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136 宴会が始まってた


 理系を目指したいという女の子に、ララアさんがメモを渡して、「レベル10になったら、スキルを2つ開けてラグランジュのギルドでこれを渡しなさい」と言っていた。

 ちらりと見た2人のステータスはレベル1の新人だ。レベル10に上がるのは遥か先になるんじゃないかな。


「戦士でしたけど、レンジャーのスキル構成でした。戦士として大成するには問題がありますが、あのような若者が来ていただけるならラグランジュは発展するはずです」

「リアル世界でも……、と言ってましたよね?」


「財団の奨学金で海外留学も可能ですよ。優秀な科学者を育てるのが財団の使命です」


 優秀な科学者は大卒では無理と言うことなんだろうか?

 まあ、日本ではねぇ……。理系の院生として残っても就職先を探すのは難しいと、シグが話してくれた。

 

「何事も、平均が良いらしいよ。出る杭は打たれるって話もあるだろう?」

 そんな話を事故の前、皆で話してたんだよね。


「だいぶ賑やかになってますね?」

「あれ! そう言うことか……。花やの食堂の周りは職人街なの。利用客がそんな人達ばかりだから」


 通りにまでテーブルや椅子が並んでいた。

 すでにワインを飲み始めた小父さん達や冒険者までいる。


「お姉ちゃん。運ぶのを手伝って!」

「ちょっと待ってね!」


 ララアさんにも手伝って貰って、ワインを運ぶ。

 お嬢さんに見えたララアさんが、嬉しそうな表情で手伝ってくれる。

 おじさん達とちょっとした会話を楽しんで、たまに一緒になって笑い声を上げている。


「ラグランジュ王国だって! 西の外れじゃないのか」

「ちょっと他の王国も見てみようと、モモちゃん達に付いてきたんですよ」


「確か、鎖国に近いと聞いたけど?」

「レベル10を越えない冒険者を入国させないのが王国の定めなのです」


「それじゃあ、お前等は逆立ちしても無理なんじゃないか!」

「この間、イノシシを狩ってきたんだ。もう少しだよ」

「なら、乾杯だ!」


 何の乾杯なんだろう? 酔った人たちの行動には、ちょっと理解できないところがあるんだよねぇ。

 

 皆で手分けしてカップやボトルを運ぶと、おばさん達の近くに席を確保した。

 通りの真ん中に炉を作って、三脚で吊るした大鍋から良い匂いが漂ってくる。


「早めに食べて、手伝っておくれ。近所だけだったんだけど、何時の間にかこの通りなのさ」

「近くを通り掛った冒険者に、警邏さんや捕り手のお兄さん達ですか!」


 ちょっと呆れた人数だ。前にやった歓迎会より多いんじゃないかな?


「まあ、賑やかなのは確かだね。トランバーから嫁入りした娘が何人かいたから助かったよ。婆さん連中も感心してたぐらいだよ」

「鍋の中は、トランバーってことですね!」


 私の言葉に周囲のおばさん達が笑い声上げている。その通りってことなんだろうね。


 海鮮スープに丸いパン、それとワインの夕食なんだけど、いくつもの光球が浮かんだ通りでの食事ということで、何時になく新鮮な感じがする。

 お代わりを要求する冒険者達に、「ただなんだから1杯だけだ!」なんて声も聞こえてくる。


「いつもは静かな夕食ですけど、皆さんと一緒に騒ぎながら頂くと何倍も美味しく感じますね」

「そうかい? この辺りで、こんなカニ料理を食べられるなんて思ってもみなかったけど、やはりスープの味が違うんだよねぇ……」


 ララアさんにとっては庶民の味ということになるんだろうな。

 この先は、もっと質素な食事が続くんだけど、タマモちゃんと顔を見合わせながら、ヤドカニを狩った時の思い出話をしているぐらいだから、問題は無さそうだね。


「済みません! このカニをし止めた冒険者は、本当に貴方達なんですか?」


 話しかけられたので後ろを振り返ると、2人の男性が立っていた。

 革鎧姿に長剣を下げているから戦士ということになるんだろうな。年代はチコさん達より年上に見える。大学は卒業ってことかな?


「そうです。3人で狩ったんですけど、狩りの様子は、あの子達がおばさん達に披露してますから、聞いてはどうですか?」

「そりゃあ、調度良い。レベル6になったので、そろそろトランバーに向かおうと思ってたんです。……おおい! お前達も、ちょっと来てくれ」


 少し若い男性と女性達がやってきた。

 タマモちゃん達の後ろに、ベンチを運んできて狩りの様子を真剣な表情で聞いている。

 できるだけ次の町の状況を仕入れようということなんだろう。だけど、私達の狩りの方法が参考にできるんだろうか?


