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131 アズナブルさん達の驚き


「それじゃあ、北の調査は2回で十分だと?」

「そう言ってた。南の方も騎士団の人達が調査してるみたいだから、ニネバからセーフティ・エリアまでなら安心して狩りが出来そうよ。シドンの町への街道も落ち着いたようだから東に向う冒険者も今後は出て来るんじゃないかな」


 ギルドのテーブルでお茶を飲みながら警邏事務所で聞いた話をする。

 少し唖然としていたが、役得という言葉を聞いて笑みを浮かべている。


「警邏事務所に恩を受けた感じだね。どの町にも警邏事務所があるんだから、何かあったら教えることで良いんじゃない」


 マイヤーさんの言葉に、チコさんが苦笑いをしている。

 借りを作ってしまったと思っているのかな? ある意味借りには違いない。それでプレイヤーでさえ見過ごしてしまいそうな、小さなバグを1つでも見付けられたなら十分に対価にはなると思うんだけどね。


「そうなると、明日からは野犬を狩ることにするか。モモ達はシドンに向かうのかい?」

「ちょっと、西に向かおうかと……。人形を壊してしまったので修理しないといけないんです」


 どこまで行くのと聞かれたので、西の大陸の一番西の王国と答えたら、酷く驚いていた。

 赤い街道を東西に移動した冒険者は、私達だけかもしれない。

 でも、冒険者は気ままな旅で良いんじゃないかな。

 レムリアは皆が楽しむ世界だ。魔王討伐が必ずしもこのゲームの目的ではない。

 それでも冒険者達は魔国を目指して進むようだ。

 その道筋を辿れば、より強い武具と強い魔獣が待っている。

 平穏なレムリアを楽しみたければ、花や野菜を育てるもよし、鉄を鍛えるもよし……。その結果は、NPCやプレイヤーが評価してくれるだろう。

 かなりの数の専門掲示板も作られているらしい。レムリア世界を通してリアル世界での交流も盛んだとチコさん達が教えてくれた。


「西の外れねぇ……。そんなこともできるんだね」

「町でギルドに到達したことを報告すれば【転移】が使えます。行き先々のギルドを訪ねることで、世界は小さくなる感じですね」

 

「広くではなく、小さく?」

「1つの大きな町という感じかしら……。何となくそんな気がするわ」


 チコさん達は冒険者だから、ひたすら目標に向かって……、ということになるんだろう。【転移】を使えてもそれを使うことは無かったみたいだからね。


「ダンジョンが出来たら、使うんじゃないかな? きっとフィールドよりは強敵がいるはずだよ。1つ前の町近くのダンジョンを攻略することになると思うな」


 アンデルさんの言葉にイネスさんが頷いているけど、チコさんは納得してないみたいだ。死に戻り覚悟で挑むということかな?

 あまり死に戻りをすると、パラメータに変化があると言ってた張本人じゃなかった?


「それじゃあ、しばらくお別れだね。会うことがあれば、また一緒に狩をしたいな」

「こちらこそ、その時はよろしくお願いします」

 

 互いに手を握り合って別れを惜しむ。

 タマモちゃんはイネスさんにハグされて、少し苦しそうだ。


 ギルドを出ると、教会に向かった。どこからでも【転移】はできるんだけど、何となく人混みの中で【転移】を使うのは考えてしまうんだよね。

 教会の裏庭には誰もいない。


「それじゃあ、行くよ。目標は「グラナダ」、【転移】」

 

 私とタマモちゃんを光のカーテンが包む。それが消えた時、私達は先ほどとは違った趣のある公園の片隅に立っていた。


「覚えてる。ここは1度来たことがある」

「便利だよね。GTOを使っても結構な時間が掛かるんだよ」


 まだ昼にもなってない。前回は余り町を見ることができなかったけど、今回はのんびり見て回ろうかな。

 でもその前に、お屋敷に向かわないと……。


 通りを歩いて、町外れの大きなお屋敷の前に立った。

 やはり大きいよね。学校よりも大きいんだもの。

 タマモちゃんと舘の大きな門の前に立って奥を見ていたから、門番の小父さんがこっちをずっと見てるんだよね。そろそろ用向きを伝えないと、不審者扱いされそうだ。


 門に向かって歩き出した私達の横を、馬車がガラガラと音を立てて通り過ぎていく。

 その馬車が私達を追い抜いた途端に急停止した。

 

「モモちゃん達ね。いつ来たのかしら? さあ、さあ、野って頂戴。アズナブル様にお会いしたいんでしょう?」

「ほう、お嬢さん達だったのか。遠慮はいらんぞ」


 お爺ちゃんよりは若いけど、お父さんよりはかなり年上に見える。がっちりとした体を制服で包んでいるんだけど、隣のハモンさんは私服なんだよね。どんな取り合わせなんだろう。

