表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/153

130 海サソリはチコさん達で


 朝食を終えると、皆で西に向かう。渚までは1kmちょっとだから、それほど離れていない。段丘の下に広がる砂浜を見た途端、走り出したくなる衝動を抑えて、周辺を見渡すことにした。


「あっちにいるのはイソギンチャクだし、直ぐ下はヤドカニだよ。大きいね」


 タマモちゃんがオペラグラスで観察した結果を教えてくれたんだけど、ヤドカニの背負った貝の大きさが2mもある。

 あれはちょっと大きすぎるんじゃないかな?

【鑑定】で調べるとレベルが10もある。チコさん達では苦労するんじゃないかな。


「あれ? あそこで動いてるのは……」


 砂浜に打ち上げられた死骸を狙って、海から這い出してきたのはエビのようにも見えたんだけど、尾が高く上がっている。

 サソリってことだろうね。海から出てきたんだから、目的の海サソリで間違いは無いんじゃないかな。


「間違いないわ。図鑑と同じよ」


 タマモちゃんからオペラグラスを貸して貰ったアンデルさんが改めて教えてくれた。


「【鑑定】結果も問題なし。でもレベル10だから、狩りをするのはもう少し近づいてえよく見てからよ」


 イネスさんが目を輝かせているチコさんに釘を刺している。

 このままだと、タマモちゃんと一緒になって走り出しそうだったからだろう。


 距離は300m程離れている。

 動きは速いんだろうか? 100m程に接近して、成り行きを見ていたら今度はヤドカリが現れた。

 背中に背負った尖がった貝も、かなり大きい。工事中のコーンよりも大きく見える。


「喧嘩するのかな?」

「そうかもね。ヤドカリはあの大きなハサミでしょう? 海サソリはハサミもあるけど、あの尾の先には毒針もあるのよ」


 だけど、海サソリの方が体を覆う殻が柔らかいようにも思える。

 大きさは海サソリの方が3mを越えているけど、ハサミを大きく広げたところは同じぐらいに見えるんだよね。

 

 互いににじり寄って……、ハサミを合わせての力比べが始まった。

 頑張れ、がんばれ! ……と声を潜めて応援する。


 2体とも節足動物なんだけど、リアル世界の分類学がここで適用されるかは微妙なところだ。

 だけど、殻の厚さがヤドカリの方が厚い気がするな。

 海サソリの方は、大切の間から軟らかそうなところが見えている。


「アチャ! サソリのハサミが1本取られちゃた」


 これで勝負が付いたかと思ったら、海サソリの尾が高く上がって……、ブスリ! とヤドカリの口元に刺さったようだ。

 泡を吹いてるのは、毒が聞いてるということなんだろうか?


「かなり厄介な奴だな。あの尾が曲者だ」

「でも、サソリの尾は攻撃範囲が狭いと聞いたことがるわよ。前方に対して左右の攻撃範囲は45度も無かったようなことを聞いたことがあるわ」


 ふんふん、とイネスさんの話に私達は頷きながら聞いている。

 それって、横と後ろが死角になるんじゃないかな?


「前方をエアリーとマイヤー、側面はイネスとアンデルで良いね。私は後方であの尾を斬る取るから」

「私達は周辺監視をするわ。手に負えない時には加勢するよ」


「ああ、お願いだ。それじゃあ、始めるよ!」


 海サソリは倒したヤドカリの解体を始めたようだ。

 群れで来ると不味いから、直ぐに始めるのは賛成だな。タマモちゃんが残念そうな顔をして走っていくチコさん達を見ている。


「さあ、お姉さん達の狩りを見学させてもらいましょう。でも危なくなったら、参加するからね!」

「イネスお姉さんが心配。……ほら、転んでるんだもの」


 小学生に心配される歳上のドジなお姉さんという雰囲気だけど、大丈夫じゃないかな。

 段丘の上で、5人の連携を眺めながら周辺の監視も行う。

 狩りで一番危険なのは狩る相手ではなく、狩人を狙う第三者の存在だ。

 それは魔獣やPK犯になるんだけど、狩りの最中に周囲の状況を探るプレイヤーなんていないんじゃないかな。


 アンデルさんが矢次早に矢を放ち、イネスさんがツララのような氷柱を海サソリに放っている。

 正面の2人がハサミと毒の尻尾の間合いに入らないように左右に動き回って海サソリの注意を引いてくれるから、胴の傷にあまり構っていられないようだ。

 高く尾を上げてエアリーさん達に毒針の狙いを付けているようにも見える。


 渚側から、そうっとチコさんが長剣を手に近付いているけど、尾が前後に動くから攻撃のタイミングを掴めないでいるようだ。

 あまり長引くと、他の海サソリがやってきそうな感じもするんだよね……。


「刺さった!」

 

 タマモちゃんの声に海サソリを見ると、横腹にツララが刺さている。もう片側にはたくさん矢が刺さっているんだけど、打たれ強いのかも知れないな。

 でも、これで終盤戦ということになりそうだ。


 チコさんが大きくジャンプするように海サソリに近付くと、長剣で尾を横なぎにする。

 尾が千切れたからだろう、海サソリが渚に向かって体を動かそうとした時に、マイヤーさんの【火炎弾】が命中する。


 一瞬炎に包まれたんだけど、殻で覆われているからだろう、あまり気にした様子もなく海に向かって行く。


 海サソリの前方にエアリーさんが盾を構えて通せんぼをすると、今度はチコさんが長剣で横腹を突き刺し始めた。

 イネスさん達も海サソリに近付き至近距離から魔法を放っている。

 

