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134 超能力の研究?


 ラグランジュ王国の警邏さんや捕り手の人達は、どうやら財団の関係者のようだ。捕り手の人達は警察官だと警邏のダンさんが教えてくれたけど、この王国は例外みたい。

 だけど、海軍や騎士団は自衛隊の人達だというんだから、ちょっと考えてしまう。

 軍事産業で財を成した財団なのだろうか?

 秘密主義のところもあるけれど、NPCの私達には色々と便宜を図ってくれるんだよねぇ。


 アズナブルさんのお屋敷で御厄介になっていった3日目。

 ララアさんと街巡りから帰ってくる私達を、ナナイさんが待っていた。

 玄関先で「こっちこっち!」と手招きしている。

 3人でナナイさんの後に付いて、リビングに向かうとソファーに腰を下ろすと同時に、メイドさんが冷たいジュースをテーブルの上に乗せてくれた。

 私達に頭を下げて部屋を出ていく姿をナナイさんが見ていたけど、扉が閉まると同時に私達に顔を向けて笑みを浮かべる。


「はい! キュブレムよ」


 ナナイさんがバッグから取り出したキュブレムは、気のせいか修理前より大きくなったように見える。

 首を傾げてタマモちゃんとテーブルの上に立ったキュブレムを見ていると、小さな含み笑いが聞こえてきた。


「それだけキュブレムを使ってくれたみたいね。貴方達に渡して正解だったわ。それは試作2型のキュブレムよ。フラナガンの要請で3機試作したんだけど、2型は誰も乗りこなせなかったの」

「同じキュブレムだと思うんですが?」


「キュブレムが突然生まれたわけではないの。私の愛機もそうだし、騎士団の人形もそうよ。より高機動、高火力、高耐力……、次の人形にはそんな仕様が盛り込まれるわ」


 ララアさんの言葉に、ナナイさんが目を閉じて頷いている。その通りということなんだろうね。


「だから試作機は1機にはならないの。ほとんどがスクラップ・アンド・ビルドになるんだけど、キュブレムは特化型だから残してあったのよ。アズナブルが1型をモモちゃん達に渡すように指示してきた時には驚いたけど、直ぐに2型の凍結を解いたのよ。

『キューケン』を使えるだけのことはあるわね」


 すでに2型を渡すことが前提だったということなんだろうか? 『キューケン』というのは、ナナイさんの話ぶりからするとキュブレムの更なる上位機種ということになりそうだ。

 同じような機構が組み込まれている、ということになるんだろうな。


「モモちゃんは超能力って聞いたことがあるでしょう? フラナガンはそれを研究してるのよ。だけど、リアル世界では超能力者のほとんどが詐欺師のようだけど……」


「ほとんど」というからには「稀に」があるということなんだろう。ナナイさんって科学者なんだろうな。


「そんな人物がレムリア世界でスキルを越えた【加護】を持つことになるんでしょうね。アズナブルやララア、その他にも何人か【※※の加護】という意味不明の加護を持ってるの。モモちゃん達のノーマルパラメーターを覗かしてもらったけど、その加護は無かったわ。フラナガンが頭を抱えてたわよ」


 小さな笑い声を上げながら、ジュースを飲んでいる。

 噴き出さなければ良いんだけど……。


「その加護は、物を動かせたり、他人の心を読んだり、【転移】を使わずに移動できるんですか?」

「物は動かせないし、他人の心は読めないんじゃないかな? さすがにテレポートは無理よ。でもね、そんな能力の1つに並列思考というのがあるの。キュブレムは並列思考ができる者ならその真価を発揮できる機体なのよ」


 あれね! ボルトの操作はもう一人の私というやつだ。


「モモちゃんはできるみたいね。ほんと、モモちゃんのコードを開示して欲しいわ」

「TOKIOではないんですか?」


 ララアさんの言葉にナナイさんが首を振った。


「TOKIO、ゼニガタ、ヤマト、京……、レムリア世界の電脳にハッキングしてもモモちゃんのコードは無かったの。フィールドのコードまで調べたし、魔獣や獣前確認したけど不明だったわ。レムリア世界でプレイヤーと同じような行動を可能にし、更に自律行動を取るとなれば、かなり特殊なコードなんでしょうけどねぇ……。本当に、NPCなのかしら?」

「ナナイのことだからプレイヤーも調べたんでしょう?」


「不正ログでダイブするエージェントという線で調べたけど、レムリア世界のプレイヤーの数と職種は、リアル世界のプレイ参加人数と合ってるの……。現段階で外国からの参加は阻止しているし、監視上に問題も無いわ。……となると、モモちゃんはレムリア世界の幽霊なのかもね」


 ナナイさんが笑みを浮かべて話してくれた。タマモちゃんが私に顔を向けて足をポンポンと叩いているのは幽霊じゃないとアピールしているのだろう。


「その辺りは、私にもわからないんです。でも歩けますし、柳の下にいつもいるわけではありませんから……」

「はい、はい。そう言うことにしておきましょう。アズナブルもフラナガンに『手出し無用』と厳命していたから、ラグランジュ王国内の安全は確保してあるわよ。

 それでね。このキュブレムだけど……」


 ボルト4機の火力を上げて、発射段数が3発から4発に増えた。人形が一回り大きくなったのは、装甲板の裏に描いた耐魔法、耐衝撃力を向上させるために魔方陣を大きく描く必要があったためらしい。