「やはりモモちゃん達だね」


 ポンと私の肩を叩いたのは、ダンさん達だった。

 椅子を持参して私の近くに座ると、アンヌさんがワインのカップを2つ運んでくる。この2人も出来てるんだよねぇ……。


「ニネバで大変な目に会ったらしいが?」

「ラグランジュで頂いた人形が壊れてしまうほどでした。代わりの人形を頂いて、ついでにラグランジュのララアさんを旅に同行することになったんです」


「あの娘だね。さすがはセレブ……、こんな場所でもそれなりの優雅さを持ってるなぁ」

「でも気になるところよね。わざわざ妹を託したんでしょう?」


「ラグランジュはかなり閉鎖的な王国ですけど、西の群島との貿易をしているようです。水棲魔獣との遭遇戦をしているようでしたよ」

「定期航路には大型の水棲魔獣は近づかないような設定ではあるんだが、例の影響なんだろうか?」


「前宴情報が無いんですもの。考えてしまうわ。でも、それならなおの事、こっちには無関係を決め込むんじゃないかしら?」

「警邏の各事務所には伝えてきたんだが、モモちゃん達と同行するとしか言ってこなかったからね。捕り手や、騎士団も悩んでるみたいだよ」


「レベル的にはトランバーから北上しても問題はありません。それに人形は結構使えますし、どこかの施設に長期入院していたような話をしてましたから、レムリア世界で羽を伸ばしたいだけなのかと」

「ああ、そんな人達もかなり参加してるんだ。寝たきり老人が、この世界では戦士になれるんだからね。この間は、老人ホームの仲良し5人組が若者相手にPVPをしてたよ。

 元気な爺さん達だったな」


 アンヌさんと顔を見合わせて笑い声を上げている。

 そんな人達もいるんだ。

 レムリア世界ではリアル世界の容姿をあまりいじらない人達が多いけど、種族を変えて見たり、スマートな体形にしたりと案外楽しんでるんだよね。

 さすがにお爺ちゃん戦士やお婆ちゃん魔導士は見たことが無いから、50年前の自分だ! 何て言いながら容姿を変えてるのかな?


「ところで、人形を破壊したのは?」

「ラグランジュのナナイさんは【粒子砲】だと言ってました。光属性の高位魔法のようですが、その術式をナナイさん達は研究中みたいです」


「高位魔法は、まだオープンされてないんだよなぁ。そう言うことか」

「開発が間に合わなかったという事? それでレムリアを市場に出したなら、見切り発車も良いところね」


「その為に王立魔法研究所があるんだろう? あそこは廃人プログラマーの巣窟らしいぞ」

「聞いたことはあるけど、それってどこに属してるのかしら?」

「仲間からの話では、文科省の下部組織らしいね」


 うわぁ……、あまり聞いては行けないような話をしている。

 だけど、そういうことなら各王国で、上位魔法の研究開発が行われて将来は魔導士が使えるようになるんだろうか?

 シグ達だってレベルは20前後だろうから、中位魔法に手が届くかどうかだろう。上位魔法を使えるレベルはかなり高く設定されているに違いない。

 それなら、現在開発中ということでもゲームストーリイ上何も問題は無いし、そんな状況であることに気が付くプレイヤーもいないはずだ。


「ラグランジュのお嬢さんと別れたら、ゆっくりと話したいね」

「この後、トランバーから北上するつもりです。帝国に足掛かりを作ったところで、またあちこちを旅しようと思ってます」


「ところで、警邏からの報酬を辞退したんですって?」

「突発的な依頼なら報酬を頂きますけど、月単位で頂くのは考えてしまいます。一応冒険者ですから、そのぐらいは何とでも出来ますし」


 月に銀貨20枚は魅力だけど、それって紐付きだよね。

 やはり協力者というスタンスでいた方が自由で良いんじゃないかな?


「残念だけど、協力関係は維持して欲しいな。騎士団も触手を伸ばそうとしてたから、警邏組織の一部だと言っておいたんだけどね」

「その辺りは、よろしくお願いします。今まで通りに協力は惜しまないつもりです」


 私の肩をポンポンと叩いて微笑んでいる。

 アンヌさんを連れて去って行ったけど、また何か起きてるんだろうか?

 ララアさんが同行しているのも、単なる本人の気まぐれではないはずだ。ラグランジュ王国は諜報機関のハモンさんが活躍しているようだから、警邏さん達の知らない何かを知っているのかもしれないな。


「あら、あまり飲んでいないのね?」


 ララアさんが私のカップにワインを注いでくれた。

 渚の狩りの話は、終わったのかな?


「冒険者の方々には、ヤドカニ狩りの方法をお教えしましたよ。先ほどの方は警邏の方ですね。やはり奇異に思えるのかもしれませんね」

「ラグランジュ王国が閉鎖的だからだと思います。ラグランジュの警邏は他の王国の警邏と組織が異なりますから」


「交流はしてますけど、警邏の上位組織はことなかれ主義ですから。ナギサさんはたまに館に来ることがあるんです」

「現場サイドだけでも交流があれば十分だと思います。でも上が仲違いは問題ですね」


 あの濃い人とアズナブルさんが会話をする姿が想像できない。

 あまり考えると、悪夢を見そうだからやめておこう。


「そんなこともあり、ラグランジュ王国以外で初めて【人形使い】のスキルを持っているのです。変わった人形を持ってますよ。ラグランジュでは誰も使わなかったのですが、ナギサさんは『可愛い!』と言ってました。あの時同席した全員が口をポカンと開けてしまいましたよ」


 その時の光景を思い出したのだろう。ララアさんがクスクスと笑い声を上げている。

 どんな人形なんだろう?

 動物系なのかな? それともフランス人形みたいなものかな……。かなり濃い人なんだけど、人形を愛でる趣味があるなら悪い人ではないはずだし、あの事務所では一目置かれた立場だった。

 また会う機会もあるんじゃないかな? その時は是非とも見せて貰わなくちゃ。


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