表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/153

128 セーフティ・エリアに近付くもの


 夜半過ぎに、タマモちゃんに起こされた。

 次は私とチコさんの番だね。「後は任せて」とタマモちゃんに言うと、私が寝ていた毛布に潜り込んだ。


「起きたね。お茶が湧いてるよ」

「ありがとう。何も無かったみたいね」


 焚き火の横に置いてあったポットを手にして、カップにお茶を注ぐ。

 まだ熱そうだから、とりあえず手元に置いておく。


「今のところはね。これからは分からない」


 チコさんの言葉に、笑みを浮かべる。

 過去は過去。未来は見えない。


「モモはヘビはだいじょうぶなのか?」

「毛虫よりはいいかな。でも好きな人もいるそうだよ」


 ペットにする人もいるそうだけど、飼えば好きになるんだろうか? 私には理解できない世界なんだよね。


「確かにそうだね。でも、ヘビだったら、先手を頼むよ」


 ヘビ嫌いみたいだ。

 そんな話をしながら、夜はどんどん更けていく。

 このまま朝になりそうだ。そんな思いが浮かんだ時、【探索】に何かが引っ掛かった。

 小動物を避けてるはずだから、少なくともオオカミほどの大きさになる。


 弓を手にしてチコさんに頷くと、「来たの!」と小さな言葉が返ってきた。


「西からです。およそ180mというところでしょうか……」


 何か変だ。

 反応は小さいけれど、長いんだよね。 ヘビかしら? とも思ったけれど、ヘビなら何度か狩ったから分かるんだけど。


「どうした?」

「ヘビだと思ったんだけど、真っ直ぐ向かってくる。皆を起こした方が良さそうだよ」


 眠そうに目をこすりながらタマモちゃんが私ん音鳴りにやってくる。

 ポットのお茶を渡してあげたんだけど、ふうふう冷ましながら飲んでいた。一口飲むたびに首を振っているから、やはり苦いんだろうな。

 でも、私にカップを返してくれた時には、すっきりした個付きになっていたから眠気はすっかり飛んでしまったに違いない。


「来てるみたい……。ヘビとは違う」


 タマモちゃんも、違いを指摘してくれt。

 すでに100m程の距離まで迫っているんだけど、夜の闇に隠れているようだ。


「【シャイン!】……やはり明かりは必要ね」


 マイヤーさんが魔法で光球を作り、西に腕を振った。

 ふわふわと光球が10m程の高さを西に向かって行く。

 タマモちゃんも光球を作り、セーフティ・エリアの東西に上げてくれた。焚き火の明かりよりは暗いけど、それなりに周囲が見渡せる。


「【探索】の表示通りならかなり長い奴だよ。まだ続いているもの」

 

 アンデルさんの【探索】スキルでどれぐらいの範囲の情報が分かるか判らないけど、少なくとも100m程の長さがあるようだ。ヘビだとすれば道の太さだけで1mを越えそうに思えるんだけど……。それなら見えるはずだよね。


「いた! お姉ちゃん、あれだよ。色が回りと同じみたい」

 

 タマモちゃんが腕を伸ばす方向を、皆でジッと眺める。

 何かが動いてる。色が似てると言っても、この明るさだから夜目が効く私とタマモちゃんが分かるぐらいだろう。

 チコさん達には色までは分からないに違いない。


「ヘビと言うより、ミミズじゃないのか?」

「ミミズなら口があるよね。あれは無いよ。攻撃してみようか?」


 チコさんが止めようとアンデルさんに顔を向けた時には、すでに短弓の矢が放たれていた。

 狙いたがわず、ミミズのような動きでこちらに近付いてきた物体に突き刺さる。

 次の瞬間、それが大きく体を起こしたから、腹の部分がはっきりと見えた。


 周囲の色に合わせていた胴体が色をやたらと変化させているから、今度ははっきりと相手が見える。


「触手?」

「腕じゃないかしら。吸盤が付いてたわよ。あれって、タコやイカの腕に見えたんだけど……」

「そしたら足ってことじゃない? でもここは海から1kmも離れてるんだよ」


 不思議な話だけど、レムリアはリアル世界とは異なる世界だ。魚が空中を飛び回れるんだから、イカが地上を歩いても不思議じゃない。


「これかな?」


 タマモちゃんが図鑑を調べてくれた。

 長居触手のような吸盤付きの腕を持ってるから、間違いは無さそうなんだけど。


「クラーケンみたい。レベルによって大きさが違うようだけど、腕の長さが体長の3倍はあるらしいよ。少なくとも100mあるってことは本体の大きさは30m以上。レベルは12~15相当だって!」

「本体の大きさが30mだと! それで最大は?」


「本体だけで100m以上。レベル80を越えるみたい」

「幼体ってことか? とんでもない奴だな」


 レベル的には変化が無さそうだ。セーフティ・エリアには入れない。

 だけど、これを狩ることになるのかな?

