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127 海岸線を北に


 今日は、海岸線を北上する。

 町が見える辺りの魔獣や獣は、設定レベルに戻っているらしいから、見え無くなってからが、本格的な調査の始まりだ。

 途中で狩りを行わずに、海岸戦近くのセーフティ・エリアへ向かうことが本日の行動目標になる。


「結構冒険者がいるね」

「町から出て2時間でしょう。ニネバにやって来る冒険者がそれだけ増えたということじゃない?」


 焚き火を作ってお茶を頂く。

 ついでにお菓子を頂くのは、女子ばかりのパーティだからだろうね。

 歩きづらい砂浜を避けて、段丘のようになった荒れ地の外れを歩いてきたから、渚近くで狩りをする冒険者達の姿が良く見える。


「あっちでイソギンチャクを相手にしてるよ!」


 オペラグラスで、狩りの様子を眺めていたタマモちゃんが教えてくれた。

 4人パーティのようだ。長剣を3人が振るっているところを見ると、昨日ギルドで話しかけてきた男子達かな?

 うねうねと動く触手に苦労しているけど、魔導士の放つ火炎弾が効いている。

 何とか狩れるに違いないな。助太刀はしなくとも良いだろう。


「さて、出掛けるか! まだまだ先は長そうだ」

 

 チコさんの言葉に腰を上げる。

 焚き火の始末をしたところで、再び北に向かって歩き出した。

 

 昼食のお弁当を開くころには、渚の冒険者達の姿が見えなくなっていた。

 町が見える範囲で! というギルドの通達は守られているのだろう。たまに足を延ばす冒険者もいるのだろうが、それを越えれば死に戻りを覚悟することになる。


「ここまで来るとは思わなかったけど、渚にいるのは町の近くと変わらないな」

「飛びカツオが群れでいるよ。あれはかなりきついと思うけど……」


 単独で見られるのはイソギンチャクぐらいだ。ヤドカニでさえ2、3匹が群れている。

 レベル10を過ぎればそんな獲物も狩れるのだろうが、チコさん達はレベル8だからね。


「今度の獲物は、海サソリなんでしょう? レベル9を相手にするのはちょっと苦労するかもね」

「単独では無理でも、5人だからね。単体を倒して銀貨1枚というのも魅力だし、私達のレベルが上がるんじゃないかな?」


 経験値が高めの獲物は冒険者の良い獲物になるんだけど、海サソリは通常は80デジット程度になるだけだ。

 町から離れて狩るよりは、町の近くで野ウサギを狩る方が遥かに実入りは良い。だけど経験値が1体でイソギンチャク5体分も得られる。

 少し報酬が高いのは、そんな獲物もいるということを知らせるためなんだろうね。

 セーフティ・エリアを拠点に周囲の獣を狩ればさらに報酬も上がるんじゃないかな。


 昼食を終えると再び北に向かって歩き出す。

 やがて前方に大きな島影が見えてきた。海岸線から繋がっているように見えるのは、陸地からあまり離れていないのだろう。引き潮時には歩いて渡れるんじゃないかな。


「かなり遠いよ。まだまだ先ってことなんだろうね」

「途中で休みを取るから、だいじょうぶだよ」

 

 チコさんの言葉は後ろのタマモちゃん達への言葉なんだろうけど、GTOを使わせた方が良かったかもしれないな。それにイネスさん達の口数が少なくなっているのも気になるところだ。


「タマモちゃん、GTOにイネスさん達を乗せてあげて」

「分かった!」


 直ぐにGTOが出てくると、イネスさんとマイヤーさんを甲羅に乗せてあげる。甲羅の天辺にはタマモちゃんがオペラグラスで周囲を偵察している。

 羨ましそうにアンデルさんがイネスさん達を見上げているのがちょっと気の毒ではあるんだよね。


「私とアンデルは体育会系だからねぇ。イネス達は文系だから普段からあまり運動をしてないんだ。リアル世界での基礎体力がレムリアでは裏設定の1つだとは教えて貰ったんだが……」

「後衛職なんですから、仕方ありませんよ。どうにか夕暮れ前には到着できそうですね」


 そんな話をしながら、北へと進む。

 大きな島を左手に通り過ぎた時には、その島が砂州で陸と繋がっているのが見えた。

 あんな地形をわざわざ作るのは、何かしらのイベントを計画してるのかもしれないな。


 日が傾き始めるころに、休憩を取る。

 地図でセーフティ・エリアの方向と距離を確認すると、北東方向に2kmほどだ。さほど遠くはない。1時間も掛からないかもしれない。


「目印は……、海辺の大木の真東だな」

「灌木はあったけど、大木となるとあれってことか?」


 チコさんが指さした方向には、大きな木が茂っていた。木の種類は分からないけど、どんぐりが成りそうな木だ。

 

「今度は間違いないよね?」

「あれじゃぁ、間違えようが無いんじゃないか? それに歩いて1日ということも合ってると思うんだけどね」


 昨日の今日だからね。疑いの目でマイヤーさんがチコさんを見ている。


「だいじょうぶです。私も、別の方法で確認しました」

「ほら、モモだってそう言ってるぐらいだ。さっさと行くよ!」


 コンパスで方向を確認して、荒れ地を進む。

 どんな場所なんだろう?

