133 グラナダの街巡り(2)
夕暮れ前にアズナブルさんのお屋敷に戻り、翌日は麻から再び町をララアさんに案内してもらう。
本当に綺麗な町だ。
トランバーやニネバとも少し違うんだよね。トランバーは漁師町という感じだし、ニネバは小さな港町だったけど、グラナダは何というか……、うん、貿易港という感じかな。その上、軍艦が並んでるから、軍港でもあるんだろう。
港の桟橋だってずっと遠くまで続いているように見える。
桟橋に面して、いくつものお店や事務所がある。洒落たテラスにパラソル付きのテーブルが並んでたりしている。
上品な感じがするのはなぜなんだろうと考えながら歩いていたら、突然にその理由が頭に浮かんだ。
屋台が1つもないのだ。
これだけの規模の港だし、船員さんや水兵さんも大勢歩いてはいるんだけど、屋台がどこにもない。
「この港では屋台を出せないんですか?」
「屋台? ……ああ、移動販売車のことね。ラグランジュ王国は屋台禁止なの。屋台の代りに、お店があるでしょう? あのお店の中には、店主別のカウンターがあるのもあるのよ」
お店を御手ない人が屋台で商売することなく、いえの中に、商うカウンターを作ってあげているらしい。
他の王国で屋台を出すより、安い資金で商売を始められるようにしてあると教えてくれた。
「景観を大事にするためなら、それなりの対価は必要ということなんでしょうね。私もハモンと一緒に、そんなお店を使うこともあるのよ。ここがお勧めの1つよ」
タマモちゃんの手を引いて、ララァさんが小さなお店に入る。急いで後に付いてもせの入ると、網で包まれたガラスの球体があちこちに下がっていた。3つ並んだカウンターが、それぞれ違うお店ということなんだろう。
真ん中のカウンターに行って、素早く注文したララアさんは、店の里に並んだテーブルの1つに腰を下ろした。
同じようなテーブルが数個並んでいたけど、半分ほどはお客で塞がっている。
日差しが強いけど、大きなパラソルが付いているから、海風が心地良い。
「直ぐに持って来てくれるわ。私のお気に入りなの」
何だろう? とタマモちゃんと顔を見合わせてしまった。
やがてネコ奥のお姉さんが持って来てくれたのは、フルーツパフェだった。
この世界で食べられるとは思わなかったな。
タマモちゃんが目を大きくして笑みを浮かべている。
「どうぞ、召し上がれ。 ハモンは食べないから、何時も私1人だったの」
「「頂きます」」
タマモちゃんがクリームとイチゴをスプーンですくい取り口に入れて笑みを浮かべている。
『甘いものは正義!』という感じかな。
「他の王国とだいぶ違いますね」
「そうね……。ラグランジュ王国は、ある財団が運営しているの。他の王国から比べて小さいけれど、北の帝国への入り口の1つであり、西の群島から魔族の王国へ向かうルートでもあるわ。冒険者の滞在は認めるけれど、それ以外のプレイヤー干渉を認めないというのも変わってるでしょう?」
そう言って笑みを私に向けてくれたんだけど、冒険者以外での王国内の活動を認めないというのはちょっと考えてしまう。
「財団って?」
「ん~とね。お金持ちの仕事かな?」
タマモちゃんの素朴な質問に、悩んでしまう。
父さんはお金持ちの道楽だとか、節税対策だとか言ってたけど、奨学金や学会などの運営なんかにも資金援助をしているらしい。
「ふ~ん……」と、疑いの目でタマモちゃんが私を見てるんだけど、そんな私達を見てララアさんが口に手を当てて笑いを堪えている。目に涙が浮かんでるから、私の答えがかなり間違ってるということになるのかな?
「おや! ララアにも友達がいたのか?」
私達のテーブルを通り掛った男性が、ララアさんに気が付いて声を掛けた。
「ディックじゃないの。あまり他の女性に声を掛けていると、ハウに制裁を受けるわよ。同席しない?」
頭をかいて男性が空いている席に腰を下ろした。隣に座った女性は恋人なのかな?
レムリア世界で婚活したりデートする人が多いことに、この頃気が付いてきた。
リアル世界の数倍の速さでこの世界は動いているようだから、2人の時間をそれだけ長く過ごせるのが理由だとイネスさんが教えてくれた。
でも沈んだ顔で教えてくれたところをみると、リアル世界でのお相手はいないんじゃないかな。
「こっちのお嬢さん達は?」
「大佐のお気に入りだから、手を出しちゃダメよ」
いきなり隣の女性の肘が、ディックさんの横腹に決まった。
私とタマモちゃんが大きく目を見開いていると、隣の女性が笑みを浮かべて話を始mる。
「ごめんなさいね。私はハウ。こっちがディックなんだけど、デリカシーが無いんだから困ってるの」
「私は冒険者のモモです。隣がバディのタマモちゃんです」
新たな2人を加えて、お茶会が再開した。
ちょっとディックさんには、デートの邪魔をしてしまった感じだけど、2人はたまたま入港した軍艦に勤務しているらしい。半舷上陸で2日間の休みを楽しんでいたようだ。
「旧型ではなくて新型なら、水中での魔物と一戦交えることができるようになったよ。だけどまだまだ改良は必要じゃないかな」
「航路防衛でもレベル15が必要なんですもの。設定とだいぶ違ってない?」
海の中は、まだ影響が残っているのかもしれないな。
陸上でも起こったんだから、海中で起こったとしても不思議ではない。
財団の人達は、そんなことを事前に知っていたのだろうか?
