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139 2手に分かれて


 ララアさん達が倒したオオカミは、丸焼けになってるから毛皮を取ることが出来ない。

 タマモちゃんが牙を回収している。

 私の倒した方は毛皮と牙が取れるんだよね。倒した後に毛皮と牙が残っていた。

 剥ぎ取りをしないで良いのはありがたいけど、狩りの際に落とす品をあまり傷つけると回収することが出来なくなるらしい。きっと、リアル感を冒険者に持たせたかったんだろうね。


「終わったよ!」

「私も終わり、もう少しでセーフティ・エリアだから先を急ぎましょう」


 2kmほど先だから、セーフティ・鰓に釣尺して一休みしたところでシドンに戻れば良いだろう。

 今日は様子見だからね。無理は禁物ってことで良いんじゃないかな。


 九十九折りの山道だから、曲がった先が心配ではあるけれど、【探索】スキルで先が分かるから安心して歩くことができる。

 

「あれかな?」


 タマモちゃんが腕を伸ばした先には、両側の崖を削ったような広場があった。

 右手の方が広くなっているのがセーフティ・エリアということになるんだろう。大きな岩が周囲を囲んでおり、荷馬車なら数台は中におけるんじゃないかな。


 数個の石を積んだ門をくぐって、広場に入る。

 少し離れた場所に藪があるし、囲んだ岩の間から水が流れ落ちている。焚き木と水の補給はできるらしい。


「セーフティ・エリアとして機能しているみたいね。広場に魔獣の足跡はないみたい」

「24時間でフィールドは初期に戻ります。少なくとも今日は来なかったということでしょう」


 私の言葉にララアさんが追従してくれる。タマモちゃんはポットに水を汲んでいるから、お茶を沸かすのかな?

 焚き火跡に焚き木が少し残っているから、それを使って焚き火を作る。


「周囲に魔獣の反応はあるけど、小型みたい。この広場を避けてるよ」

「それが本来のセーフティ・エリアなんだけどねぇ……。問題は、この先だよね」


「やはり、野営の準備をしてきた方が良さそうですね。3日分は持っていますが、どうします?」


 まだキメラを発見していない。

 夜行性だとしたら、少し面倒なんだけど……。

 焚き火の番をするにしても人数が心許ない。でも人形に入っていれば、遅れを取ることは無いんじゃないかな?

 問題はタマモちゃんなんだよね。黒鉄くろがねをあらかじめ出しておいて、キメラが現れたら階梯を上げて上空に退避ということで何とかなるかな?


「タマモちゃん。黒鉄を出しといて、その傍で焚き火の番ができるかな? やってきたら、直ぐに空に逃げて欲しいんだけど」

「それなら簡単! お姉ちゃん達は人形を使うのね」


「それなら、私の人形にタマモちゃんを入れた方が安心ですよ。ラゴンは2座席なんです」


 ララアさんの説明では、ラゴンの機動と攻撃を2人で行うような人形らしい。

 ボルトの【レイガン】より強力な光魔法が使えるらしいんだけど、ララアさんのラゴンには【レイガン】の発射装置を撤去して、キュブレムのボルトに似た有線可動のボルトが搭載されているとのことだ。


「そんなわけで、私1人でも動かせるのですが、攻撃担当の座席はそのままなのです」


 実際には一体のなるんだから、座席という訳ではないんだろう。だけど、タマモちゃんを乗せて貰えるなら都合が良い。


「ラゴウに2人が一体化した時に、タマモちゃんだけが任意にラゴウから離れることはできるんでしょうか?」

「タマモちゃんも攻撃担当なんでしょう? だいじょうぶよ。本人の意思でラゴウからいつでも分離できるわ」


「それならありがたい話です。タマモちゃん。ララアさんと一緒に待機してくれない?」

「だいじょうぶ。キメラが来たら直ぐに尻尾を増やすね」


 尻尾を増やすと聞いて、ララアさんが首を傾げている。

 私達が階梯をさらに上げられることをまだ知らないみたい。できればあまり見せたくないけど、キメラのレベルは異常だからね。


 日暮れ前に焚き木を集めて、乾燥野菜と干し肉のスープを作る。

 パンは固く焼いたビスケットのようなものだから、スープに漬け込んで食べないと歯が欠けてしまいそうなものだ。

 それでも、食べないと体力が落ちるんだよね。

 体力が落ちると、パラメータ補正があるから、レベルに合わせた動きが出来ないのが問題だ。食事は定期的に! がレムリア世界の注意事項でもある。


 日が落ちると、セーフティ・エリアの周囲が虫の音で賑やかだ。

 眠るには少しうるさいけど、虫の音は騒音ではない。

 お茶を飲み終えると、黒鉄をタマモちゃんが呼び寄せ、ララアさんと一緒にラゴウの中に入った。

 私もキュブレムに入ると、焚き火の傍に腰を下ろす。


『これで、強襲されても、遅れを取ることは無いでしょう。私達が先に休んでもよろしいですか?』

『そうしてください。12時過ぎたら起こします』


 黒鉄の隣でラゴウが犬のような伏せの姿を取る。

 あれで寝られるなら問題ない。ララアさんの話では人形をアイドリング状態で使うようなものだから、魔石の消耗は気にせずとも良いと教えてくれた。

 とはいえ、私も歩き回ることはせずに、焚き火を見つめながら周囲の状況を探ることにした。


 この状態でも、バングルの操作ができる。

 操作というよりは、操作を意識すると機能が働く感じかな。

 周囲の魔獣の様子を探る【探索】を使い、仮想スクリーンを作る。普段は腕先にできるんだけど、キュブレムの中だと、脳内にできる感じだ。

 今のところは、セーフティ・エリアの200m以内に近付く魔獣はいないみたいだ。周囲の虫の音も、それを教えてくれる。


 たまに見てみようと、メールを確認する。

 数件しか無かったのは、私がメールチェックをほとんどしないからなんだろうね。

 シグから送られてきたメールはほとんどが、現状を伝えるものだった。

 

