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138 ララアさんのお人形


 山道の手前の街道傍で、焚き火を作り昼食を取る。

 セーフティ・エリアが山道の途中にあるらしいけど、使えるかどうかは怪しい限りだ。 

 レベル15程度の魔獣が闊歩するような場所だから、少しぐらい障壁のレベルが高くともキメラの影響を受けた魔獣ならば容易に入って来るかもしれない。

 

「この先は、何時魔獣が出てきてもおかしくないでしょうね」

「近くに何匹かいる。でも近付いてはこないよ」

「草食獣かもしれないよ。大きな鹿がいるらしいから」


 仮想スクリーンに映し出された画像には、周辺の魔獣が映し出されている。【探索】スキルの賜物だけど、魔獣の種類までは分からないんだよね。設定で相手のレベルや大きさのフィルタリングができるんだけど、キメラだけを抽出して移すことができないのが問題かなぁ……。


「このまま、山道に入るのですか?」

「出来れば、この先にあるセーフティ・エリアの状態を確認したいと思っています。機能しているなら、ベースキャンプを作れますから」


 ララアさんの問いに答えると、小さく頷いてくれた。作戦としては問題ないということなんだろうね。


「距離があるみたい」

「GTOを使いましょう。でも、直ぐに戦闘になるかもしれないよ」

「なら、黒鉄くろがねの肩に乗って行く」


 それなら疲れないだろうし、万が一の盾にもなる。

 お茶を飲み終えたタマモちゃんが早速黒鉄を呼び出している。


「不思議なゴーレムですね。ナナイの机の上にも、似たロボットが置いてありました」

「最初は、あんな形じゃなかったんです。少しずつ変化して今はあの形態です」


 たまにスクショを取るプレイヤーもいるんだよね。

 金属製のゴーレムだと説明してはいるんだけど。


「私も、人形を出しておいた方が良さそうです」

「人形の稼働時間によって、魔石を消費すると聞きましたけど?」


「予備の魔石をあらかじめ体内に入れておけば、稼働時間の制約は余り考えないで済みます。私のラゴンには2個、モモちゃんのキュブレムは3個搭載しているはずですよ」


 ララアさんが取り出した人形は、ワンちゃんだった。

 少し離れた場所に犬の人形を置くと、距離を取って杖をかざす。

 人形から発せられた光で思わず瞼を閉じてしまった。ゆっくりと目を開けると、体長6m程のオオカミの親戚のような犬型の人形が目の前に具現化していた。


「かなり機動力がありますよ。モモちゃんのキュブレムと同じで、ラゴンと私が一体化して動くんです。たぶん、レベル20に近い働きが出来るはずです」


 タマモちゃんが黒鉄から下りて、ララアさんの人形を撫でている。銀色の体毛で覆われてるから、ちょっとモフモフ感があるのかな?


「私達も階梯を上げておきます。レベル20になるはずですから、それなりに動けるはずです」


 ニンジャと枢機卿に姿を変える。ララアさんは冒険者のような出で立ちのままだけど、神官職なんだろう。身長ほどの杖をそのまま持っている。


「お姉ちゃん!」

 

 トコトコと私のところにやってきたタマモちゃんが、仮想スクリーンを開いて私に見せてくれた。

 タマモちゃんが指さした場所はレベルの欄だけど……、レベルが25になっている。

 慌てて、仮想スクリーンを開いて自分を確認すると、やはりレベル25と表示されていた。

 イザナミ様が、相手のバランスを考えて変えてくれたのかな?


「これなら、このままでも大丈夫じゃないかな? だけどキメラが出たら、すぐに階梯を上げるのよ」

「分かった。だけど群れで来たら……?」


 タマモちゃんの心配そうな顔を見て、頭をグリグリしてあげる。

 子供じゃない! と嫌がってるのは、ツバキュロムやはり子供だからだよね。


「その時には、一目散に逃げましょう。ララアさんもそうしてください。単体相手なら何とか出来ても、群れは相手にしたことがありませんから」

「了解。でも、そんな魔獣が連携した動きはしないんじゃない」


 その考えもあるんだけど、先ずは安全第一で行こう。

 先頭を黒鉄に乗ったタマモちゃんが進み、そのすぐ後ろをラゴンの背に乗ったララアさんが続く。私は殿だけど、遊撃担当だから直ぐに相手の横に移動できるよう周囲の状況を確認しながら歩いている。


 1時間程歩いたところで、黒鉄が歩みを止めた。

 急いでタマモちゃんのところに向かう。


「8頭いる……。道を塞いでいるみたい」

「側面にも5頭いるようです。退路を塞ごうというのでしょうね」


 仮想スクリーンを開くと、確かに150m程先に赤の輝点が4つある。右側の崖の上に起点が重なっているのが、ララアさんの言う5頭ということになるんだろうか?


「お姉ちゃん凄い! 私にも数は分からないよ」

「勘でしょうか……。脳裏に浮かぶのです」


 スキルにそんなものは無かったと思うんだけど。

 

「超能力という訳ではないんですが……」


 ララアさんは、リアル世界では寝たきりの生活を送っているらしい。交通事故が原因ということだけど、病室を訪ねてくる人達を事前に知ることができると教えてくれた。


「フラナガン博士の話では、脳幹に強い衝撃を受けた人達の間で、たまにそのような事例が起こると言ってました。フラナガン研究所には、私のような患者が数人暮らしているのです」


 超能力開発研究所という感じなのかな?

