。

 それなら、明日の夕食は一緒に頂けるかもしれないね。


「今夜メールを出しといてくれない。『明日の夕方にギルドで再会しましょう』って」

「分かった!」


 嬉しそうに頷いてくれた。

 ステーキの汁が口の周りに大分付いているんだよね。ハンカチを取り出してちょっと拭いてあげる。


「失礼ですが、モモさん達ですか?」


 声の方向に顔を向けると、テーブルから少し離れて大学生ぐらいの男女が私達を見ていた。


「はい。そうですけど、あなた方は?」

「この町の警邏です。一度お話をしたいと思っていたんですが、ようやく会うことが出来ました。相席をよろしいですか?」


 私が頷くと、2人はテーブル越しの席に着いてワインを注文している。

 夕食は既に終えているのだろう。

 それにしても、どこで私を知ったのだろう?

 少なくとも会うのは初めての筈だ。

 

 ワインを飲みながら、私達の夕食が終わるのを待っている。

 食事中は話しかけないぐらいの思いやりというか、エチケットは持っているみたい。

 食事を終えて、ワインを一口飲んだところで、改めて2人に顔を向ける。

 タマモちゃんも食事を終えてジュースを飲んでいるから、問題は無さそうだ。


「お会いするのは初めてですよね? 何かあったんでしょうか」

「どちらかと言うと、興味本位なところです。私はピューマ、隣がナナキです。この町の警邏ですよ」


 警邏内の掲示板で私達を知ったらしい。

 レムリア世界を自由に移動しているNPCということに興味を持ったのだろう。


「相変わらず活躍しているようですね。運営側も2人の素性調査は完全に断念したらしいですよ。下手に手を出してこの世界から消えられては大変だと認識したようです」

「それはありがたい話ですけど……。PKが増えたとか?」


 私の言葉に、2人が驚いたような表情で顔を見合わせた。


「やはり知っているということですね。3日に1度程度の頻度で発生していますが、どうやらPK犯と分かる表示を消すアイテムが闇で出回っているようです」

「町中で発生してなければ、それで十分ではないかと……。PK犯が愉快犯でない限り、経験値目当てということになるはずです。

 非合法のアイテムであるなら、いずれは足が着くでしょう。一番の問題点はこの北にある関所だと思いますけどね」


 レベル20に達しない冒険者は入国できない。

 この近くの獲物がどれほどの経験値を落としてくれるか分からないけど、その狩りを面倒くさがる者達が出てくることは分かっていると思うんだよね。

 ダンジョンの解凍が明後日には行われるから、それも1つの対策になるんじゃないかな?


「現状では目閉じることもできますが、非合法アイテムの存在は厄介です。捕り手達が住民の聞き取り調査継続中ですけど、私はフィールドで売買、あるいは手に入れたと考えているんです」


 そんなことが可能なんだろうか?

 例の侵入者達の残滓と言う事かもしれない。

 フィールドに出たら、また新たな目で周囲を確認する必要がありそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