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126 【転移】は便利に使える


 タマモちゃんが火炎弾で牽制する中、素早くトレドスに近付く。

 忍刀を一閃して感覚器官である幹の大きな花を落とすと、ぽっかりと穴が空いた。

 大きな【火炎弾】が幹の穴に飛び込むと、炎を噴き上げるように燃え上がった。


「レベルを上げると上級職になれると聞いたけど、そんな姿になれるのね」

「【レンジャー】は【ニンジャ】なんだ。たのしみ!」


「あれで、倒せるのか。最初の火炎弾が効いてなかったようだが?」

「幹に大きな花が付いてだでしょう? あれを斬り落とすと、穴が空いてるんです。そこに火炎弾を撃ち込めばあんな感じで燃えるんですよ」


 私達が見ることができる図鑑には魔獣達の特徴は書かれているけど、どうやって倒すかは書かれていない。

 特徴を考えて、色々とやってみなさい。ということなんだろうけどね。

 プレイヤー向けには十分だけど、運営サイドの警邏さん達にまで適用するのは考えてしまう。


 そんなことだから最初の獲物は苦労するけど、一度倒しておくと連携も上手くいく。今回は黒鉄くろがねの足止めも必要なかったぐらいだ。

 魔石を回収したタマモちゃんが戻ったところで、早々にこの場を後にすることにした。

 

「どう考えても。セーフティ・エリアには戻れないぞ。野営ってことになるな」

「セーフティ・エリアは無理だけど、ニネバには戻れるよ!」


 私の言葉にダイアナの連中が一斉に振り返った。

 イネスさんが、ポンと手を叩く。気が付いたみたい。


「チコ! 転移を使うのよ。依頼は終了、町に戻るだけでしょう?」

「あれか……、始めて使うな。やってみるか!」


 町と町の移動ぐらいに考えているみたいだ。

 しかも、せっかく来たんだからと、進んだ町から後ろに戻ろうとしない冒険者が多いこと多いこと。

 ダイアナもその中に入っていたってことかな?

 狩りのレベルが見合わないなら、潔く前の町に戻るのも選択肢の一つだと思うけどね。

 とはいえ、せっかく進んだのに、直ぐ戻ってきたら周囲の冒険者にからかわれるんだよね。

 そんな時には笑って誤魔化すぐらいの度量があると良いんだけど……。

 シグもそれに近いんじゃないかな?


「直径3m内の人員が、まとめて移動と書いてあるわ。この円の中に集まって頂戴!」


 マイヤーさんが仮想スクリーンを開いて、【転移】の使い方を確認しながら進めている。

 案外便利に使えるけど、帰り道も狩りをしよう! なんていう冒険者が多いんだ。私とタマモちゃんもその中の一人に違いない。

 帰りの狩りはお土産に調度良い。


「【転移】!」


 マイヤーさんの声が周囲に響くと、眩しい光のカーテンが私達を取り囲む。

 その光が消えた時、私達は草原から静かな庭園の一角に転移した。


「綺麗な庭園ね。でも、ここはどこかしら?」

「教会の裏庭ですよ。 死に戻りをすると広場の一角なんですが、【転移】での移動は目的地を明確にイメージしないと、最後に立ち寄ったギルドのある町になるんです」


 ふんふんとチコさん達が聞いている。始めてきた町なら、あちこち見物しないのかな?

 教会の裏庭から通りに出て、ギルドへの道を孫と歩いていたお婆ちゃんに訊ねる。

 ちゃんと聞けば答えてくれるのがNPCの住人達だ。


 それほど時間も掛けずに、ギルドで依頼の完了報告を行いながら、セーフティ・エリアの状況と森の北端にトレドスがいたことを教えた。

 テーブルに指でトレドスのレベルを書くと、お姉さんが頷いてくれた。


「ありがとう、伝えておくわ。明日も出掛けるのかしら?」

「たぶん……。早めに、調べておいた方が良いでしょうし」


 テーブルに座ってお茶を飲んでいたチコさんに、報酬を手渡すと驚いていた。


「依頼書より多いんじゃないか?」

「トレドスが入ってるみたい。多い分には困らないでしょう」

「それはそうだが……。良いのか?」


 私が頷くと、報酬の分配が始まる。割り切れない部分は遠慮したから41デジットになったようだ。トレドスの報酬が100デジットほどあったようだ。

 

