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137 ジョーさんからの頼まれごと


 宴会を途中で抜け出して、何時もの部屋で休むことにした。

 タマモちゃん用のベッドにララアさんが横になり、私はタマモちゃんと一緒に寝る。

 小さな部屋の方が落ち着くと、部屋に入るなりララアさんが言ってたけど、普段はどんな部屋に寝てるんだろう?

 アズナブルさんの館の客用寝室はこの部屋の10倍はあったんだよね。ベッドも渡したタマモちゃんが縦じゃなくて横に寝られるほどの大きさだった。

 雰囲気にのまれてしまって中々眠れなかったんだけど、アズナブルさん達はあんな部屋でないと眠れないのかな?


 翌朝、私が起きた時には通りが全て片付けられていた。メリダさんに片付けをサボったお詫びを言いながら朝食を取る。

 すでに旅支度を終えたタマモちゃん達はテーブル越しの席に座ってお茶を飲んでいる。


「今日は、どこまで?」

「トランバーから東の島のニネバに向かい、ベジート王国のポテラに向かおうかと」


 2人で地図を広げて、町の場所を確認しているようだ。

 

「東の島も大きいのですね。一応、王国ではあるようですが……」

「まだ冒険者はシドンの待ちまでみたい」


 王都自体が凍結中ということなんだろう。フィアナさん達もその辺りのことは詳しく教えてくれなかったから、案外小さな王都なのかもしれない。


「レベル的には問題なさそうですね。イベントが済んでいるなら、冒険者の多くが王都を過ぎているように思えます。王都まで足を延ばすのですか?」

「街道の魔物のレベル次第ということにしませんか? ララアさんのレベルでどこまで行けるのかは行ってみないと分かりません」


「兄は帝国に向かうならレベル20が目安だと言っておりました。たぶん、国境の検問所で確認されるでしょうから、そこまでになりそうですね」

「それなら、シドンとポメラで狩りを楽しみませんか? 急にレベルは上げられないと思いますが、次にララアさんが来る時の参考にはなるかと」

「良いですね。明日はシドンの周辺ということですね」


 レベル的には簡単な狩りになるはずだ。騎士団の活躍次第ではシドンの南北の村も半ば解凍が進んでるんじゃないかな?

 それに、万が一キメラと遭遇しても、ララアさんなら自分を守ることはできるだろう。

 案外早くに、ララアさんの人形を見ることもできるんじゃないかな。


「ほら、お弁当だよ。かなり遠くまで行くようだけど、また珍しい食材を運んできておくれ。それにしても、昨夜の海鮮鍋は美味しかったね。私には、どうやって料理して良いものか分からなかったけど、鍋にすれば大概のものは食べられると皆も納得していたからね」

「ありがとうございます。珍しいものですね! ちゃんと覚えておきます」


 朝食後のお茶をゆっくりと頂いて、私達は花屋の食堂を後にする。通りに出ると、直ぐに【転移】を使って、【シドン】の町に向かった。


 シドンの町の教会の裏庭に出たところで、ギルドに向かって歩いて行く。

 短時間の逗留だったけど、ギルドと警邏事務所は覚えている。


「タマモちゃん。ララアさんとギルドに行ってくれないかな? 私は警邏事務所に挨拶してくるから」

「フランソワさんのところ? 良いよ。分かった」


「状況報告ですか?」

「ついでに状況を確認してきます。だいぶ冒険者が流れているようですから、トラブルもあるんじゃないかと」


 ララアさんが頷いているところを見ると、一緒に同行する気は無いようだ。

 あまり警邏事務所に近付きたくはないのかもしれないね。


 通りの途中で2人に手を振って別れて、警邏事務所の扉を開く。

 ホールにいた警邏さんが一斉に私を見るんだけど、これはちょっとやめて欲しいところだ。


「やあ、何かトラブルかな? こちらで事情を聞かせてくれないか」

 

 若い男性が近付いてきた。

 やはり、冒険者同士のトラぶっるだと思ってるんだろうね。

 男性の後に付いて入り口近くのテーブルに向かって歩いていると、「モモちゃんじゃないか!」と大きな声が聞こえてきた。


 中も警邏さん達をかき分けるようにしてやってきたのは、ジョーさんだった。

 奥の扉の方に向かって、私を指差して手招きしてるのは、バディのフランソワさんに教えているんだろう。


「先輩、このを知ってるんですか?」

「知ってるよ。例の騒ぎを解決してくれた冒険者さ。あれ、もう一人は?」


 私の隣にタマモちゃんがいないことに気が付いたみたいだ。

 そのままテーブルに案内してくれたので、席に着いて話を進める。


「同行人をギルドに案内してるんです。せっかくシドンまで来たんですが、例の事件で周辺の狩りができませんでしたので」

「そういうことか。シドンの南北に村があるのは知っているよね。現在は南に向かって騎士団が動いているんだ。北は、この町が見える範囲としている」


「南の村は動きだしたけど、北は未だということですか?」

「そうなの。南のサウラ村とケプール町までは調査が終わって、ケプール町を拠点に騎士団が南端まで調査をしているけど、特に異常は無いみたい。だけど北については騎士団が何度も死に戻りをしているの。レベル15で死に戻りは異常だわ」