 どうやら、帝国の手前でイベントがあったらしい。

 石橋の門のカギを近くのダンジョンで探すというものだったらしいけど、入る度にダンジョンの構造が変わるという嫌らしいものだったと書いてあった。

 シグならねぇ……。リーゼとレナがいるから良いようなものの、シグだけだったら、何時まで経ってもその場から先に進めないんじゃないかな?


 5日前が最新だけど、帝国の最初の村でレベル上げをしているらしい。

 やはり魔族との闘いの最前線である帝国の魔獣の強さは半端じゃないようだ。

 

 警邏さん達のファイルを私は閲覧できるようだ。

 キメラのファイルを開くと、かつて倒したキメラがきちんと整理されている。

 気になったのは、キメラが1体だけではなく同じ種類のキメラが何体か倒されているようだ。

 そうなると、【粒子砲】放つオオカミも1体だけとは限らないということになる。

 あの光属性の高熱線を放たれる前に、上手くかわす工夫がいるだろう。ナナイさんは強化したとは言ってたけど、一瞬で右腕を使いものにならなくしてしまうほどだからね。


 確か岩石熊だったかな?

 ファイルを調べると、ゴーレムのような姿をした熊の画像が添付されていた。立ち上がると5mを越えるようだから、黒鉄の肩ぐらいにはなりそうだ。

 攻撃は、熊パンチと鋭い爪の斬撃らしい。

 バトルハンマーを跳ね返すとなれば、ちょっと攻撃手段が無いんじゃないかな?

【火炎弾】の一斉攻撃でさえ、ひるむことなく突っ込んできたらしい。


 黒鉄で押さえたところを、タマモちゃんの薙刀による斬撃! とはいかないかもしれない。ボルトの【レイガン】も強力にはなったけど、光属性魔法がどの程度効くかは、情報がないみたいだ。


 輪足たちの攻撃が全く効かないとなれば……。ロブネスの登場になるんだろうか?

 どう考えても、キング〇ドラだから、口から吐き出す熱線は超強力だ。

 それでダメな時には……。


 ピン! と何かの信号が脳裏に走る。

 周囲の虫の音がいつの間にか途絶えている。慌てて仮想スクリーンの画像を見ると、3体の魔獣がゆっくりとセーフティ・エリアに近付いているのが見て取れた。


 急いでラゴウを揺すってタマモちゃん達を起こす。


『やってきたのですか! ああ、これですね』

『3体は面倒……。大きさから、熊が2体にオオカミが1体じゃないかな?』


『オオカミは私がやるわ。クマの方をお願い。かなり固いようだから注意してね』

『了解です。タマモちゃん。上空で待機できる?』

『分かった。一応、ロブネスを待機させとく』


 ラゴウの隣にタマモちゃんが現れると、強い光を放ってアダルトタマモちゃんに姿を変える。

 そのまま九尾の尾を広げて上空に飛んで行ったけど、ラゴウが首を上げてタマモちゃんの姿を目で追っているのは、ララアさんが驚いているのだろう。


『さらに姿を変えたのですか?』

『魔法も強力ですけど、あの薙刀の斬撃も半端じゃないですよ。それの一角に光が集まっていますけど、あれがタマモちゃんの2体目のしもべなんです』


 北東方向から近付いてきた魔獣が、100m程近付いたところで2手に分かれた。

 1体が街道に出ようと西に移動し、残りの2体が南下を始める。

 全く異なる魔獣が連携するとは考えられないから、やはり相手はキメラということになるんだろう。


『たぶんオオカミは街道沿いに南下して来るようです。こっちは私が……』

『熊は輪足たちの担当ですね。少し方向を変えましたね。なるほど逃がす気は無さそうです』


 ラゴウに手を振って、街道を北上する。

 右腕の装甲板から長剣を引き抜き、何時でも即応できる体制で進む。

 

【探索】で表示された魔獣との距離は30mにも満たない。たぶん前方の曲がり角を抜けると、鉢合わせしそうな感じだ。


 その場でキュブレムの速度を上げて崖の側面を滑るようにして曲がり角を抜けると、あのオオカミが口を開け中に光りを貯めこんでいた。

 ジャンプして射線を外すのが、どうにか間に合ったみたいだ。

 反対側の崖に着く前に、私の後ろで大きな炸裂が起こった。

【粒子砲】の直撃を受けた崖の土砂が水蒸気爆発を起こしたのだろうか?

 変なところまでリアルを追求してる、と感心してしまう。


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