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013 港町にやってきた


 私とタマモちゃんを乗せた大きな亀さんが荒れ地を疾駆する。

 どう考えても時速数十kmは出てるんじゃないかな? 目線が低いから余計にスピード感があるようだ。


「ねぇ、この亀さん。前をちゃんと見てるの?」

「私が見てるからだいじょうぶ。このまま進めば明日には港町だよ」


 確かに、歩くよりは早いだろう。荷馬車に揺られている一団もあるんだけど、街道を歩いている人数が人数だから、結局歩くほどの速度で進んでいるんだよね。

 その点、この亀さんは凄いの一言だ。

 小さな岩なら跳び越えてるし、隘路では崖の斜面をガリガリと爪を立てて駆け抜けていく。

 皆が呆気に取られて見ているけれど、この亀さんの存在はちょっとまずくない?


 峠を越えて、尾根の東側の山裾に出たところで小休止。さすがに冒険者達は、まだここまで来てはいないようだ。

 小さな焚き火を作ってお茶を作り、トラペット町で購入してきたお弁当のハムサンドを炙って頂いている。

 私達を運んできた亀さんは、近くで草を食べているから草食なんだろう。肉食でないことに少しほっとした。

 あんな速度で走り回ってプレイヤーを攻撃する亀さんだとしたら、どんな戦いになるのか想像できない。でも、長期化することは間違いなさそうだね。


「あの亀さんて?」

「ガルパスという種族なんだよ。名前は『GTO』って言うの。ほら、甲羅がヒップアップしてるでしょう?」


 確かに甲羅の末端が少し上になっているけど、それがGTOなの? ひょっとして車の車種なのかもしれないけど、私にはどの車も同じに見えていたんだけどなぁ。

「魔獣として使えるのね?」

「いつでも呼び出せるよ。次の町に着いたら使役魔獣のリストに入れるの」


 ふ~ん。と聞いていたけど、使役魔獣をいったい何体持っているんだろう?

 L10で魔獣使いということは、戦士を跳び越えたということなんだろうけどね。獣や魔物を捕まえたら、魔獣使いに職業が変わるのかもしれないね。

 前に歓迎の広場で出会った女の子2人組は何か捕まえたかな? モフモフが目的みたいだから、冒険の旅には出ないのかもしれないけどね。


 一気に駆け抜けてきたから、まだ夜なんだよね。

 タマモちゃんも気が高ぶって眠れないみたいだから、このまま港町に向かって進んでみよう。

 町に着いたら、シグ達に状況を教えて貰えるかもしれないし。


 焚き火を消して、再び亀さん(……いや、ここはGTOと名を呼ぶべきだろう)の甲羅に乗って、赤い街道を進んでいく。

 私もタマモちゃんも獣族を選んでいるから、夜目が利くんだよね。昼間とはいかないけど、十分に周囲を見通せる。

 

 やがて、朝日が昇って来た。

 進行方向から朝日が昇って来たので、かなり眩しい。

 片手を目の上にかざしていると、タマモちゃんがヒョイと私に何かを手渡してくれた。

 手の中の品をよく見ると、スキーに使うゴーグルのようなものだ。革製なんだろうな。目の部分は一体化していなくて、色付きのガラスを個別に使っている。骨董品じゃないのかな?

 それでも装着するとかなり楽になるし、これならゴミが目に入る心配もない。この世界で作られるゴーグルなのかもしれないな。


 周囲の見通しが更に良くなったから、GTOの速度が上がって来た。

 尾根を下り、荒れ地に真っ直ぐ伸びる赤い街道を進むころには、たまに狩りをする冒険者を見掛けるまでになって来た。

 そろそろ着くのかもしれない。


 前方に見えてくた建物が港町なんだろう。

 いくつかの尖塔が見える。周囲を石壁で取り囲んでいるはずなんだけど、まだ遠くだからそこまでは見えないようだ。


 それほど時間を掛けずに、港町の西門が見えてきた。

 トラペットと造りが似ているから、数人の門番さんが警備をしているに違いない。

 この辺りでGTOから下りて、歩くことにしよう。


「また呼ぶからね」

 

 タマモちゃんがGTOにお礼を言ってムチを鳴らすと、光の中にGTOが消えて行った。タマモちゃんの持つバッグの従魔リストに入ったのだろう。

 周囲を【探索】で確認したが、獣の姿は無いようだ。

 門がすぐ目の前だから、改めて弓矢を取り出す必要もないだろう。それに何かあっても、この辺の獣であれば腰の短剣で十分に対応できる。


「「今日は!」」


 門番さんに声を掛けると、門の両側で警備についていたトラ族の門番さんが驚いている。


「嬢ちゃん達、トラペットからやって来たのか? 峠が通れるようになったとは聞いてるが、よくも無事に通って来たもんだ。大勢の異人さんがこちらに向かっているらしい。一緒に来るべきだったと思うぞ」

「ありがとうございます。まだ峠の広場辺りですよ。私達は先行してきましたが、途中獣さえ見ませんでした」


「とは言ってもだ……。まあ、しばらくこの町に滞在すれば他のパーティに加わることもできるだろうな。異人さん達の話は、ギルドでしておいた方が良いかもしれん。この通りを真っすぐ行って、最初の十字路にあるぞ」


 心配してくれたんだから、そろそろ老人に入ろうとしているトラ族の門番さんに深くお辞儀をして、通りを歩いていく。町に入ったところで赤い敷石はなくなったけど、通りは町の中を真っすぐに伸びている。