 何か、怪しさ爆発なんだけど、危険予知ができるなら私達の暮らしにも役立つかもしれないな。


「2秒後の動きまで知ることができますよ」

「【予知】ということですか?」


 ララアさんが笑みを浮かべて頷いてくれた。

 それって、負けなしなんじゃないかな?

 攻撃を避けるどころか、自分の攻撃結果まで分かるんだから……。

 タマモちゃんと思わず顔を見合わせてしまった。


「でも、モモちゃんにも似た能力があるようです。キュブレムを動かすだけなら【人形使い】のスキルを持てば十分でしょう。ですが、ボルトを動かすのは【人形使い】の能力だけではできないんです」


 私の最後の日々は別途の上での暮らしだった。それは電車事故が原因なんだけど、やはり頭も打っていたに違いない。

 あのまま入院していたら、能力が開花したのだろうか?


「どうします?」

「それなら、タマモちゃんとララアさんで通せんぼしている方をお願いします。側面にいる方は、位置は私にもわかりますから何とかします」


「たぶん、前方との戦闘が始まれば側面が動くでしょう。隊列はこのままで良いですね?」

 

 ララアさんに頷いて、人形を取り出す。

 一回り大きくなったけど、色と形は前と変わらないんだよね。

「動け!」と念じると、キュブレムが閃光を発して大きくなる。黒鉄よりは小さいけれど身長は4m近いんじゃないかな?

 キュブレムの胴体に手を触れると、そのまま体が吸い込まれていく。


『タマモちゃん。私が口を開いたら目を閉じてね!』

「分かった。魔法を使うのね」


 閃光系の魔法ということかな?

 相手の目を眩ませて、その隙に切り込むということなんだろう。

 それなら、、ララアさんが相手をしても問題ないかもしれない。何と言っても黒鉄は攻撃ができる壁そのものだからね。


 黒鉄の歩みに合わせて街道を進む。

 九十九折りの曲がり角を越えると、街道を塞ぐ魔獣が見えてきた。

 かなりの数だが、オオカミは通常の大きさだ。それでもポニー並みの体格をしている。タマモちゃんなら、不利だと感じればさらに階梯を上げて上空に飛ぶんじゃないかな。


 右側面に潜んでいた魔獣も街道に向かって動き始めている。なるほど、ララアさんの言う通り5頭いる。


『始めるよ!』


 ララアさんの合図で、黒鉄とラゴンが駆けだしていく。速度差でラゴンが前に出るのはしょうがないね。

 前方を2人に任せ、街道をこちらの向かってくる魔獣に備えてキュブレムの向きを変えた時だった。強烈な光が周囲に広がる。


 閃光の一種だと思っていたけど、予想よりもかなり強烈だ。後方にまで閃光が広がっている。

 黒鉄は力技だから、ララアさんの人形が原因なんだろうけど……。


 右腕全体を覆う装甲板の裏から、長剣を取り出す。刀身が2m近い代物だから長剣なんだろうけど、忍刀と同じように使えるのが嬉しいところだ。

 前傾姿勢で、魔獣が現れるのを待っていると、直ぐにこちらに駆けてくるオオカミの群れが現れた。

 お尻の装甲板を上げて、ボルトを放つ。

 左右に飛んで行ったボルトが私の上空で円を描くのが分かる。

 

 オオカミが20m程に迫った時、キュブレムを突入させた。

 剣を横なぎに振りながら、オオカミの群れを越えたところで反転して剣を構え直したのだが、街道に立っているオオカミはいなかった。

 倒し損ねたオオカミをボルトが始末してくれたようだ。

 ボルトを回収しながら、街道を進む。

 まだタマモちゃん達は頑張っているのかな? 数が多いと連携して襲ってくるから、オオカミは面倒なんだよね。


『そちらも、終わったのですか?』

「こっちは、片付いたよ。お姉ちゃんの方は?」


 2人の声を聞いて、キュブレムを下りた。

 バッグの中にキュブレムを入れると、すでに人形や黒鉄を片付けた2人が倒したオオカミの調べをしている現場に向かった。

 

 それにしても……、オオカミが全て焼かれているようだ。

 タマモちゃんが派手に【火炎弾】攻撃をしたのかと思ったんだけど、それにしては街道に炸裂痕が見当たらない。

 定期的にフィールドは補修されるんだけど、それは夜の時間帯に行われるんだよね。


 近くのオオカミを見たら、斬撃痕がある。

 気になって、もう1頭をひっくり返したら、やはり斬撃の跡があった。

 このオオカミ達は、【火炎弾】で引き裂かれたのではなく、斬り殺されたということなんだろうか?


「凄かったよ! ララアお姉ちゃんが、ピカッ! てやったらオオカミが炎に包まれたんだもの。後はララアお姉ちゃんと私で始末するのは簡単だった」


 頭が潰れているオオカミは、タマモちゃんにやられたんだ。それにしても……。


「これがラゴウの力なのです。【拡散粒子砲】を使えるのですが、戦闘中に1回だけという縛りが不満ですね」


 少し見えてきた。

 ナナイさんも【粒子砲】の魔法を研究していたのだが、その研究成果がラゴウのが使える魔法止まりという事なんだろう。

 ララアさんを私達に同行させて、キメラの使う魔法をもっと詳しく調べたいという事なんだろうね。

 


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