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124 オリエンテーリング


 ダイアナの人達は、全員がレベル8にまで達している。レベル9には少し時間が掛かりそうだけど、ニネバ周辺であればそれは仕方のないことだ。

 本来ならレベル7もあれば単独でシドンの町に移動できる設定らしい。

 シドンの町を拠点に南へと足を延ばし、レベル10になったところで北の町を目指すように考えているのだろう。

 最北の港町周辺は、レベル15以上を要求されるかもしれないな。


「モモとアンデルがいるなら、奇襲されることもないな。安心して歩けるよ」

「私よりタマモちゃんの方が上ですよ。でも、周囲200mは何とかなりますから」


 本当はもっと広いんだけどね。プレイヤーでレンジャーを選び、かつ【警戒】スキルを使っても、レベル10で100m程だろう。同じレンジャー職だから、種族の特徴とNPCの特権ぐらいに考えて貰おう。


「とはいえ、この辺りなら私でも何とかなるぞ。見通しが良いからなぁ。さっきから野ウサギがやたらと目立ってる」

「ヘビもいるようですよ。かなり大きいですけど、臆病みたいで逃げてきます」


 チコさんが、ウヘッ! と声を出して周囲をきょろきょろと見渡している。


「あれ! あれはヘビなんだ。覚えておこう」


 後ろの方から声が聞こえてくる。

 判断できなかったようだ。逃げていく魔獣だからアンデルさんは気にも掛けなかったに違いない。


「便利だな……。私にも使えるんだろうか?」

「使えるでしょうけど、スキル枠を考えた方が良いですよ。せっかくパーティを組んでるんですから」


 私に笑みを見せながら、チコさんが頭をかいている。

 本当にシグと似ている。ダイアナの方が重戦士がいるから、同じように1陣スタートを切ったら、良い勝負になるかもしれない。


 たくさん野ウサギがいるけど、狩りは後回しだ。先ずは依頼を優先しよう。

 草原の真ん中で昼食を取り、景色を見ながらお茶を頂く。

 午後はセーフティ・エリアを探さないといけないんだけど、広い草原にランドマークのような目印が無いから困ってしまう。


 歩きをとめて、チコさんが小さな仮想スクリーンを開き、私が地図を表示する。

 首を傾ける私達をタマモちゃんが不安そうに見上げているのが辛いところだ。


「セーフティ・エリアを作るんなら、遠くから見える目印は必要じゃないの!」

「2本の杉の木とは書いてあるけど……、どこにも見えないところを見ると、魔獣に倒されたのかも」


 プレイヤーが使う地図は、縮尺が適当な地図だ。大まかな方向は合ってるようだけど、目標物があればそれなりに使えるらしい。

 本日の野営地であるセーフティ・エリアはニネバから北東方向、荒れ地の中にある3つの大きな石が重なったポイントを見付けて、そこから北北西に進む……、という手順で2本杉を見付け、その西に見えるということだ。


「途中の3つの石が偽物だったのかな? 一番上の石が小さかったよ」

「握りこぶしだからなぁ……。今思い返すと、地中に埋もれた石の上に3つ乗ってなかったか? あれだと4つの石ってことだ」


 これだ! という感じで皆でハイタッチして喜んでたからねぇ。

 一端、西に進み海岸線にある目標で、再確認することになれば目標到達が夜になってしまいそうだ。


 迷った時には、とりあえず動かない。

 周囲の灌木で焚き火を作って、お茶を飲みながら考えることにしよう。


「迷子ってことかな? だけど近くに冒険者はいないだろうし、ニネバへ戻る方法はあるんだよね」

「海岸線に出るってことでしょう? でも到着は夜になるわよ。イソギンチャクに襲われそうだわ」


 チコさんの現状確認と今後の対策を聞いて、イネスさんが問題点を指摘する。

 倒すのがちょっと面倒だけど、報酬は良いんだよね。


「このまま進んでも良いんじゃないの。北には森が続いてるしセーフティ・ポイントは森がつきる辺りにあるんでしょう? 依頼をこなす上でも、野営をするならセーフティ・ポイントに近い方が良いんじゃなくて」

「私も賛成! 途中で確認したのは野ウサギだけよ。前に進むべきだわ」


「西行きは私だけか……。モモの意見は?」

「皆さんの意見を尊重します。今、困ってるのは現在地が不明でセーフティ・エリアの方向が分からないということですよね?」


 チコさんに再確認すると、皆が一斉に頷いてくれた。

 タマモちゃんも一緒に頷いてるけど、私とタマモちゃんだけならいくらでも方法はあるんだからね。


「裏技を使いましょう。今回だけですから、こんな物があると掲示板に書くのは無しですよ!」

「だいじょうぶよ。モモちゃん達との狩りは大評判だったけど、詳細は書いてないから」

 