 その上、粒子砲の集束研究過程で生まれた技術で光の剣を作ることができたらしい。

 キュブレムとセットで使えるということだけど、光の剣って何となく勇者が持つ剣みたいだよね。


「機動力はキューケンとほぼ同じ。アズナブルが『私が暴走しても留めることができる者がいるなら安心できる』とまで言ってたわ」

「戦えば、勝者は時の運だと?」


 ララアさんが静かな声でナナイさんに問い掛けた。

 笑みで答えているけど、あれで分かったんだろうか? 私には全く分からないけど、それにしてもそんな機体を渡されると戸惑いも出て来るんだよねぇ……。


「そんなことにはならない筈よ。可能であるというだけで自分の行動に戒めを設けることが目的なんでしょうね」


 ん~ん、やはりよくわからない。

 一つ分かったことは、アズナブルさんはかなりレベルの高いプレイヤーという事だ。

 ラグランジュ王国にはそんな人物がたくさんいるのだろう。剣と魔法の世界で現代兵器を使えるように努力している人もいるようだし、超能力の研究をしている人もいるみたいだ。

 やはり、変わった王国という烙印はぬぐいきれないかもしれないね。


「それで、モモちゃん達の次の行先は?」

「親しいプレイヤーがトランバーから北上してるんです。そろそろ帝国に足を踏み入れる頃なので、その後を追ってみようかと」


「羨ましいわね……。私も同行しようかしら?」

「兄様の許可が下りたら……、ですよ。それにララアの人形は、この間壊してしまったでしょう?」


 ラグランジュの住民は他国へ出ることが無いような話を前に聞いたことがある。たぶん無理じゃないかな。きっとシスコンのお兄さんに違いない。


 ナナイさんにお礼を言って、キュブレムをバッグに入れる。

 これで明日には旅立てそうだ。毎夜の晩餐がやはり私達には荷が重すぎる。1週間もここにいたらストレスでどうにかなっちゃいそうだ。

                 ・

                 ・

                 ・

 翌日の朝食の席にいたのは、アズナブルさんとララアさんに私達の4人だけだった。

 静かに朝食を終えて、コーヒーが運ばれてきたところで、長逗留とキュブレムのお礼をアズナブルさんに告げる。


「それほどのことはしていないし、モモちゃん達のもたらしてくれた情報の方が遥かに貴重だ。やはり他国の情報はハモンだけに任せるには荷が重いのだろう。

 帝国に行くのであれば、ラグランジュからでも行けるのだが、東回りで行くのも興味があるな。ララアがどうしても行くと言って私を困らせているのだよ。一緒に連れて行ってくれまいか? 東回りの街のギルドに登録すればそれなりにメリットがありそうだ」

「お願いね! それなりにレベルはあるし、新しい人形『サイコ』もナナイから貰ってるの」


 それなりに戦えるってことなんだろうね。

 シグ達の後を追うだけだし、イベントの話も聞いていないから問題は無いんじゃないかな?


「分かりました。でも、あまり長くは……、それに、私達が宿泊するのは安宿ですよ」

「たまには一般の宿に泊まるのも良い経験になるはずだ。広い世界には色々な人物がいることを経験することも大事に思える」


 セレブ暮らしではなく、庶民の暮らしも見て来いってことかな?

 それなら、何とかなりそうだ。


「良いのね! それじゃぁ、直ぐに着替えて来るわ」


 食堂を飛び出して行ったララアさんの後ろ姿を見て、アズナブルさんが小さな溜息を吐いた。


「困った妹だが、少し病んでいるところがあってね。ずっと施設で暮らしていたから世間に疎いところがある。よろしく頼むよ」

「はあ……。あまり期待されても困るんですが」


「それなりの訓練はしている。他の王国での狩りを楽しむのだろう。私も羨ましく思えるよ」


 それなりの地位を持っているだろうから、あちこち旅をすることはできないんだろうな。ちょっと気の毒になってしまう。

 でも、気になるのはララアさんの病だ。やはりリアル世界ではベッドの中なんだろうか? レムリア世界でのびのび暮らせることができるなら、冒険者に憧れるのも無理はないだろうね。


「準備OKよ!」と言いながら、扉を開けて入って来たララアさんの姿は私達と同じような綿の上下にバックスキンの長めのベストだった。

 幅広のベルトの後ろには、バッグが付いているから冒険者装束ということになる。

 武器は身長ほどの杖だった。神官職ということになるんだろうか?


「レベル18の神官よ。攻撃魔法も持ってるから足手まといにはならないと思うんだけど」

「帝国に行くともなれば、足りぬかもしれんな。無理は厳禁だぞ。ゲンキンと言えば、これを持って行きなさい」

 

 アズナブルさんが、ララアさんに小さな革袋を渡している。たぶんお金ってことだろうね。


「お土産はいらんよ。クマの木彫りはリアル世界でもたくさんあるからね」

「キーホルダーとペナントね! 了解です」


 変なところで庶民的だけど、今時そんな物を売っているのだろうか?

 お爺さんの家にたくさんあった気がするけど、どうやらお爺さんとお婆さんの若いころの思い出の品らしい。

 

「それじゃあ、出掛けましょう。最初は?」

「トランペッタの町よ。私達の最初の町になるの。新人さんが続々やって来るから、たまに歓迎の広場で相談に乗ってあげるの」


「歓迎の広場か……。ラグランジュではソロモンになるのかな。もっともやって来るのは関係者だけになるがね」


 特殊な王国である由縁ということなんだろうね。

 それなら、ララアさんの嬉しそうな表情も理解できる。

 レムリア世界の特異な王国だけで暮らすのはもったいないような気がしてならない。


 リビングの一角で私達は体を寄せると【転移】を発動する。

 私達の周囲を光のカーテンが包み、そのカーテンが消えると見覚えのある教会の裏庭が広がっていた。


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