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135 理系を目指す女の子達


 トランペッタに到着した私達は、ララアさんを連れてギルドに向かった。

 ララアさんはグラナダで冒険者登録をしているから、ギルドで到着の登録をすれば、何時でもこのアンチに来ることができる。

 

「はい。完了です。ラグランジュから訪れた冒険者は初めてです。ゆっくりと楽しんでくださいね」


 カウンターのお姉さんがララアさんにカードを返してくれたところで、今度は花屋の食堂に向かう。

 宿泊は行っていないと言ってたけど、私達は特別らしい。


「おや? モモ達じゃないか。今日、帰ってきたんだね。2階は空いてるよ。一緒のお嬢さんもだいじょうぶだよ」

「お願いします! 夕食前には戻りますけど……。メリダさんは、魚介類も料理できますか?」


「だいじょうぶさ。魚介類は、焼くか、スープにすれば大概のものは食べられるからね。だけど町の市場で出回るのは乾物ばかりなんだよ」


 メリダさんの話を聞いてタマモちゃんが笑みを浮かべて頷いている。

 どうやら狩りの方向性が見えたに違いない。


 店を出たところで、ララアさんとタマモちゃんを呼びよせると、再び【転移】を行い、トランバーの町に向かった。


「今日はいろんな町に行くのね?」

「この町の近くで狩りをするんです。大きなヤドカリがいるんですよ」


 グラナダも皆と町だから魚介類が豊富と聞いたんだけど、館で出てくる料理にはあまり出てこなかったんだよね。

 教会の裏庭からギルドに向かい、トランバーの町にも【転移】ができるようにしておく。


 ギルドで到着報告を行ったところで、急いで町の外に出た。

 まだ昼前だけど、途中で買い込んだお弁当があるから、狩りの途中で頂けるだろう。


 トランバーの南に広がる砂浜を見て、ララアさんが感動しているところを見ると、やはりグラナダからあまり遠くに出掛けることは無かったようだ。


「綺麗な渚ね……。ところで、獲物はいないようだけど?」

「町の近くだからでしょうね。ここから渚に沿って南へと向かいます。ララアさんはサングラスを持ってますか?」


 私の問いに、ララアさんがバッグからサングラスを取り出した。


「持って来たわ。でもそれほど眩しくはないけど?」

「移動時にしといた方が良いですよ。私達はこれを着けますから」


 皮の帽子にゴーグル姿なんだけど、雑貨屋で売られてるんだよね。砂漠地帯もあるだろうし、仲間が風魔法を使う時には必需品になるからかもしれない。


「モモちゃん!」

「分かった。GTOを出すよ!」


 タマモちゃんがムチをパチン! と一振りすると、眩しい光が私達を包む。

 その光が収まると、何時ものようにGTOが目の前に現れた。


「これって……、人形なの?」

「私の獣魔だと思う……。GTOっていうの!」

「そう。大きくて立派なカメさんねぇ」


 ララアさんの言葉を聞いて嬉しそうにタマモちゃんが頷いている。『大きいのは正義!』なんて思ってるんだろうな。

 甲羅の上に私達が乗り込むと、タマモちゃんが出発を告げる。途端にGTOが南に向かって走り出した。


「凄い! 陸上をこれだけの速度を出すのは人形でも無理なんじゃないかしら?」

「乗り物としては右に出るものは無いでしょうけど、前に頂いた人形の機動も負けないぐらいでしたよ」

「人形は使いて次第。モモちゃんがそれだけ優れた人形使いということなんでしょうね」


 人形を始めて使った時に、【人形使い】のスキルを手に入れたけど、今は【傀儡くぐつ】というスキルに変わっている。職種であるニンジャで多用するからだろうか?

 動きまでもが良くなった感じなんだよね。


「いたよ! 冒険者が頑張ってる」

「大きいのね。戦士が3人に魔法使いまでいるけど、まだ倒せないのかしら?」


「あれはヤドカニですね。大きな貝の下にカニが隠れてるんです。背中の貝を破壊しないとカニに攻撃が届きませんし、カニの甲羅も硬いんですよ」


 結構手こずっているところを見ると、レベル6か7ぐらいかな?