 きちんと確認しておけば、だいじょうぶだろう。

 ダイアナの皆の顔を1人ずつ眺めて、念を押したところで仮想スクリーンを開く。


「地図は私達も持ってる……、これって!」

「この大陸の詳細な地図なの。拡大して……、ニネバがこれだから、この縮尺でだいじょうぶだよね。チコさん、周囲に目立つものはないかな?」


 チコさんが立ち上がって、仮想スクリーンのコンパスと風景を眺め始めた。


「26度方向の尾根がやたらと目立つな。尾根の先端が高くなってる。206度方向に山が見えるけど、あれって島なんじゃないか?」


 チコさんの見付けたのは、この尾根の先端と、海岸近くのこの島に違いない。

 仮想スクリーンの方位表示を拡大して分度器にすると、尾根の突端に移動して、26度の位置に線を引く。次に島に分度器を移動して同じように線を引いた。


「ここが現在地よ。セーフティ・ポイントはここだから、286度方向へ5.5kmというところかしら」

「少し北に逸れてたということか? だけど、そんな地図を持ってても私達には無理だろうね」


「手慣れているわね。オリエンテーリングだっけ? そんな競技があるらしいけど、モモちゃんはやったことがあるの?」

「NPCですよ。そういう設定みたいです」


 チコさんは感動してるけど、イリスさんは私の疑問を持っているようだ。とりあえず誤魔化しておく。


「リアル世界で色々とやっておくんだったな。優菜はオリエンテーリングクラブに入っていたんだが……」

「レムリアでは生産職よ。誘ったんだけど、レムリアでデザイナーになる、と言って張り切ってたから」


 リアル世界でできないことを、この世界で楽しむ。それもVRMMOの楽しみの1つに違いない。

 家では買えないペットを求めて、獣魔使いになる少女もいたんだよね。

 ちゃんと野ウサギをペットにできたんだろうか? モフモフを可愛がるのも良いけど、一緒に狩を楽しんでいると良いんだけどね。


「そろそろ出発するか! 2時間歩けば、セーフティ・ポイントだ」


 チコさんの言葉に全員が立ち上がる。

 私とアンデルさんの2人で焚き火の横んい穴を掘り、焚き火の残りを埋めておく。きちんと始末しないと周囲まで燃えてしまうらしい。


 しばらくコンパスとにらめっこしていたチコさんが歩き出した。

 先ほどと違って、みんなの表情が明るいんだよね。足取りも軽くなった感じもする。


 1時間程歩くと、前方に2本の杉の木が見えてきた。

 安心したところで小休止を取り、再び歩き出す。


 2本杉のセーフティ・エリアは直径30mほどの神殿の廃墟のような場所だった。

 円柱が支える屋根は、かつては荘厳な雰囲気があったのかも知れない。

 今では基礎石と1m程の円柱が数本残っているだけで、あちこちに石の残骸が散乱している。


「機能してるんだろうか?」

「街道のセーフティ・エリアが破壊されてるぐらいだから……」


 フィアナさんは何も言っていなかった。まだセーフティ・エリアの機能の復旧はできていないということに違いない。


「交代で焚き火の番をしましょう。焚き木を集めないとね」

「そうだね。手分けして集めるぞ!」


 夕暮れが迫る中、神殿跡の一角で焚き火を囲んで夕食を取る。

 乾燥野菜に干し肉を入れたスープは冒険者の定番だ。香辛料をちょっと入れると風味も増す。

 イネスさん監修のスープに、思わず笑みを浮かべてタマモちゃんと顔を見合わせる。

 リアル世界でも料理が得意なんだろうな。

 私も、もう少しお母さんのお手伝いをしといた方が良かったのかもしれない。


 シグ達は……、レナがいるから、だいじょうぶだろう。シグとケーナでは、魔物も倒せる料理が出来るに違いない。


「最初は、イネスとエアリーで良いかな? タマモちゃんも一緒にお願い。2番手はアンデルとマイヤーで最後は私とモモの番だ」

「3つとも【探索】が使えるのね。何かあれば起こすからそれで良いわ」


 チコさんの区分にイネスさんが答えたけど、私達もそれで良い。

 やはり早い段階で敵の接近を知ることができる【探索】は色々と使える。

 タマモちゃんも、イネスさんがいるなら安心できるに違いない。


 倒れた石柱の傍に、毛布を敷いて、もう1枚の毛布を袋のように丸めて潜り込んだ。

 武器はしまったままだけど、直ぐに取り出せるし、ベルトには短剣が挟んである。

 飛び起きて直ぐに戦闘に入ってもだいじょうぶだろう……。


 体を揺すられて目を開けた。

 チコさんが起こしてくれたらしい。いつの間にか毛布に潜り込んでいたタマモちゃんを起こさないように、そっと毛布から抜け出して、タマモちゃんに毛布を掛け直す。


「今のところは何もないと言ってたよ」


 チコさんが焚き火の傍に置いてあるポットのお茶を入れてくれた。

 ちょっと渋めだけど、おかげで目が覚めた。


「何もないのが一番ですよ。今日は森の外れで狩りなんですから」

「そうだな……。ところで、モモ達はずっとこの大陸で狩りをするの?」


 チコさんの問いに、少し考えてしまった。

 まだシドンの町の南北の村が解凍途中らしいけど、解凍されれば一気に冒険者の行動範囲が広がりそうだ。

 まだ見ぬ魔獣も出てくるんだろうな。それを狩るのもおもしろそうだけど……。


「何とも言えませんね。西の大陸も赤い街道を西に進んだだけですから、街道の町を拠点に行動範囲を広げるというのもおもしろそうです」

「魔族の大陸をひたすら目指すというのは鉄板だけど、それ以外の楽しみってこと?

 知り合いも大勢この世界に来てるんだけど、皆楽しみ方が違うみたい……」


「始まりの町では、小学生2人組が獣魔使いになるには? と問い掛けられました。リアル世界ではペットが飼えないみたいです」

「一戸建てでもないと、難しいんだろうね。アレルギーだってあるみたいだし」


 花屋さんと言う人もいたんだよね。職人街にも大勢のプレイヤーが弟子入りしてたけど、案外きちんとした目標があるんだろうな。

 高齢者には農業が人気だとダンさんが話してくれたけど、レムリア世界では足腰が痛いということもないのだろう。

 収穫間近な畑を見て、笑みを浮かべているに違いない。

 やりがいを見付けるのはこの世界ではそれほど難しいことではなさそうだ。


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