「ちょっと良いか? それほどの報酬をどこで得られるのか、出来れば教えて欲しいんだが?」


 隣のテーブルにいた男性が声を掛けてきた。男性ばかりの4人パーティ。戦士が3人で魔導士が1人。苦労しそうなパーティだな。


「東の森で、トレドを狩ったの。野営しながらだから2日分の報酬よ」

「東の森はヤバいと聞いたんだが?」


「とりあえず危機は去ったようだから、その確認依頼ってことかな? 結構、いろんな魔獣がいるから、それなりに危険だよ」

「あんたらが行けるんだったら、俺達でも行けそうだが?」


「【探索】と【鑑定】が無ければ死に戻りは覚悟すべきかな。たまに手に負えないのも出て来るし、見通しは劣悪だよ」


 聞いていた仲間達が天を仰ぐ。

 誰もそんなスキルを持っていないみたいだ。

 1人ぐらい、フィールドで役立つスキルを取るべきだと思うな。戦士が3人いるなら無駄スキルに思えても、【探索】、【鑑定】、【警戒】を分担して執るだけで格段に狩りが容易になるはずだ。


「レンジャーに神官……。トラペットまで戻って勧誘してみるか」

「いるだろうか?」

「お前が誘うから、逃げていくんだ!」


 仲良し4人組の高校生かな?

 戻ろうとするのは感心してしまう。ニネバまで来る単独の冒険者はいないだろう。

 初めてレムリア世界を楽しもうとやってきた冒険者を、勧誘して育ててあげれば向こうも嬉しいだろうし、レベルが上がれば貴重な人材になることは確かだ。


「レンジャーと戦士のトレードは……」

「仲間だから無理!」

 

 チコさんが大声で断った。

 周囲のテーブルから、失笑が漏れてくる。彼等にとっては大事なことだ。無理を知っても確認したかったんだろう。

 周囲からは7人パーティでレンジャーが2人に見えてしまうからね。


「とりあえず宿を探して食事をしよう。祝杯もな」


 チコさんの言葉に頷いて、席を立つ。まだ夕暮れには早いから良い宿を取れるんじゃないかな。私達は何時もの宿で良いけど、食事と祝杯は付き合うことにしよう。


 ギルドを出て、チコさん達の後に付いていく。

 ギルドから街道に向かって数軒先がチコさん達の宿らしい。

 イネスさんに食事だけと言っておいたから、宿の手配は私達抜きで行っている。


 大きな宿だから、すでに酒を飲んでいる冒険者もいる。

 窓際の席を確保して、先ずはワインで乾杯だ。タマモちゃんのジュースも同じカップだし、飲み物の色まで似ているから、タマモちゃんが笑みを浮かべてカップを持っている。


「それじゃぁ、乾杯!」

「「乾杯!」」


 カップを互いに打ち付けて帆と口飲むと、皆が顔を見合わせて笑みを浮かべる。

 狩りの成功を祝って飲むワインは格別だ。ちょっと甘口だけど量を飲まなければ大丈夫だろう。


「ところで明日は?」

「海岸線を北上してみますか? さすがに迷子にはならないと思います」


「あの時は、途方にくれたのよねぇ。先行してるんだからしっかりと目標を見て欲しいわ」

「マイヤーだって、『これだ!』と言ってたじゃない。目印は欲確かめる。奥が深いゲームよね」


 1度そんな目に合えば、次は慎重になるってことかな?