 北に進むか東の大陸に向かうかで、悩みながらの狩りなんだろうね。


 さらに南に向かうと、今度は複数のパーティがサオラに向かって長剣を振り回している光景に出会った。

 あれは空飛ぶ魚の群れとの戦いだろう。上手く狩れればいいんだけど、トビカツオの群れなら死に戻りもありそうだ。

 空飛ぶ鈍器と言っても過言ではない。


 30分ほど進むと、渚で狩りをするパーティを見掛けなくなった。

 今度は私達の番になる。


 大きなヤドカニを見付けたところ狩りを始めた。

 ララアさんが魔法で作ったツララでヤドカニの口元を攻撃する。その横手から何時ものようにタマモちゃんが一球入魂で貝ごとカニの甲羅を叩き割った。

 私は取り巻きのトビウオをニンジャになって素早く刈り取る。おかず2種類は確定だね。


「かなり手強い相手だと思ったのですが、タマモちゃんの1撃で終わるんですね」

「かなり強力な武器なんだけど、タマモちゃんの固有装備なの。プレイヤーが似た物を作らせようとしたんだけど、あれほどの攻撃力はないみたい」


 あの横に書いてある『一球入魂』の文字が、攻撃力やいろんな効果を金属バットに付加してるに違いない。私が両手で振れるような品なんだけど、タマモちゃんは片手で振っている時もあるぐらいだ。


「さあ、次に行きましょう!」


 ヤドカリを狩ったところで、小さな焚き火を作りお茶を沸かす。

 焚き火の煙が見えたんだろうか、遠くから手を振りながら数人の冒険者が近付いてきた。


「済みません、俺達も一緒で良いですか?」

「どうぞ、どうぞ。生憎とポットが小さいので……」


「俺達も持ってますからだいじょうぶですよ。だいぶ遠くに来てますが問題は無いんですか?」


 男女4人のパーティだ。私より年上に見えるけど、物腰は丁寧だから安心できそうだ。


「3人ですけど、レベルは10を越えてますからだいじょうぶですよ。宿にお土産と、狩りをしてるんです」

「凄いんですね……。俺達は最近の参加ですから、どうにかレベル7というところです。レベル8を越えたら、どうしようかと考えてはいるんですが……」


 攻略ルートということなんだろうね。北に向かうか、帆が死を取るか……。確かに悩みどころに違いない。


「攻略組は北に向かって進んでます。イベントをいくつか突破して帝国に入った辺りじゃないでしょうか。東は後発組がこの間向かったばかりです。2つ目の町で苦労してるようですが、東の大陸からも帝国を目指せるようですから、そっちのルート攻略に名を残したいみたいでしたよ」


「先輩達が東の大陸でイソギンチャクと戦ってると言ってたのは、そう言うことだったのか……。東は海の魔獣が続くってことだな」

「最近まで女の子2人組と一緒だと言ってたけど、先行テスト組なら、小さな子もレベルは高いってことなんでしょうね」


 魔導士の杖を持ったお姉さんが私達を見て笑みを浮かべながら仲間内の話をしている。

 お弁当のサンドイッチを頂きながら、タマモちゃんと思わず顔を見合わせてしまった。

それって、きっと私達のことなんじゃないかな?


「つかぬことをお聞きしますが……。その先輩というのは、チコさん達のことですか?」

「そうだよ。ゼミの先輩なんだ。君達もあったことがあるのかい?」


「この間まで一緒だった。お姉ちゃんの人形が壊れたので、直しに行ってたの」

「そうか! 案外世間は狭いんだね。このレムリアで先輩達と一緒に狩をした女の子に出会えるんだから」


 うんうんと仲間の皆が頷いている。チコさん達の性格なら荒廃の面倒もよく見てくれるに違いない。それを個配達が見習うならゼミは和気あいあいとした雰囲気なんじゃないかな。

 そう言えばシグ達はちゃんと入試の勉強をしてるんだろうか?

 レムリア世界で楽しんでいる時期ではないように思えるんだけどなぁ……。


 昼食を終えたところで、4人組に別れを告げて狩を始める。

 GTOに乗り込んだ私達を見て驚いていたけど、私達の移動手段なんだから大目に見て欲しいところだ。


 ヤドカニを2匹し止めたところで、トランペッタの町に【転移】する。


「狩ってきましたよ! 大漁です」

 

 花屋の食堂の台所の流しに獲物を出すと、メリダさんが目を見開いた。裏庭から水を汲んできたライムちゃんまでもが驚いている。


「全く……。狩りはほどほどが一番だよ。でも、狩ってきた以上は、料理しないといけないね。ライム、近所のおばさん達に声を掛けて来てくれないかい。今日は大なべ料理を皆で楽しみましょうってね」