 シドンから南北に走る街道がこの島の重要な街道になるらしい。

 シドンはある意味要衝なんだろうね。その直ぐ北にある村の手前辺りで死に戻りがあるようなら、しばらくは北に向かうルートを閉鎖する外なさそうだ。

 騎士団の人達のレベルは一定ではなさそうだから、南の調査を継続しながらレベル上げを行っているのだろう。

 この島に渡って来る冒険者の多くはレベル10に満たない人達だから、ギルドの忠告に従っている限り問題は無さそうだ。


「出来れば北のキメラを何とかして欲しいんだが……」

「相手は?」

「光属性の【粒子砲】を使うオオカミと岩石で覆われた熊だと報告があったわ。クマは【斬撃】スキルのような攻撃をしてくるそうよ。騎士団のプレートアーマーが簡単に引き裂かれたと言ってたわ」


 オオカミや熊はこの島に初期配置された獣ということだから、変異したものに違いない。

 オオカミも厄介だったけど、今度は熊も一緒なんだ。


「取り巻きは初期配置されたレベルを2つほど上がった連中だ。モモちゃん達の報告にあったように、影響を受けているということなんだろうね。そもそもオオカミと熊が連携するなんて設定は無いんだ。オオカミはニネバの北方を縄張りとしてるし、クマは北の村から北東の山麓が縄張りだからねぇ」

「同行人がいますから、無理はできませんが……」


「騎士団の報告は、警邏のファイルに入っているから、モモちゃん達なら読めるはずだ。お願いするよ」


 レムリア世界の安全を守るというのが私達の役目なんだから、ジョーさん達に頷いて警邏事務所を後にした。

 やはりニネバ周辺だけではダメだったということなんだろうね。北の村周辺までの状況を初期設定に戻すまでは、何とかしてあげないといけないみたいだ。

 

 警邏事務所を後にしてギルドに向かう。

 少し長話をしてしまったから、ギルドてタマモちゃん達が退屈してるんじゃないかな?

 ギルドのホールに入ったところでテーブルを素早く眺めると、奥のテーブルで2人がお茶を飲んでいる。テーブル越しに3人の男性が座っているようだけど、話掛けられてもタマモちゃん達は素知らぬ顔をしている。


「なあ、良いだろう? 2人じゃ何にもできないぜ。俺達はこのギルドで筆頭のレベル10なんだから、俺達の後ろにいるだけでレベルは上がるんだぜ」


「あら? お誘いってことかしら。出掛けるわよ。依頼があったの」

「そうね。ギルドのおもしろさはこの方々で分かったけれど、カウンターには寄らなかったんでしょう?」


「警邏事務所からの依頼よ。報酬は……。言ってなかったから結果次第ってことになるんだけど」

「北ということね。相手は?」


「レベル15の騎士団員を死に戻りさせる相手よ。オオカミと熊らしいけどね」

「お姉ちゃんの人形を壊した相手?」


「たぶんね。今度の人形でどこまでやれるかは分からないけど」

「ナナイなら、それも加味しているはずだわ。それじゃあ、出掛けましょう」


「おいおい、ちょっと待てよ。後から来て、俺達の勧誘の邪魔をするのは問題じゃねぇのか? 通報ってこともあり得るんだぞ!」

「あら? 私は元からパーティを組んでるのよ。それにNPCをパーティに組むのはそもそも不可能なんだけど」


 慌てて、私の頭上を確認している。

 ちょっと驚いてるのはNPCだと分かったからだろう。


「そっちの女性はプレイヤーなんだろう? おかしいじゃないか!」

「同行人なの。それは可能みたいね。それに、貴方達の後方でレベル上げをするなら単独行動した方がレベルは上がるわよ。彼女のレベルを確認できなかったでしょう? それがどういうことかぐらいは分かるはずよね」


 私に向かって抗議しようと席を立ちかけた若者が、力なく席に腰を下ろした。

 ちゃんと理解してくれたようだ。

 レベル差が大きい場合は、相手のレベルを確認できない。

 シドンの町で、女性が2人で来るようなことは無いんじゃないかな?

 パーティに誘うなら、始まりの町であるトランペッタが一番だと思うんだけどね。


 ギルドを出ると、東の城門に向かって歩き始めた。

 こっちの門に来るのは始めてだけど、町の作りはどこも似た感じだからあまり違和感が無いんだよね。少しは変化を付けても良さそうに思えるんだけど。


「真っ直ぐに向かうのですか?」

「城門を出ると直ぐに南北に走る街道があるらしいから、街道に出てから休憩しましょう」


「GTOで行かないの?」

「それだと、直ぐに戦闘が始まっちゃうよ。歩いて様子を見ながら進んでいきましょう」


 タマモちゃんはちょっと不満そうだけど、やはり慎重に行くしかないだろう。

 キュブレムの片腕を使えなくした魔獣なんだからね。それに熊もいるんだから。


 東門の門番さんが、北ではなく南に進むようにと声を掛けてくれた。

 笑みを浮かべて頭を下げると、槍を上げて「頑張って来いよ!」と声援してくれる。

 愛想の良い門番さんもいるんだよね。


 石畳の道を10分も歩くと、南北に延びる街道に出た。

 北を見ると直ぐ側まで山が迫っている。低い山だけど峠道ということになるんだろう。

南の方は草原の中に林が何カ所かあるようだ。


「北は難所ということになるんでしょうね。南の村でレベルを上げて挑戦という設定に思えます」

「それでもレベル15の騎士団員を容易に死に戻りさせるようでは問題です。少し行ったところで作戦を考えましょう」


 少なくとも草原が続く辺りなら比較的安全じゃないかな。

 山道に入ってからということになるんだろう。隘路で前後を塞がれるようなことが無いようにしなければならない。


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