「だいぶ弱ってきたね。もう直ぐ倒せるんじゃないかな?」

「うん、早くしないと……、ほら!」


 タマモちゃんが指さす渚の向こう側には、黒々とした影が見える。

 やはり1体だけとは限らないってことか。


「GTOを出して。渚に上がってくるようなら、私達で何とかしましょう」


 GTOに乗り、介入の時を待っていたのだが、どうにかチコさん達は海サソリを倒すことができたようだ。

 光りの粉となって消えゆく海サソリに、満足した様な表情で互いに頷いている。


 ゆっくりとこちらに向かってくる。その後ろから、ついに海サソリが姿を現した。

 途端にGTOがダッシュする。すばらしい速度でチコさん達の後ろに回り込んで海サソリの進行をブロックし、【火炎弾】を連続で放つ。

 

 海サソリの周囲の海水が沸騰して湯気を立てる。

 本体は熱に強くても、周囲が熱湯になるとやはり苦しいに違いない。再び海の中へと姿を消して行った。


「来てたの! ありがとう。助かった」

「私が注意すべきだったかも……」


 アンデルさんが俯いて呟いてるけど、終わったことだし私達がいたからだと思うな。


「気にしないでください。上手く狩れましたね。これでレベル9が見えてきたんじゃないですか?」

「まだまだ先だ。でも確実に近付いている」


 海サソリが手強い相手だと分かっただけでも収穫だろう。

 これで町に戻れるけど、まだ昼になったばかりだ。

 夕暮れまで、近場で野ウサギを狩りながら時間を潰す。

 4匹を狩ったところで、セーフティ・エリアに戻り早めに夕食を取る。

                 ・

                 ・

                 ・

 ニネバを出発してから4日目の夕暮れちかく。

 ニネバの城門を潜った途、チコさん達がほっとした笑みを浮かべる。


「これで北部を2カ所調べたことになるね。次は真ん中だね」

「それですが2日目に、東に移動しましたよね。遠くに森が見えましたから、真ん中の調査が必要かを確認しておきます」


「医らに見合わない報酬を受け取ったように思えるんだけど?」

「役得だと思えば良いんじゃないですか? 私も、色々と便宜を図って貰ってますから」


 まだダンジョンが凍結されている状態では、しばらくはレムリア世界で手に入れるのは難しいだろう。そんなアクセサリーをポンと出してきたんだから、それは好意として受け取っても問題はないはずだ。


 ギルドによって、海サソリの依頼書を探す。海サソリはあったけど、野ウサギは無いみたいだ。野ウサギは標準価格ということになりそうだな。

 依頼書を持ってカウンターに向かい、北の海の状況を教えてあげた。

 皆の座っているテーブルに向かい、報酬を分配する。1人18デジットだから今晩の宿代にはなりそうだ。


「明日は休むんだろう? 私達はギルドにいるよ」

「それじゃあ、明日!」


 チコさん達と別れて、今度は警邏事務所に向かう。

 ジョーさんがフィアナさんを呼んだところで、北の状況を話すことになった。


「レベル50越え……。何とかしてくれたことに感謝だわ」

「ところで、クラ―ケンはあんなに腕を伸ばせるんですか? 本体レベルは適正ではあったんですけど」


「2本の長い触腕があるんだ。他の腕を縮めることで2倍ほどになるんじゃないかな。海にはクラーケンもいますよ。という警告みたいな魔獣だよ。僕達もセーフティ・エリアに近付く魔獣が分かって少しほっとしている。腕1本ならレベル8以上の戦士が3人もいれば何とかなるからね」


 本体込みでは、レベル11以上が数人必要らしい。

 

「それと、北のセーフティ・エリアですが、もう少し何とかなんりませんか? 見付けるのが大変なんです。目印があれば助かるんですが」

「だいじょうぶ。それも対策を考えた。南のセーフティ・エリアも同じことを偵察に出掛けた騎士団が言ってたからね。直ぐに、これを設けることに決めたんだ」


 写真を見せてくれたんだけど、これってトーテムポール?

 直径50cmほどで高さが5m以上あるから、目立つとは思うんだけど……。


「このサンダーバードの嘴が向いてる方向にせーてぃ・エリアがあるんだ。羽の数がおおよその距離にしてるんだよ」


 どうだい! という得意そうな目で私達を見ても、何と答えてよいかが分からない。

 少しは良くなるってことかな?


 とりあえず北の調査はこれで十分という話をした後で、革袋を私に渡してくれた。

 例の礼金ってことだろう。

 とりあえず貰っておこう。後で何か必要なことが出て来ないとも限らない。


 これでシドンの町へのルートも確保できたし、ニネバより1日程度の場所の魔獣は初期設定通りとなったはずだ。

 次はチコさん達で狩りができるだろう。もう1つレベルが上がったところで、シドンの町へ旅立つんじゃないかな。


 宿に戻って、夕食を取りながらタマモちゃんに、ちょっとこの大陸出てみたいと告げた。


「キュブレイの右腕装甲が、オオカミの攻撃でダメになっちゃったの。グラナダに転移してナナイさんに直して貰おうかと考えてるんだけど」

「あれは反則。かなりの魔法攻撃だった。バーニイさんと魚釣りができると良いね」


 バーニイさんはクリスさんと上手くやってるんだろうか?

 そっちも興味があるね。

 修理代が少し心配なんだよね。銀貨50枚以内で済ませられればいいんだけど。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