 小さな通りが大通りから南北に延びている。この先には花屋の食堂のような下町があるんだろうな。


「あれかな?」大きな十字路に出た。

 その通りの向こう側に、ギルドの看板があるし隣は警邏の看板が出ている。ということは……、こちら側にはちゃんと交番がある。交番の前にいるのはお巡りさんなんだけど、レムリア世界では、十手をベルトに挟んだ革の上下のお巡りさんだ。

 治安統括の電脳が『ゼニガタ』だからなんだろうか? でも、訓練を受けた人物なら十手で長剣を相手にすることもできるらしいから、この世界では丁度良いのかもしれない。


 タマモちゃんと手を繋いでギルドに向かい、大きな扉を開いた。

 ホールにいた人達が一斉に私達に視線を移すけど、すぐに視線を逸らすんだよね。誰がやって来たかを値踏みするような視線は中々慣れることができない。


「あら、見掛けないお嬢さん達ね?」


 カウンターに歩いていくと、受付のお姉さんの方から声を掛けてくれた。

 2人でカウンターの前に突いたところで小さく頭を下げる。


「トラペットからやってきました。レンジャーと従魔使いなんですけど、パーティ登録をお願いします。それと、門番さんから伝えるように言われたんですけど、異人さんが大勢やってきます。今頃は西の尾根の峠を抜けたころだと思います」

「この町が、賑やかになりそうね。ありがとう。……そしたら、2人のギルドカードを出してくれない?」


 登録はされてるけど、固定レベルだからあまりギルドに出入りしたことがない。

 タマモちゃんが首から外したカードと一緒に私のカードを出してお姉さんに預けた。


「それで、名前はどうするのかしら?」

 

 思わずタマモちゃんと顔を見合わせてしまった。そんなことは考えてもいないし、変な名前で登録したらシグ達に笑われてしまいそうだ。

 かと言って、亀さんにGTOなんて名付けるタマモちゃんの感性には期待できないし。

 にこにこと笑みを浮かべて私達を見ている、お姉さんの視線が痛い……。


「『銀の双剣』で……」

「生憎と先客がありますねぇ」


 手元のタブレットのようなものを使って調べていたお姉さんが無情の答えを出してくれた。


「『下弦の月』では?」

「お生憎です。月が付くパーティ名は100を超えてますよ」


 こういうのは先着順らしいからね。後々のプレイヤーも自分達のパーティ名では苦労するんじゃないかな。

 だけど、今は私達のパーティ名だよね。

 さんざんに問答を繰り返して、OKが出た名前は『クレーター』だった。ホールの冒険者達の視線がだんだんと集まって来たから、穴にでも入りたい気持ちで出した名前だったんだけど、タマモちゃんは嬉しそうだ。


「ドドーンと、大きな穴を作るような活躍をするんだよね」

「えっ? 別にそこまでは考えてないけど……」


 私も第二形態を持っている。となればタマモちゃんだって持ってるはずだ。そんな2人が一緒になって戦闘を行うことになったら……。

 ひょっとして、これはある種の予言かもしれない。


『クレーター』とパーティ名が刻印されたギルドカードを貰ったところで、早々にギルドを後にした。

 今度は、今夜の宿を探しながら港町の散策を楽しもう。

 定宿は早めに探しておかないとね。プレイヤーが大勢おしかけてきたら宿探しが大変だ。


「港を見てみようか?」

「大きな船があるって、ギルドのお姉さんが言ってたものね」


 夜も寝ないでGTOで駆けてきたんだけど、眠気が全くない。昼間だからだとは思うんだけど、NPCの暮らしにどんな設定が入っているか分からないから、周囲に合わせて行動しているべきだろう。

 今夜は早めに眠るべきなんだろうね。


 西門から続く大通りを真っすぐに東に進んでいくと、だんだんと潮の香りがしてくる。こんなことまで再現するんだから、この世界のリアル感は半端じゃない。きっと誰かが凝って作り上げたんだろうけど、名も知らないエンジニアに感謝だね。


 大通りの建物はほとんどが石造りだ。中には3階建てのビルのような建物まである。そんな建物が私達の視線から消えた途端に、海が視界一杯に広がった。

 思わず立ち止まって、タマモちゃんと一緒に深呼吸。

 新鮮な潮の香りを堪能したのだが……。良い匂いがするんだよね。


「モモお姉ちゃん。あれじゃない!」

 匂いの元を探っていた私の裾を、タマモちゃんが引っ張りながら腕を伸ばして教えてくれた。

 

「食べてみようよ!」

 嬉しそうなタマモちゃんが私の言葉を聞くと、直ぐに駆けだした。

 手は握ったままだから、私を引っ張るような勢いだ。


 到着したのは屋台だった。

 屋台に囲炉裏を乗せたような形なんだけど、その囲炉裏の周りを、塩焼きにされたお魚が串に刺されてぐるりと取り囲んでいる。


「2本頂戴!」

「はいよ。2デジットだ」


 案外安いんだ。近くにあったベンチに腰を下ろして、タマモちゃんと港を眺めながら串焼きを頂く。

 塩加減が絶妙だ。これならたくさん売れるんじゃないかな。


「大きな船があるって聞いたんだけど……」

「そうねぇ。これじゃ、漁船だよね」


 たまたま旅客船がいないのか、ここにもイベントがあるのか分からないけど、港に係留されている船は10人程が乗れるような小さな船だった。


「でもちゃんとお魚が食べられるし、船だってたくさんあるんだから、港町なんじゃない。お魚が美味しいから、しばらくこの辺りで暮らそうか?」

「そうだよね。女神様がたくさん楽しんできなさいと言ってたもの」


 お魚が美味しいのは嬉しい限り。タマモちゃんも満足してるみたいだから、しばらくはこの港町が私達の活動拠点になりそうだ。


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