 アンデルさんが地図をテーブルに広げると、皆が明日の狩りを考えながら地図を眺め始めた。


「イソギンチャク?」

「それだけじゃないかもよ。ニネバの近くにいたから、離れると別な魔獣が出るかもね」


 タマモちゃんの言葉に、イネスさんが答えながらタマモちゃんの頭を撫でている。

 羨ましそうにチコさんが見てるけど、私の頭を撫でなければ問題ない。


「それよりセーフィティ・エリアよ。かなり離れてるわ」

「狩りをしてセーフティ・エリアはできないだろうな。あの島の位置を通り過ぎる感じだ」


「かなり北にあるみたいね。機能してるのかしら?」

「海岸線と森の中間地点委はセーフティ・エリアがありませんから、警邏さんのところで確認してきます。使えないとかなり危険ですから」


 ワインが終わったところで食事を始める。具沢山の海鮮スープに丸いパン。デザートにカットしたリンゴが付いてるんだけど、食べたらオレンジなんだよね。

 ワイワイ話しながらの食事は楽しいものだ。たまに他の冒険者が話しかけて来るけど、狩りに関係ないことなら、やんわりとチコさんが断っている。

 これもナンパということなんだろう。

 ケーナ達も苦労してるんだろうな。


「それじゃあ、明日もギルドで会いましょう」

「ああ、待ってるからね!」


 チコさん達と別れて、警邏事務所に向かった。

 ここはいつでも明かりが点いているし、警邏さんがいるようだ。


「こんばんは!」と言いながら扉を開けると、オコジョ姿のお姉さんが席を立って近付いてきた。


「あらあら、大変だったわね。こっちで話を聞かせて頂戴。それで襲ってきたのは?」

「レイネ、間違えてるぞ。モモちゃん達だ。セクハラ被害者じゃないよ」


 お姉さんが私達を足から頭までスキャンするように視線を動かしてる。


「モモちゃんと言ったら、トラ族の戦士とオオカミ族の魔導士と聞きましたけど……」

「変な掲示板を見たな? 間違いなくモモちゃん達だよ。飲み物を用意してくれないか? フランソワがいたら読んで欲しいな」


「は~い!」と返事をして奥に駆けて行ったけど、新人さんなのかな?

 ジョーさんも、困ったような顔をして見送っていたけど……。


「とりあえず座ってくれ。レイネは今年の新人なんだ。それなりにゲーム世界には板らしいんだけどねぇ。それで状況は?」


 腰を下ろした私達に、ジョーさんが問い掛けてきた。

 まだギルドからの報告は来てないのかな?


「東の森の北端部でトレドスを確認しました。レベル21です」


 テーブルに地図を広げて位置を教える。

 ジョーさんがメモを取っているのを見て、ちょっとした疑問を聞いてみることにした。


「以前頂いた指輪なんですけど、これを押すと発信した位置が分かるんですよね。私がその位置を確認することはできますか?」

「ん? ああ、現在地を地図で知りたいのかい。モモちゃんの指輪は初期型なんだ。警邏の連中にも評判が悪くて、改良が進んでるんだよ。確か残ってたはずだ。ちょっと待っててくれ」


 やはり、ということなんだろうね。

 でも直ぐに改良したのは評価できる。地図とコンパスで現在地を割り出そうなんて人は、そんなに多くは無いんじゃないかな。


「ほら、これだよ。モモちゃんの発信信号は合わせといたから、交換しておこう。フィールドだけじゃなくて、ダンジョンにも有効だ。3Dで表示されるからね。使い方は、今まで通りで、現在地がモモちゃんが地図を開けば自動的に表示されるんだ」


 かなり便利に使えそうだ。

 まだダンジョンは凍結中らしいけど、大きなイベントを行った後に順次解放されると教えてくれた。


「はい。飲んで頂戴。早速見付けてくれたみたいね。次はどこに?」

「海岸線を北上する計画です。それで、海岸線のセーフティ・エリアが使えるのかどうか確認しに来たんですが」


「どうなんだ!」

 

 ジョーさんが奥の方に向かって大声を上げた。

 遠くで、手が上がったから確認してくれるのだろう。

 その間は、フランソワさんが淹れてくれた紅茶を頂くことにした。


「確認しました。使用可能ですが、何度か侵入しようとした痕跡があります」

「何だと! あのセーフティ・エリアの排他レベルは?」


「固定設定でL20です。あの辺りの魔獣は最大でもレベル12の筈です。通常なら近づくことすらしない筈です」

「ニネバの周辺には6カ所のセーフティ・エリアがあるんだ。メンテナンスチームを使って全て再確認しといた方が良いな。それとシドンの警邏にも伝えておくんだぞ!」


 慌ただしく警邏さん達が動き始めた。

 使えることに間違いないのなら、それで良いんだけど……。


「不審な点があれば、メールで連絡して頂戴。やはり町にだけいるようでは冒険者の安全を確保できないということになりそうね」


 フランソワさんに紅茶のお礼を言って、警邏事務所を後にする。

 後は眠るだけだね。

 だけど、侵入しようとした相手は分からないんだろうな。レベルは20以下ということなんだろうけど、群れで来るとチコさん達を守り切れないだろう。

 いつでも【転移】できるような体制で海岸線を北上することになりそうだ。



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