「分かった。タマモちゃん。一緒に行こう!」


 タマモちゃんが嬉しそうにライムちゃんに頷くと、ライムちゃんとタマモちゃんは手を繋いで店を飛び出していった。


「モモ達は、広場でも散歩してくると良いよ。夕食は少し遅れそうだけど、これだけの材料があるなら、誰も文句は言わないだろうしね」

「済みません。歓迎の広場の様子でも見てきます」


 ララアさんと一緒に、歓迎の広場に行くことになってしまった。

 お腹が空いているんだけど、夕食が遅れるとなれば屋台で串焼きでも買おうかな……。


「おもしろい食堂なのね」

「あの食堂で居候をしながら、狩りをしてたんですよ。この町に来た時には、何時もあの食堂に厄介になってるんです」


 歓迎の広場に出ると、だいぶ日が傾いてきたようで皆の陰がかなり長くなっている。

 それでもここは何時も賑わっている。夜になれば少しは減るのかな?


 屋台で串焼きとジュースを買うと、中央の噴水近くにあるベンチに腰を下ろして広場の人達を眺めることにした。


「急に、人が現れるのね」

「あれはレムリア世界に訪れたプレイヤー達です。目を輝かせながら、周囲をキョロキョロしてるでしょう。嬉しいんでしょうね」


「希望が見るわ。この世界で何をなそうかと、輝いているのね」


 希望って、見えるのだろうか?

 たまに詩的な言葉が出るから戸惑う時があるんだよね。


「あのう……。この町の人ですよね。レムリアに来たんですけど、私達はこれから何をすればいいんでしょうか?」


 声を掛けてきたのは、2人の女の子だった。

 ララアさんが笑みを浮かべて2人を見ている。


「レムリア世界は夢の世界でもあるのよ。2人がこのゲームを欲しがった理由があるんじゃなくて?」

「友達が持ってて、自慢ばかりしてたんです。それでお父さんに……」


 娘のおねだりだったら、お父さんなら聞いてくれるんじゃないかな?

 私のお父さんもそうだったもの。お母さんは聞いてくれないんだよねぇ……。


「羨ましかったということかしら? それとも友人達と一緒になってこの世界を楽しもうと思ったの?」

「前の方です。あまり親しくは無かったんだけど……、クラスの皆で冒険に旅立ったと言ってました」


「この世界は夢を叶えてくれるの。だったら2人でその夢を追いかけるのも良いんじゃなくて?」

「私達、理科の実験が大好きなんです! でも、この町にはそんな場所は無いとギルドのお姉さんが言ってました」


 実験ねぇ……。理系女子を目指したいのかな?


「フラスコをでボコボコさせたり、薬品を混ぜ合わせたりしたいってことかしら?」

「そうです。そんなことが冒険者で出来るんでしょうか?」


「2つ、方法があるわよ。1つは薬剤師を目指すルートね。冒険者ギルドではなく、薬剤師ギルドがあるはずだから、そこで薬剤師の弟子入りをするのも方法だわ。

 もう1つの方法は、ラグランジュ王国を目指すこと。レベル10を越えなくては入国も出来ないけど、リアル世界の最先端をこの世界で知ることも出来るはずよ。

 他のパーティに入れて貰ってレベル上げをすることになるでしょうから、しばらくは辛い日々が続くことになるわ。それでも、それだけの価値は見いだせるはずだし、貴方達の友人の中では初めてラグランジュ王国入りを果たせることになるわ。

 ラグランジュ王国に入れる冒険者は多いでしょうけど、ラグランジュで働ける一般プレイヤーはいないのよ」


「でもそれなら、ラグランジュで働けないんじゃ?」

「目指すなら、紹介状を書いてあげる」


 女の子2人が顔を見合わせて頷いている。


「よろしくお願いします!」

「頑張りなさい。能力があれば、リアル世界でも役立つはずよ」


 ララアさんが一緒に来たのは、ラグランジュ王国に一般のプレイヤーを参加させる目的もあるのかもしれない。

 でも、レムリア世界での行動がリアル世界で役立つことは無いんじゃないかな?

 捕り手さんや騎士団の人達は新人研修目的で来ているみたいなんだけど、ラグランジュ王国って財団が運営してるんだよねぇ……。ますます、あの王国が分からなくなってしまう。


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