 

「タマモちゃん、クラーケンのレベルが分かる?」

「本体は……、レベル14みたい」


「範囲内ってことか?」

「無理に狩らなくても良いみたいだけど、ちょっと驚くよね」


 レベル14ではセーフティ・エリアに侵入っすることは困難だ。

 このまま放っておいても構わないだろうけど、このエリアにたどり着けない場合はかなり危険に違いない。

 ギルドで注意して貰うことになるのかな。


 再びチコさんと焚き火の番をして、タマモちゃん達は毛布に包まった。まだ眠る時間はたっぷりある。


 朝焼けが辺りを包始めると、クラーケンの腕がいつの間にか消えていた。

 夜行性ということになるのかな。昼なら安心できるのだろうけど、あの島の北の渚は少し獲物のレベルが高くなりそうだ。


 皆が起きてきたところで、イネスさん達が朝食を作り始める。

 タマモちゃんとアンデルさんがセーフティ・エリアの外周に沿って周囲を探っているようだが、特に危険は無いようだ。


「昨夜は驚いたよねぇ。あんなのがいるなんて思ってなかったわ」

「この大陸の北の町から帝国に船が出るんだろう? 案外、イベント付きかも知れないな。大きなクラーケンに船が襲われたりしてさ」


 チコさん達の話を聞いて、t魔もちゃんと顔を見合わせる。

 案外有りかもしれない。客船なら数パーティ以上乗り込むはずだからレイドボス的な存在になるのかな?


「今日の予定は?」


 一番に朝食を終えたチコさんが、問い掛けてきた。

 スープの残りを一気にかきこんでスプーンを置くと、チコさんに顔を向ける。


「そうですねぇ。今回は何も依頼を受けてこなかったんですが、このセーフティ・エリアの北で獲物を探してみましょうか?」

「この辺りだと、オオカミって感じだな。野ウサギもいるようだから、十分に宿代はできそうだ」


 装備を整えて、北に向かって獲物を探す。

 直ぐに野ウサギを見付けたから、レベルを確認し終えるとチコさん達が直ぐに狩りを始める。

 アンデルさんが矢を射かけて、怒って向かってきたところをエアリーさんが盾で足止め、チコさんが長剣で一刺し……。だいぶ慣れてきた感じに見える。

 イネスさん達はその間、周囲の監視だけど【探索】スキルを持っていないから、万が一という感じだな。

 一応、私とタマモちゃんが周囲を見張っているから心配は無いんだけどね。


「先ずは1匹だ! 次に行くぞ」


 チコさんが歩きだした。

 2時間程で野ウサギを3匹倒すと、焚き火を作ってお茶を飲むことにした。

 セーフティ・エリアから5km以上北上しただろう。

 まだ危険な獣には出会っていないから、帆が死の森の延長上が要中位箇所になりそうだ。


「まだ先に行く?」

「この辺りで十分かもしれません。今度は東に向いますか?」


「そうだな。昼を過ぎたら南西に向かえばセーフティ・エリアに到着できるはずだ。だけど、目印が無いから早めに切り上げたいな」


 それも警邏さんに伝えておこう。

 地図がまともなら磁石を使って探せるだろうけど、冒険者が持つ地図は縮尺がいいかげんなところがある。

 ケルンか大木でも置いておいた方が良いと思うんだよね。


 東に向って歩き出して直ぐに、片手を伸ばして皆の足を止めた。

 その場に肩ひじを突いて身を低くすると北東に視線を集中する。

 ゆっくりとこちらに向かってくるのは2頭の狼だ。かなり大きいぞ。


「何かいたのか?」

「オオカミが2頭。かなり大きいよ。イノシシの大きさを越えてるもの」


「こっちに気付てるのか?」

「分からない。でもこっちが風上だよね」


 たぶん気付いているに違いない。

 問題は群れの大きさだ。


「お姉ちゃん……、10頭を越えてるよ。偵察のオオカミがレベル14。普通なら8だよね?」

「チコさん。5人でセーフティ・エリアに戻れない? ここはタマモちゃんと足止めするから」


「狩れるが、私達と一緒では……、ということか。仕方ないが、後で詳しく効かせて欲しいな」


 私の肩をポンと叩くと、身を低くして南へと下がっていく。

 残ったのは私達2人だが、黒鉄くろがねもいるしキュブレムが使える。オオカミを率いているものがどんな魔獣か分からないけど、何とか出来るに違いない。


「タマモちゃん。職業階梯を上げといて。リーダーが現れたら上空に向かって頂戴」

「黒鉄を出しておく。黒鉄に注意を向けて片付ける!」


 光のカーテンが現れて、それが消えると黒鉄が現れる。大きな斧を持っているけど、オオカミの方が動きは早そうだ。それでも体に取り付くオオカミを振り払うには十分だし、当たればタダで済みそうもない。

 タマモちゃんが枢機卿に変わってGTOの甲羅の上で杖を片手に持って北を睨んでいる。

 私もニンジャに変わったところで、気配を消した。


 ゆっくりと本体が近付いてくるのが分かる。扇型に陣を構えるのを鶴翼の陣とかいうそうだ。包囲殲滅を目的にした陣だと聞いたことがある。さすがは群れで狩りをするオオカミだけのことはある。本能でその陣形を作るんだからね。


「お姉ちゃん。リーダーのレベルは30を越えてるよ!」

「周囲のオオカミを倒したら上空に行くのよ! 私もキュブレムを使うから!」


 前方にいた2頭がこちらに向かって走って来る。

 黒鉄が前傾姿勢で体当たりに備え、GTOがその後方に移動する。

 まだ私には気が付いていないみたいだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