 男性がタマモちゃんを抱き上げて馬車に乗り込んでしまったから、その後に続いて私が乗り込んだ。

 最後はハモンさんが乗り込んで笑みを浮かべると、男性が馬車の壁を叩く。

 ゆっくりと馬車が動き出した。

 門のところで馬車が止まり、門番さんが中を確認する。


「このお二方は?」

「ラグランジュを救ってくれた英雄よ。アズナブル様もご存じの方だから問題は無いわ」


 門番さんがハモンさんの言葉に頷くと、再び馬車が動き出した。

 大きな館の玄関に馬車が止まり、私達はハモンさんと共に玄関の扉を潜る。

 執事服を着た男性が私達のところにやって来ると、エントランス近くのリビングに案内してくれた。


 豪華な内装に、タマモちゃんとしばし見とれてしまった。

 そんな私達に笑みを浮かべたままのハモンさんが、中央にある立派なソファーに着くよう促してくれた。


 テーブルを挟んで「コ」の字形にソファーが配置されている。勧められるままに座ったんだけど、柔らかなクッションに思わず横になりたい誘惑に囚われる。


「色々と話は聞かせてもらったが、お嬢さん達だとは思わなかった。私からも礼を言わせて欲しい」

「それが私達の役目のようです。それにあまりお役に立てなかったのではと……」


「ラル。今時珍しいお嬢さんでしょう?」

「このような娘が欲しかったが……。ハモン、フラナガン教会を訪ねてみるか……」


 ひょっとして、夫婦? かなり年代差があるように思えるんだけど。

 フラナガン教会を訪ねるということは、この2人に子供が員愛ということになるのだろう。リアル世界で養子を迎える前にレムリア世界で子育ての練習ってことかな?


「ずっと立ってたようだけど、アズナブル様に何か用事があったのかしら?」

「ナナイ様と連絡が取りたかったんです」


 突然、リビングの扉が開いた。


「ほら! やっぱり来てたでしょう? 今日は。貴方がモモちゃんとタマモちゃんね」

「失礼だぞ。ララア。済まないね。 ラルとハモンが揃うのも珍しいな。それと前は世話になったね」

「今日は。今日は館も賑やかになるわね」


 アズナブルさんにナナイさん、それと私より少し年上に見えるけど、フレンドリーな感じのララアさんが空いていたソファーに腰を下ろした。


 それが合図になっているのかもしれない。メイドさんが2人やって来て、私達にお茶のカップをテーブルに乗せてくれた。


「ラル達は定時報告ということだろう? 特に変わった情報がないだろうから、はるばると訪ねてきたモモちゃん達の話を聞いた方が良さそうだ」


 5人の視線が私達に集まって来た。

 早く用件を伝えて、この場を去った方が精神衛生上良いことに違いない。


「実は、ナナイさんから頂いた人形を壊してしまって……」


 壊れた経緯をはなし、バッグからキュブレムを取り出した。

 右腕が溶けて取れそうになっているのを、驚いたような顔をしてアズナブルさんまでが見ている。


「戦闘経緯を見ることができるか?」

「ちょっと貸してね……。可能よ。今映し出すわ」


 ナナイさんがバッグから金属製の箱を取り出して、キュブレムを中に入れる。

 細い指先が箱の上にあるスイッチをボードを踊るように動かすと、壁の一角にあの時の戦闘が映し出された。

 この画像は、キュブレム目線のようだ。タマモちゃんは映っているけど、キュブレムは映っていない。


「ほう、日本の伝説だったか?」

「高位の魔導師のようですね。職業階梯を数段上げているようです」


「中々の機動ではないか。騎士団でも、ここまで動かせる騎士は未だいない」

「完全に一体化してるみたい。私でもここまでは無理かな……」


「「だと!」」


 あのシーンだ。あんな光線を使われたら困るよね。

 このままでいくなら、少し弱めて欲しいところだ。


「ナナイ。我等の粒子砲は完成していなかったのでは?」

「拡散してしまうのです。このような収束を口の中でやるとなれば、1発で頭が無くなります」


「他国ということになりそうだな……。少し計画を急がせる必要がありそうだ。それと、対処方法も考えるべきだろう」

「いくつか、先行試作した装置があります。キュブレムの改造をお許しください」


「ああ、もちろんだ。光属性魔法と闇属性魔法は早めに確立させねばなるまい」


 アズナブルさんが腕組みしながら、先ほどの光線を放つオオカミを眺めている。

 ラルさんもじっと画像を見つめたままだ。

 それほど問題があることなのかな?


「あのう……。これって、かなりヤバいんですか?」


 アズナブルさんが視線を私に移して笑みを浮かべる。


「ヤバい……、危険ということかな? それなら、かなりヤバいと言える。ナナイの先行試作機動兵器、この世界では『人形』なのだが、あの腕を覆う装甲の裏には6属性魔法を軽減する魔方陣が彫られている。

 通常に【火炎弾】なら、いくら受けても問題はないのだが、それを溶かしたとなれば、考えられるのは光属性魔法の高位魔法【粒子砲】ということになる。あの光の収束を見れば間違いはあるまい」


「まだ日本では研究段階だったの。それが使われたとなれば、先進国のどこかということになるわね。困った話だけど、欠点もあるのよ」


 ナナイさんが話してくれたことによると、リアル世界では大気を電離させるため、長距離射撃はできないし、地磁気の影響を受けるらしい。

 

「一番簡単なのは、大質量の物体を盾にするか、磁気嵐を起こすことになるわ。発射までにタイムラグがあるから、そこを上手く使えば良いのかもしれない」

「発射はパルス状だ、しかも2秒ほどのタイムラグがある。避けることは可能かもしれんな」


「とはいえ、あの威力です。大群となれば問題ですぞ!」

「ナナイの試作品の実用化を早めねばなるまい。完成次第ラルに送るよ」


 だんだんと分からなくなってきた。

 アズナブルさんは魔国への進軍を計画しているのかも知れないな。

 協力は何を目的にしているのかが分かってからにしよう。


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