 セーフティ・エリアには色んな種類があるんだよね。今度はどんな場所なんだろう?


「どうした? 急に笑みを浮かべて」

「ちょっとね。あちこち旅をしてるんだけど、セーフティ・エリアは同じものがないの。今度はどんなかな? と考えてたの」

「……確かに、そうだな。考えたことも無かったが、マイヤーが写真を撮ってたはずだ。マイヤーの教えてやろう」


 新たな掲示板でも作るのかな?

 しっかりと案内図を一緒に付けると、閲覧数だって伸びそうな気がする。


「見付けたよ!」


 甲羅の上の3人がはしゃいでいる。

 伸ばした腕の先は、何も無いように思えるんだけど……。


「これがセーフティ・エリアなのね? 何かUFOが下りた跡みたいだけど」

「何て言ったっけ。ストーン・サークルじゃなくて……」

「ミステリー・サークル! へぇ~、ここにもあるんだね。先ずは記録、記録っと!」

 

 マイヤーさんが嬉しそうに両手の指で四角を作ると、「カシャ!」と自分で呟いている。言葉がトリガーになって指で作った枠内の画像が記録させるようだ。

 不思議像な表情で眺めていたタマモちゃんに、仮想スクリーンを開いて見せている。

 確かタマモちゃんも、色々と撮っていたはずなんだけど。


「とりあえずは焚き火で良いな。中心の石で囲った炉が使えそうだ」


 周囲の灌木から焚き木を取り、炉の近くに集める。

 2山になったから、一晩中火を焚いても余りそうだ。


「夕食を作るよ! チコは周りを見といてね」

 

 やんわりとチコさんを焚き火から遠ざけている。

 アンデルさんと一緒にミステリー・サークルの周囲を歩き始めたけど、直径30mほどだから直ぐに終わってしまうんじゃないかな。


「モモ! ちょっと来てくれないか」


 何だろう? 半周ほどのところで2人が立ち止まっている。

 焚き火の傍から腰を上げると、タマモちゃんも付いてきた。


「これだ。ずっと西に続いてるんだが、サークルの一部じゃなさそうだ」


 ミステリー・サークルは、周囲の荒れ地から浮いたように草が生えていないんだけど、西に向かって草を押し倒したような跡が続いていた。


「横幅は1mにも満たないけど、ヘビの這った跡かな?」

「セーフティ・エリアには、魔物は入れない筈だ。だけど近づくのはできるってことか?」

「少し考えないといけないでしょうね」


 今度は4人で周囲を巡ったけど、特に何もない。やはり西の不思議な痕跡だけのようだ。

 昨日、警邏さんのところで聞いた話は、あの痕跡なのかな?

 フィールドの木を切ったり燃やしたりしても、1日以内には元に戻るようだ。まだ戻らないということは1日も立っていないことになる。

 でも、私やタマモちゃんの【探索】には、まるで反応が無かったから、最近ではないことになる。昨夜から昼前辺りだろうな。


 夕食は冒険者の定番スープに薄いパンが2枚だ。

 夕暮れは終わって、西の空の紫色が少しずつ消えていく。

 明日は、海サソリを狩ることになるけど、その前に一波乱が起こりそうな気もしないではない。


「ヘビだと思うな? バイタルなら大きさも合うようだ」

「魔法が効かないと聞いたよ。やはり剣で戦うことになりそうね」


「あまり効かないと言ってたから、少しは効くってことだ。爬虫類なら、【水魔法】じゃないのかな?」


【氷の槍】はツララのような氷を相手に飛ばす魔法だ。上手く当たるとそれだけで相手を倒せるぐらいの威力はあるんだけど、硬い皮膚を持つ魔獣にはあまり効果がない。

 とりあえず色々やってみる、ということになりそうだ。


「警邏事務所で、ここに入ろうとする何かがいたことは分かったけど、入れなかったみたい。レベル20までの魔獣は入れないように設定してるとは聞いたんだけど」

「どうしようもないのが分かれば【転移】で帰れるんだから、少なくとも相手の正体とレベルは確認しておけば良いんじゃないか? モモの依頼はそれで果たせそうだし、依頼を達成できなくても、昨日の報酬があるからね」

「そうそう、指輪を貰った分は働いておかないと」


 場合によっては、ここで海岸の状態が分かるということになりそうだ。

 どんな魔獣がやって来るか、皆目見当がつかないけれどチコさんの言う通り、相手の正体とレベルを伝えるだけでも十分だろう。

 だけど、私とタマモちゃんで相手にできそうならちゃんと倒しておこう。

 初期レベルを超える魔獣なら、倒せば影響範囲がそれだけ小さくなる。


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