「まあ、航路を守れば少しぐらいレベルの高い魔物が出ても、その内何とかなるんじゃないかな。俺達のレベルだって上がってるんだからね」
「まだまだじゃないの。今回だってヒルデ達に助けられてんだから!」
「あれは、向こうが介入してきたんだぞ。俺達で何とかなったはずだ」
おう、おう……、中のよろしいことで。
タマモちゃんだって下を向いて、小さな笑い声を上げている。
「それぐらいにしてあげないさいな。ディックが良い素質を持っているから、軍にいることは確かなんだから」
「海上自衛隊では全体の対応ができないのは分かるけど、少しはこっちに来てくれても良いと思うんだけど」
「それは無理ね。ラグランジュの権益にも影響するのよ。向こうは今でも協力を呼び掛けてはいるようだけど、人形の秘密を探るのが目的だとハモンが話してくれたわ」
「まあ、そうだろうな。リアル世界で軍事転用されないとは限らないからねぇ」
ん? あの人形にそんな秘密があるんだろうか?
でも、ナナイさんは簡単に私に渡してくれたけど……。
「ナナイさんから、人形を頂いたんですけど……、それって、問題にならないんですか?」
「モモちゃん達は特別みたい。プレイヤーじゃないでしょう? 開発目的ならナナイがモモちゃん達に託すのも理解できるわ」
「聞いたぞ! キュブレムを渡したってな。あれを動かすのは特殊な才能が必要だと聞いたことがあるけど……。ちょっと待て! プレイヤーじゃないって?」
「NPCなんです。あまり自覚は無いんですけど、レムリア世界をタマモちゃんと冒険してるんです」
「ね、おもしろい2人でしょう。所属は不明だけど、警邏達は仲間扱いしているし、あの騒ぎでも活躍してるのよ」
「となると、レベル20以上のNPCってことか? それで所属不明だと?」
「ハモンの調査で不明なら、不明なんでしょうね。本人も分からないみたいだし」
「となると、今回の滞在目的は何だ?」
「キュブレムの右腕が取れそうになって、修理をお願いに来たんです。口からパァっと光線が出るオオカミにやられてしまって……」
「『粒子砲』だとナナイが言ってたわ。かなり厄介な国が手を伸ばしてきそうね」
「私達の『ギガ粒子砲』の開発は進んでるんでしょうか?」
「ナナイの話では集束に難があるみたいね」
ちんぷんかんぷんの話だけど、あのオオカミの口から出た光線に近いものを作ってるってことかな?
あまり多用すると、ゲームバランスを崩壊しかねないように思えるんだけど。
そういえば、タマモちゃんのロブネスも凄い火炎弾を吐くんだけど、あれは火属性なのだろうか? ちょっと違うようにも思えるんだよね。
「あらあら、ちょっと内輪の話になってしまったわ。タマモちゃんも一緒に冒険したんでしょう? どんな魔獣にあったのかしら?」
パフェを食べ終えたタマモちゃんが、ジュースを飲みながら色々と魔獣の話を始めた。
最初は笑みを浮かべて聞いていた3人だったんだけど、キメラの話を聞くと顔に真剣みが帯びてくる。
聞き漏らすまいと、運ばれてきたコーヒーさえも飲まずに聞いているのは、やはり最前線で戦う軍人だからなのだろうか?
「侵入者の生き残りはレベル50を越えるのか……。取り巻きがレベル20を越えているとなると、俺達が相手にしたのはそれ以下ってことか……」
「爆雷で追い払ってるんだけど、向かってこられると死に戻りは確実ってこと?」
「そうなるでしょうね。私でさえレベル18だもの。AGI(敏捷さ)INT(知力)が【予知】スキルで向上しても、どうにか、同レベルでの戦いになるぐらいだわ」
「ナナイさんに期待するしかありませんね」
【予知】スキル? 初めて聞くスキルなんだけど……。
占い師という職種でもあるんだろうか?
だけど、ララアさんは自分の人形を持っていると言ってたから【人形使い】のスキルを持っているはずなんだけど、職種は何になるんだろう?
「それだけ戦えてNPCの冒険者? 確かに大佐が興味を持ちますね」
「でしょう? ナナイやハモンも興味深々なの」
「ララアさんもでしょう?」
ハウさんの言葉に、ララアさんが笑みを浮かべる。
興味本位でも、この町の案内をしてくれるんだからそれで良いかな。
明日にはキュブレムが治りそうだし、そうしたら次はどこに行ってみよう?
シドンの南北も気になるけど、シグ達の方も気になるところだ。どの辺りまで足を運んだんだろうか?